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直美は幼少の頃から体が弱く、主治医から二十歳までは生きられないと言われていたが、日影幹男の支えにより、結婚することができた。

日影直美 その1 

「おとうさん、お早ようーー」日影直美は元気な声で起きて来た。

「あれーーまだ六時三十分じゃないか。こんなに早く起きてきちゃダメだよ」

 夫の長野県松本市で小さなクレープの店を経営する幹男は、おどろいて今刻んでいたスープの材料を、まな板ごと床に落としてしまった。

「今日は何んか体の調子がいいような気がするの。ちょっと松本城の辺りまで一緒に散歩に行きましょうよ」直美はもう外で待っている。

「うそだよ。よしてくれよ。お前に何かあったらどうするんだよ。今まで注意をしてきたから無事でここまでこられたんだ。頼むから無理しないで、いつもの十時まで寝てていいんだから、頼むよ」

 幹男は、直美を腫れ物に触るように長年接してきたので、気が気で仕方なかった。

 直美は幼い頃から体が弱く、小学校へは両親の願いもあり、普通のクラスに通うことが出来たが、体育の時間はいつも見学で六年生までは何とか登校することができた。

 中学生になっても体力的には他の生徒と比べ衰えが目立ち、欠席日数も増えつつあった。 その頃近所に日影幹男という男が越して来たが、性格がとても穏やかで、特にハンサムという訳ではないが、人懐こい性格がまわりに安心感をもたらし、直美とも少しも抵抗なく馴染んでいった。

 学校が済むと必ず彼のところへ立ち寄り、しばらく遊んでから家に帰るという習慣になっていた。

 高校受験が近づいた頃、直美は益々体力的に衰えていくのが目立ち始め、両親も主治医の先生から、二十歳まで生きることはむずかしいと言われていたので、毎日一日もうけと思いつつ、いつ別れの日が来てもおかしくないと、覚悟を決めていたのである。

 そんな不運を背負った我が子の様子に、神様を恨むこともあったが、弱っていく中でも幹男の支えがなぜか直美を強く守り、二十歳になっても特にこれといった変化もなく、幹男はちょうど三十歳になり、廻りからの結婚話も相当来ていたが全く無関心であった。

 幹男は早稲田を卒業し、当初は東京の有名商社に内定していたが、すでに亡くなっている両親が松本に住んでいたこともあり、敢えて地方を選んだのである。

 直美は美人薄命と言われる諺を象徴するように、それはそれは大変可愛い娘であったので、直美の両親が反対するのを押し切り幹男と結婚するのであった。

 そして幹男も市職員として勤めていた職場を止め、直美を最後まで面倒を見ながら、いつも一緒にいられるように、クレープの店を開業するのであった。

 最初は素人がやることなので、売上げもなかなか芳しくなく、一時は止めようと思ったが、我流で研究するうち、少しずつ口コミで評判となり、今ではそれで充分暮らせるほど繁盛するようになった。

 しかし、直美は店の手伝いが出来るほど体力がないので、朝十時に起きると幹男の準備してある朝食を、ほんの少しなめるようにして食べ、また床に着くのだった。

 そして幹男の包丁の刻む音、食器を洗う音、水道の流れる音や客との楽しそうな会話を聞き、店の様子を想像しながら眠りに着き、食事の時だけ顔を合わせるという生活を繰り返してきたのだった。

4人目は体の弱い女性を描いています。

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