p.004 やってくる者達①
少しづつでも、創作し、投稿していきたい。
「なんでも一つだけ言うことを聞いてくれるなら許してあげますよ?」
わざわざ近づいて俺の耳元で。
しかも感情が入って無い声でささやく彼女はただただ怖い。
「出きる範囲で」
「もちろん出きる範囲で、なんてナシですよ? なんでも、どんな事であっても一つだけソラの言うことを聞いてくれるのなら、プリンの件は特別に水に流します」
「… … …要求の聞いても?」
「どんな要求をするかは全てが終わったときのお楽しみですよ? それとも呑まない方向で行きますか? でも此方はあまりオススメはしないですよますたぁー?」
机で頬杖を付き、にこやかな笑みを浮かべてる彼女に底知れない恐怖を俺は感じた。
「の、呑む方向で宜しくお願い致します…… 」
「うふふふ、全部終わった時が楽しみです♪」
本当に何て事をしてくれたんだあの野郎。
生まれ始めて、自分自身を憎く思ったぞ。
「その件は未来の俺に投げるとして…… 」
問題が山積みな現実。
抱えれない頭を抱えようとしたその時だった。
「―――随分と楽しそうですね? ご主人様?」
どこか気怠げで、眠そうな朱い瞳。
そして白く、降り積もった雪のような質感の、腰に届くか届かないかぐらいの長いの髪。
俺達にいきなり声を掛けてきたのは、和を基調とした露出度のある服装、白銀の狐耳にゆらゆら揺れる九尾っといった凄く油揚げとか好きそうな狐の少女だった。
身長はソラと同じぐらいだろうか。
幼さが残っている彫りの浅い顔だが、体は男の本能を刺激するような魅惑的な肉付き。
チラリズムが実に眼福なのは此処だけの秘密だが、いかんいかん見惚れている場合じゃない。
「あぁ… … … ミオソティスのどちら様で?」
「ミオソティス、第七席 ご主人様改め篁 謙仁様の愛妻
にして金色の異名を持つ、十六夜 月と申します。以後お見知りおきを」
「ど、どうも。ソラさんが言うに記憶喪失だとか...」
「共有された情報は既に把握しておりますが、息災でなりよりです。で、ご主人様?
こんなに可愛いお嫁さんがいるといるというのに、ソラさんともですが、楽しそうな夜を過ごしたみたいですね? 今すぐにその初体験の事教えて下さいまし?因みに、拒否したらどうなるか分かりかねますので」
彼女の感情がない笑顔をみて俺は悟った。
… … … … … …本当にどういう関係か知らないが彼女もソラと同じタイプだ。
「あぁ~えっと、そのですね………」
「嗜虐心をそそられそうな弱気な物言いですね? ものすごーく気になるだけで、別に今は何もしませんよ? それに特別な事情があるとはいえ、愛する人がそんな事してたなんて分かったら朝も起きれないじゃないです… … …か?」
別に朝起きれないのは関係なくね?
なんてツッコンだら、悲惨な事になりそうなので止めた。
「それ、で? 幸せなひとときを過ごせましたか?」
「そう、ですね。天国で過ごしてるかのような素敵な時間を過ごせました… … …」
「そうですかそうですか。全てが終わった私が本当の天国を見せてあげます。覚悟しといてくださいね、ご・主・人・様?」
ぬいぐるみようにひょいっと持ち上げられて、頭を撫でられる、今年20歳の俺。
甘い香りに包まれて、胸のあたりがすごくドキドキする。
締め付けられて苦しい。
これが恐怖か。
「先にソラが玩具にするんですから、とっととますたぁーから離れて下さい」
玩具って俺に人権はないのか...。
「何をしているんですかソラさん。私のご主人様を慎ましやかな胸や体で誘惑しないでもらえませんこと」
「クスクス、ルイさんはご冗談がお上手ですね。ソラのますたぁーです。それに慎ましやかな胸や体はルイさんの方じゃないですか」
「あらあら、あたな視力は確かですか。わたくしのご主人様であってソラさんのではごさいませんこと。いくら私同じ日陰者で、絶世の美女でも格が違うんですよ、格が」
「ソラが上でルイさんが|下ですね♪ よく分かってるじゃないですか♪」
「ソラさんは頭に花でも咲かせているんですか?」
「それが何か? ソラはますたぁと幸せになる事をだけをずっと考えているので頭の中はいつも花園です。周りが見えてない駄狐さんとは違うんですよ?」
「私はご主人様とパッピーになる事以外、興味ないだけです。ソラさんは歩くときに地べたの草や蟻をわざわざ見るんですか?」
抱きかかえた俺を椅子の上に乗せ、ルイと睨み合い。
「もふもふしか取り柄のない駄狐に麗しい天使のソラが負けるわけ無いです」
「ホホホ。いやですね、麗しい駄天使のソラさん。ご主人様はもふもふして触り心地の良い、この耳と尻尾を持った私がお好きなんです。この前だって疲れ切ったご主人様をこの尻尾で癒やして差し上げたんですから」
尻尾を自慢げに見せる月に対して、ソラはムッと頬を膨らませ。
烏の羽のような艶のある黒色の、大きな二枚の翼を背中辺りから出した。
彼女って墜ちてるタイプの天使だったんだな。
あぁー、頭が痛くなってきた。
「ソラだってこのふさふさの翼でますたぁを癒やしてあげたんですよ。『仄かに暖かくて、よく眠れたよ』って喜んでくれてましたし、ソラの頭を撫でて褒めてくれましたから」
「私だって、愛情タップリの手料理を振る舞った時に頭を撫でて貰いましたー。その後一緒にお風呂に入って仲良くもこもこのアワアワになりましたから。ご主人様を苛めたら、あんな顔やこんな顔までしてくれて可愛かったですよー」
ん?
