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梶今ひとみの主人が高山警察署長だということが新聞に掲載され、近所の主婦達に知られてしまう。それと同じくして、白川知子の子供が失踪事件に巻き込まれていく。

梶今五月之介 その7 

「みんな、今朝の新聞見たでしょ。ねえ、見たでしょ」

 朝引美弥子が何かを発見でもしたかのように、ニコニコと走ってきた。

「見たわよ。でもそんなにうれしそうに走ってくるほど、特別なことなんて何にもなかったわ。何が書いてあったのよ」

 綾ノ腰洋子は毎朝の新聞が楽しみで、いつも隅から隅まで丁寧に読む習慣があり、記事について知らないはずがないと自信を持っていたので、つい強い口調になっていた。

「飛弾日日新聞の高山版に、昨日から始まった交通安全週間のことが、大きな写真で載ってたでしょ。あれーーっ、反応わるーーい、皆さん取ってる新聞違うんだ」

 と朝引美弥子とつまらなさそうにが言った。

「うちは東海新聞だけど、飛弾地方版に小さく出てたからそれは読んだわよ。でも、交通安全なんて毎回同じだもん。それがどうかしたの」

 綾ノ腰洋子は何の興味も無いというように言った。

「ちょっと驚きよ。! うちのおばあちゃんが一番に並んで写っていたの」

朝引美弥子は昨日祖母が朝早くから出かけて行った理由が納得できた。

「でしょーーっ、だからいつも言ったじゃない。あのおばあちゃんならいつかは、スピード違反で捕まってもおかしくないって」

 綾ノ腰洋子がふざけて言ったので、朝引美弥子はムーッとした顔をして

「やめてよ、おばあちゃんならやりかねないけど、今はそんなことどうでもいいんだって。車のドライバーにチラシを配っている写真の中に、久仁崎市長さんと高山警察署長さんが写っていたの。そしたらなんとその署長さんの名前が梶今五月之介って書いてあったのよ。梶今さんのご主人だったの、ほら。この写真よ」

 朝引美弥子は得意げに新聞を差し出した。

「えーーっ、マジぃ! ほんとだ、ものずごく男前だし、制服姿めちゃくちゃかっこいいじゃん、それに比べて市長さん見劣りしてダサいわねぇ」

 と言いながら山本朋美は、市長よりももっと自分の夫の方が情けなく、夢のない現実にガッカリしてしまった。

「あっ、おはようございます。今日も待たせてごめんなさい。早くしなさーーい。みんな待ってるわよ」

 梶今ひとみは今朝も寝坊したらしく、パジャマのまま顔を出すのであった。

「梶今の奥さん、ご主人すごいわね。警察署長さんだったんだぁ」

 朝引美弥子が言った。

「あれーーっ、どうして分かったのかしら」

 ひとみは自分から署長の妻なんて絶対に言いたくなかったので、そのことには出来るだけ聞かれないように振る舞っていた。

「馬鹿ねぇ。新聞にこんなにでかでか出てたらすぐ分かるじゃない。ほら」

 綾ノ腰洋子が新聞の写真を見せた。

「あら、恥ずかしいわ。へーーぇ、こんな風に仕事をしてるんだぁ。実はまだ最近の主人の仕事の様子見たことないのよ。主人は新聞に出てること知らないで仕事に行っちゃったし、今頃職場できっとびっくりしてるわ」

 梶今ひとみは皆んなと馴染んできたようで、このメンバーなら心許しても大丈夫と安心するのだった。

「いいわねぇ。こんなすてきなご主人と一緒に居られるなんて」

 綾ノ腰洋子が恨めしそうに言った。

「うちのおばあちゃんなんか、昔からおまわりさんを見るのが大好きで、交通安全週間の初日には早起きして毎回見に行くのよ。でも、今回の署長さんが今までで一番素敵だって、もうファンになっちゃったって言ってるの。新聞の写真を壁に貼って毎日見たいって、シャツの上からおっぱいつまんで、ジュリーって真似するのよ。古いギャグねぇ」

 朝引美弥子は昔のテレビドラマの樹木希林の仕草をして見せた。

「ほんと、古すぎて私たちには分からないわ」

 若い山本朋美には受けなかったようである。

「あれーーぇ。いつの間にか子供達いなくなってる。みんなしっかりしてきたわねぇ」

 梶今ひとみが気がついて、遠くに消えそうな子供達を見送った。

「でも、私たちって、毎日こんな風に仲良く笑って一日が始まるなんて幸せじゃないの。一度みんなでお茶しない」

 綾ノ腰洋子が言った。

「それは大賛成よ。ところで、白川さん今日は元気ないわねぇ」

 山本朋美が気付いた。

「今日はなんか知らないけど、調子悪いみたい。生理かしら」

 白川知子が青白い顔で立っていた。

「それなら早く帰って休んだ方がいいわよ。私たちもいつまでもしゃべってなんかいられないわ。さあ帰って掃除、洗濯、そして買い物よ。ちょっとは寝るけど」

 朝引美弥子がママさんパワー炸裂で朝の集会をしめくった。この力強い言葉でこのグループのリーダーになる余韻をにおわせていた。

 次の日

「皆さん、おはようございます。あれーーぇ、白川さん来てないじゃない。お子様も。どうして」

 山本朋美が遅れてやってきて言った。

「みんな、大変よ。白川さんのお子さんが二人とも昨日の夕方から家に帰ってないらしいんだって」

 梶今ひとみが夫からの連絡を受け、あわてて皆んなに知らせた。

「えーっ、私たちどうすればいいの。みんなで手分けして捜せばいいのかしら」

 朝引美弥子は心配そうに言った。

「すでに昨日から捜索願が出てて、家族や親戚はもちろん、警察や先生達も一生懸命捜してるらしんだけど、まだみたいなの。実は、子供の失踪事件はこれで六件目よ、まだ一人も見つかっていないって」

 梶今ひとみが知ってる情報を伝えた。

「白川さん、大丈夫かなぁ。昨日の朝体調が悪そうだったのは、何か訳でもあったんじゃない。家庭がもめていたとか」

 綾ノ腰洋子が言った。

「いやーーぁ、それは無いと思うよ、だって昨日は仲良く二人でお買い物してたもん、しかも、ご主人お酒を飲んでいたみたいだし、昼間から赤い顔して商店街を歩いていたもん」

 山本朋美が言った。


梶今五月之介が高山警察署長として赴任し、いよいよ少しづつ事件がミステリーとして発展して行きます。

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