表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/35

第一話 覚醒 4

……が、その時、〈バカヤロー、目を開けろ! 死にたいのか〉と突然、脳裏に謎の声が響いた?

「えっ?」流石にこの声には驚かされ、思わず瞼を開く。

 と、次の瞬間、度肝を抜かれる。信じられない光景が目の前で展開されているではないか! 何と、俺はウルフの両耳を鷲掴みにして、そいつと共に空中を高々と飛んでいたのだ! しかもその後、俺の意思とは無関係に腕が動いて数メートル上空からその獣を地面に叩きつけるという力技を見せつけた。

「グギャーイン」ウルフは背中から落とされ悶絶する。

 いったい、どうなっているんだ? 俺は混乱した。それでも、己が宙に浮く姿を確認し、続いて目を上に向けてみたところ……何やら羽ばたく、白い翼? のようなものが、頭上で大きく波打っていることに気づいた。そのため無意識のうちに手が動き――この時だけは可能?――そろりと肩を触ってみたら、そこには躍動する筋肉の塊があった!

 げっ、馬鹿な、俺の肩から翼が生えているだと? 俺は心底仰天した。

 ただそう思っている間に、また腕の自由が利かなくなり、同時に謎の声も聞こえてきた。

〈いいか、今度目を閉じたら、俺様がお前をぶっ殺すからな〉と。

 ふむっ? そうか、分かったぞ。こいつが俺を操っている張本人だ。俺は多少なりとも理解できた気がして、すぐさま頭の中で訊いてみた。

(お前は誰だ?)

〈…………〉けれど、そいつはだんまりで答えない。

(誰なんだよ?)なおも訊く。

 そうすると、〈黙ってろ。お前は前だけ見てればいいんだ〉と疎ましそうに話すだけで、俺の問いかけなど構っていられないという訳なのか、無視を決め込んだ後、一気に真っ逆さま、無傷な残りの野獣に向かって突っ込んでいった。野獣は伏せて、今にも跳びかかる体勢で待っているというのに……

(おい、俺様よ。どうする気だ? 拳銃はないぞ)そのため、ただちに俺は警告した。兎にも角にも、その強引な攻めを真っ先に心配しなければならない羽目になったみたいだ。

 だが、えっ? それもまた余計なお世話だった? 想像もしない、さらなる驚愕の事実を目の当たりにする。

 何と! 俺の右の掌から長剣九十センチメートルほどの刃が勢いよく飛び出したのだ! それは西洋で見かける、騎士が使うような剣だ。

 そして、「そんなもの、どこに忍ばせていた!」と驚嘆する俺の声が響く中、俺様の方は、剣を翳しウルフに切りかかっていた!

……が、そうは言っても相手は獰猛な野獣だ。そう簡単にやられはしなかった?

 俺様の剣が地表の獣を仕留めようとした瞬間、すんでの所で掻い潜り、ただちに四メートルも跳び上がって、そのまま攻撃に転じていた。上から鋭い強靭な牙が降ってきたのだ!

 となれば……今度はこちらが不利な状況か? 俺は、当然ながら危惧し、(危ない、これではれるぞ!)と叫んだ。

――甲高い鋼の交わる衝撃音が鳴った!――

「へっ?」だが、予想に反し、何とか堪えたか? 流石にそこは凄技を見せ、剣で牙を確りと受け止めたよう。

 そして後は、俺様の冴え渡った超人技に言葉を呑む。渾身の力を込めて、獣の胴体へ、口から胸、腹、尾まで刃先を滑らし体を真っ二つに切り裂いていた!

 途端に、野獣は漆黒の体液をぶちまけて苦しそうにのたうち回った。続いて、つまるところ魔物ははかなく散る運命なのか、すぐにその身は岩が風化するみたいに崩壊し、あっという間に消え失せた。現世において、やはり魔界の亡骸など、存在の欠片も許されないのだろう。

 ところが、まだまだ終わりではなかったッ? 一匹仕留めたことで油断していた。突然後ろから攻撃を受け、背中に強力な頭突きを貰ったのだ!

――先ほど地上に投げ落としたウルフの反撃か?――

 俺は堪らず剣を放り投げ、地面にうつ伏せに倒れる。まさに一転して危機的な状況になった! こうなると、早く身を起こさなければ殺られてしまう。そこですかさず立ち上がろうとすれど……「げっ!」駄目だ、間に合わない。目前に野獣の歯が迫ってきた、このままでは食われるぞ! 

 と思ったが、ここは俺様の素早い反応が功を奏す。俺の右手が奴の上顎を掴み、さらに左手でも下顎を支え、野獣の吐き出す唾液を顔中に浴びつつも、上手く中腰の体勢を維持して何とか襲撃を阻止していた。……それでも、まだ危険な状態からは逃れられない! ウルフの方は、食らいつこうと大口を開けて鼻先を押し返してくるのだから。

 しかも、ここで最大のピンチを迎える! 足に弾丸を撃ち込んだ、もう一匹の存在だ。そいつが、よろけながらも牙を剥き近づいてきたのだ! 俺は膝をついた格好で、目の前の牙を防ぐのに両手が塞がり、それだけで精一杯! 二匹を相手になど、できはしない。

「こ、これで終わりだ!」俺は覚悟を決めるしかなかった。……どうにかここまで戦い抜いてきたのに、力及ばずかァー。

 そして遂に、手負いの野獣が、容赦なく跳びかかってきた!


