p.004 やってくる者達②
「へー、ニールさんは音を使扱う種族なんだ」
「〚おうよ。普段の俺が発する音を聞いた生物は発狂して死ぬか廃人に成り果てるがな〛」
「クトゥルフ系かよ」
先程まで、エコーロケーション。
この世界のマッピングをしていた、かばのぬいぐるみを着た生物。
ニールさんと俺は雑談をしていた。
ミオソティス第十席 ニール。
穢れた者と言うクトゥルフ神話みたいな異名がある生物だそうだ。
耐性のない生物がニールから発生する音を聞いてしまうと発狂した後死亡する危険性が
あるらしいから、普段はプラカードに言葉を書いて意思疎通を行っているとか。
ニールくんとゆるキャラみたいな愛称で呼ばれているらしいが、多分ミオソティスのなかで一番えげつない効果をもっているじゃなかろうか?
ニールさんが言うには
「〚―――録音でも俺の声を聞いたら発狂して死ぬな。誰かの皮を着用してる時は問題ないが―――〛」
「〚―――ぬいぐるみの中身をうっかり見てしまったら発狂するな―――〛」
「〚―――ぬいぐるみの中身を考えるだけでも、狂気に染まって廃人になるだろ―――〛」
「〚―――狂気や破滅を招く叡智しかないから、今の篁に教えれることあんまりないだろ―――〛」
「〚―――冗談抜きで取り返しがつかないことになりたくないなら、記憶が戻るまでは絶対に俺やメンバーに俺に関わることは聞くなよ?〛」
「〚―――俺より劣るが、やばい効果をもってる奴なんぞごまんといるから見た目に騙されないようにしろよ?特に子供やら可愛い容姿の奴。見た目に反してえげつない事をしてくるからな。 ま、ソラとルイとアトリアが首輪を付けて管理しているから大丈夫だろ〛」
「〚―――あと、もう少しでここの解析が終わるから待っててくれ。そのうちアトリアから連絡がある〛」
ゆるキャラみたいな愛称なのに,ぶっ飛んだ能力のオンパレードだ。
因みに皮を着ると、声やら肉体もその皮の人物と全く同じになるらしい。
皮の中身は悲鳴を堪能しながら、美味しくチュウチュウするとかどうとか。
まぁ、よくよく考えてると定番なファンタジー生物がいれば、そりゃ都市伝説や神話やらで出でてくるやばい生物もいてもおかしくないわけだ。
約三名に首輪を付けて管理されてる件は触れないでおくが。
「にしても、キューブって佰穣とか馬鹿みたいな数のディメンションの集団だろ?他の人もそうだが移動手段限られているのに,よくピンポイントでここに来れるな?」
「〚バカタレ、二十一億と六千万年以上の付き合いだぞ。ダチの居場所位、手に取るように分かるわ〛」
色々ツッコミたいけど、そういうことなんだろう。
まぁ、着ぐるみだから表情は分からないが、小刻みに震えているから嬉しそうに笑っているんだろうなー。
にしても、億千万の付き合いかー。
熟年夫婦みたいにあれ、それ、これで以心伝心してそう。
「〚篁ー。アトリアから解析が終わったって連絡があったぞ。まずはこれをみてくれ〛」
着ぐるみの目が緑色に輝やき、空中に立体的な図形が投影された。
「〚まずはこのディメンションは半径二十一キロメートルで球体のような構成をしているみたいだな。あとはこの地下にドーム状のバカでかい空間がある。すぐ側に石畳みたいのがあっただろ? あそこからこの場所に行けるようだが、今までの経験上この空間に何かしら封印させている可能性が高いんだよな。神とか原初の生物とか古代兵器とかの地味に面倒くさい奴の類。おまけにこのディメンションの出口もあそこの一箇所しかねぇ珍しいタイプのディメンションときた。何処に出るんだろうなあれ。ま、残りの三人ももう少しで到着と連絡があったし、気長に待つかー〛」
っとプラカードをしまい、ソラが用意してた卓上のお菓子をバクバクと。
「〚うま〛」
「美味そうに菓子とか食えれ羨ましいな。この姿だと色々不便でいけねぇぞ」
特定の動作しか出来ないから、ソラがクッキーを食べさせてくれようとしたけど、味覚が死んでるせいか味を全く感じないんだよなぁ。
空腹は感じないのに食欲はある。
眠気はあるけど、睡眠することが出来ない。
色々と不便すぎるわ。
「〚ほんと、アィデルカを使って篁をその姿にした狙いが分からねんだよなぁ。 苦痛を味あわせて殺す事も、吐き気を催す始末のやり方も、関係者全員の精神をぶっ壊す事も出来るのに、わざわざ特定の条件で記憶や魂を消滅させて俺らに精神的なダメージを与えようって手のこんだ事してるわけだ。考えてもみろ、キューブに存在するディメンションの総数が佰穣六京六阡六佰兆壱個。そのうちの九割が既に解明済み。残りの一割、未知のディメンションの何処かにあるアィデルカを探し当てているんだからな。過酷な環境に高ランクのエンティティがアィデルカを守護してるわけだし、あれは偶々見つけられる代物じゃないぞ。 敵ながらあっぱれだが〛」
