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隣に引っ越してきた幼馴染が手料理を毎日お裾分けにくるラブコメ  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』


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10/24

クラムチャウダー


 いや、むしろ食べる事になるであろう長谷部さんがご愁傷様です?


「……あ、じゃあ俺ちょっと百均に行ってくる」

「え? なんで?」

「買い物だよ。まだ揃えなきゃいけないものがあるし……お金も入った事だし!」


 姉からもらった三千円!

 早速これで収納に使えそうなグッツを買い揃える!


「ふーん、まあいいけど……あんまり遅くならないように……」

「こんにちは、飯橋さん」

「うぎゃー! はははは長谷部さん!」

「幸介くん、体調悪そうなので気をつけて見てあげてください。じゃあ行ってきます」

「え、あ、は、はい!? 行ってらっしゃい!」


 ……余計なお世話なんだよなぁ……。

 と、思うけど、姉と会話するチャンスを与えられたのは良かったのかな?

 マジですぐ出かけちゃった。

 普段すれ違い生活なんだから、このタイミングで会えたのは姉的にラッキーのはずだし。


「…………」


 ポーッと顔を赤くして長谷部さんが出かけるのを見送る姉。

 そしてそんな姉の手を、せりなちゃんが掴む。

 ニコォ、と微笑むところは微妙に怖い。


「え、せ、せりなちゃん?」

「やりましょう! 長谷部さんにはわたしのお兄ちゃんもお世話になっているので! わたし、お姉さんの応援を全力でしますよ! 一緒に長谷部さんが腰を抜かすようなチョコを作りましょう!」

「ふぇ、ふおおええええええ!?」

「……じゃあ、俺百均いくから……あの、頑張って姉さん」


 グイグイ、せりなちゃんの部屋に引き摺り込まれていく。

 うん、まあ、うちの姉はそこまで料理上手くないしね。

 いいんじゃないかな、食べるの長谷部さんだし。いろんな意味で。……命かかってるわけじゃないけど……姉は時々毒物を生成する時があるし……うん。

 ……長谷部さん、バレンタイン後も生きて。




 ***



「よし!」


 百均で買い物をして、戻ってきてからまず姉の部屋の洗濯物を確認する。

 残念ながらまだ乾いてはいなかった。

 まあ、だとしてもこの靴の山はなんとかしたい。

 なので百均から買ってきた重ねられるラックを使い、そこに縦長の塔を建設。

 その中にこちらも百均で買ってきた二足セットに出来るアイテムで収納。

 三十分ほどですべてを綺麗にする事が出来た。


「ふう。よし、じゃあ次!」


 次に風呂場。

 そもそも姉の風呂場はなんか色々多過ぎるんだよ。

 化粧品?

 あとはコンタクト?

 仕事道具だかなんだか知らないけど、缶類がたくさんある。

 使い終わってるやつはガス抜きしてさっき捨ててきたけど……まあ、酒缶の方が圧倒的に多いという……いや、それはいいや。

 ともかくこういうものをこれも百均で買ってきた、シャワーカーテンに吊るして使える収納アイテムに入れていく。

 シャンプーやボディーソープとかは、これでだいぶ使いやすくなると思う。

 あとはここにもゴミ箱が必要。

 同じ収納アイテムをトイレのタンクの蓋を開け、そこにひっかけて使えばいい。

 ちょっと蓋は浮くけどないよりマシ。

 これで風呂トイレもまあ、だいぶ片付けられた。


「次はキッチン台だな」


 そもそも、ここがメインで片付けてたはずなのに。

 いつの間にか姉の部屋をだいぶ綺麗に仕上げてしまった。

 姉は長谷部さんと付き合う事になっていたら、この部屋に彼を入れるつもりなのだろうか?

 ……あの部屋に……?

 弟がドン引きしたあの部屋に?

 ……死ぬ気か?