「それならソラだって、ますたぁーと一緒に寝たときにヌルヌルのヌメヌメな体験をしましたから。切なそうに声を出す姿はとても可愛いらしかったですよーだ」
「それを言うなら私はいろんな衣装を着てイメク」
「や・め・て!! 生々しいわ! 絶対俺で遊んでるだろ!?」
「「普段みれない反応をして楽しいので」」
「新手のイジメか!?」
え、何なの? 事前に打ち合わせでもしたの?
途中からチラチラ反応を見ながらとんでもない事を暴露し続けやがって。
忘れてるとは言え、プレイの内容なんて聞きたくねぇよ。
「あ、それとご主人様。記憶が戻った際には私のプリンも、食べた件についての話があるのでお覚悟を」
お前もかブルータス。
これ、ワンちゃんパラレルワールドって説ないかいな。
もう一人の俺が全部やりましたので、俺は無罪って事にはならないかな… … …。
「俺様の登場だぜ!!」
突如、鼓膜に突き刺さるような喧しい声と共に、何かが空から降ってきた。
あまりの衝撃の大きさに大地が揺れ、バランスを崩しそうになる。
落下地点と思わしき場所に舞った砂埃が消えると、声の主が姿を現した。
「おひかえなすって、あっしはミオソティス、第二席!! 篁 月流改め篁 謙仁の相棒にして心の友、曉でございやんす」
歌舞伎役者みたいな荒々しい構え。
真紅に燃えるような朱い髪に、鍛え抜かれた大柄な体躯。
自身より巨大な金棒を担ぐその姿はまさに鬼のようだった。
身長は二メートル以上はあるんじゃないだろうか?
目の錯覚か知らないが、彼の周りだけ空間がぐにゃぁぁっと歪んで見える。
青年のような姿から、放たれている思えない圧倒的強者のオーラがある。
「記憶喪失だって聞いて心配してたが元気そうで安心したぜ、ガハハハハ!!」
「相変わらず、荒い登場の仕方ですね」
呆れた様子のソラ対して、月は完全に無視し、机のクッキーをポリポリと。
それに対して、彼は腹を抱えて笑っていた。
「そうかっかするなって。俺様は何事にも全力なんでな!! 登場だろうが、何だろうが手を抜くわけにはいかねぇ!! それが俺様の流儀よ!!」
「ふーん、なら僕がやってあげてる曉の仕事も逃げ出さずにやって貰おうかな?」
「ギクッ!!」
冷や汗を流す曉の背後から、ひょこっと妖しげな笑みを浮かべた少女が現れた。
黒髪ツインテールに、赤く輝いている瞳。
透けるような白い肌に、人形の様に整った顔をした、色ぽいベビードール姿のーーーロリッ子だ。
どこからどうみても12歳~13歳ぐらいに見えるけど、鋭い牙が口から覗いていたから、ただのロリッ子じゃ無いとこは確かだとは思うが。
いや、此処に子供がやってこれる時点でただのロリッ子じゃ無いか。
… … …それにしても、まじで滅茶苦茶可愛いな。
冗談抜きで、呼吸を忘れてしまいそうなレベルだ。
「やっほー、月流。… … …じゃなくて今は謙仁だった。僕はミオソティス第五席 可愛いロリッ子吸血鬼、ルナ・ヴァレンタインだよ。ちょっとこわいかもしれないけど後で血をチュウチュウさせてね。抵抗があるなら精液でも汗でもオッケーだよ。因みに、人のシュークリームを勝手に食べたんだから拒否権はないよ? 干からびた死体になりたいなら話は別だけど」
「慈悲は?」
「ないよ?」
救いは無いのか… … …。
なんで、こう、他人のプリンやらシュークリームに手を出してんだよ俺は。
