第三話 恐怖のシナリオー2
2 六体の魔
暗黒の地に、うごめく数体の怪しい影があった。
そこは、中央に円錐型の山を有する全長一キロメートルほどの孤島。地面を覆うゴツゴツとした岩肌は、つい今ほど冷えて固まった火山岩の様相を呈しており、周りの空間はこの世のものとは思えない灰色の大気で満たされていた。しかも、上空を覆う暗雲内では、不気味な雷光がのべつ幕なしに煌めいていたため、それに伴う不規則なハレーションが発生し、その度ごとに魔物の姿を暴き出していた。
まさにこの地は魔界島! 奇怪な容姿を曝け出した、六体の化け物が巣くっていたのだ。そしてその中でも、一際異彩を放つ、黒い長袍のような上衣と袴を身に着け、顔を頭巾で覆った、一見忍びの者と見紛う魔物によって、また新たな悪計が告げられようとしていた。
大コウモリの従者オリエンスを後ろに控えさせてから、他の者たちに向かって口火を切ったのだ。
「我らの主を復活させるため、総力を挙げてすべきことは分かっているな?」と。
ところが、それに反目する舎弟もいたようで、
「お、おぜに魂を食わせろ。えっ、サ、サマエル。先に食わせろやっ」と山羊の顔を持ち、体が岩のようにがっしりとした三メートルの大男が、話の腰を折り不満そうに叫んだという。
とはいえ、そんな要望に誰が従うというのか? 途端に、
「黙れ! アザゼル。大事な復活の糧をきさまごときに渡すとでも思っているのか。この木偶の坊め!」と長袍を纏った者は、大男を叱咤した。
すると今度は、別の魔物、アザゼルの横で対峙していたラクダに跨る端整な顔立ちの小男が、「ギャーぎゅぎゅぴーー」と騒ぎ出した。
こうなると、消沈した大男も味方の勢を得たことで、もう一度強気になったか?
「そ、そうらみろ。お、おぜの従者、パイモンも怒ってんぞ。ど、どうすんぜっ。こいつが騒いだら嵐になるんだぞ」と警告した。
だが、サマエルの方は全く動じることなく、
「性懲りもなく、また我に逆らおうというのか。よく聞けアザゼル! 我が言葉は、主であるサタン様のご意思を代弁しているに過ぎず、これ以上刃向かうつもりなら、主の復活の折にきさまの精魂はないものと思え」と言った。
流石にそれを聞いては、大男の方も慄いた顔を見せた。
「う、うっ……ま、待ってくぜっ。おぜは何も、そんなつもりねえよ……百年の眠りから覚めて腹が減っただけぜっ、悪気はねえよ。そうだよなあ、パイモン」と言った後、横にいる小男の頭を撫でた。
「ピーピー、ぶうぶうぶーー」小男パイモンも納得などしていないようだが、唇を突き出し、ふてくされた態度で首を縦に振る。
二匹の化け物は、サマエルの風格にたじたじの様子だ。もう逆らう気も失せたに違いない。
そうしたところ、もう一人の堕天使、顔に角を生やし緑色の鱗で覆われた爬虫類の胴体を持つマハザエルも――別の大コウモリ、エギンを従えて――会話に加わり、奴らの策謀に関する話し合いが続けられた。
「それで、おいらは何をするべ?」
「きさまら四体は、ミカエルたちを迎え撃て。我の邪魔になる聖人たちを足止めするのだ」
「ギギッ! あれをやるのけえ?」
「察しがいいな、その通りだ。サタン様の復活には一千万の魂が必要となる。いい頃合いに、あのニューヨーク市全土を地獄の烈火で覆い尽くせば、ことは済むって……」
「今度こそ、成功させるつもりけ」
「そうとも、前回は奴らに阻止されたが、二度と同じ轍は踏むまい。待っていろ、ミカエルめ! 我らの魔力をこの地に知らしめ、現世の者どもを奈落の底に落としてくれるわ。くわっ、くくっ、うわははは……」
「へへへへ……また地上で暴れられるのけえ」
「ファファファ……楽しみだぜっ」
よって、遂に賽は投げられた! 魔物どもは、この邪悪な霊気で満たされた魔界島で、目的が貫徹されると確信しながら天を仰いで高笑いを始めたのであった。




