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生きるために強くなる ~だってゴブリンに転生しちゃったし~  作者: ミジンコ
最終章 ゴブリンと最終決戦と生きるために強くなる
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89話 勇者が異世界から召喚されたようです

大変長らくお待たせいたしました。連載再開いたします。

 ヴィクト帝国の皇帝の住まう城、グランヴィクト城の地下にあるその部屋は重苦しい雰囲気に包まれていた。

 帝国の一般市民が持つ家よりも広いその地下室には壁に等間隔で蝋燭が配置されており、殆どの床を埋め尽くすように魔法陣が描かれている。何人ものローブを着た魔法使いと言った風体の人間達が魔法陣の各所に陣取り呪文を詠唱しており、一糸乱れる事のない詠唱は段々と熱を帯びていくかのように力強くなり、それに呼応するかのように床に描かれている魔法陣の光も強くなっていった。


来たれ(ヴェニーテ)!!』


 最後に放たれた力を持った言葉が部屋に響き渡ると魔法陣が部屋全体を白く、そして重苦しい雰囲気すら吹き飛ばすような眩い光を放つ。隣の人間すら見えなくなるほどの光が徐々に収まり部屋に元の薄暗い部屋に戻っていった。

 光に目を潰されまいと目を閉じていた魔法使い達の目が開かれ魔法陣の中心に目をやると、そこには先程までいなかったはずの人間が立っており、魔法使い達は皇帝により命じられていた勇者召喚の儀が成功したことを悟る。

 魔法陣の中心に立っている人間は身長こそ180cm近くと高いがその顔は未だ子供の頃を忘れられないかの様に幼さが残っており体つきもがっしりとした体格ではいものの細く引き締まった肉体をしていた。

 なぜそこまで言い切れるのかというと召喚されたと思しき青年はその身に衣服の一切を纏っておらず、生まれたままの姿、所謂全裸で立っていたからである。


「ここは……」


 閉じられていた目を開くと初めて見る光景に青年は誰に問うでもない疑問を呟く。

 すると部屋にいる魔法使いのうちの1人が青年に歩み寄ると手に持った衣服を差し出してきた。


「ここはヴィクト帝国です。とりあえずこちらを着て下さい。その恰好で皇帝陛下の前に出すわけにもいきませんので」


 無言で差し出された衣服を手に取り広げるとアニメやマンガで見たことのあるような軍服に近い服であることが分かる。実際に軍服ではあるのだがこの世界の住人ではない青年が知っているはずもなく、またその服1着で帝国民が1年は仕事をせずに暮らしていけるだけの値段であることを知る由もなかった。

 軍服に袖を通し、生まれたままの姿(全裸)から脱出した青年は魔法使いの案内によって地下室を出る。石材のみを使って作られた地下通路を歩き、やがて現れた階段を上ると目の前に1枚の扉が現れ、扉を開き外に出ると先程までとはまるで違う白を基調とした見る者を圧倒するかのような場所にたどり着いた。

 そこはグランヴィクト城の大廊下であり、天井を支えるようにして立っている柱は太く精緻な彫刻が施されており、壁も同じように彫刻が施され金や赤の線が入っている。床は磨き抜かれた石材がまるで鏡の様に自らの上にいる者を映し出し、巨大な扉と扉を繋ぐように敷かれた真紅の絨毯が白い床にその存在感を主張していた。

 始めてみる圧倒的な光景に一時的に思考がフリーズしている青年の姿に苦笑しながら魔法使いは付いてくるように促す。ハッと我に返った青年は急いで魔法使いに追いつくと周囲を落ち着きなく見回し、これが町中だったら完全におのぼりさん状態になっていた。

 そして真紅の絨毯の終着点、巨大な扉の前までやってきた魔法使いは扉を守る2人の兵士の片方に話しかけると、魔法使いの姿を見た兵士は即座に敬礼をすると2人掛かりで巨大な扉を押し開く。

