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親切な人に拾ってもらってね  作者: くりはしみずき
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プロローグ~『信じてます』

3日目:朝~回想1・1日目:朝

 アタイが捨てられて三日目になる。

 もう疲れた…。昼近くになっても、目を閉じてじっとしている。動くのも億劫になった。

「クゥーン……」


 また、きっと優しい人ぶっているであろう人間たちが近づいてくる足音だ。

 二人連れだ。

「可哀そうに、だいぶ弱っているな」

 大人の人間の声、男だ。穏やかな声音ではある。

「ホント、ひどい人もいますね。このコ、こんなにカワイイのに」

 今度は女の人間の声だ。こちらも優しそうな声音ではある。

 今まで何人もの偽善者たちが言っていたのと同じような台詞だけど。

 薄く目を開けて、軽く顔を上げる。

 アタイの今の住居たる段ボールの前に立ち止まって、覗き込んでいる人間の男女の顔、顔。

 どうせ見るだけなら、もう放っておいてほしい。

 ホントに弱ってますよ、アタイは。

 もう、尻尾を振る元気もない。

 また顔を下ろして、目を閉じた。

 突然、我が家が持ち上げられた。

 はっきり、目を開ける。景色が変わっている。

 いつもより高い目線だ。ビックリ!

「とりあえず車に乗せよう」

 えっ?まさか?

 男の方の人間は、アタイが入ったままの段ボールを抱えて、歩き出す。

 横に並んで歩く女の方は、腕を伸ばしてアタイの口元に濡れたタオルを当ててくれる。

 力が入らないなりにそのタオルを弱く噛む。

 わずかながらの水が口の中を湿らせてくる。

 女の方の人間が、車の荷台のドアを開ける。

「ここで我慢してね…」

 えっ?えええ、やっぱり……拾ってくれるの!ほんと?ほんと?ほんと?

「…ホケンジョまでは」

 ホケンジョってなんだろ?

 でも、まあ、うれしい!

 思わず声が出た。

「キャン、キャン!」



 アタイは、三日前の早朝にこの公園に捨てられた。

 段ボールの中に、一面ひかれたタオルとわずかばかりの水が入った容器、気持ちばかりのドッグフードとともに。

 飼い主の旦那の方が、辺りの様子を伺いながら一人でアタイをこの公園に運んできて、隅っこの柵前に置いた。

「優しい人に、拾ってもらえよ」

 アタイは眠かったので、ご主人の言ってることを半分夢の中で聞いていた。

 ご主人が、灰色の背広を着ていたことは覚えている。

 アタイの名前を呼んでくれていたかもしれない。

 アタイの首輪を外して、そそくさと去っていった。

 まだ、夜が明けたばかりだったので、もうひと眠りするつもりでひいてあるタオルに潜り込んだ。

 最初は、何が起こったかわからなかったので、しばらくしたら迎えに来てくれると思っていた。

 本当にそう信じていた……。


 リズミカルな音が聞こえてきた。顔だけ上げるが段ボールの壁で見えない。

 人間一人が、走って公園に入ってきて、体操でも始めているようだ。布のこすれる音がする。

 「あれぇ?」

 その人間が軽く驚いたような声があげる。人間の女の声だ。

 アタイのいる段ボールに近づいてきて、しゃがみ込みながら覗き込んだ。

 目が合った。

 キャップを被った、人間の若い女の顔だ。

「あれぇワンちゃん、可哀そうに、捨てられちゃったのね」

 そうか、やっぱりアタイは捨てられたんだ…。

 不思議とそんなに悲しくはなかった。

 でも、一匹だけになったと思ったら、急に寂しくなった。

 ちなみにアタイの名前は「ワンちゃん」じゃないのよ。

 女はアタイの頭をひと撫でして、立ち上がった。

「親切な人に拾われるといいね」

 飼い主と似たようなことを言う。

 回れ右をして、またリズミカルな足音をさせて走り去っていった。

 オイオイ、それだけかい。

 まあ、いいわよ。

 じきにきっと、「冗談だよ」って、飼い主のご主人が迎えに来てくれると信じてますから。

 また、タオルの中に潜り込んだ。

回想2・1日目:午前中 へ続く

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