「そこの鬼も酔っ払ったご主人様と一緒に昨晩、ルナさんのシュークリームを食べてましたらしいですよ。それも美味しそうに」
「へぇ~曉も食べてたんだ 」
「おう、滅茶苦茶美味かったぞ。んじゃ相棒、此処は俺様に任せて先に逝きな」
と、回れ右をして逃げ出そうとする曉。
「いやいや、知り合いと同じことを言うなよ。忘れてるとは言え俺達は心の友で相棒なんだろ? 逝くときは一緒だと思わない? 」
「居なくなっても、相棒は俺の心の中でずっと生き続ける!!」
「終わらない呪詛を唱えながらな生きてるなそれ」
「大丈夫だよ謙仁。後って言っても思い出した時の話しだから、僕は何もしないよ。今はね。曉は別として。だけどね、ほんのすこーしだけチュウチュウしたいかなぁ〜」
「お、お手柔らかに」
指を唇に添えてる仕草は可愛いのに、狂気的なあの目はマジだ。
「本当なら全部欲しいけど、今はコップ一杯ぐらいで勘弁してあげるよ、はいそこ逃げようとしない」
「オイこらテメェー檻に入れることはねぇーだろ! 厠に行こうとしただけぞ!! 俺様を出しやがれ! さもないと俺様のズボンと檻の中が大変な事になるぞ!!」
「しらな~い」
「鬼か!!」
「吸血鬼だよ~」
叫びながら鉄格子を掴み、檻をガンガン揺らす曉。
本当に、突然の出来事だった。
ありのまま起きた事を話せば彼女が急に指を弾いたと思ったら、その時は既に、逃げようとした曉が檻の中に収監されてた。
何が起きたのか全く分からなかった。
「謙仁は暁みたいに逃げようなんて、馬鹿な事は考えちゃ駄目だよ? 終わりのない恐怖を味わいたいならいいけど」
「… … …え、何する気?」
「それはその時のお楽しみにだよ? 謙仁だけの特別メニューだからね!!」
「死なないそれ?」
「死なない〜。んじゃ後でいつもみたいに頭にかぶりつくからね〜」
親戚の大型犬かよ。
「あ、そうそう。僕の性別はひ・み・つ、だけどまた確かめたくなったらいつでも言ってね。何時でも喜んで相手をしてあげるからね」
え、またって何? 何してたの?
なんだよ、その意味深な笑みと舌なめずりは。
「相棒が忘れてることを良いことに遊んでじゃねぇーよすっとこどっこい。こいつの性別は… … … … … …あ、どっちだっけか? まぁ、あざといって事にはかわりわねぇな!!」
仲間からも性別忘れてんじゃん。
え? マジでどっちなん?
色んな意味で性癖壊れそうなんだけど。
「褒めてくれてありがとう!! 後でその目玉をえぐり取ってあげるよ〜。 さてさて、シュークリームもだけどそれ、で? いつになったらやってくれるの? ん?」
「仕事は信頼しているお前に任せる!! 俺様がやると不思議な事にトラブルしか起きないから、な!! シュークリームの件は、名前を書いてなかったお前が悪い!! 観念して俺様を釈放するこった、ガハハハハ!!」
「ねぇ謙仁。この馬鹿を突き刺していいかな? いいよね? 殺っていいよね?」
瞳孔が開ききった目で俺をみる限り、マジ切れしてる。
ちょっとソラと月にヘルプをって、いねぇーし。
―――あ、檻ぶっ壊して逃げた。
「逃がすかぁ!」
地面が陥没するかのような踏み込みで曉を追いかけるルナ。
その片手には、大きなランスを持ってきたような気がした。
馬鹿でかい金棒が消えていたのも同じ原理なのだろうか?