 完全に扉が開くと魔法使いは兵士に一言礼を告げると再び青年を促して扉が守っていた中に入っていった。

 青年が魔法使いと2人入っていった部屋の中は驚くほどに広かった。今まで歩いてきた大廊下よりも広く、高い天井を支える柱も数も多い。

 そして廊下から続く真紅の絨毯の向かう先には向かって左側には鎧やローブを身に着けた男性たちが、そして右側にはいかにも文官といった衣装を身にまとった男性達がずらっと並び、その奥、終着点には2つの豪奢なイスがあり、その片方に冠をその頭に頂いた偉丈夫が座っていた。

 頭に冠を頂いていることから皇帝であることが容易に予想できるが、青年の持っている皇帝や王のイメージする太った男という概念を根底から覆すような見た目をしている。顔はパッと見70近い年齢をしているにも拘らず目つきは鋭く、獲物を狙う鷹の様な目をしており、服の上からでも分かるほどにその肉体は筋肉に覆われ袖から除く腕も青年の太ももよりも太い。玉座の後ろに立てかけてある大剣から王が老いて今なお現役で戦えることを示していた。

 青年を連れた魔法使いは部屋の中を進み皇帝からある程度距離を取った場所に辿り着くと即座に跪き頭を垂れる。


「陛下、帝国筆頭魔導師マーギス・ヴァニス、異世界より勇者の召喚に成功いたしましてございます」


「うむ、よくぞ成し遂げた。流石は我が帝国の誇る筆頭魔導師よ。して、そこに居るのが異世界寄りの勇者で相違ないな?」


 ちらりと青年へと視線を向ける帝国皇帝に倣うように謁見の間に並ぶ他の者達も青年へと視線を向けある者は訝しげに、またある者は物珍しげにと様々な反応をしている。

 そんな様々な視線に晒された青年は居心地悪そうにしながら立ち尽くしていた。


「は、彼こそが我々帝国魔導師が総力を上げて異世界より召喚した者にございます。陛下に自己紹介して頂けますか?」


「あ、ああ。お、俺? いや、私は横嶋 意(よこしまおもい)と言います……。よろしく、いやよろしくお願いします?」


 謁見の間にいる全員からの視線を集中的に浴びているせいかしどろもどろになりながら自己紹介をする意。元来気が強い方ではなかった彼は日本にいた頃から自分の意見を口に出すことが滅多になく、それ故に心無い人間から良いようにこき使われてきていたり、イジメを受けていたこともあった。しかし口に出せないだけで内心色々と溜めこんでいた意は、それをよくネットの掲示板などを荒らすことで日々のストレスを発散していたのだ。

 しかし謁見の間にいる人間達にそんな事情など知る由もなく、意の態度を皇帝陛下に対して無礼だと思う人間がいる事は無理もないことであった。

 そして意の自己紹介を見ていた1人の神経質そうな文官と思しき人間が意に向かって烈火のごとく怒り始めた。


「貴様! なんだその態度は! 勇者であろうと陛下に対してその態度はなんだ! たとえ勇者であろうと陛下に対する無礼は許されんぞ!」


「ひっ!?」


「陛下への謁見の機会を得られた栄誉に打ち震えながら跪き頭を垂れるべきであろう! そんな事も分からないのか!」


「あ、あの……その……」


 完全に気圧されてビクビクしている意だが、意外な所から救いの手が差し伸べられた。


「よい」


「しかし陛下!」


「よい、マジルメスよ二度も言わせるな。遠い異世界よりこちらの都合で呼び出したのだ。こちらが礼を尽くすべきであろうて」


「は、仰せのままに」


 皇帝陛下からの言葉に意に対して憤っていた文官も矛を収めるしかなく、渋々といった感じではあるが怒りを治める。マジルメスはヴィクト帝国の筆頭文官であり、彼が意に対して憤りを露わにしていた時、それに同調しようとしていた他の文官達もマジルメスが矛を収めたことで自分達も矛を収めざるを得なかった。