… … …木製のプラカードが砕け散った。
「〚怒りでの感情抑制が起こるなんて何年ぶりだろうなこの野郎〛」
"滅殺"と書かれたデカいプラカードを取り出し、ブンブン振り回していた。
「俺も一発ぐらい右ストレートでぶん殴りたいが、記憶喪失前の俺って一体何してたの?」
「〚最近で言えば、篁、曉、バエル、アルブスの四人で淫魔の店行ったのがバレてドッタンバッタン大騒ぎしてたな。あとは冷蔵庫のデザートに手をつける、手の込んだ自殺をしてた事ぐらいかね。まぁ事が終わって思いだしたら強く生きろよ?俺とレグルスはアイちゃん、ユイちゃんを連れて避難してっから〛」
「… … … … … …食べ物の恨みが強すぎる」
「当然、ルーミアの、デザート、食べた事、ユルサナイ」
あ、俺死んだわ。
「〚おいおいおい正気か?まさかルーミアのデザートにも手を出していたとは。今の篁には絶対に触れるんじゃないぞ。アイスみたいにドロドロに溶けるどころじゃねぇーからな。お若いお二人に任せて俺はクールに去るぜ〛」
ニールが逃げるように立ち去ると、入れ替わるように背後にいた、声の主が座った。
「ツルク、遺言、聞かせて?」
たどたどしい人の言葉を発する藤紫の粘体生物。
俗に言うスライム娘と言うやつだ。
出過ぎず、足りなさ過ぎずな完璧な躰からは怪しげな雰囲気が漂っていた。
心を奪われそうな笑みなのに、目が怖い。
「ツクル、ルーミアのプリン食べた。女子会の為に皆で作った特製プリン。だからゆっくり、じわじわ、ルーミアの中でドロドロになるまで、溶かしてあげる。フルーメンとバエルも後で逝くから、寂しくはない」
… … …記憶喪失前の俺こと、ツクル。とんでもないものに手を出していやがった。
「ご、ごめんなさい。女子会用のデザートを作るので事が終わった時にどうか猶予を下さいお願いします」
じっと 無言で、目を糸のようにして俺を見つめ、
「 … … …いいよ、考えておく。けど慈悲はあげない。でもツクルが元気そうでよかった。逃走中に、ツクルの"魂の廻廊"が、いきなり壊れて、心配してたから。ルーミアや皆の事、どこまで、覚えてる?」
「"篁 謙仁"としての記憶以外、何にも。自分の名前さーぱり」
「ソラちゃんからの、解析情報と合せて、魂調べるから、じっとしてて」
"ジ〜"っと口ばさみながら俺の周りをくるくるっと。
食い入るように見つめてくる。
「ん、分かった。心して聞いて」
深刻な表情を浮かべるルーミアに俺は固唾を飲む。
「記憶喪失の条件、ツルクの死が、トリガーになっている」
ルーミアが、魂の解析結果の説明を始める。
話を要約すると。
時間内にある条件を満たさない限り、問答無用で死亡する。
しかしそのタイムリミット不明。
だが死亡した場合、特定のポイントまで時間が戻り復活するらしい。
ただしその対価として記憶が消滅し、二度と思い出すことはない。
一度目で、ミオソティスの記憶を。
二度目で、小冬音や小冬里との楽しい思い出の数々や馬鹿騒ぎした学生生活が。
三度目で、全て消滅。俺という存在が無かったのとになり、歴史が変わる。
「蘇生魔法や、アイテムで、ツクルを生き返らそうとすると、魂が消滅するようになってる。何かに憑依させたり、身代わり、真実の上書きも、ダメ。それにソラちゃんと、ルーミアの順で、調べないと、嘘の情報が出るように、罠を張ってた。ソラちゃん、アトリアちゃんが、手を打っていたけど、順番が逆になったり、誰かが見てたら、危なかった」
嘘だろ、初見殺しにもほどがあるぞ。
「条件は、アトリアちゃんが、調べている物体から、分かるみたい。あと私達にメッセージを、残してた。『俺を捕まえてみろバァ〜カ』だって。ヤっていい?」
「よし殺るか」
敵が他者の行動を観察して楽しむタイプの愉悦勢って事は十分に分った。
俺や俺に関わりのある人がどうなろうと知ったごっちゃねぇて訳だ。
言うならば、俺達と楽しいゲームをしようってか。
見つけたらただじゃおかね。
「ツルクの、奪われた記憶に、関しては、ルーミアが何とかしてみる。この分野は、ミオソティスの中で、ルーミアが一番だから。絶対に、ツクルは死なせない」
やっべ、ちょっとうるってきた。
「ん、アイちゃんとユイちゃん、今、着いたって」
これで、ミオソティスが全員集合ってわけかー
にしても、
「そう言えば、ニールさんもルーミアさんも、どうやって連絡のやり取りしてるんだ? アニメみたいにこめかみに手とかを当てているわけでも、魔法を使って何かしているとかでも無いしなー」
本当、どうやって連絡のやり取りしてるんだ?
