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隣に引っ越してきた幼馴染が手料理を毎日お裾分けにくるラブコメ  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』


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冬紋せりな


「…………せ、りな、ちゃん? だよ、ね? あの……」


 聞いてからハッとした。

 いくら名字が同じでも別人かもしれない。

『冬紋』なんで名字はかなり珍しいので、むしろその可能性の方が低いのだが。

 いやいや、思い込みはよくない。

 実家のある地域に『冬紋』が少ないだけで、この辺りの地域はそうじゃないのかも。

 でも……。


「あ……コ、コウ、くん……」

「! やっぱり、せりなちゃん? だよね? あの、え? うそみたいだ……あの、お、覚えてる? 飯橋幸介です……」

「……お、覚えてる……覚えて、います……!」


 黒い髪を揺らしながら、爪先立ちになって近づく美少女。

 ああ、やっぱり。

 忘れもしない……彼女は小学校の頃、一年間だけ同じクラスだった冬紋せりなちゃん。

 体が弱くて、彼女が休むとクラス委員長だった俺がプリントを持って家を訪ねていた。

 幼い頃からとても可愛い子だったから、密かに憧れていた……女の子。

 けど、父の失踪と同時に母の実家がある地方へ引っ越しが決まり……次の年には転校した。

 だから信じられない、また会えるなんて!


「せりなちゃんも、このアパートに引っ越してきたの?」

「う、うん。隣の部屋……」

「と、隣!?」


 声がひっくり返った。

 信じられない、信じられない!

 こんな事があるだろうか?

 小学生の頃に別れた憧れの女の子が、隣の部屋に引っ越してきたなんて!

 なにより、このアパートはワンルーム……つまり……。


「え? お、女の子が、一人暮らし……するの?」

「う、うん。あの、でも平気なの! 近くにお兄ちゃんが暮らしてるから……」

「え、あ! そ、そ、そうなんだ! そ、それなら、安心だね!」

「う、うん! そう! 大丈夫! あ、ありがとう! し、心配してくれて……」

「いや、別に、そんな」


 あはは。

 ……と、乾いた笑い。

 いや、なんだこれ、どうしよう、間が持たない。

 動揺しすぎて、頭がうまく回らないや。


「コ、コウくんは、えっと、学校、こっち?」

「う、うん。せりなちゃんも?」

「う、うん」

「っ」


 もしかして、まさか……同じ学校?

 そんな予感に胸が一際大きく跳ねる。

 冷静に考えればさすがに、それは俺に都合が良すぎるのに。

 でも、でも……ここまで来たら、もしかしたら──!


「ど、どこ校?」

「……北雲女学院……」

「…………。……北区の、女子校?」

「そ、そうなの。一人暮らしするなら、学校は女子校にしろって……」

「そ、そうなんだー……すごいねー……」


 女子校。

 あからさまにテンションが下がった。

 い、いや、せりなちゃんは多分、お嬢様だ。

 せりなちゃんの家……俺がプリントを運んでいた彼女の生家はとんでもない日本庭園付きのとんでもなく大きくて広い日本家屋だった。

 いや、お屋敷と言った方が正しい。

 たまに遭遇した彼女の両親はいつも和装で、なんかもう、気品が溢れていて……とても普通のご家庭ではなかった。

 そんな家の娘さんだ。

 女子校に通わせるのはむしろ自然……。

 それに、この辺の高校を調べた時に資料で見かけたけど北雲女学院(ほくうんじょがくいん)はとんでもないお嬢様高校だったはず。

 私立で、エスカレーター式。

 名家のご令嬢が通うので門には警備員が立っているし、専用の送迎バスが通っていたはず。

 そんなところに入学するという事は……やっぱりせりなちゃんって、お嬢様だったんだな。


「コウくん、は?」

「俺は東雲学院の一般科」

「! ……学園長が同じだね! あの、兄弟校!」

「え? そうなの?」

「う、うん。この辺りの学校……『東雲学院』『南雲学園』『西雲男子学園』『北雲女学院』はみんなおんなじ人が学園長なんだって。お父様のお知り合いで、とても教育に力を入れておられる方だって……あ、いや……そうじゃなくて……や、やっぱりさすがに学校は別だったね!」

「うん!」


 女子校には、俺は受験すら出来ません!


「…………でも、あの……同じ、アパート……だね……」

「えっ」


 ドキ、とした。

 同じアパート……同じ階……隣の部屋……。

 隣でせりなちゃんが寝起きをして、ご飯を食べて、テレビを見て、着替えて、お風呂……そんな日常が、これから──。

 あ、いやいやいやいやいや!

 俺はなにを想像してるんだ! 最低だ!


「あの、じゃあ、その、こ、これから……三年間、お隣さん同士……よ、よろしくね!」

「はい!」


 思わず勢いよく返事をしてしまった。

 手渡された菓子折りは、多分百貨店とか専門店に売ってるお高いやつ、だと思う。

 手渡されたそれを紙が歪むくらい握り締める。

 笑顔で手を振って、右隣の部屋へと駆けて行くせりなちゃん。

 そしてタッチパネルを押し、扉を開け、中は入る直前こちらに顔を向けて……微笑んだ。


「…………かわいい……」


 口から漏れた声は扉の閉まる音できっと彼女には届かなかったと思う。

 届かなくて良かった。

 さすがに気持ち悪い。今更かもしれないけど……。


「……マジか……」


 せりなちゃんが隣に……。

 こんな事があるなんて。

 お菓子の箱を掴んだまま、一分はそうしていたと思う。

 なにをしていたって?