にしても、鬼が鬼を追いかけるなんて、なんかシュールだ。
笑いながら軽口を叩き、全力疾走で逃げる鬼。
罵声とランスを雨あられのように、ぶん投げる吸血鬼。
鬼ごっこの余波で辺りが凄いことになっているが、いつもの事なんだろう。
俺は心の中で頷き勝手に納得した。
「やぁ主殿」
「うぉ、びっくりし、―――!?」
目の前にいた者に俺は驚愕した。
生まれた姿で、だぼっとしている丈の長いカッターシャツに、ストッキングのような物を穿いてる色っぽいロリっ子がいた。
小柄で細身、幼さと愛らしさを感じる彫の浅い顔立ち。
死んだ魚みのような、淀んで濁ってる水色の瞳。
寝癖があるが透き通るような水色の髪が肩口まで伸びている。
裸シャツに萌え袖にロリ属性っと性癖に突き刺さる、その少女は突如、鋭利な赤いナイフを取り出し、
「元気そうで安心したよ。もし気分が悪くなったらすぐに診察するから遠慮せず私に教えてくれ。それと共有された情報の中で凄く興味深い物があってね。主殿の恋愛事情について詳しく説明してくれないかな? 私が主殿をこのナイフを突き刺さないうちにね」
「… … …俺って、もしかしなくても女誑し?」
「主殿が女誑しだったら、既に輪切りにしてホルマリン漬にしてるか、薬漬けにして監禁してるか、調教しているから安心してくれ。聞いてると思うがミオソティスのメンバー皆、主殿との関わりが深いからね。それに愛する人が見ず知らずの女と関わりをもってるんだ。嫉妬の一つや二つ、乙女としてはこれが普通の反応さ。特に私とソラと月は独占力が強いからなおさらさ。主殿も考えてみてくれ。大好きな幼馴染みが自分の知らない間に男と仲良くして、いい感じになってたら嫌じゃないかい?」
「その場でそいつを処す」
うん、俺も俺でかなり独占力が強いな。
でも考えて見れば、どこぞの男と仲良くしてるって思うと、どう始末してくれようかあの野郎ってなるわ。
「だろ? 事情があるとは言えその二人が羨ましいよ。そういえば自己紹介がまだだったね。私はの名はアトリア・パラケルスス。第三席で穢れた錬金術師と呼ばれているホムンクルスさ」
「フルメタルアルケミスト的な?」
「初めて聞いた単語に知識欲が疼くものたが、また後で性欲と一緒に解消するとしよう。その時に主殿の恋バナを聞くとするよ。私は少しあの気になる物体を調べているから何かあれば声を掛けてくれ」
アトリアはそうつげると、あの物体、ブラウン管テレビに近づいてじっと観察を始めだした。
初めて見るものだから、好奇心が刺激されたんだろっか?
しかし… … …ミオソティスのメンバーってなんか癖が強い人多くね?
あと何人いるか知らないが、天使に妖狐に、鬼、吸血鬼、ホムンクルス。
個性的というか癖が強すぎるというか、コンビニに行く感覚で次元を超えて来たり、世界の仕組にやたらと詳しかったり、一部の人物とかが知り得なさそうな事を知っている時点でただの集まりじゃ無いじゃないだろう。
なんか、知ってたら誰かに始末されそうなレベルな気がする。
お前は知りすぎたから、あの世行きって感じで。
キューブってアホみたいな数の世界があるんだろ?
それなのにピンポイントでここに来れるもんなんか?
色々不可解な点はあるが、考えれば考えるほど頭が痛くなる。
ほんと、そんな人達を纏めていた人物、記憶喪失前の俺元いい、つくるっていったい何者だ?
… … … … … …で、ずっと気になっていたけど、あの動物の着ぐるみは何?
「… … …」
いつの間にかいた、ちょっと離れたところに佇む茶色の着ぐるみを着た何か。
よくよく見れば何処となくカバっぽいけど、なんかホラーゲームとかで出てきそうな、不気味さがある。
何かしらの条件を満たしたら襲ってくるタイプじゃないかあれ?
気がついたらいたからミオソティスの誰かだとは思うんだけど、なんか怖いんよな。
まぁ、声をかけに行ってみるか。
「ストップだピヨ篁氏。まだニール氏には近づかないほうがいいピヨ」
寝癖が凄い黒髪にナルトのようなぐるぐる眼鏡。
『I LOVE モンムス』と書かれたピチピチのシャツを着こなし法被を羽織った、いかにも推し活真っ最中の男性が、肩辺りを掴んでいた。
何で、頭にひよこを乗っけてるんだ?