「百均ってほんと便利だよなぁ」


 靴箱のところで使った台のようなアイテムを重ねる。

 それは上にある戸棚にぴったりくっつければ揺れる事もない。

 これで収納は倍以上。

 下の方を水切り用にすれば、洗ってすぐ置いておくだけでいい。

 これでダメならもう俺には姉のものぐさをどうにかする事は出来ない。


「…………」


 目が……まぶたがとろんと落ちてきた。

 あれ、おかしいな?

 寝不足ではないはずなんだけど……。


「まさか、ね?」


 寒気はずっと感じているし、少しずつ頭が痛くなってきている気がする。

 まさか本当に風邪?

 いやいやまさか。


「…………。よし、帰ろう」


 とにかく姉の部屋の掃除は終わったし。

 長谷部さんに言われたからじゃないけど、水分取って温かいもの食べて暖かくして寝れば明日にはいつも通り! の、はず!


「ん?」


 部屋に戻り、扉を開けようとした時……隣の部屋からチョコレートの甘い香りが漂ってくる。

 あと、悲鳴。

 ……悲鳴? いや、きっときのせいだろう。

 なんでバレンタインのチョコレート作ってて悲鳴が聞こえるんだよって話だし……。


「……あれ?」


 がちゃ。

 部屋に入ってから自分の部屋も相当甘い匂いに包まれている、と気がついた。

 ああ、姉がせりなちゃんの部屋に行くまでは俺の部屋で試作品作りしてたんだもんな。

 そりゃ甘い匂いもす──……。


「…………」


 ……この、この形容し難い感情をどう言い表せばいいのだろう?

 電子レンジの蓋は開けっ放し、しかもキッチン台と同じように飛び散ったチョコレートがなかなかの量。

 器具はそのまま。

 冷蔵庫を恐る恐る開けると、こう、なんか、なんか……なんかぁ!


「ラップはねーわ……」


 皿ではなく、ラップの上にもにゅっと載せられたチョコレートの塊。

 一口サイズなのは分かるんだが……姉の指紋がくっきりついてて……俺なら好きな子でもちょっと引くと思う。

 これはひどい。

 あ、ああ……長谷部さん……長谷部さん……すみません……。

 俺はそっと冷蔵庫の扉を閉じながら、自分の部屋の掃除を開始するのであった。




 姉の荒らした部屋を片付け、一休みのつもりでベッドに横たわったのが運の尽きだったかもしれない。

 一気に眠気と寒気が同時に襲ってきた。

 歯の奥が鳴る。

 なんだこれ。


「んぐぐ」


 いかん気がする。

 だめだ、これは。

 頭も痛くなってきたし、寒気が……寒気がすごい。


「……まさか、マジかよ……その日にくる?」


 長谷部さんヤバすぎだろ。

 俺、マジに体調悪かったのか?

 ううう、どんどん寒くなる……。

 エアコンを温風にして、どんどん温度を上げていく。

 それでも寒気は治らない。

 い、いや、きっと今日一日寒いところにいたからだ。

 きっとそうだ。うん。


「幸介〜」


 ピンポーン、とタイミングよくチャイムが鳴る。

 ついでに扉の向こうから姉の声。

 ベッドから起き上がって瞬間ズキーン! と派手に頭が痛み出した。

 マジかよ、マジか……。

 それでもなんとか玄関までたどり着き、扉を開く。


「部屋確認したわ、すごい綺麗になってたぁ! ありがとう〜! これはもうがんばってくれたご褒美が必要よね! ってわけで追加で三千円奮発しちゃう! ……あれ? なにその顔色……真っ青じゃない! 大丈夫? そういえば長谷部さんが具合悪そうって言ってたけど……マ?」

「……みたい」

「マジー!?」

「コウくん、やっぱり体調悪いの!?」

「うっ! せ、せりなちゃんっ」


 姉の後ろから顔を覗かせたせりなちゃん。

 ああ、どうしよう。

 明らかに心配してる! させてる!


