第一話 覚醒 5
2 セント・マイケル
「うううっ……?」俺は不快な心持ちとともに目覚めた。いったいどこにいるんだろうか、と辺りを見回しながら。
日光がカーテンを通して漏れていた。明らかにここは、ベッドの上、ホテルの部屋だ。それも全然変わらない室内? 〝弾丸の跡〟も見えず……
ふっ、何を言っている、ある訳ないさ。夢だよ、夢! 俺は自分自身を笑い飛ばして洗面所へ足を運んだ。
大きい鏡の前に、眠そうな男が立っていた。
目が死んでるなあ、と思いつつ蛇口を捻り水を浴びる。タオルの感触が心地よい。
続いて顔を上げて、何気にもう一度、鏡に目をやった。
「……えっ!」ところがこの時、想像もしないものが視界に入ってきた。鏡の端に、『ごくろうさん。結構いけてたわ。次も頼むわね』とルージュで書かれた文字が、くっきりと浮かんでいたのだ! おまけに真っ赤なキスマークまでも添えられて……
〝おっと、これは紛れもなく、ギャビーのメッセージだ!〟
ということは……「へえっ? う、嘘だろ!」彼女の伝言が存在するとなれば、昨夜の出来事は、正真正銘、本当だったァー? 「えええェェェー! そんな馬鹿なァー!」俺は、唯々彼女の字を眺めながら、心の底から驚嘆した。
するとここで、昨日の怪奇な現象に動転していたとはいえ、ふとあることに気づく。
「なるほど……ギャビーは、メッセンジャーなのかもしれない」
つまり、終始お告げを伝えていることから、彼女はメッセージを司る聖人〝大天使ガブリエル〟ではないのかと……
(何てことだ。あれが……三大聖人の一人、ガブリエルかよ)
否、待て! それなら、この俺はいったい何者だ?
(いやはや、否定したい気持ちで一杯だよ!)
たぶん俺は……第一の天使?
――そう、その名も、聖ミカエルだァー!――