 そんな文官達の様子を見ていた皇帝は鷹揚に頷くと意に向けて再び視線を向ける。


「先程は我が帝国の者が失礼をした。意と言ったか。急に異世界よりそなたを呼び寄せたのは頼みたいことがあるからなのじゃ。聞いてもらえるかの?」


「え、ええ、俺……いえ私でよければ……」


「普段通りの話し方で構わぬ。先も言ったように呼び出したのは此方なのだからの。頼みとはそなたに魔王を討伐してもらいたいのだ」


「ま、魔王ですか……」


「うむ、魔族大陸には強力無比な力を持つ魔王が居っての。先日も我が帝国の誇る最強の騎士であるアドール将軍が魔族大陸での遠征で殺されてな。生き残りも極僅かしか残っておらん。そこで恥を承知でそなたを異世界より呼び寄せたという事じゃ」


 日本にいた頃から数少ない趣味でネット小説をいろいろと(主に異世界転生物)読んでいた意だが、いざ自分がその渦中にいるとなると思考がなかなか追いつかず、どうにかこうにか絞り出せた考えは1つだけだった。


「あ、あの、俺は元の世界に帰れるんでしょうか……」


「申し訳ありませんが、帰る事はできません」


 皇帝ではなく筆頭魔導師であるマーギスが無情な一言を口にする。意も異世界召喚や転生物をたくさん読んでいた為この答えはある程度予想できてはいた。出来てはいたが実際に言われると現実が重く圧し掛かってくるような錯覚を意に覚えさせる。元の世界の人間関係は最悪だったため家族以外は特に未練らしい未練も無いが、マンガや小説、アニメやゲームには未練があり、それが二度と見れないというのが一番意にとって辛い事であった。


「ああ、勘違いしないで頂きたい。あの術式は異世界で死んだ者を呼び寄せ、生前と同じ肉体を与える物なのです。ですので元の世界に帰す事が出来ないのですよ」


「俺が……死んだ……?」


「ええ、覚えがありませんか?」


「そういえば……俺はあの時工事現場の上から落ちてきた鉄骨で……」


 自分がこの世界に来る前の最後の光景をぼんやりと思い出し1人ぶつぶつと呟いている意。その姿にマーギスは意が自分が元の世界で死んだ事を思い出したのを確信した。


「思い出された様ですね。元の世界で不幸にも亡くなられたあなたを私達帝国魔導師がこちらにお呼びしたのです」


「そう言う事だ。そなたの帝国での地位と生活は私の名の下に不自由ない物を約束しよう。魔王を討伐した暁には叶えられる範囲でではあるがなんでも望みを叶えよう。どうだ? やってくれるか?」


 皇帝の提案は意の心の底に澱のように沈殿していた欲望を刺激するには十分すぎた。

 元の世界ではカースト最下位を彷徨っていた意だがここでは自分を見下す者もいない上に勇者としての地位すらある。今までため込んできた欲望が一気に膨れ上がり、表情に出そうになるのを悟った意は即座にマーギスと同じように跪き、皇帝に対して首を垂れる。


「お任せください。この意が必ずや魔王を討伐して御覧に入れましょう!」


「おお! そうか、やってくれるか! ありがたい。ならば今夜は城に泊まっていくといい。歓迎の宴を開くのでな。装備や金も十分に出す故心配はしなくてよい。明日からはこの人間の住む大陸の各地を巡って魔物を倒し力をつけるといい」


「はっ! ありがとうございます!」


 意の力強い返事に皇帝がその見た目通りの豪快な笑い声を上げ、意の殊勝な態度に先程突っかかってきたマジルメスもようやく皇帝の威光が分かって来たかと言わんばかりに頷き、鎧やローブを着た軍の人間と思しき男達も期待の籠った眼差しを意に向けていた。

 だから気が付かなかった。頭を垂れたままの意の濁りきった瞳と欲望に塗れた醜悪な笑みに。


「神の力とこの展開……、俺が主人公だ!」


 意の呟きは皇帝の笑い声に掻き消され、誰の耳に届くこともなく謁見の間の空気に溶けて消えていった。

ついに最終章が始まりました。

一応この物語のクライマックスになる予定なのですが、私の文章力でどこまで表現できるのやら……。精一杯書いていきますので生暖かい目で見守っていただければと思います。

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