――数発の銃声音が響いた!――


 ところが……えっ? その直後、どこからともなく弾丸が発射された?

 忽ち野獣の頭部に被弾して脳みそを盛大にぶちまけた。加えて胴にも命中したため、弾の凄まじい衝撃波によって二匹のウルフはもんどりうって転がり倒れる。そうして後はお決まり通り、断末魔が暗夜に鳴り渡れば、跡形もなく消滅していた……

 何と、俺は、辛くも牙の餌食にならなくて済んだみたいだ!

「ふううっー、助かった!」思わず、心の底から溜息を漏らした。

 それにしても、全く、何という話なんだ。こんなことが現実にあっていいのか?……。ただ、そう嘆こうと思ったが、その前に誰が助けてくれたのかを知る必要があると感じたので、顔を上げて周りを見渡してみた。

 そうすると、すぐにコツコツと靴の音が聞こえてきた。左手の甲を腰に沿え、右手にコルトを構えた――そのピストルの銃口から、まだ白煙が薄っすらと昇っている――見事な曲線美に包まれたボディのお出ましだ。……言うまでもなく、ミニスカートを揺らしながらしゃなりしゃなりと歩いてくる、ギャビー・ケイトの神々しい姿がその場にあった。

 そして、間近に来るなり、

「まあ、最後はもち、あたしが仕留める宿命ね」とギャビー言った。部屋では気づかなかったが、彼女の背中にも白い翼が被さっていた。

 やはり彼女だったか……。とはいえ、こうした途方もない経験をして本当に信じられない思いだ。俺はすぐさま彼女に訊いたよ。

「最初から分からないことだらけだ! 君は、何者なんだ? それに俺もどうなっている?」と。

 ところが彼女は、その質問に違和感を覚えたようで、「なあによ、思い出さないの? もしや、あんた、覚醒してないんじゃない? だったら大変なことになるわよ!」と逆に警告してきたのだ。

(……えっ、何だって! 大変なことになる?)となれば、当然ながら俺は驚いた。そのため、忽ち己の疑問なんか吹き飛んで、代わりに覚醒していないとどうなるんだ? という心配事が先に立つ。

 そこで、ともあれもう少し事情を探ろうと、今一度慎重に尋ねることにした。

「覚醒してないと駄目なのかな?」と。

 すると彼女は、「当たり前じゃないの! 一般の人間にこの仕事が務まるはずないでしょ。それに人間のままなら、あんたの身は終わりよ」と返してきた。

 えっ! 身の終わり? またまたその言葉に意表を突かれる。俺は焦りつつ考えを巡らした。自分の身が終わるというのは、どういうことだ? まさか用を足さない者の末路は、明々白々地上にいる意味がないので、天上? に戻される。つまりはこの世から消されるというんじゃないのか、と……。俺は、恐々とした。そしてそれなら、バレないでいるに越したことはないと急遽思ってしまった。そのため、(まだ俺は三十三歳だ。死ぬには早過ぎる。こうなれば、取りあえず順調に事は進んでいる風な感じ……そうだな、軽い笑顔でも見せて誤魔化すしかないな)という考えに至り、それらしくニヤッと微笑んでみせることにした。

 彼女は、三枚目のように笑う俺を訝しげにまじまじと覗き込んでいた。それから、

「なあによ、またからかったみたいね。ちゃんと翼と神剣を御してるじゃない。あんた、あたしがジン・ウルフを多めに殺ると不機嫌なんだから」と言った。

 良かった! どうにか、野獣に続いて覚醒の難も逃れることができたようだ。これで本当に一件落着だ。俺は、安堵した。……と言いたいところだが、ここでふと、根本的な問題が全く解決されていないことに気づく。この常軌を逸した状況について答えを得られていないのだ! ただ、そうは言っても、自分の姿や魔物を退治する行動からしてだいたい予想がついた。どうやら俺は天上人になったような?……。ううっ、全く、何てことだ! 勘弁してくれよ。これから一生、天界の使命を負って生きていかなければならないのかよォー! 結局は絶望感に苛まれ、俺は心の中で頭を抱えるのだった。

 そんな中、ギャビーの声が聞こえてきた。空を見上げて、何か思い出したようだ。

「あら、いけない。もう日が昇る時間に戻さないといけないわ」と。それから俺の方を向いて、「後始末はあたしがやるから、あんたは帰りなさい」とウインクした。

 やっと、お役御免という訳か?

 そしてそう思った直後、俺の視界は瞬く間に闇の中へと落ちていったのだ――――



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