表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/35

第三話 恐怖のシナリオー9

……と、その時だ。そんな俺たちの気持ちをさらに挫くかのように、突然、大空で雷鳴が轟いた! 続いて、巨大な竜巻が発生したかと思ったら、見る見るうちに天の雲間から突き抜けて地上へと繋がった。そうして、その内部より、一匹の魔物が姿を現した! 黒い翼を持ち、マスクですっぽり顔を覆い、目だけ爛々と輝かせ、その風体はまるで忍者そのもの。加えて、全身から魔界のオーラと思える不気味な妖気を漂わせている……

――そう、言わずと知れた、堕天使サマエルだ!――

 奴が、新しい体を得て、忽然と登場してきたのだった!


         6 対決


 とうとう、長兄サマエルが現れたのだ! 前回とはまるで違った雰囲気で。

 そして、出現するなり、山羊男アザエルを睨んで言った。

「役たたずめ、我の後ろ盾もできんのか? たかが聖人一体ぐらい叩けんとは」と。

 一方、その声を聞いたアザエルは、足を抱えて申し訳なさそうに、

「けどよう、おぜだって、懸命にやったぜっ」と釈明をしていた。

 だが、サマエルは無視を決め込み、今度はこちらの方へ、殺気立った視線を向けてきた。どうやら、問答無用ということか、奴は既に戦闘モードに入っているみたいだ……

 となれば、もう待ったなしか? 俺は、覚悟を決めなければならなくなった。

 そして、その直後――クソッ、やっぱり来やがった!――奴は魔剣を翳し、くうを飛び越え真っ直ぐに突っ込んできたではないか!

……と思ったが、次の一瞬、奴は身を翻した?

 えっ、俺じゃないのか?

――強打撃音がした!――ギャビーだ! 彼女に強烈な右フックを食らわしたようだ。

 忽ち、彼女は、数十メートルも弾き飛ばされ、(……げっ、まさか)呆気なく川の中へ落ちてしまった!

 何と、あのガブリエルが、いとも簡単に倒されたのだァー!

 ええっー、嘘だろ! これには、俺も度肝を抜かされる。

「ギャビー!」俺は、唯々彼女の名を叫んだ。奴の、凄まじいパワーに仰天しながら。 

 しかし、彼女を心配している暇など、疾うになかったような? 奴の目が、次なる標的を捉えていた。……そう、こっちの番だった!


――サマエルが、間髪入れず宙を舞い、高速で近づいてきたのだァー!――

(うわぁー、どうする? 逃げられないぞ!)俺は、頭を抱えた。


 だが……次の瞬間――銃声音を響かす!――俺の危惧などなんのその、どれほどの強敵が来ようとも関係ないと言わんばかりに、ミカエルは銃をぶっ放していた。やはりここでも、大天使ミカエルの本領が発揮されていたのだ。自分には真似のできない、その荒々しい攻撃を披露して……。それなら――俺は今更ながらに確信する――ギャビーを一撃で倒すほど、めっぽう強い人間をしもべにしたところで、ミカエルなら奴を葬れるに違いない! と。だから、大船に乗った気持ちで見守ることにした。

 ところが、そう予想したにも拘らず……あれ? ちょっといつもと違う展開になっている? 全く弾が当たっていないような。どうやら、サマエルが桁違いの速さで魔剣を操り、全ての弾丸を撥ねかえしている模様。しかも、それだけで終わらず、気づいた時には最接近され……えええっー! 奴の剣先が俺の腹部へ?

 何てことだ! 俺様の豪腕を完全に信じ切っていたのに一瞬で腹を抉られる羽目に?……と思ったが、否、これもまた違っていた。何故か、奴は腹を斬ることなく、紙一重で動きを止めていたのだ。しかも、俺の真正面で、すっくと立ち尽くしたまま。それにミカエルの方も、魔剣を突きつけられた状態で身動みじろぎもしていなかった。

 何が起こっている? 俺は、この状況をすぐには把握できなかった。それでも、数秒経ったところで、漸くその旨を理解する。サマエルが、躊躇っていたということだ。つまり、俺様の方もサマエルの喉に狙いをつけて銃口を向けていたため――この距離なら、どんなの兵が相手でも外しはしないだろう――所謂、チキンゲーム状態になっていたのだ!

 となると、当然ながら周りに緊張感が漂い、最悪の雰囲気になっていた。相手の微かな動きも読み取ろうと、重い空気の中、まるで一秒が一時間にも思えるほどの研ぎ澄まされた感覚で睨み合いを続けていたという。

 俺は、この状況に肝を冷やすばかりだ!

 するとその後、ミカエルの方が、膠着したこの状態に痺れを切らしたのか、信じられない言動に出た。

「どうした? 早くやれよ。ええっ、サマエルの旦那よ。俺様の腹を抉ればいいさ」と――俺の意思とは関係なく、勝手に口が動いて――サマエルを挑発し始めたのだ!

 おいおい、止めてくれよォー。これには俺も、ただちに戦々恐々となった。奴がその気になったらどうすんだ、と案じた。……が、幸運・・にも、奴の様子を窺うと今のところ動き出す気配はないように思えた。俺は、少し安堵する。

 えっー! それなのにミカエルときたら、なおも、

「俺様の銃が、てめえの頭を噴き飛ばすのが速いか、それとも、てめえの剣が俺様のへそを掻っ切るのが先か、賭けてみようぜ。度胸試しといこうやあ」と煽ったではないか!

 全く、ミカエルの心臓の強さには恐れ入るよ。サマエルだって、その挑発に乗る可能性もある訳で、もしそうなったら無事でいられる保証はないのに……

 とはいえ……結局はそんな心配事も、どうやら杞憂に終わったみたいだ。

 サマエルが、瞬く間に上空へ舞い上がっていったのだ!

 助かったァー! 宿敵ではあるものの、何とか堪えてくれたみたいだ。

 そして、「馬鹿め、きさまの戯言に付き合う道理はないわ。どう足掻こうともこの世は終わり、すぐに魔界の業火が跡形もなく全てを焼き尽くす。我らの主の復活じゃ。主が蘇ったのちに、ゆっくりときさまらを料理してくれるわ。それまで首を洗って待っておれ。ファハハハハ……」という捨て台詞を吐いたなら――もう戦う気も失せたようだ――きびすを返し、発生当初と変わらず爆風と轟音で渦巻いている竜巻の中へ飛び込んでいった。同時に、山羊男とその従者パイモンも、申し合わせたかのように竜巻内部へと逃げ入る。そして後は、荒れ狂う渦とともに、奴らは天空の彼方へと姿を消していったという。

 漸く、難事が過ぎ去ったのだ! 奇しくも魔物に支配されたリバーサイドも、空は晴れ渡り、平穏無事な憩いの場に戻っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