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第一話 覚醒 1

     プロローグ


「大天使聖ミカエルは『神の御前の天使』とされた。そして大天使ガブリエルは『神のことばを伝える天使』と呼ばれ、また『癒しを行う天使』ラファエルは……」

 教会の前で、巡回伝道者が道行く人々に説教を語りかけていた。

 ここはニューヨーク市、クイーンズ地区の寂れた通りの一角。夜ともなれば異様な静けさが漂っている場所だ。それでも、人々の往来は尽きず、数名の者たちが急いで帰ろうと足早に歩いていたため、伝道者が彼らに向かって話しかけていたのだ。だが、誰も気にする者はいない。夜も更けて、帰宅の途に就く彼らに、神父の話を聞く暇などありはしなかった。

 そしてその中に、同じく無視を決め込みロングコートを翻しながらハイヒールの靴音を響かせ家路を急ぐ、うら若き女の姿もあった。彼女は一人、警戒する素振りも見せず、疾うに人気も失せた薄暗い一本調子の通路――例えるなら、永遠と続く真っ黒な建物群の中を彷徨っていると、突然貫いたように現れた道――をひたすら進んでいた。しかもそこは――当の彼女は全く気にしていない様子だが――寂々たる深夜の気配が重くじっとりと満ちて、何となく不気味な雰囲気を醸し出しているような所だった。

 すると、その時、事態は一変する。思わぬ危機が女に迫ろうとしていた。後ろで何か得体の知れない黒い影が出現したのだ!

 あれは、明らかに人ではない……

 何と、あのフォルムは大型獣だ。口は大きく裂け巨大な牙さえも散見できる。加えて人間を喰らうためか、唾液を滴り落としながら着実に四本足で近づいてくる……まさしく、ウルフだ! 街中に狼が現れたのだ。それが忍んで、ゆっくりと女の後を追っていた!

 だが、肝心の彼女の方は、その迫りくる脅威を知る由もない。前方だけを見据え一心に歩いている。

 とはいえ……殺気立った野獣の気配は自ずと感じられるもの。そのため、女も漸くここで一旦立ち止まる。そして、辺りを注意深く見つめたなら、「きゃー!」今度は一目散に逃げだした。自分の死に勘付いたに違いない。腰を落とし手足を忙しくバタつかせて駆ける醜態もいたわしく、これ以上恐怖で歪んだ顔はないと思えるほどの面相を露にした。誰の助けも得られない。必死で逃げ惑うしか。

 しかし……既に遅かった! 野獣の容赦ない攻撃が始まろうとしていたのだ。

 忽ち鮮血が吹き出しだ。後は、力なくその場に倒れ込み、真っ赤な液体で道路を染めていく。瞬時に無残な死を迎えたようだ。彼女の、かっと見開い目に無念の色がありありと窺えた。

 それから間もなく、あたかも犯した悪行に反目するかのごとく、数匹の魔物の遠吠えが、闇夜を突き抜け街中に響いていた――――



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