「"魂の廻廊"、ツクルには、構内ネットワーク、言ったらイメージ、しやすいかも。ルーミア達、"魂"と"魂"で繫がっている。だから、情報共有が、出来ている。グループチャットで、話している、って伝えれば、分かりやすい?」
「あーね、テレパシーみたいなもんか。で脳内でグループチャットしているような感じか。その"魂の廻廊"とやら、俺のだけぶっ壊れた言ってたな。繋げたら脳内チャットに参加できたり?」
「出来る。でも廻廊、繋げるのも、駄目。ツクル、消滅しちゃう」
情報共有を妨害する為だけじゃなさそうだな。
「他に繫がってたら何ができたんだ?」
「ん、なんでも出来る。条件が難しいほど、役が強い、ポーカーのように、条件次第で、魔法と同じように色々。パーティーの能力を底上げしたり、共有したり、可能性は無限」
ケトルと神話のゲッシュみたいなもんか。
厳守すれば神の祝福が得られるが、一度破れば禍が降りかかるって言うあれ。
アニメで言えば制約と誓約。
条件次第で劇的にパワーアップできるなら、そりゃ、縛りをつけて潰してくるか。
「他にタブーは?」
「ん、私達以外に、この事を話したり、一定時間、メンバーの誰かが、ツクルから、三里四方、離れても、駄目」
「なるとほどねー」
だから、メンバーの招集をかけたのか。
もしもソラさんが見つけてくれてなかったら、理由もわからず消えて無くなっていた。
考えるだけでもゾットする。
膨大なディメンション間の移動は一方通行らしいので、ルートはバラバラ、合流は難しい。
しかもここは誰も知らない未開拓の場所だったという。
そんな中、誰一人かけることなく全員集合と、難しい事を平然と成し遂げている。
本当、仲間に恵まれているとしか言えない。
「… … …やっほー」
「お、おまたせ」
「… … … … … …嘘だろ」
ひょこっと現れた、声の主を見て、絶句した。
小冬里と小冬音。
二人にそっくりな、エルフの双子だった。
特徴的な耳に、銀色と黒色のツートンカラーの髪。
青を基調とした衣装に、薔薇の花眼帯。
なんとなくだが、二人とは真反対そうな雰囲気で、全くの別人。
姿と声が似ている赤の他人だと分かっているのだが。
彼女達の顔を見ると、声を聞くと、少し寂しい気持ちが湧いてきてしまう。
… … …返り血を浴びて、十字架を模した大鎌と、随分と物騒だが。
「ここに来るまでに何かあった?」
「来る途中にエンティティに遭遇しちゃって。黒い仔山羊みたいなのが一杯出てきて、邪魔だったから全滅させちゃった」
「ひ、羊がひー、ふー、みー、あははは… … …」
方や愉快そうに笑い、方や虚ろな瞳で乾いた笑みを浮かべてた。
なんかトラウマ植え付けられているみたいになってるし、何があったのかは詳しくは聞かないでおこう。
「二人とも、綺麗にして、あげるから、じっとしてて」
立ち上がったルーミアが手をかざすと同時、二人は一瞬でお風呂上がりのように、血塗れ姿から綺麗になった。
「ん〜〜、ありがとルーミアお姉ちゃん。さっぱりしたよ」
「ありがとー」
子供みたいにはしゃぎまわる姿とか、眠そうな顔とかそっくりやな。
小冬音と小冬里とエルフ二人がならんだで四姉妹って言われてもなっとくするレベル。
「… … …パパの想い人とボク達がそっくりだから、寂しくなった?」
「呼び方に関しては触れないけど、俺、そんなに表情暗かった?」
「表情は変わってないけど、凄く寂しそうな顔してたよ」
「… … … … … …」
二人に憂わしげな表情を浮かべさせるほど、顔に出てたか… … …。
ルーミアは何かを察して俺と双子だけにしてくれてるな。
「少し寂しいが大丈夫だぞ。突然の事連続で疲れもあるしな。えぇーと、名前聞いてると思うけど、篁だ。はじめましてになるな」
「第十二席、ハーフエルフのユイちゃんだよ」
「十一席、い、妹のアイです」
「忘れた身で言うものあれなんだが、思い出話を色々駄弁りながら、散歩でもするかね」
「姿が変わってもパパはやっぱりパパだ。ならボクはパパの新しい黒歴史を詳しく聞きたい」
「ア、アイはお父さんのは、はつ、初体験を」
「別の話題にしよ? アイちゃんに至っては真っ赤になるほど恥じらいながら、とんでもない事を聞いてくるやん」
俺は椅子の上から飛び降り。
「とりあえず、弁明からされてくれ」
トコトコと歩き出した俺に合わせて、二人は微笑みながら俺の隣にやってきた。