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対戦相手は『黒炭料理の達人』大鬼の酒捨童子②

 料理開始と言われても、かな子は、よくわからない状況に身動き一つできずにいた。

 こういうハロウィンイベントのようなものに参加したこともないし、正直周りのノリについていけてない。


(仮装もしてないし……)


 救いを求めて青葉がいる方をみると、満面の笑みでかな子を見ている。

 その口が時折開いては、「ガンバッテー!」と言っているらしいが、外野がうるさすぎてその声は全く届かなかった。


(どうしよう。料理? 料理をすればいいの……?)


 戸惑いすぎて動けないかな子を置いていくとばかりに目の前の対戦相手は、すでに動いている。


「はっ! ビビッてなにもできねぇでいやがる! それならそのまま大人しく俺の技をみろ!」

 かな子の様子を見ていたらしい酒捨がバカにしたようにそういって、銀光りする立派な魚を片手でもちあげた。


(すごい、あれ鮭!? なんて立派な……)


 ピチピチとまだかすかに動いているあたり新鮮なのだろう。大きさにしてかな子の腕程の長さがある。

 素直にその鮭の立派さに驚いたかな子の目の前で、酒捨はそれを上に放り投げたのだ。

 思ったよりも高く飛んんで行く鮭を見てかな子が目を丸くするが、もっとも驚くべきことはその後に起こった。


 ――――ブワアアアア!!!!


 上に放り投げた鮭に向かって、酒捨がものすごい音ともに口から火を吐いたのである。


 炎は火柱となり、その熱でかな子の頬も熱くなった。

 幸いにも青葉の家の天井は高く、炎は届かない。

 火事になる心配はなかったが……。


 炎がやんだ頃、ガンとなにか硬いものがぶつかる音がした。


 音がしたのは、酒捨の料理台。

 そこには、炎で焼き尽くされ、無残にも炭のようになってしまった先ほどの立派だった鮭がいた。


「しゃあ! 立派な鮭の黒炭焼きだ!」

 呆然とするかな子を前に酒捨は意気揚々と言い切った。


(な、なにあれ!?  焼きすぎでしょう!? 焦げてるっていうか、もう炭だよね!?)


 信じられないものを目の当たりにしたかな子の耳に、周りから凄まじい歓声が飛ぶ。


「さすが酒捨様の料理は迫力がちゲェや!」

「見てるだけで刺激的だぜ!」

「きゃあ! 素敵! 酒捨さまぁ! なんてクールなのー!」


 周りからの絶賛の声。ぱちぱちと盛大な拍手も聞こえてくる。

 周りの奇抜な恰好をした者達、総立ちだ。いわゆるスタンディングオベーションである。


「まだだ! 俺の料理は、まだ終わらねぇよ! 俺の包丁さばき見せてやるぜ!」


 興奮する観客に向けて酒捨はそういうと、背中に背負っていた包丁を引き抜いた。


(え、あれ、 まさか包丁? 包丁デカすぎじゃない!? そんなので料理ができるの!?)


 驚愕するかな子の手は完全に止まっている。

 そんなかな子を尻目に、酒捨は殻付きウニを大量に取り出した。


 そしてその殻付きのウニを料理台に大量に乗せると、その大きな包丁でぶっ叩いた。


 ガン!ガン!ブシャ!ガジャンゴンゴンゴン!


 料理している時ではありえない音がなる。

 かな子の前で、ウニの殻が乱暴に破れ、その美味しい中身が無残に潰されていく様が広がっていく。


 そして、一通りウニの殻が壊れると、酒捨は針のついた殻を手で掴み、先ほど炭にした鮭に無造作に乗せた。

 炭の上に山のように積まれていく、ウニの殻。まるで剣山のようにトゲが上に向かって伸びている。


「まあ、こんなもんかな」


 酒捨はそういうと包丁を端に下ろしてすっと左に寄せ、残ったウニの殻をその潰れた中身ごと水場に捨ててしまったのだ。


(え……? ウニの、おいしい可食部分が!?)


「早速一品できちまったぜ! 恐れ戦け! これが俺の料理! 黒炭料理の真骨頂! 固くて苦いだけじゃねえ、トゲと言う刺激が唸る! 『鮭とウニの城攻め風黒炭料理~トゲという刺激をのせて~』の完成だ!」


 酒捨のその言葉に、場の盛り上がりが頂点に達したかのように湧き上がった。


 わあああああ! という歓声の中には、酒捨の迫力の料理を褒め称える声が聞こえてくる。


「これは、なんてことだ! ウニの黒々とした鋭い刺がまんべんなく使われてやがるぜ! 見てるだけで刺激が伝わってくらぁ! あれを口にしたらピリリとした口の中を切る痛みに包まれるにちげぇねぇぜ!」


「たまんねぇな! 見た目も至高の黒で揃えているあたりが渋すぎるぜ!」


 と意味のわからない高評価がかな子の耳に入る。


(この人たち、ふざけてるの……?)


 それとも自分がおかしいのだろうか。

 そういうイベントなのだろうか。

 だけどイベントだからといって食べ物を粗末にすることは、かな子には理解できない。


「今日こそは、青葉坊っちゃまも料理を食べてくれるに違いないさ!」

 どこかの観客席からそんな声が聞こえてきて、かな子は目を見開いた。


(まさか、この、危険な暗黒物質を青葉くんに食べさせるつもりなの?)


 冗談だろうと思って青葉を見ていると、酒捨の作った料理を見てげんなりした顔をしている。

 そんな青葉に向かって酒捨は腕を上げた。


「青葉様! 今日の料理は俺史上最高の料理だ! 今度こそちゃんと食べてもらうぜ!」


 満面の笑みを浮かべる酒捨が、爽やかともいえる声色でそう言った。


 冗談とか、そういう催しなのかもしれないだとか、そんなの、かな子はどうでもよくなった。


 どちらにしろ、あの炭を食べさせようとしているのは事実なのだ。

 かな子の目から見たら嫌がらせ以外の何ものでもない。

 かな子の手に力が入る。


(こんなの許せない。食材を無駄にしたのもそうだけど、あんなものを子供に食べさせようとするなんて……!)


 そういえば、青葉は家庭の料理が合わないといっていた。

 てっきりスパイスとかそういうものだと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。


 かな子は、怒りで震える手で、料理台に並べていた牛挽肉の入ったパックを掴んだ。

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