小説案 ⑤:「幻穂師 右近」
「それにしてもあのオッサン、何でオレの名前を知ってたんだ?夢の中で話した事まで知ってたみたいだし・・・」
右近は独り言を呟きながら住宅街を歩いていた。頭の中では昨日神社で出会った翔生とかいう男の事が思い出される。
こちらが名乗る前から右近の名前を知っていた上に、「明日右近の近くで良くない事が起こる」と言い放ち、やれ霊魂だ、怨念だのと理解不能な言葉を連発していたが、最も訳が分からないのは“幻穂”という単語。辞書で引いてみてもそんな言葉は載っていなかった。右近はぐしゃぐしゃと髪を掻き乱す。
「あーもう!訳分かんねぇ。いいや、忘れよ」
右近が無理矢理結論づけたその時、突然地面を揺らす程の轟音が鳴り響いた。それと同時に、近くの公園から多くの人々が悲鳴を上げながら逃げていく姿が見える。右近は逃げ惑う人の波を掻き分け、公園の入口へと向かった。まさか、これって・・・!
「な、何だよ、これ!?」
広い芝生と沢山の遊具、そして憩いの場となっている公民館がある大きな公園。それが今は想像も出来ないような惨状と化していた。
近くの工事現場に置いてあったであろう、10t級の巨大なブルドーザーが公園内を暴走し、芝生を踏み散らかし遊具を薙ぎ倒し、公民館に何度もぶつかって破壊しようとしている。あの中に人がいない事を願うばかりだが・・・。
しかもそのブルドーザーには人が乗っておらず、その代わりにブルドーザーの車体には前に右近が幻覚だと思っていた、透明の体をした巨大なゲンゴロウのような生き物が2匹張り付いていた。それはやはり右近にしか見えていないようだ。
右近がその光景をただ呆然と見つめていると、背後から聞き覚えのある声がした。
「これはまた、“始穂”が2匹で暴れてるな。薔子、薇子、“穂界”の準備だ!」
振り返るとそこにはあの男、翔生が昨日と同じように缶ビールを片手に立っていた。その後ろには色違いの装束を着た二人の少女を連れている。その顔立ちから双子と分かる姉妹は、何の躊躇いもなく地獄のような公園へと踏み入り、入口に並び立つと二人同時に叫んだ。
「「心縛られし哀れな穂魂よ、憤激を解し天へと昇れ、穂界解放!」」
まるで鏡に写したように左右対称に、神楽のように舞いながら呪文を唱えている。そして二人が同時に天を仰いだ瞬間、雲間から一筋の光が差し、公園の中心に達すると、その光が広がって巨大なドームのようになり、公園全体を包み込んだ。右近は目の前で起きた出来事をまだ理解出来ないでいた。すると隣にいた翔生が右近の肩を軽く叩いた。
「東谷右近、君もこの中へ入ってくれ。そして見るんだ、これから俺達が見せる『現実』を」
「あんた、本当に何者なんだよ!もう充分現実離れして・・・
「俺は“幻穂師”。怨念に縛られた魂の集合体、幻穂を鎮め、罪無き魂を救い出す者さ」
「幻穂師・・・?」
この日から右近の日常は、奇妙な『現実』に巻き込まれていくのだった。
こちらは自分の考えた小説の案を使って、そのワンシーンだけをとりあえず書いてみたものです。
出してみて、何かしら反響があった場合には作品として書いていこうと思います。
よろしくお願いいたします。