第二話 堕天使-5
ただし、俺様の放った弾丸は……惜しくも外れ――男が空中を上下に飛翔して逃れる姿を目にする――一瞬怯ませただけで終わったか? そう簡単に命中するはずもなかったのだ! そしてその後、すぐさま反撃に転じられ、連続発砲音も姦しく、こちらに向かって弾丸を撃ち込んできた。すると弾は、俺が右へ左へとビル壁に沿って飛ぶ中、その後ろを追いかけるように次々と壁面へ着弾した。
ふうっー、危ない危ない。外部から見ればまだまだ余裕に映ったかもしれないが、当事者の目からすると案外際どかったので、俺はヒヤヒヤした。
やはり、相手もそれなりの強者であろう。なかなか厳しい戦いになりそうだ。
ただその一方で……(対戦は俺様の担当だから)自分の方は、地表の様子が気になった。昨日と同じく人や車がフリーズしたみたいに全く動いていなかったからだ。つまり、どう見ても時間が止まっているとしか考えられない。俺たちが戦っている間は人々と干渉しないために天界が時を操作しているに違いなかった。
すると、そんなことを考えていたら、いつの間にか建物の陰に己の身を隠していた。どうやら、俺様の判断で奴の裏側へと回り込む作戦に移ったみたいだ。
そして、素早く飛び回った後、上手く裏通りから奴の死角に出られたような?
ならば――今だ! 狙い撃て?――と思ったが……駄目だ! 今度は突如、頭上からウルフが飛び下りてきた。ビルの屋上で待ち構えていたみたいだ。これでは撃てない。俺はウルフを避けるため、体を翻し空へ急上昇した。しかもこれで、残念ながら計画も失敗だ。男に勘付かれた!
――銃声音が荒々しく鳴った!――
うわっ! 何てことだ。またまた狙われる羽目になったのだ!
俺は、ただちに上空へ逃げる。後ろから弾丸を不規則、かつ辺り一面に浴びせられたのだから。
とはいえ、俺様の方は至って冷静だ。ジグザグに飛び、辛くもかわした。
うーっ、助かった! 何とか危機を免れたか? 自分には冷や汗もんだったけど。
続いて俺様は、一気に急降下して雑多な街並みの中へ入り込んだ。やはりここでも先を読み、次の逃げ道までも考えていたのだろう。
そして、その曲芸まがいの飛行を試みたことが功を奏したみたいで、奴はそのまま俺の頭上を通り過ぎて行った。一旦上手く撒いたようだ。
けれど、まだ油断はできない状況か? ウルフが残っているのだ。建物の上を跳び越える、数匹の獣が見て取れた。要は、常にどこかしらで待ち伏せしているということだ。実に厄介な奴らとしか言いようがない。
それなら――俺様と思考が合致する――こいつらを先に始末しようと思いつき、獣を引きつけるためわざと姿を見せつつ、広い大通りの真ん中に着地した。見晴らしのいい場所なら、容易に狙撃ができるからだ。
すると……思惑通り野獣の影像が続々と集まりだしたか? そこは獣、頭の悪さを露呈した格好となる。
そして猪突猛進、不用意に突っ込んできやがった。
よーし、この機を逃してなるものか、目にもの見せてやる! 弾は装填済みだ。
――六発の銃声音!――息もつかせず撃ち放った。
「ギャイーーン」途端に……野獣の断末魔が街に木霊する。奴らの頭部に命中したよう。スイカが弾けるかのごとく黒血を四方に撒き散らし破裂した。ちょうど五体の獣を葬った訳だ。その後、以前と同様瞬く間に風化が始まり、跡形もなく消え失せた。
どうにか上手くいった。仕上げは上々……。それでも、まだ気は抜けない状況か? 他にもウルフが残っているかもしれないのだ。そのため、俺様は素早く薬きょうを落とし、新たな弾を込めようとした。急がなければならないと焦り気味で。何故なら無防備なこの時が一番危ないからだ。
……と、その直後、やっぱり心配した通りになりやがったかッ? 背後に別のウルフだ。俺様は慌てた! 咄嗟に銃を向けようとする……も、「うっ!」間に合わない。気づいた時には、強烈なタックルを食らって地面に叩きつけられていた!
俺は、堪らず銃を投げ出し、仰向けに倒れ込む。すると、さらにそこを狙われたか? 俺の動きを封じるつもりだろう。奴がのしかかってきて……あっという間に両腕を抑え込まれたのだ!
――仕舞った! これでは、身動きが取れない――
そして遂に、ウルフの鋭利な牙が、まるで肉切りチェーンソーみたいに俺の首を引き裂こうとした!
(げっ! 食われるぞォー)
――一発の銃声音が鳴り響いた!――だが、突如弾丸が放たれた。野獣の胴に強烈な弾圧でめり込んだのだ! そのため、獣は七転八倒、弾を貰っては、巨体ものたうち回るしかないと見える。続いて止めの銃声が鳴り、頭も撃ち抜かれたなら、哀れウルフの体は闇に消えるのみよ――
ひやァー、ほんとに危なかった! 俺は胸を撫で下ろす。やっぱり今回も援護の発砲で救われたようだ。……なら、その狙撃手は誰だ? 俺をそれを確かめるべく寝転んだ状態で目を上に向けてみた。
後ろから徐々に近づいてくる、人の気配があった。
それは疾うに分かっていたが、
「ごめんね。でも間に合ったでしょ」と笑顔で話す、そう、他ならぬギャビー・ケイトだ。彼女は昨夜と同じく妖艶なスタイルで、しゃなりしゃなりと距離を詰めてきた。
全く、彼女にはいつも助けられて本当に感謝だ。俺は緊張が緩むとともに、暫くの間、動けないでいた。




