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第二話 堕天使-2

       2 ファーストバトル


「俺の後ろに立つとは、いい度胸だなあ」と両手を上げて言った。

 それは、俺の背後に回り込み、銃で狙いをつけている男への忠告だった。というのも、ちょうど酒場のテーブル席で、俺が一杯のバーボンに口をつけた矢先のことだ。突然この男が現れ、拳銃を突きつけたって話よ。そしてそうなると、周りの客はさっさと逃げ出し、ちょっとしたパニックを招いたって訳さ。全く、迷惑千万な野郎だぜ! さあて、この危機をどう凌げばよいのか、葉巻の煙が漂う中、目を細めて考えた。そしてポーズが決まったところで、ハードボイルドらしく、気障キザな台詞を後ろの男にぶつけてみることにした。

「いいだろう。貴様の名を聞いておこうか。死を急いだ愚か者の名を胸に刻んでおいてやる」と。

 そうすると、男は笑みを浮かべ、「へへへ、強気じゃねえか。ええっ、ダンディさんよッ。ボスがお呼びだぜ」と返してきた。

(ふふっ、ボスだと?) 俺はその言葉ですぐに勘付く。やはり、あの悪名高い、カポーネの差し金……。(なら、わざわざ酒場まで銃をちらつかせて俺を呼びに来るぐらいなら、てめえの方から面を出せ)と心の中で叫んでみる。俺は人に脅されるのが、一番気に食わないんだ。

 そこで、次に男が少しでも隙を見せようものなら飛びかかってやろうと考え、身構えた。

 すると……すぐに絶好のチャンスが到来したか? 奴は勇んで「きりきり歩け」と言いながらサイドに寄ったみたいだ。

(よし、このタイミングだぜッ!)よって、俺はすぐさま行動に移す。ただちに振り向き、男の銃を抱え込むと同時に銃口を上に逸らしたのだ。

 だが――銃声が響いた!――男の方も黙っちゃいなかったようだ。足掻きを見せて発砲してきた。……が、当たる道理がない。弾は俺を掠めて後方の壁に銃痕を残す。

 そして、お決まりのパターンへと突入だ。銃の奪い合いから肉弾戦へと縺れ込み、言うまでもなく俺のペースで勝利に向かう。男の顎に肘打ちを食らわせ、「うぐっ!」そのまま投げ飛ばす。男は敢え無く銃を落とし、その場に倒れ込む。それから、戒めの言葉を贈るって寸法さ。

「けっ、馬鹿なヤロウだ。身の程知らずとは、このことだぜ」と。

……ところが、その後、(えーと、待ってくれよ。何だっけ?)と考えたため、突然俺は、素に戻ってしまった。

 というのも、次のシーンに入った瞬間、《ロジャーが演じる》男が、倒されようとも諦めることなく、懐からナイフを取り出し俺の腹に突き刺そうとする場面だったのだが、どういう訳か、俺は段取りを忘れてしまったのだ! そのため、迷って立ち尽くしていたら、えーっ、嘘だろ、ナイフが当たった?

「うっ、痛て!」何てことだ! 重要なシーンを台無しにしてしまったようだ。俺は、すぐさま腹を押さえるとともに、心の中で頭を抱える。

 そして、そうなると、刃先を当てたロジャーの方も、まさかと思ったのだろう。焦った様子で、「お、おい、ごめん。大丈夫か?」と心配そうに声をかけてきた。

 さらに、「カット、カット、カット」と叫ぶ監督の怒声も聞こえてきて、見当違いな思い込みで、「何やってんだ。ロジャー。確り頼むよ!」と彼に突っかかる始末。

 いやはや参った。また俺のミスで現場をストップさせたみたいだ! 何故なら、本当はロジャーがナイフを突いてきた時、刃先が当たる前に俺の手が彼の肩を突き飛ばして間一髪、刃物をやり過ごすという筋書きだったのを、俺がすっかり忘れてしまい、そのせいでこんな状況になったのだから。

 そのため、真っ先にしなければならないことは、ロジャーへの釈明だった。

 俺は素直に、「すいません、監督。彼は正しいんだ。ミスしたのは自分ですよ」と謝った。

 それで何とか、監督の方は納得してくれたよう……。とはいえ、当然ながら撮影は中断され、スタッフが俺の体を心配して集まりだしたという。だが、実を言うと、どうってことなくてケガはしていなかった。ナイフといっても、刃は偽物のゴムでできていたから、当たった所が少し赤くなったぐらいだ。結局、そんなことより、撮影を中断させて、彼らに迷惑をかけたことの方が問題だったのだ! ほんと、自分でも全く情けないよ。……でも、ちょっと言わせてもらうと、俺が失敗したのもあんなことがあったせいで……。と、今さら愚痴を言っても、どうしょうもないけど。(ええい、もういい! 集中しろ。マイケル・ウエイトよ。明日のスターを目指すんだろ?)俺は、無意味な考えを振り切り、己にさらなる喝を入れ直すしかなかった。




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