「こんにちはこんばんはピヨ。某はアルブス=フルーメンピヨ。あそこにいる着ぐるみを着てるのはニール氏ピヨ。ソラ氏に保険で魔法をかけられているとは言え、今の篁氏は小指をぶつけた程度でもゲームオーバーピヨ。エコーロケーションしているニール氏に近づくのは自殺行為だからやめたほうがいいピヨ」
ひよ子が喋って、それに合わせリアクションをしている。
「… … 腹話術?」
「腹話術じゃないピヨ。フルーメンの言霊で篁氏が死なないように、代わりに喋ってるピヨ。厄災の祖龍は伊達じゃないピヨ。推しを語れないし話も出来ないのは辛いぜ!! ところで篁氏」
アルブスは椅子に座り、ひよ子と一緒に不敵な笑みを浮かべ。
「エルフの水浴び写真に興味あるピヨ?」
「詳しく聞こう!!」
こんな興味深い話を聞けるなんて、流石異世界。
と、俺の目の前にアルブスが例の物を差し出す。
「《髪型》《体型》《服装》《肩書》....様々な《萌属性》なかで、共有されたデータから篁氏好みそうな、とっておきのコレクションを厳選、用意してきたピヨ。さぁ篁氏、好きなのを一枚選ぶピヨ」
アルブスが広げた写真に目を通す。
《金髪のエルフ》《銀髪のエルフ》《黒髪のエルフ》そして《白髪のエルフ》それぞれの写真に直筆サインみたいなものがある。
ふむふむ、四人とも容姿端麗で非常に眼福だ。
お姉さんの雰囲気漂う、銀髪の女性か。
元気いっばいそうな黒髪の女の子か。
可愛らしい姿の金髪の少女か。
魅惑的な姿の白髪の子か。
確かにこれは悩む悩む… … …。やはりここは性癖で一番刺さるものに… … …。
「篁樣 こちらもおすすめで御座います」
隣から差し出された写真集にも目を配る。
… … …そこには、《狐耳の亜人》《兎耳の種族》《女性の姿をした粘体》《もふもふそうな獣人》、様々な種族の写真があった。
へぇー、人魚やドワーフ、ノームとかもいるんだ。
流石は異世界。
架空生物のオンパレードだ。
まいったなこれだけの種類があるとすぐに決められそうにない。
やっぱり性癖で絞っていけば、これとこれとこれと… … …
「これ程の物を揃えるとは流石バエル氏、ピヨ」
「ふふふ、アルブス樣にはまだ敵いませんよ」
笑い合う二人
どうやら、写真集を差し出したのはバエルさんと言う、大男のようだ。
青黒い軍服を着てスタイリッシュにコートを羽織っており、左胸についている青い花のバッチが反射して輝いている。
にしてもデカいな。
マイクロバスぐらい、身長があんるじゃないだろうか?
軍帽を被って、薄っぺらい紙で出きたお面みたいな物を付けているので素顔は見えないが、二人の笑い方が時代劇とかで見る悪代官と商人まんまなんよなぁ。
「盛リ上ガッテルナ」
「… …うぉ!!」
不気味な声の主をみて、驚愕した。
そこには、返り血を浴びた鎧武者がいた。
「驚カセテスマナイ。拙者ハ辿蟲種、名ヲシャン=レグルスト申ス。ミオソティス第十三席竹取の翁ト呼バレテオリマス」
「テントウ種?」
「進化ノ頂点二辿リツイタゴク僅ナ生物ヲ辿◯種ト呼ビマス。拙者ノ場合ハ蟲ノ征夷大将軍ト言エバ分カリヤスイカト」
鎧を装着した虫。
特撮ヒーローが鎧を着てるようなイメージなんかね?
てか、第十三席で、進化の頂点に辿り着いてるってことはそれより上の上位ナンバーは皆おなじなのか。
え、やばくね?
「拙者ハアチラデ準備ガデキルマデ鍛錬ヲシテオリマス、武人タルモノ日々ノ鍛錬ハカカセナイノデ」
「では、私もレグルス樣と同じように軽く運動と行きますかね」
「某もオタ芸の練習やるピヨ」
手品のようにそれぞれ武器を取り出し、三人は歩き出した。
レグルスは馬を一刀両断できそうな大太刀を。
フルーメンは長い柄の先に湾曲している鋭い刃がついた特徴的な武器を。
バエルは装飾品も何も無い、真黒に染まった手袋を嵌めて。
その三人の背中はさながら狩りに向かうような、ただならぬ気配が籠もった背中だった。
「いってらー」
深く考えたら負けだ!
俺は心の中で強く思いながら、彼らを見送った。