「い、いや、あの……ちょっと寒気がするだけだから」

「やだー、風邪? インフルかも? 病院行こうか?」

「い、いいよ。寝てれば治ると思うし。引っ越しの疲れが今出たとかかも」

「そうー? うーん、体温計は私持ってないのよねぇ。一応風邪薬持ってきてあげるから飲みなー?」

「……う、うん」

「じゃあ、わたしなにかあったかいもの作って持ってくる! お粥とか食べられそう?」

「い、いや、そこまでしてもらわなくて平気!」


 そうは言ったものの、二人の顔はもう「心配!」と書いてあるようなもの。

 姉は俺を部屋に押し込めると「着替えて寝なさい! お姉ちゃんが水買ってくるから!」と問答無用。

 せりなちゃんも「ちゃんと寝ててね!」と、釘を刺してくる。


 二人が扉を閉めてバタバタ動き出す音。

 頭が急にカーッとなって、とにかく「言われた通りにしなきゃ」と思った。

 多分もう、この時点で結構やばかったのだろう。




「幸介」

「コウくん!」

「…………」


 気がつくとベッドの上で冷えピタ貼られて眠っていた。

 うあ、やば……目が覚めたら頭痛とか節々の痛みとか色々ドッときた。

 つらい。めっちゃきつい。


「起きられそう? お水とか買ってきたから、せりなちゃんが作ってきたスープだけでも飲んで、それから薬も飲んでおきなさい」

「う、うん……」

「あ、あのね、クラムチャウダー作ってきたの。これ……食べられる?」

「た、食べる」


 寒い。

 猛烈に寒い。

 でも、せりなちゃんが作ってきてくれたものを食べないという選択肢はないだろう。

 上半身だけ起き上がって、丸いタッパーとスプーンを受け取った。

 自分でも驚くくらい、指先に力が入らない。

 それでもなんとか手のひらで支え、すくって口に運ぶ。

 淡いホワイトソースの風味。

 魚介と野菜、ウインナーが入った具沢山のそれを、掻き込むように胃に入れていく。

 本当はゆっくり味わいたいのに、なぜか味覚がいつもよりもはたらかない。

 美味しいとは思う。

 でも、喉が痛む。

 ウインナーから出るはずの肉汁が喉の痛みをジクジク悪化させていくような感じ。

 くそう、せっかくせりなちゃんが作ってくれたのに……。

 絶対美味しいと思うんだ、いつもなら。

 だってこんなに具が入ってて、味覚がおかしくなっていてもちゃんと素材やスープの風味が分かるんだ。

 ああ、悔しいなぁ。


「げほ、げほっ!」

「やだ、咳まで出てきてるじゃない。……困ったなぁ。でも、お姉ちゃん明日も休んで病院連れてくから、とにかく今日は風邪薬飲んで寝てね」

「……だ、大丈夫だよ……心配しすぎだって」

「コウくん、加湿器とかないの? 風邪の時は部屋の乾燥もよくないんだよ」

「な、ないかな……」


 そこまでお金が回ってない。

 そう言いかけてやめた。

 そんな事、姉の前で言えるはずもない。


「じゃあ今夜はわたしの加湿器使って! 今持ってくる!」

「は!?」

「え、せりなちゃん!? 借りていいの?」

「もちろんです! 明日の朝ご飯もおかゆ作ってくるから!」

「え! え!?」


 そう言ってせりなちゃんは一度部屋に戻る。

 取り残された俺と姉。


「はぁー、甲斐甲斐しい〜」

「な、なに他人事みたいに言ってるんだよ……っ」

「いやいや、加湿器まで貸してくれるお隣さんなんていないでしょ。しかもわざわざ明日のご飯まで作ってくれるなんて……。前世でどんな善行積んだらあんな可愛くて料理も上手ないい子と知り合えるのよ?」

「そ、それは……」


 それは俺もちょっと思う。


「とりあえず今日はもう寝なさい。ただの風邪ならいいけど……。あんたインフルの予防注射とか……」

「してない……」

「だーよねー」


 上半身を後ろへと倒す。

 姉は冷えピタの温度を確認しつつ、枕の側にビニール袋を一つ置く。

 ボックスティッシュとそのゴミ袋。

 そして、予備の冷えピタ。


「とりあえず今日はゆっくり休みなね」

「……う、うん」


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