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親切な人に拾ってもらってね  作者: くりはしみずき
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『なんだ、同じだ』

回想10 二日目:夜

 四角く切り取られたような天井からは、既に明かりの灯った街灯だけが見える。

 もう、さっきまでうるさかったカラスの声も聞こえない。

 公園前の固い地面の道では、足早に歩く靴音が時々通り過ぎて行った。


 そして、アルコールの匂いを纏った一つの靴音が不規則に響きながら公園へ入ってきた。

 どうやらまっすぐには歩けないらしい。

 あっちへ向かっていると思ったら、こっちへ向かってきていたりする。

 時々、「うー」とか「ちきしょーめ」とか「あのやろー」とか、微かな低い声で唸っているようだ。

 人間って不思議だ。

 大切なことや本当に伝えたいことこそ、わざわざ小さい声やわかりづらい言葉で、伝えたい相手がいないところで一人で、言っていたりする。

 中にはアタイたちに全然関係ない人物についてのことを、アタイたちに告白してくる時もある。

 ちゃんと、本人に直接伝えなさいよ。

 誰にでもわかりきっていることやくだらないことは、必要以上に大声で話すくせに。

 ま、アタイらでも気が小さい奴ほど大きい声で吠えるから、そこは一緒かしら。

 ベンチのところで足音は途絶え、代わりにイビキが聞こえてきた。


 今度はニ、三人の人間の若い男が公園へ入ってきたみたい。

 ただ、この人間たちは歩く足音がしない。

 代わりに小さな車輪が回る音と地面を蹴りだす音がする。

 公園の舗装した遊歩道のところで、何か飛んだり跳ねたりしているようだ。

 時々、木の板が遊歩道の固い地面に叩きつけられるかのような音もする。

 そのたびにお兄さん方の笑い声や手を叩く音がする。

 ベンチの方では相変わらずイビキの音が聞こえる。

 こんなおそい夜でも、うるさいったらないわ。


 軽い音を鳴らしながら、ひとつのローラーの転がる音が、こっちへ近づいてきた。

 それを追って、人間のステップするような軽い足音が近づいてくる。

 近くで止まったようだ。

「あれ?」

 ローラー音をさせていた物を抱え上げたらしい人間が、声を上げる。

 アタイの方へ近づいてきて、箱を覗き込む。

「おーい。こっちきてみろよ」

 キャップを斜めにかぶったお兄さんはがニヤニヤ笑いながら、仲間たちを呼んだ。

 この目は……怖い。

 さらに二つ、なんだよーとか言いながら、お兄さんたちの顔が覗く。

「なんだ、捨て犬じゃん」

 合流してきた耳に輪っかがついていて、薄く髭の生えたお兄さんが口を開いた。

 アタイは後ずさるがもともと狭い箱、ほとんど間はとれていない。

 なぜか尻尾が、アタイの両後ろ足の間に丸まった。

「こいつ、ビビってんじゃね」

 三人目の、やけに重そうな金属の首飾りを架けているお兄さんもニヤニヤしながら言う。

 そ、その通りです……ちょっと怖い。

 首飾りがアタイの住処を足で蹴り叩いてきた。

 なんだろ、アタイの身体がぶるぶると震えてきた。

「あれっ。こいつ震えてやがるぜ」

 三人は声を上げて笑った。

「ボードに乗っけて走らせてみよっか」

「お、いいね。動画撮って、うまく乗れたらアップしようーぜ」

「落ちないように縛りつけたりすっか?」

 三人は勝手なことを言いながら、笑いつつアタイを見下ろす。

 弱い者イジメはよくない……ですよ。

 キャップ帽が手を伸ばしてくる。

 ホント、怖い。震えながら、キャンと一発吠える。

 三人はより面白がったのか、顔を見合わせ再び下品な笑い声。

「大丈夫だって。ビビんなよ、一緒に遊ぼうぜ」

 キャップ帽の手がアタイに触れる。

 キャン。


「うるせーぞ、ガキども」

 突然、さっきまでイビキ声のしていたベンチの方から野太い大きな声がしてきた。

 一瞬ビクッとしたかのように見えた三人組は声のした方を見る。

「んだとぉ」

 アタイへ手を伸ばしていたキャップ帽が立ち上がって息巻く。

「てめえの方がうるせーだろーが」

 首飾りが吠える。

 さっきよりも上ずった声。

「なんだと」

 ベンチからの二、三歩踏み出した、強く静かでいて野太い声が威嚇する。

「んだよぅ」

 あれ? 首飾り、コイツ、声が震えているような……。

「頭数はこっちが勝っているんだ、なあ」

 首飾りは後の二人に同意を求める。

「お。おう」

 キャップ帽が頷く。

 彼もちょっと、ビビっているみたい。

「はん、群れないと何もできない連中が」

 威圧感のある低い声で言いながら、アルコールの匂いが更にニ、三歩近づく。

 何が起こるんだろう……アタイも目が泳いでいるのがわかる。

 しかし、これも表面的には落ち着いた声で、髭の男が制した。

「いいよ、どうせ酔っ払いだ。ほっとけよ。行こうぜ」

 髭男が他の二人の仲間へその細い目で合図する。

 どうにかきっかけを得たかのようにキャップ帽が、一息吐き、アタイを一瞥して声をかけた。

「ふん、他のヤツに遊んでもらえよ」

 首飾りは、「ちぇっ」とか「んだよぅ」とか悪態をついていた。

 結局、三人組は尻尾を巻いた。

 ローラーの付いた木の板に乗って遠ざかって行く模様。

 まだ、震えが止まらない__でも、助かったみたい。

 息を吐く。

 なんだ。

 同じだ……。

 考えてみれば、あの人間の三人組も、相手が弱そうだったら強がって、逆に強そうだったら、群れて凄んだり、虚勢を張って吠えたり、声を震わせたり、そして最後は尻尾を巻いて逃げだしたり。

 アタイたちと、何ら変わらないものね。

 そんなこと考えていたら、震えが収まってきた。


 ん? 今の騒動での恩人の足音が、公園に入ってきた時は頼りなさそうだったけど、今度はやけに重量感をもってこちらへ近づいてくる。

 街灯に照らされた大きな姿が見えてくる。

 湿気を含んでいるのか、空気が重く感じる。

 影になって顔は見えない。

 ま、まさか、一難去って、また一難?

回想11 二日目:夜遅く へ続きます。


ほんとはこの部分と次の部分で一つの話のつもりでしたが、長くなったので分割。。。

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