 …………俺にもよく分からない。


「はあ……」


 その後、俺はお菓子をテーブルの上に置いて再びパソコンと向き合っていた。

 ロードが終わると次はウイルス対策。

 パソコンなんて正直使うか分からないからタブレットの方が良かったような気もするけど……姉さんが「ノーパソの方が便利なんでしょ?」とタブレット案はスルーされた。

 ……ぶっちゃけ俺もノーパソとタブレットの違いがよく分かっていない。

 スマホとタブレット、ノーパソ……違うのは大きさ?

 テーブルに置きっぱなしのスマホを手に取ったから「あ」と気がつく。

 ……せりなちゃん、SNSとかやってるかな?

 連絡先の交換とか……したい……。


「っ!」


 ごん。

 と、テーブルに額をぶつける。

 なにを考えてるんだ! そんなの無理に決まってる! 無理っていうか……今日! ついさっき再会したばかりなのに……いきなり連絡先交換したいとかパリピかよ!

 そんな陽キャみたいな事、俺に出来るわけないじゃないか! 無理!

 っていうか、そもそも今隣にいるんだよな?

 隣の部屋に……この壁の向こうに……。


「…………うっ」


 いかん、いかん。

 変な想像してはいけない。

 えーと……あ、そうだ……飯を食おう。

 気がつけばもう18時過ぎてるじゃん。

 お腹が減っているから集中力が落ちて変な事を考えたに違いない。

 そうだ、そういう事にしよう。


 

ピンポーン。


 コンビニに行こうと立ち上がったら、チャイムが鳴る。

 姉が帰ってくるには些か早い。

 聞いた話だと、よく21時を過ぎると言っていた。

 じゃあ誰だ?

 今度こそ覗き穴から外を確認する。


「え? せりなちゃん?」


 ギョッとした。

 昼間会ったばかりのせりなちゃんが、外に上着を羽織っただけで立っている。

 ピンク色のカーディガンと、中にはブラウンのセーター。

 いくらハイネックでも、まだ二月……寒いはずだ。

 慌てて扉を開けると、せりなちゃんは嬉しそうに微笑む。

 か、かわいい。

 じゃ、なくて!


「ど、どうしたの! なにかあったの?」

「え? う、ううん、あのね……わ、わたし、高校は調理専攻なの……」

「? え?」

「えっと、調理専攻……それで、あのー……自炊を、毎日して練習しようと思っててね……あの、でも、今日はその、慣れてなくて、作りすぎちゃったんだ。コウくん、ご飯まだだったら……その、お、お裾分け……もらってくれないかな……?」

「へっ……」


 なんだって?

 頭が処理に追いつかない。

 でも、差し出されたタッパーは思わず受け取ってしまった。


「え、えっと……」

「に、肉じゃがを作ってみたの。あ! そ、そうだ、コウくん、アレルギーとかある? 食べられないものとかあったりする!?」

「いや! ない!」

「本当!? ……そ、そっか、よ、良かったぁ」

「……」


 かわいい。

 じゃ、なくて!


「え、あの、ほ、本当にもらっていいの?」

「うん! あの、良かったら感想とか聞かせて欲しいな。あと、迷惑じゃなかったら、その、これからもわたしが作ったものとか、食べて欲しい……なんて……」


 最後の方は消えそうな声。

 でも、ええ? せりなちゃんの手作り料理を? これからも? 夢か?


「い、い、いいの? 俺は、その、すごい嬉しい……」

「ほ、本当? 迷惑とかじゃない?」

「うん、もちろん!」

「……っ! よ、良かった……あ、ありがとう。あの、失敗とかしたらごめんね」

「いやいや!」


 せりなちゃんが作ったものなら失敗作でも食べたいくらいだ。

 ちょっとがっつきすぎたかもしれない。

 気持ち悪がられるかも、と一歩下がる。


「ちょうどコンビニにご飯買いに行こうと思ってたから……本当ありがたいよ」

「コンビニに? ……えっと、その、良かったらご飯も持ってこようか? おかずだけじゃ足りないよね?」

「え、いや、さすがにそこまでもらうのは……」

「い、いいのいいの! 一人分がよく分からなくて、ご飯も炊きすぎてたから! む、むしろコウくんにもらって欲しい!」

「そ、そうなの? えっと、じゃあ、あの、め、迷惑でなければ」

「うん! 全然! 全然まったくこれっぽっちも迷惑じゃないよ! いぃ、今! 今持ってくるね!」


 慌てて戻っていくせりなちゃん。

 手に持たされたタッパーはまだ温かい。

 それを持ったまま、一分ほどドアを開けたまま待っていると、バタバタと慌てた音がして隣室の扉が開く。


「はい!」

「あ、ありがとう」


 また、タッパーを手渡された。

 少し熱いよ、と言われて持たされたタッパーは、確かに肉じゃがよりも熱い。


「ほ、本当にありがとう。ありがたく頂くね。あ、タッパー洗って返すから」

「あ、う、うん! あの、そ、それじゃあ……」

「うん」


 小さく手を振って、せりなちゃんは隣の部屋へと小走りで戻っていく。

 寒さのせいか耳まで赤くなっていた。

 俺もスウェットで玄関に立っていたからなかなか体が冷えている。

 でも、その冷えが心地いいくらい、顔が熱い。

 扉を閉めてテーブルまで二段重ねのタッパーを持っていく。

 せりなちゃんの手作り。

 まさか、憧れの女の子の手料理を食べられる日が来るなんて……。


「あ、いただきます」


 心の底からその言葉を使ったのは何年ぶりだろう。

 蓋を開けて食べようとした時、ハッとする。


「箸!」


 このあと結局コンビニに走った。



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