第四話 最終決戦ー10
俺はギャビーとレイフに腕を掴まれ大空を飛んだ。それから言うまでもなく、真上にイリアの翼を従えさせながら。要は、円状に配列させた翼の強烈な圧で、奴らともども彗星を吹き飛ばそうという戦略だったのだ。
そして、漸くここに来て、俺は百年前の出来事を思い出した気がする。同様のシーンが目に浮かんできたからだ。その当時は、たぶんガブリエルはいかつい顔の大男で、ラファエルは小柄な美少女だったみたいな……
そうだ。これで最期となるかもしれないのなら、思い残すことがないよう〝例の事情〟をギャビーに話しておこう。俺は、唐突に決意する。
「ギャビー。大事になることを覚悟して真実を話すよ。今さらだけど、実は俺の精神はミカエルと同化していなかったんだ。つまり、覚醒が不完全なまま戦っていたんだよ」と勇気を出して彼女に伝えたのだ! きっと、とんでもない罰を受けることになるだろうと思いつつ。
すると彼女は、「へえー、そうなの……」と言って、その後、「…………」口を噤いだ。どうやら、話すことを躊躇っているような感じだ。
俺は、暫く待った。
……が、いくら待っても、えっー! 梨の礫? その後のお言葉が聞こえてこない。本当にそれで終わりのようだ! おいおい、どういうことだ。俺は彼女の無反応さに面食らった。人が生きるか死ぬかって時に、何て不親切なんだ! と呆れてしまったのだ。そのため、もう一度問わずにいられなくなり、
「あれ? 何故もっと驚かないんだ?」と訊いてみた。
ところが、彼女の返答は、「いいじゃない別に」とまたまた素っ気ない言葉だった?
はあ? そうじゃないだろう。俺は愕然とした。そして、
「まるで話が違うじゃないか。覚醒が不完全だったら、大変なことになるんじゃないのか? 君が言ったんだぞ」とさらなる抗議を続けてみても、
「そんなこと、知らないわよ。あら変ね、と思っただけよ」と唯々突っぱねられたのだ。
いやはや、何てことだ! ということは……結局俺の取り越し苦労だった訳かよ。命を取られるんじゃないかと心配して、必死で誤魔化していたというのに。ほんとギャビーには、この最終局面においてまでもやり込められるなんて、つくづく閉口させられる。俺は、思わず心の中で頭を抱えていた!
……だが、そうした散々なやり取りが終わると同時に、奴らの姿が前方から見えてきた。
俺は気持ちを切り替える。とうとうファイナルバトルの幕が切られようとしていたのだから。
そして、ただちに俺たちは全精力をサンダルフォンの十八翼に込めて風圧を高めた。
一方、サマエルたちも、邪悪な十二翼の下で魔力を結集しているみたいだ。奴らの後ろにはスーパーハリケーンとも称せる超巨大な積乱雲の壁が見えた。おそらく落下する彗星を軸にして、数万メートル級の分厚い暗黒雲が周りを取り巻き回転しているのだろう。その泥っとした薄墨色の天空要塞が蠢く限り、全ての物を拒み続けるはずだ。
それでも、俺たちは前に進むしかなかった! 何があろうとこの世界を護ることが我らの使命と捉えていたからだ。
……やがて、恐ろしいほどの風が、近づくに連れて吹き荒れた。それとともに雷鳴が轟き、天空を稲妻が網の目状に走たという。まるでこの世を上空から飲み込むかのごとき威圧感で迫ってきたのだ。
もう、接触も間近だ!
俺たちは自然と顔を見合わせた。ギャビーとレイフ、それに己の中のミカエルが、魔を倒すべく全力で向かっていく姿をお互い確認するために。しかも、それだけで自分たち三人の命が尽きようとも、この戦いだけは勝利しなければならないてという気概が窺い知れた訳だ。
そうさ。必ず打ち勝ってみせるぜ! 俺たちのため、もとい、全世界のために力を振り絞り、奴らを地平線の外まで噴き飛ばすのだッ!
「おりゃーー!」俺は前のめりになって、気力を奮い立たせた。
その途端……天を揺るがすほどの轟音とともに、相反する〝超絶パワー〟が凌ぎ合った!――荒唐無稽な例えとして、数百億ガロンもの燃え盛るマグマの塊に、数百億トンの巨大な氷山がぶつかるような――とどのつまり、善と悪の、凄まじい衝突が起こったのだ!
すると、忽ち途轍もないエネルギーが放出され、辺り一面が真っ白な空間で覆われてしまった。まるで、天地創造の黎明を彷彿させるかのような、この現世ではあり得ないほどの光で満ち溢れたという。
そして……その直後。
――審判が、下った!――




