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第三話 恐怖のシナリオー3

       3 襲撃


 今日も快晴だ。俺は空の眩しさに目も瞬かせ、うんざりする虚脱感に陥りながらリバーサイドを歩いていた。何故なら今いる場所は、なんせこの俺には似合わねえ、散歩をするには持って来いの、あからさまにファミリー受けするようなデザインで舗装された広い公道だったからだ。普通なら軽くジョギングでもしたくなるだろうが、言うまでもなく俺の柄じゃねえ。全く、おとぎの国に迷い込んだ猟犬の心境だぜ。なら、さっさと用を済ませようか。

……と、そんなことを思っていたら、やっとお目当ての女が登場してきたようだ。レディーススーツを着こなし洒落たハットを深々と被って、いかにもキャリアウーマンと言いたそうな出で立ちで現れた、カポーネの秘書、マリー・ケネシーさ。要は、彼女の告発を得るためにここで待ち合わせをしていたって寸法よ。

 俺は葉巻に火を点け、

「よう、マリー。今日も色っぽいじゃねえか。君のスーツ姿は、まるで舞踏会のドレスのようだぜ」と声をかけた。

 するとマリーの方は、「冗談はよしてよ。それより早く終わらせましょう」と素っ気ない返事で答えてきた。

(へいへい、やっぱり警戒しているのかっ?)ならば仕方ねえ。俺はすぐにある提案をした。

「オッケイ。なら、さり気無く談笑している風に装うかい?」と言って川沿いを並んで歩くことにしたのだ。

 ところがその時、突然後ろから黒塗りの車が猛烈な勢いで走ってきたかと思ったら、急ブレーキの音を姦しく鳴らし止まったじゃねえか!

 おっと、いけない! どうやらいかつい男たちのお出ましのようだ。銃を片手にドアから飛び出してきやがった。しかも、すぐさま俺たちの方へ銃口を向けるという手加減のなさ。

 ならば、こちらも黙って見ているほどお人好しじゃねえ。俺は相棒の出番とばかりに、素早くマグナムを手にする。そして、車のドアに阻まれようとも、そつなく男たちの足を撃ち抜いた。

「ぎゃー!」「ぐわっー」忽ち強面たちは、呻きながら這い蹲った。

 よし、何とか敵を排除したぜ……と安心したが、そう甘くはないねえェー。別の車が、奴らの後ろから突っ込んでくるのが見えたという訳だ。

「マリー、車に乗れ!」

 となれば、倒れた男たちを余所にして車を奪うまでよ。俺たちは車内に潜り込んだ。そして、ここからが見せ場となるカーアクションの始まりだった。……が、同時に、もう演技も必要なくなった。ちょうどこのシーンでフレームアウトだ。つまり、カメラに映らなくなったという話で、俺は一旦素に戻ることにした。ただし、アクションは続行中なのだから、ハンドルを握って運転だけは続けていたが。

 故に、エンジン全開だ。目一杯アクセルを踏んで突っ走る。前方にのんびりと歩く人々の姿が散見できたとしても気にせず、クラクションをけたたましく鳴らし滑走した。

 すると……数人の歩行者が、「うわー!」と喚いた途端、車を避ける演技に合わせて川へ飛び込んだ。別の女性も車の動線から逃れようと懸命なるスライディングを披露した。

 全く、流石だねぇー。プロのスタントマンは凄いよ。俺も安心して車を操作できるというもの。

……だが、そう思ったのも束の間、えっ? 今度は己の目を疑った。真正面に人影を見つけたのだ! それも、車が近づいているのが分かっているはずなのに、全く逃げる素振りもなく、暴走車に対峙したまま?

「げっ!」誰だ? 何をしている。俺は焦った。

「マイケル、危ない! 誰かが車の前にいるわァ」同様に助手席の《マリーの役を演じる》イリアも叫んだ。

 よって、慌てて急ブレーキをかける……。が、もう間に合わない? 既に、人物が目の前……。(駄目だ! ぶつかりそうだァー!)

……と、危惧したものの、「…………?」何か様子が変だ。何故ならその人影は、巨大で、しかも顔が、山羊?

――ただちに、強烈な衝突音が轟いた!――次の瞬間、巨人との激突。否、激突なんてもんじゃない。奴の強力な腰の入った右アッパーが炸裂して、俺たちの乗った車を十数メートル上空まで弾き飛ばしたのだ!

「きゃー、マイケル! どうなったの? マイケル!」忽ちイリアが放心状態となる……が、為す術なく、車は一気に落下して――車体の砕ける音が響く!――川の中へと突き刺さった。

 結果、車のフロントが蛇腹のように拉げて、運転席も見るも無残に圧し潰される。全く、信じられないほどの惨事を迎えたのだ。その後、水が内部に押し寄せ、あっという間に沈んでいった。……という光景を、何とか無事に、数メートル上空で目の当たりにしていた。右手に神剣を掲げ、左手にイリアを抱きかかえて。そう、魔の攻撃を突然受けようとも、俺は逸早く車の天井を剣で切り離し、そこから彼女とともに宙に飛び出していた。俺様の始動だ!

「何これ? マイケル、どうなってるの?」ただし、予想外なことも起こる。「あなた、空飛んでる……それに、何? あなた、翼がある!……えええ?」とイリアが大いに興奮して捲くし立てているのだ。

 これには俺も、あれ、どういうことだ? 普通の人間なら時間が止まっているんじゃなかったのか? とただちに疑問に思った。そこで、改めて周りを観察してみたら、やはり他の人々はフリーズしている。なのに、彼女だけが、

「マイケル、訳が分からないわ。ねえあなた、本当は誰なのよ!」と天界の定めを無視するかのように喚き散らしていた。

 ええい、うるさい。訳が分からないのはこっちだ! 俺はその声を聞いて、逆にそう言ってやりたい気分になる。……が、声にせず、取り合えず地上に降りることにした。それから彼女を地面に立たせ、

「いいから黙って身を隠せ」と指示を出す。

 彼女は、慄いた顔で手も震わせていたが、すぐに物陰へと潜んだよう。

 それを見届けたところで、彼女のことは後回し、先ずは目の前の敵に照準を合わせるべきだと判断する。そこで、よくよく相手を再確認すると、やはり目前にいたのは、身長三メートルもある岩のような体をした山羊男だ。その容姿から祖父に習った記憶を辿れば、たぶん堕天使アザゼルだと推測できた。しかも、その体つきを見る限り、超人的な腕力を秘めているに違いなかった。

 さてさて、俺様がどう戦うのか、一抹の不安を感じずにはいられないが……これ以降、自分にはどうすることもできない。唯々見守るだけよ。





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