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生きるために強くなる ~だってゴブリンに転生しちゃったし~  作者: ミジンコ
第3章 元ゴブリンと魔族大陸と幼馴染魔王
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88話 空から駄目神が降って来るようです

投稿が遅れて申し訳ありませんでした。

 シーツァは薄暗い水の中を流れに身を任せただただ漂っていた。

 凍えるような冷たさにぼんやりとしている意識は徐々に深みへと落ちようとしている。二度と戻って来れないのではと思いはするものの、はっきりとしない意識はそれに拒むこともできずにいた。

 そしてゆっくりとシーツァの意識が冷たい水の底に落ちていると、不意に体中を温かな光が包み込んでいく。温かい光によって水の底に落ちようとしていたシーツァの意識は徐々に浮上していき、やがて煌く様な水面が近づいてきた。

 ゆっくりとしかし確実に浮上していく意識はシーツァの唇に当てられた柔らかい感触と、それと同時に口内へと侵入してくる冷たく甘い液体を嚥下した事によって一気に浮上し、水面に辿り着いた瞬間シーツァは目を覚ました。

 目を開けたシーツァの目の前にはソーラの美少女然とした顔があり、その柔らかそうな唇からはシーツァの唇へ向かって銀の糸が伸びている。

 どこか淫靡な光景を寝ぼけた頭で眺めていると、シーツァが目を覚ましたことを閉じていた目を開けたソーラが気付くと目尻に一杯の涙を溜め、自らの膝を枕に寝ているシーツァを包み込むように抱きしめてきた。


「シーツァ!! よかった! 目を覚ましてくれてよかったよぉ! もう目を覚まさないんじゃないかって……」


「ああ、ごめんなソーラ……。だいぶ心配かけたみたいだ」


「私の方こそごめんなさい……! シーツァに大怪我までさせちゃって……」


 ソーラの瞳から溢れ出る涙がシーツァの胸元を濡らしていく。決壊したダムのように涙を流し続けるソーラは暴走が止まり魔力が正常に戻った為か人間のような肌色になり頬に朱が刺している。その頬にシーツァは優しく手を添えると笑みを浮かべながら語り掛けた。


「気にするな……といってもソーラの性格からして気にするだろうからそれは言わない。だからこう言う。大丈夫だ。俺はソーラがポーションを口移しで飲ませてくれたお陰でこうして生きてる。それと……ソーラが無事で本当に良かった」


「シーツァ……」


 膝枕をされているシーツァの顔に徐々に頬を朱に染めたソーラの顔が近づいてくる。シーツァもソーラが何を求めているのかすぐに理解すると互いが示し合わせたかのようにほぼ同じタイミングで目を閉じ、唇と唇が触れるか触れないかの所に迫った瞬間――


「暁ー! 助けに来たわよー!」


「ぴゃう!?」


 突然シーツァ達のすぐそばの空間が歪み穴が出来上がるとそこから勢いよくトモエが顔を出してきた。いきなり現れたトモエにソーラは変な声を上げると反射的に上体を起こしシーツァの顔から離れる。


「あら、お邪魔だったようね」


 既にソーラが元に戻っていると分かっているからなのか、ソーラの初々しい反応にニヤニヤと笑いながら言葉を残して頭を引っ込めていく。閉じられていない空間の穴の向こうではトモエがアイナ達にソーラの無事を知らせる声とそれを喜ぶ2人の声が聞こえてきた。


「帰ろうか」


「うん」


 互いに見つめ合いながら短いやりとりを交わす。後頭部の幸せの感触に若干の未練を残しながら立ち上がると先程までシーツァに膝枕をしていたソーラへと手を差し伸べた。

 差し伸べられた手を取ったソーラが体に力を込めると勢いよく立ち上がり、シーツァの胸に飛び込む。思わず飛び込んできたソーラを抱きしめる形になったシーツァは失うかもしれなかったその腕の中のぬくもりをやさしく抱きしめた。

 互いの温度を確かめ合っているとどちらかともなくゆっくりと体を離す。見つめ合った2人は何を言うでもなく瞳を閉じ、互いに顔を近づけていく。先程はトモエの突然の登場により邪魔された形になったが今回はそんなこともなく、2人は互いの気持ちを確かめ合うように唇を重ね合った。


「ん……」


 互いの舌を絡ませ唾液の交換を行っているとソーラから悩ましい上がる。やがて2人の唇が離れるとそれを惜しむかのように2人の唇を繋ぐ様に銀色の糸が伸び、そして消えていった。

 キスの余韻消えやらぬソーラが頬を染めながらポーッとシーツァを見つめ、シーツァもその艶っぽい姿に再び体の奥から湧き上がってくる衝動をなんとか堪えるとそれを悪戯心に変え、思い切って行動に移す。


