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実験的作品

ラブレター

作者: 日和努流

100年ぐらい前のラブレターを書いてみました。


これはかなり実験であり冒険です。


読みにくいかも知れませんが、お付き合いください。あとがきに簡単な説明も書いてます。


もう一度言いますが、実験であり冒険です。

知識を総動員してみました。


しかし日本語とはかくも美しいものです。






『恭啓。

春立つ東風(こち)(かぐわ)しゅく、(それ)でもなほ余寒(よかん)の候(いささ)か残れど、爛々(らんらん)たる紅梅咲き立つ今日(けふ)()の頃、貴女様には御健勝の事と候う。突飛で斯様(かやう)な目汚し一筆献上候らう胸の内、だうか何卒御無礼寛許(かんきょ)されたく候う。邂逅(かいこう)致しまするは、貴女様高等小学校お勤め後の由、久良岐郡根岸村(くらきぐんねぎしむら)目抜通りにて御学友皆々様共に白梅(はくばい)嗜まれる御身(おんみ)を、小生の目に映りしは(それ)に勝る、時期尚早(そうしゃう)為れど万度(ばんたび)詩歌(うた)わるる八重桜九重桜の繚乱(りょうらん)(まごう)う事相成りて候う。一度(ひとたび)眼福(がんぷく)見初(みそ)めてから小生の心は暴風のやうに荒れに荒れ、夜毎充ち欠ける月に貴女様を重ねては目を伏し、寝付けぬ夜を過ごす事幾星霜(いくせいそう)たる想ひと相成り、付け文を御渡しするに至り候う。堀割川近く枝下柳(しだれやなぎ)の元にて葉叢(はむら)に隠れ御身探す野盗のやうな所業(しょぎゃう)、誠に男子たる行ひに(あら)ず、然し是も名も存じない貴女様に慕情(ぼじゃう)募らす一介男子の戯言(たわこと)反故(ほご)にせず頂きたく、貴女様の貴顕(きけん)たる御身分承知の上御無礼申上候う。小生(はばか)り無く名乗り赦される事相成るのならば、姓は森、名は長和(おさかず)、数へで齢(とお)と五つ。世が世なら元服男子にて候う。然し小生尋常(じんじゃう)小学校の後御国(みこく)奉仕の身為れば、軍神(ぐんしん)夢見て異国に散らん本懐(ほんかい)胸に宿す事に相成り候う。堅苦しい付け文を、今風のやうに呼称するならば、ラブレイターと書きましょう。だうか、明くる土曜、染井吉野が一等逞しゅう咲く根岸山大聖院(ねぎしやまだいしゃういん)にてお待申上候う。ゆめゆめ貴女様とお目通し叶わぬ身分為れど、今生(こんじゃう)の願ひと斟酌(しんしゃく)仕まつりたく候う。

敬白。

明治四十年 三月十日 森 長和 』







立春が過ぎ風が香る中まだ寒さは残りますが、綺麗に梅が咲いている今日、いかがお過ごしでしょうか。


突然このような拙い手紙をお渡ししてすみませんが、理由をお聞きください。


初めてお見かけしたのは、貴女の学校の帰り道でしょうか、根岸の大通りでお友達と梅を見ていらした時で、僕は、過去より詩になっていた美しい桜のように思えました。まだ咲いていない桜は梅より綺麗に見えました。


僕は、貴女を見たことを幸運と思いましたが、それ以来夜は眠れず、月を貴女に重ねてしまい、長い夜を数えるうちに恋文を書くに至りました。そしてお渡ししたのです。


堀割川にある垂れた柳の下にある草木に隠れ、貴女を見るようになってしまいましたが、男としてあるまじき行為で、まるで盗人です。しかし、まだ名前すら知らない貴女に一目惚れした僕の気持ちを捨てて欲しくないのです。貴女はご身分が高い人なのは承知しています。


遠慮せずに名乗るのを許して頂けますか。僕は森長和といい、15歳になります。侍の世ならいっぱしの大人です。小学校を卒業後は軍隊に入り天皇閣下に仕官しており、いずれは戦争に出る覚悟です。


堅苦しいですね。今はラブレターと言うのでしょうか。


来週の土曜日、一際大きな染井吉野が咲く根岸山大聖院に来て頂けませんか。


貴女とは身分が違い本来は話すことも許されませんが、僕の一生の一度のお願いを聞いて頂いてもいいでしょうか。


明治四十年三月十日 森長和。





今の世で同じ事をしたら、ストーカーと呼ばれるのでしょうか。


気持ち悪いと言われるのでしょうか。


気持ちのこもった手紙を渡せばその疑いはなくなるのでしょうか。



時代の移ろいは何かをなくしますね。

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― 新着の感想 ―
[一言] おおお、すげぇぇぇ。と思わず声が漏れました。 昔なら本当にありそうなラブレターですね。 このラブレターをもらったのが現代のわたしなら、必死に解読しようと頑張ると思います。 呼び出しに応じる…
2017/05/11 01:39 退会済み
管理
[一言] すごいですね! ご自分で考えられたんですか! 時代とともに価値観というのは移り変わるものですから、昔は礼儀正しい行動であったり、普通の行動であったものが、将来、無礼な行為となることもあるので…
感想一覧
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