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RIZE  作者: としまさ
はじまりの鐘
5/10

5話 準備


 この街に来てから二度目の朝が来た。


 ―――とても、眠い。


 夜遅くまでジスと作戦を練っていた、というか、作戦も何もただわたしがジスを質問攻めにしていたせいだろう。

 以前までのわたしなら今より早く起きたとしても、ましてや遅く眠りについたとしても眠いなんてことはなかった。

 一日や二日でこうも人は変われるものかとふと疑問に思う。

 ジスは―――まだ寝ている、気持ちよさそう。

 もう少しそっとしておこう。



 わたしはベッドから降り、窓を開け外の空気に触れる。

 夜で冷えた空気には細かい砂が混じり、わたしの頬を撫でた。




 昨晩ジスとじっくり話し合い、すぐにでもこの街をでた方がいいということになった。

 ジス曰く上流階級の人というのは面子を物凄く大事にしているらしい。

 なので買った奴隷が逃げたなんて周りにバレたらそれはもうとんでもない赤っ恥らしい。

 今頃血眼でわたしのことを探しているだろうとのことだ。


 今考えると、昨日の外出は本当に迂闊だった。

 ジスにはまだわたしが追われる身だと説明してなかったし、なにより警戒しなければならないわたしが一番浮かれてたからな。

 昨日の外出に関してはジスには凄い勢いで謝られた。

 たしかに逃げ出した奴隷が普通に買い物をするのは迂闊すぎるだろう。

 見つからなかったのは本当に幸運だったのだ。


 わたし自身もそんなこと頭にも浮かばなかったのにジスに怒れるはずもなく、なぜかお互い頭を下げ合う形でその場は収まった。


 そして本題、どのようにしてこの街から脱出するかについてだ。




 要塞都市「ハーヴェスト」は独裁国家「二ースティル」が支配する南の大陸、その西岸に広がる広大な砂漠の中央にある都市である。

 何故砂漠のど真ん中にこれ程の規模の都市が存在するかというと、理由はその下に眠る地下資源だ。

 大昔にあった大規模な戦争によりこの世界の資源は枯渇しかけている。

 他国に奪われないためにも堅固な防衛システムで資源を護る必要があるのである。

 そのためハーヴェストは要塞といっていい程の大規模な防壁が建てられ、その防衛システムは世界屈指である。


 ―――――と、ジスは説明してくれた。


 つまりわたし達がこの街から出るには驚くほど凄い防衛システムを潜り抜けていかなければならないらしい。

 ジスは話を続ける。


 「確かにここの守りには目を見張るものがある。しかし、それは外からくる外敵に対して――つまり、内側から出るにあたってはそうでもないかもしれないぞ?」


 ジスはそう言って、とりあえず明日は脱出できそうな場所を視察に行き、明後日には作戦を決行しようということで落ち着いた。

 最初からジスは脱出する算段をある程度考えていたらしい。


 脱出作戦会議もそこそこに、わたしはジスにたくさんのことを聞いた。

 世の中の仕組みや流行りのものまで、幅広くなんでもだ。

 ジスは結構博識で、色々なことを教えてくれた。

 またジスの話し方も相まって、わたしには笑顔が絶えなかった。



 その時間が何よりも楽しかったのだった。



 わたしは昨夜の話を思い出しながら外を眺めていた。

 辺りは既に賑わい始め、人それぞれの日常を送ろうとしている。


 ふと後ろのベッドでまだ夢の中にいるジスに目を向ける。

 黒い短髪にスラッと伸びた鼻筋、浅黒い肌は力強さを感じさせ、あどけない寝顔はまだ子供のようであった。


 不思議な人だ。


 ジスの顔をまじまじと見ていると、彼はわたしの視線に気付いたのか目を覚まし上体を起こした。


 「ん…おはよう、アオ」


 「おはよう、ジス」


 「…とりあえず、飯だな」


 「ふふっ……、わかった」



 わたしたちはあのお爺さんがやっているお店に向かった。

 昨日は疲れていたこともあり気づかなかったがこのお店の名前は「リーネ」というらしい。


 わたしは相も変わらず見たこともない料理に舌づつみをうったのだった。






 腹ごしらえが終わったジスとわたしは早速外壁に向かって歩を進めていた。


 わたしは昨日ジスに買ってもらった服に着替え、大きなフード付きの外套を身にまとっていた。

 外套は薄ピンクの生地で仕立てられており、かわいらしい白い刺繍が所々に施されていて、ファッションに疎いわたしが見てもかわいいといえる一着だった。


 服屋のおばさんには改めてお礼がしたい。

 この件が収まってからまた伺わせてもらおう。


 行き交う人々の視線が気になる。

 わたしはフードを深く被せ直す。

 ハーヴェストは砂漠に立地するが故に日差しが強いので全身を隠すような服装が目立たないのはとても有難いが、今は追っ手に敏感になっているせいで余計にハラハラしてしまう。

 こんなことじゃ心臓がもたないよ……。



 人混みの中をあるくこと数十分、ようやく外壁に着いた。

 そこには数十メートルはあるであろう分厚い金属の壁がそびえ立っていた。



 「……ジス?こんな大きな壁、どうやったら乗り越えられるの……?」


 わたしは思ったことをそのまま口にした。


 「まぁ、こんな壁を越えれるなんて俺も思っちゃいないさ」


 そう言ってジスは笑った。


 「本命は東西南北にある4つの城門だ。ほら、すぐそこに見えるのが北門になるな」


 ジスが指さす方向に目をやると、壁の一部がうすくなっており、その近辺では兵隊さんらしき人があっちへいったりこっちへいったりとひっきりなしに動いていた。

 そのもう少し手前の方には行商人らしき人々が荷馬車を率いて長蛇の列をつくっている。


 「アオも恐らくあそこからこの街に入ってきたんだ。おっと、運が良かったみたいだぞ」


 ジスが言った、と同時に兵隊さんの迫力のある声が耳に届いた。


 「開門っっーーーー!!!!」


 すると一部薄くなっていた壁がけたたましい音をあげながらゆっくりと上がっていき、壁にポッカリと穴が空いたようになったのだった。



 「門は一日のうち不定期でしか開かないんだ。いつ開くかはまぁその日の天候次第なんだがな。詳しいことは軍の関係者か商業組合しか知らんらしい。ま、大丈夫だ。そこは手を打ってある。」



 ジスはわたしの頭の上に手を置いて腰をかがめた。


 「よく見ておけよアオ。明日の最初の開門で俺たちはここから出ていくんだ」


 「うん、わかった」


 わたしはジスの目を見ながら大きく頷いた。

 ジスの言うことを、どうして信じられずにいられようか。


 一抹の不安も残らないと言えばうそになるが、わたしの心は明るい未来に胸踊る気持ちだった。


 




 それからわたしたちは砂漠越えに必要な物資を買い揃え、明日に備えるために早々に帰路についたのだった。


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