「さて、それじゃ今度こそみんなの所に帰ろうか!」


 シーツァが言葉と同時にソーラ肩と膝の裏に自分の腕をまわして勢いよくソーラを持ち上げる。所謂お姫様抱っこの状態になったソーラは驚いたのか小さく悲鳴を上げると生まれて初めてのお姫様抱っこに頬を朱く染め上げるもすぐにシーツァの首に自らの腕をまわし、その肩に頭を預けた。


「トモエ! 空間の穴を広げてくれ!」


 シーツァの要請に応えるように目の前の穴が広がっていき、すぐにソーラを抱えたシーツァが余裕を持って通れるだけの大きさになる。

 空間の穴の先に亜空間に来るまでいた魔族大陸の光景が広がっているのを確認すると、その穴を通り亜空間から無事にソーラと共に脱出した。


「シーちゃん~! ソ~ラ~!」


「シーツァ! ソーラ!」


 亜空間を出て元の場所に戻ってきたシーツァをソーラを出迎えたのはアイナとシリルの熱い抱擁だった。

 勢いよく跳びかかってきた2人の勢いに虚を突かれる形になったシーツァは、ソーラを抱えてるのも相まって受け止めきれずに押し倒される。その際自分の体をクッションにしてソーラ達に怪我を負わせないようにしたのは流石と言えるだろう。


「イテテ……、2人とも心配かけたな。けど見ての通り大丈夫だ」


「本当よ~、すっごく~、心配したんだからねぇ~?」


「がぅ、怖かったぞ」


 倒れた状態のまま2人に謝罪の言葉を伝えるとアイナもシリルも密着させていた体を起こし微笑みかける。その笑顔にシーツァがソーラと共に無事に帰ってこれたという実感を覚えていると、ソーラが申し訳なさそうな顔をしながら起き上がった。


「ごめんなさい2人とも。とっても迷惑かけちゃった……」


 俯きながら謝罪するソーラ。その光景を何も言わずに見守っていたシーツァだが、別に何も言えないのではなく、言う必要がないと分かっていたからである。それだけシーツァは自分の嫁たる女の子達を信頼していた。

 そしてその考えは外れる事はなく、俯いているソーラへと手が伸びるとその体を自らの胸に抱き寄せた。


「大丈夫よ~、私達の旦那様が~、あんな事になっちゃったんだもの~、仕方ないわ~。でも~、1つ言わせて貰うとしたら~、無事に帰ってこれて~、良かったわ~」


「がぅ、ソーラ、私達は迷惑だなんて思ってない。私達は家族なんだ。今回私とアイナは何もできなかったけど、次はちゃんと力になるぞ」


「アイナ……、シリル……。ふ……ふええええぇぇぇぇぇぇん!」


 2人の暖かい言葉に涙腺は完全に崩壊し、ソーラはアイナの豊満な胸の中で泣き始めた。そんなソーラをアイナとシリルは優しく撫で続け、それはソーラが泣き止むまで続けられた。シーツァの上で。

 完全に置いてけぼりを食らったシーツァは、だからといって目の前の光景に口を挟めるわけも無く、3人の気が済むまで仰向けで寝転びながら魔族大陸の空を眺めていた。


 ドドド……


 ドドドドド……


「ん? 何の音だ?」


 感動のシーン真っ最中のソーラ達に忘れ去られすっかり下敷きになっているシーツァは微かに聞こえてくる音に気がついた。その音はどんどんシーツァ達のいる場所に迫ってきており、音が大きくなっていくにつれて地面もそれに合わせるように振動していた。


「何か揺れてる?」


「がぅ、誰かがこっちに走ってくるぞ」


 音のした方向に目を向けたシリルに倣いソーラとアイナがそちらを向く。そしてアイナの単眼族(モノアイ)特有の視力がその音と地響きの正体を見破った。


「チャーチさんが~、こっちに走ってくるわねぇ~」


 それだけ言うとアイナはソーラとシリルを抱えてシーツァの上から移動する。シリルはともかくソーラは頭の上にハテナマークをいくつも浮かべながらもアイナにされるがままになっていた。


「アイナ? チャーチがどうしたって――」


「シーツァーさーん!」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!


 仰向けで寝転がっているが故に地面の振動を余すことなく全身に受けているシーツァが顔を音の方向に向けると頬を上気させ、にやけた口から涎を垂らしながらチャーチが盛大に土煙を上げながら走っているのが見える。正直女の子がしていいような顔ではない。


「シーーーツァーーーさーーーんーーー!!」


 ある程度の距離まで近づいてきたチャーチがおもむろに飛び上がり、どこかの某怪盗のⅢ世の様な恰好でシーツァ目掛けて飛び込んできた。


「げふぅ!?」


 そして寸分違わずシーツァの胸にダイブを決めるとすぐさまシーツァに馬乗りになる形で落ち着いた。


「シーツァさん!」


「は、はい!」


「先程シーツァさんにできることなら何でもしてくださるとおっしゃいましたわよね!?」


「お、おっしゃいました」


 鼻息荒く問い詰めてくるチャーチについオウムのようにくり返してしまうシーツァ。チャーチはそのセリフを聞くと言質とったりとばかりに得意満面の顔で息を吐くと、盛大に息を吸い込み自分の望みを告げた。


