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飛騨高山と友好都市のひとつ.福井県越前市に住む.木ノ下勉と田中一哉の東大を目指す高校生活と有菜純一のエピソード 

 有梨純一 その1

 

「おーい勉君久しぶり、いよいよ僕達の高校生活が始まったな。次のステップ東大合格に向かってがんばるぞ。イエイ!」

 全国屈指の進学校である福井県立越前西高等学校の入学式が無事終わり、ひょうきんな田中一哉は、早速親友の木ノ下勉を見つけ声を掛けた。

「しーーっ、馬鹿かおまえは、みんなに聞こえたじゃないか」

 勉は一哉の腕をつかむと、思いっきり壁に引き寄せ、反対の手でほっぺたをぎゅっと摘み、自分の方に顔を向かせた。

 そして、イテテテテと痛がり涙ぐむ一哉に、鬼のような形相でにらみつけ、声をひそめて続けた。

「約束したこともう忘れたのか。どうしていつも守れないんだよ。この高校から毎年早稲田や慶応には沢山合格してるというのに、東大は今まで一人も合格者がいないんだ。

 あれだけ確実と言われた先輩達が、どうしてことごとく失敗したのか、原因が分からないって、先生達が頭を抱えて悩んでいるくらいだから、俺たち二人が同時に合格してみろ、超ニュースになることは間違いないんだぞ」

 さらに勉は続けた。

「俺は早くから、目標をしっかり持って準備しているから大丈夫だけど、おまえは割といい加減なところがあるから心配だよ。これからはしっかり監督させてもらうぞいいか。そして、もう一度言っておく、東大受験は二人だけの秘密だ。三年間絶対誰にも言うな。分かったか一哉!」

 勉は生徒会長を長年やってきたせいか、リーダー的な性格が抜けきれず、一哉にはいつもこんな調子で命令するのであった。

 しかし、勉は毎日こつこつと勉強を積み重ねて、優等生を維持しているのに対し、一哉は全く家では勉強してもいないのに、いつもテストは満点を取ってくるという対照的な二人であった。

 そして、一哉の記憶力に驚かされる例えとして、教科書のまだ習っていないページを広げて10秒ほど見せた後、書いてある内容を質問すると、全部正しく答えてしまうという能力があり、一度それを記憶すると、その後もその記憶がずっと継続するのである。

 そんな二人だから、勉は越前市立南中学校のトップ、一哉は北中学校のトップとして世間では有名な話であり、中学二年生頃からいつも、市立図書館で仲良く勉強している姿に、あの二人なら東大合格は間違いないと、誰もが確信を持つほどであった。

 一哉はつねられたほっぺたに手を当てて、体育館の隅でひとり痛そうに、しょんぼりとうつむいていたが、勉に急かされ、入学式の会場であった体育館を出ると、廊下伝いに一年生の教室へと向かった。

 それぞれの教室の入り口にはクラス別の名簿が張り出されており、F組の前で改めて二人が一緒のクラスと分かると、顔を見合わせハイタッチをして喜んだ。勉はさらに誰か知っている者はいないか確認しようと、名簿を見てある男の名前を見つけ、思わず大きな声で叫んだ。

「えーーっ、有梨純一。どうしてあいつが、うそだろ二年間学校に来てなかったのに、今まで何してたんだよ。入学式にどこに並んでいたんだよぉ」

「そいつの名前は勉君がよく口にしてたじゃないか。いったいどんなやつなんだよ」

 一哉は相当気になるらしく、廊下の窓から教室をのぞきこんだ。

 勉も一哉のほっぺたに、くっつくようにのぞきこみ、教室をぐるっと見渡した。

「こんな進学校にあいつなんかいる訳ないじゃん。あの男じゃないし、あれでもないし、あいつかなぁ。もしかしたらあいつかも。えーーっ、絶対あいつだ。でもあんなに小さかったのに、ものすごく大きくなっている。1メートル80センチは有りそう」 

と指を差しながら振り向くと、一哉は女子学生と談笑していた。

「一哉の馬鹿! おまえがどんなやつだと聞くから、教えてやろうと思っていたのに」

「ごめん、ごめん、いつもの癖で。でも勉君、彼女がここの教室は有名大学を目指す、優秀な生徒だけの、特別なクラスだって言ってるよ」と言いながら、女子学生に、

「じゃぁまた後でね、バイバイ」と言って手を振り、一哉の方に向き直した。

 勉は一哉の態度にむかついたものの、どうしても話しておきたい男だったので、小学生の頃はよく一緒に山や川で遊んだこと、勉強は苦手と言いながら、昆虫や花の名前はもちろん、宇宙のことだってよく知っていたし、普段から気の小さい性格で、授業中は、絶対自分から手を上げて発言することも無かったけれど、物語を読んだ次の日は、決まったように勉に語って聞かせたくなるらしく、これが授業中のあの存在のない人物だとは思えないほど、元気で明るい少年に変身するのであった。

 その様子はまるで舞台で演じている役者のように、見振り手振りを交えながら、それぞれ登場する人物の声や表情を、器用に変えて何役もこなし、自信にあふれた得意げな顔が、子役のオーディションに勧めたいほど、あまりにも上手なので、どうしてこんなに変われるものかと、いつも感心して聞いていたのである。

 まずは、二人目有梨純一の登場です。このようにミステリーに関わる人物を順次紹介していきますので、よろしくお願いします。


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