有梨純一と木ノ下勉の思い出の場所学校の裏山は、事件の隠ぺいなのか平地になり、住宅展示場と化した。
有梨純一 その5
次の朝、先生や大人達が大騒ぎをして、佐藤先生が行方不明になったと騒いでいる。勉が僕が見たと言えばすぐに解決したのかもしれないが、あまりにも身近な人たちによって引き起こされた事件だったので、勉は自分の胸にしまっておくことにした。
純一は、勉を見つけると、
「つとむくん。きのうげんきがなかったね。おなかのぐあいでもわるかったのかなあ。
きのうのハチドリっていってたやつ、ずかんでしらべたら、ガのいっしゅで、ホウジャクっていうんだって。
はねをさんかくにたたんで、とまっているときは、ガのすがたをしているけど、とんではなのみつをすっているときは、まるでハチドリみたいって、かいてあったよ。
あれがガなんて、がっかりしたね。でもぼくたちにはどうみても、ハチドリにしかみえなかったよね。だからふたりだけであれはハチドリだってことにしておこうよ」
純一は得意そうに話した。
どうも昨日の事件ことは、純一は全く気づいていない様子だったので、勉は自分が悪い夢を見たのだと思うことにした。
そして、気がつけば、秋田恵美子先生は、何事もなかったように、平然と学校に出ていた。あんな事件を起こしても何食わぬ顔で、他の先生達と一緒に、心配をしている姿を見ると。まるで仮面をかぶった鬼ではないかと勉は身震いした。
二人の秘密の場所は、よく見るとまるでお椀の蓋をかぶせたような小さな山で、その事件後、重機を乗せたトレーラーやダンプカーが通るたびに低くなり、あっという間に道路が整備され、まるでモデルハウスの展示場のような、最新の住宅が建ち並び、勉と純一の友情を育んだ物語は、心の中へ思い出として閉ざされてしまった。
一度二人で山の向こう側にあった川へ行ってみたことがある。山があった頃は、入り口から四十分もかかっていたのに、今は、たったの五分もかからない場所になっていた。
そして、一番悲しかったのは、あんなにきれいだった水も、一生懸命泳いでいた魚も、まったく面影がなく、大きなどぶ川に変身していたことだった。
あのハチドリや魚たちに会えないと思うと、二人は寂しくて、家に帰りながら泣いた事を憶えている。
佐藤先生は、その後見つかることはなかったが、後で聞いた話では、秋田先生の叔父が土建業を営んでおり、この住宅整備に伴う工事として、この山の取り壊しも一緒に請け負っていたとのこと。きっと佐藤先生の遺体の処分も一緒にしたのではと、勉はずっと疑念を抱いて成長していくのである。
その後も、勉と純一はいつも一緒に行動することが多かったが、その裏には、純一の父が、勉と一緒にいれば、安心出来ると絶対的な信頼を寄せており、その関係は、中学一年生まで続いたのであった。
木ノ下勉が体験した事件の当事者は後に別の事件に関わってきます。




