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第四話 最終決戦ー1

      第四話 最終決戦

       1 策士


「はい、マイケル。どうしたの?……サンフランシスコの実家へ?……その日は仕事で。えっ、休めって?……急ね。うーん、そう。分かった。友達としてね。うん、バーイ」という声が、スピーカーを通して聞こえてきた。一先ず安心してスマホの電源を切る。

 俺は、ちょうど今、フランソワに〝これ以上ない〟お願いをしていたのさ。まあ、彼女と話すのは、数ヶ月ぶりのことだが。ちょうどあの日の、別れを告げられた時以来か? 実は数ヶ月前まで、彼女と付き合っていたんだ。けれど、お互い仕事の忙しさにかまけて会う機会を持てないでいたら、自然と彼女の心が離れたみたいで、遂には愛想を尽かされて終わったという話よ。それでも、3日後に未曾有の参事が起こるとなると、彼女のことは気にかかる。どうしても避難させたかった。そのため、友人としての関係を強調した上で、少し強引に俺の実家へ遊びに行こうと誘った訳だ。

 彼女は幾分躊躇ってはいたものの、どうにか了承してくれた。これが俺に対する、最後の付き合いだったのかもしれないが……

 すると、そんなセンチメンタルな気分に浸っていたら、突然「マイケル、時間ですよ!」というデリカシーのない声が聞こえてきた。俺は慌ただしい現実に引き戻される。

 スタッフの呼び出しだった。もう、出番が来たようだ。

 さてさて、私的な話は後回しにしておきましょう。俺は急いで、仕事に取りかかることにした。


「おい、おめえがダンディ・ハーテンとかいう探偵か?」と葉巻をふかしつつ、いかにも高級そうなスリーピースを着こなした、スキンヘッドの大柄な中年男が言った。カポーネの登場だ。椅子にどっかりと腰を据え、足首をもう片方の膝に置き、ふてぶてしい態度で俺を睨んでいた。

「そうさ、あんたが悪名高い、カポーネか?」ならば、俺も負けちゃあいられない。皮肉を込めてそう答えてやった。

 そうすると、先ずは奴の取り巻きが動いたか? ハットを被った背広姿の子分たち三名が、こっちに向かって突っかかって来ようと身構えた。どうやら、俺の文句に腹を立てたと見える。

 だが、カポーネはそれを制止して、

「若造が! 知ったような口を利くな。わしの一言でお前なんど、海の底へ沈めることは造作もないんだぞ」と警告してきた。

 ふふふっ、流石大親分。俺より一枚上手を行くかい? 奴の酒場に来てみたが、やはり形勢不利な気がするぜ。何せ俺の周りに座っている雑多な客の中にも、リボルバーを忍ばせた族の姿が見て取れる。そこかしこに子分の気配があるってことだ。

「いいだろう、俺の負けだ。だがなカポーネ、こっちもあんたのシッポは押さえているんだぜ」それなら、次の作戦として隠し玉を臭わせてみた。多少なりとも、立場を有利にするために……

 と思ったが、何故かその忠告・・は奴の胸に刺さらず、不敵な笑みを浮かべて、

「そうかい。もしかするとそれは、こんなものか?」と言っただけ? そして、それが合図だったみたいで、奥からフードを被った女が――顔が隠れて見えない――子分によって引っ立てられてきた。

 はて、誰を連れてきた? 隠し玉とどう関係しているんだ? 最初は全く分からなかった。……が、女の方が俺の顔を見て、

「ダンディ、ごめんなさい。やられたわ……」と言ったことで、漸く俺も理解した。

 おいおい、ローズじゃないか! 彼女が捕えられているって? 何てことだ! 俺の切り札がなくなったってことかよ。こうなるとお手上げだぜ。相棒のマグナムはとっくに奪わて懐は空なのに、ローズに預けていた裏帳簿までも奴らの手に渡ってしまってはどうすることもできないぞ! まさに絶体絶命とは、このことだ。俺は、どうしたもんかと思案した。

 ところが、その時だ! 事態が急変する。突如、観音開きのドアを押し退け、カポネの秘書、マリー・ケネシーが入ってきたのだ!

(おっと、これまたマズい展開だ)

 俺は、その姿を見てただちに危ぶむ。自分との関係を知られたなら、彼女まで捕まってしまうからだ。……とはいえ、彼女の方は動じてない様子だ。平然とした顔つきでずんずんと部屋の中央まで進み来た。〝それも、何やら物騒な物までも手にして……〟

(げっ! どういうことだ? あれは機関銃じゃねえかァー!)

 途端に――銃声音を鳴り響かせた!――彼女は、天井に向けて乱射し始めた!

