西園寺茜の母幸子は、他の移植患者も娘と同じ体の異変で悩んでいるのか確認するため、市民病院の事務長奥村忠志に脅す振りをして、連絡先を調べさせた。
西園寺茜 その4
「すみません。事務長さんにお会いしたいんですけど、ご都合はよろしいでしょうか。私はついこの間までお世話になっておりました西園寺茜の母です」
「どのようなご用件でしょうか。今事務長は手が離せないので待合室で少しお待ちくださいとのことです」
「分かりました。待合室で待っています」
幸子は診察を待っている人たちの中で何気なくテレビを見ていると、ちょうどニュースの時間となり、高山警察署の署長が被疑者死亡のまま検察庁に送検されたと報じていた。
「あっすいません。お待たせして。あれーーっ、えーーっ、ひょっとしたら幸子さんじゃないですか。やっぱりそうだったんですね。
そうそう今まで気づかなかったけど、茜さんはあなたのお子さんだったんですか。こちらには西園寺という名前は鈴木や田中と同じくらいたくさん有るので分からなかったんですね。
長い間お会いしてなかったけど、あなたはお元気そうで何よりです。茜さんのその後は順調ですか」
「実は、このような場所でお話をしてもよいのか分かりませんが、臓器移植については本人に内緒にしていたのに、あなたの娘さんと茜が同級生って事を知らなかったんでしょ。 だから娘さんに話したことで、殺人犯の血が流れているから、みんなにばらすって茜が脅されているらしいの。二人に憎しみ合うような原因は何か分からないけど、茜はどんなことがあっても負けないで立ち向かうって言ってるのよ。
だって大切な命を頂いたんですもの。でもあなたは職務上の秘密を公言したのよ。その責任を取ってちょうだいね」幸子は知っていて脅す振りをした。
「幸子さんまさか僕を脅そうとしているのですか。僕はその件についてはうかつだったと反省しています。いくら家族でも話してはいけなかったと思っています。でも幸子さんがそんな女に落ちぶれてしまったかと思うと、とてもショックです」
事務長の奥村忠志は顔を引きつらせ、お金を請求されても困るような仕草をした。
「あはははは、そうよ私のお願いを聞いてくれなかったら、こっちもタダじゃ置かないから、みんなにばらしちゃうわよ。いいのね」
「分かりました。分かりましたよ。どんなお願いですか。幸子さんが急に怖い女に見えてきた」
「じゃーーこれから言うことを守ってくれなかったら絶対承知しないわよ。移植された四人の連絡先をすぐ調べて報告しなさい」
「えーーっ、幸子さんお願いです。それだけは出来ないことになっているので堪忍してください。臓器移植法で口外してはいけないことになっているので」
「じゃあ茜のことを娘さんに話したことはどうなるのよ。娘の体に原因の分からない異変があるのよ。他の四人も同じ悩みがあるかもしれないじゃない。急がないと大変なことになるのよ。
そして、今ニュースでやっていたけど、臓器を提供してくれた人が飛騨高山の警察の署長さんで、被疑者死亡のまま送検されたって言ってたけど、娘がその人のメッセージを感じるって言うのよ。だから絶対調べてくれないと許さないから」
「幸子さん、僕は茜さんに悪いことしたので謝ってください。そしてそんな理由があるのなら正式に上に了承を得て必ず連絡します。絶対守ります」
後日、奥村忠志から三人の住所と電話番号の連絡が入った。ただ、ひとりの女性だけは所在が分からず、とりあえず三人に連絡を取ることとした。
物語もようやく中盤に入り、いよいよサスペンスへと発展して行きます。




