第四話 最終決戦ー4
これで、俺の話は終わった。
その後、少々間が空いてから彼女は素っ気なく言った。
「あなた、意外と真面目なタイプね。もう少しラフだと思ってたけど」と。
どうやら俺は、期待外れだったような。彼女にとってチャラチャラした映画の役者なんて、腰が軽くて配慮の足りない奴という印象があるのだろう。ただ、俺に関して言えば全くの逆だ。どちらかというと、慎重で臆病な性格をしている。役者になったのも自分とは真逆の華やかな世界に憧れてのことだ。
という訳で、ナンシーも分かったに違いない。このマイケル・ウエイトが彼女の御眼鏡に適わないってことを……。だったら、もう用はないはず。
そこで、俺は気まずい空気を感じたせいもあり、早々にお暇した方が無難だと考え始め、頃合いを見計らった。
それから、気持ちが定まったところで徐に立ち上がり――まあ、これで何の後腐れもなく帰れる訳だ――別れの挨拶を交わそうと、彼女を横目で見てから話しかけた。
「今日は楽しかったよ。よければまた、どこかで一杯……」
ところが、ちょうどそこまで言った直後のこと、俺は予期せぬ光景に遭遇して、思わず体を硬直させた!
何と、あろうことか、前面に広がるガラスの外壁に、〝巨大な影〟が映り込んだのだ!
あれは……そう、紛れもなく(俺は、絶対に見間違いなどしない)……魔族の従者。
――大コウモリ、オリエンスだ!――
(何てことだ! 奴が、唐突に現れただと? 高層ビルの三十階まで追ってきたのか?)
俺はただちに、驚くとともに警戒した。こうなると、アバンチュールどころではなくなったのだから。そこですぐさま、
「ナンシー! これから起こることに混乱しないで気を確り持ってくれよ」と彼女を気遣ったなら、か弱き女性を護るためにナンシーの前方を塞ぐ形で身構えた。そして、外から来るであろう邪悪な物へ全神経を集中した。
……と、次の瞬間、(やはり来やがったかァー?)
――ガラスの破裂音が姦しく聞こえた!――奴が体当たりを食らわせ、壁を破壊したのだ! しかも、その激突が凄まじかった故、散り散りに粉砕されたガラス片が、強圧力を受けたせいで凶器のごとく己の体に突き刺さろうとした。
俺は思わず、顔を手で覆った。と同時に、目にしなくても、同じ空間に魔の存在を感じた。まさしく、翼長五メートルのコウモリ男、オリエンスが頭上で羽ばたく姿を察知したのだ!
ならば、言わずもがな、俺様の出番だ! 懐からマグナムを引っ張り出し、トリガーを引いた?……と思ったが、あれ? できない! 何故か俺様が登場しなかった。どうした、ミカエル? そして、そう訝しんでいたら、今度は俺の身体にも異変が……。突然、腹の痛みに襲われ、忽ちその場に倒れ込んでしまったのだ!
いったい何が起こった? 全く、分からない。
が、その直後、「……ええっ!」とんでもなく驚愕な事実を知る羽目になる。――まさか、一瞬で神力を奪われただと?――
何と、己のへそに、短剣が突き刺さっているではないかァー! どうやら、いつの間にかオリエンスの攻撃を受けていたよう……。(まるで、信じられない!)
それでも、まごうことなき、とうとう腹を抉られてしまったのだァー!
鮮血が夥しく流れだした。俺はうつ伏せの状態で痛みを堪える。すると、徐々に意識が薄れて、まるでこのまま石の彫像に変わろうとしているかのような感覚を覚えた。
どうやら、死を迎える前に起こる予兆なのかもしれない……
俺は、無念な面持ちでこの現実を受け入れるしかなかったのだ!