「ぐほっ! き、きさま。何のつもりだ!」となれば、カポーネも驚いたに違いない。奴の慌てふためく声が聞こえてきた。同様に、子分たちも肝を冷やしたみたいで、銃を抜く仕草を見せた。

 が、彼女は奴らの言動に目もくれず、続いて仁王立ちしたまま雄々しく叫んでいた。

「全員、手を上げろ!」そのうえ、さらなる驚愕的な真相も口にしながら。「お前たちを逮捕する。私はFBI特別捜査班、ケネシー捜査官だ!」と。

「なあーんだとおううぅ!……」ただちにカポーネの表情が歪んだ。

(なるほど、そういうカラクリか? マリーが潜入捜査官だったなんて、全く気づかなかったぜッ)

「クソ、こうなったら、あの女を殺れ!」続いてカポーネは、当然ながらそう子分に命令していた。とはいえ、マリーの方でも抜かりはなかったよう。後ろに大人数の警官を控えさせていたのだ。

「突撃だ!」忽ち、彼女の号令が聞こえた。

 とうとう、銃撃戦の始まりだ。何十発もの弾丸が乱れ飛んだ。その場に居合わせた客も逃げ惑い、「きゃー」不運にも弾を貰い前屈みで倒れる婦人や、「うっ」流れ弾に当たる紳士、テーブルに隠れて撃とうとしたが、逆に頭を撃ち抜かれて「うわー!」と叫ぶ子分たち。まるっきり戦場と化していた。

 そんな中、俺もローズを助けるため行動に移す。先ずは彼女を押さえつけている子分に飛びかかり、一気に殴りつけた。

「ぐっ!」男はそのまま倒れ込む。次にそれを見定めてから、彼女の腕を掴み、腰を落として壁際へと走ったなら、テーブルの影に隠れる。そこから後は……高みの見物と洒落込んだ。というのも、俺の出番はここまでだった。フレームアウトしたところでダンディの撮影は終わったのだ。


(やれやれ……)

 俺は、気を落ち着かせて戦闘シーンを眺める。これで今日のカットも一段落ついたと思いつつ、仲間の演技を見守った。

……だが、その時、「んっ?」俺は、撮影とは別に何か異変を感じた。というのも、銃声に紛れて、唸るような地鳴り? が聞こえてきたからだ! それも、出し抜けに窓の外からどんどんと近づいてきているような。

 そこで俺は、(はて? 何だろう)と訝りながら、それとなくガラス越しに外を垣間見た。

 すると……上空に浮かぶ怪しげな塊が目に付いた。しかも、その物体は白煙を一直線に吐きつつ物凄い速さで……「えっ!」近づいてきていたァー?

 あっ! 途端に、緊張した。そして、衝突予測日との差異があろうとも、(もしや、あれは……)と最悪のシナリオを思い描いてしまったのだ! だって、そうだろ。突然、空中に姿を見せ、真っ直ぐに突っ込んでくる塊なんて、他に考えられようか?

 故に俺は、形振り構わず、他のスタッフを押しのけて窓の側まで走り寄ったなら、空を見上げてもう一度その物体を注視した後、後ろを振り返りローズ役であるギャビーに向かって渾身の声で叫んでいた。

「ギャビー、一大事だ! 彗星の落下が始まった。このままでは間に合わないぞォー!」と。

 そして、彼女の方も――ちょうどバックステージにいたのだが――その声を聞いて一も二もなく行動に移す。……と予想すれど、あれ? 違ったか? 何故か落ち着き払っている。しかもその後、「何言ってるの? マイケル。あなた変よ」とつれない返事までも口にしたという。

 はて? どういうことだ。俺は当然ながら戸惑った。監督の「カット、カット、カット。マイケル、頼むよ!」というダメ出しを耳にすると同時に、演技を途中で止めた仲間たちやスタッフの冷たい視線を感じながら。つまり、全く場違いな空気が漂ったという訳だ。それでも、俺は懲りずに「ええと、彗星の帯が見えてるけど……あの白煙」と外を指差して呟いてみると、ギャビーが解決に繋がる糸口を話してくれたよう。

「何が彗星よ。ここから外は見えないわよ。私たちはスタジオ内にいるじゃない」と。

 おおっと、そうか! 漸くここで勘違いに気づいた。この場は、彼女の言う通り第九スタジオの内部だったが、それはこの部屋だけでなく、屋外だと思える場所も、実は景色を模造した室内空間だったんだ!

「それにあなたが見ていた白煙と噴射音は、窓の外側に吊るした巨大スクリーンへのプロジェクションマッピングされた映像でしょ。FBIのヘリから発射されたロケット弾がここに撃ち込まれるという設定で映されていたものよ。ただしヘリは、後でCG合成するから映ってないけど。全く……台本読んでないの?」と続けて彼女は言った。

 ううっ、確かに。迫力ある戦闘シーンを製作するため、そういうストーリーだったような。いやはや参った。また俺のミスか、早合点したみたいだ。しかし失敗した反面、ホッとする自分もいた訳で、自ずと顔がニヤけるのを感じた。

「すみません。皆さん」俺は早々に誤り、すぐにその場を退場したのだった!




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