「でしたらわ、(わたくし)を……、シ、シーツァさん……いえ、旦那様のお嫁さんにしていただきますわ!」


「は、はい! ……へ?」


「ですから旦那様のお嫁さんにしていただきますわ! できることなら何でもするとおっしゃったのですからよもや否はありませんわよね?」


「え、えーと、あのー」


「あ・り・ま・せ・ん・わ・よ・ね?」


「……はい」


 先程までのドMぶりが嘘のように力強く迫るチャーチについにシーツァは頷く。その姿を見たチャーチは顔に満面の笑顔を浮かべ、まるで少女のように喜んだ。


「やりましたわー! これで私も晴れて旦那様のお嫁さんですわー! これから夜は旦那様が私を縛ったり、罵ったり、鞭で叩いたり……。いろいろな攻めをしてくださるに違いありませんわ! ハァハァ……今からもう辛抱堪りませんわ……」


 少女のように喜んだ……はずだった。すぐにいつも通りドMの本性を露にしたチャーチは鼻息を荒くし、すでにシーツァとの夜の営みを妄想してトリップしているため先程土煙を上げて走ってくる以上に女の子のしていい顔ではなかった。


「シーツァ、大丈夫?」


「ああ、大丈夫。なんかお嫁さんがもう1人増えたんだけど、よろしくね?」


 シーツァとチャーチのやり取りを苦笑しながら見ていたソーラ達がやってきて声を掛けてくる。嫁が1人増える宣言にもやはり苦笑していたソーラ達はこの状況をきっと予想していたのだろう。一切起こることなくチャーチの嫁入りを受け入れると4人がシーツァに手を伸ばしてくる。

 シーツァは自分の上でトリップしているチャーチを若干乱暴に横にどけると、「あふん」と妖しい声を出しながらチャーチが快楽に悶えていた。

 そんなチャーチをスルースキルで見事に見なかったことにして4人に向けて手を伸ばす。伸ばしたシーツァの手をソーラ達が握り締め呼吸を合わせてシーツァを起こした。

 立ち上がったシーツァはソーラ、アイナ、シリル、トモエ、チャーチの順にグルッと見渡すと、改めて自慢のお嫁さん達に向けて言った。


「みんな、これからも俺とずっと一緒にいてくれよ?」


「「「「「はいっ!(がぅっ!)」」」」」


 全員が笑顔で息を合わせて答えてくる中にいつの間にか復帰したチャーチの声も混ざっていた。

 そしてこれからみんなで城に帰ろうとしていた時、不意にシーツァの耳に微かに何かの音が聞こえてきた気がした。


 ――――――――――――――――ぃ!


「あれ? 誰か何か言った?」


「いいえ、何も言ってないと思いますけど」


「っかしいなー。何か聞こえた気がしたんだけど……」


 ―――――――――――――ださいぃ!


「ほらやっぱり、何か聞こえないか?」


「え~、何も~聞こえないわよ~?」


「あれぇーー?」


 ―――――――受け止めてくださいぃ!


「やっぱり聞こえる! どこからだ?」


「がぅ、上から聞こえるぞ」


 シリルの言葉に全員が上を見上げると、底には滂沱の涙を流しながら純白の長髪を棚引かせてどこかで見た事がある残念駄目神が真っ逆さまに落ちて来ている光景が目に入った。


「ぴゃぁぁぁぁ! 受け止めてくださいぃ!」


 突然の光景に呆然としていたシーツァ達はその場から動くこともできずにただ駄目神(イリステラス)が降って来るのを見ているしかなく、そしてすぐにイリステラスは呆然と己を見ていたシーツァに激突し、地面とキスする事態を回避する事に成功した。


「イテテテテ……。こらこの駄目神が! 俺に何か怨みでもあるのか!」


「ぴぇぇぇぇぇぇん! シーツァ君ーーー!」


「な……なんだよ……」


「神の力奪われちゃったーーーーー!」


「「「はぁぁぁぁぁぁーーーーーー!?」」」


 イリステラスから放たれた予想だにしていなかった言葉にシーツァを始めとしたソーラとトモエの転生、召喚組みが驚きの声を上げる。アイナとシリル、チャーチは何を言ってるんだこいつはといった顔でイリステラスを見ていたが、シーツァ達の驚きようから尋常ではない事態だということをすぐに理解した。

 こうして帝国兵を撃退し、錯乱したウェウェコヨトルを倒し(ソーラが)、暴走したソーラを元に戻すことに成功したシーツァ達が平穏を取り戻したと思ったのも束の間、空から降って来た駄目神(イリステラス)によってまた新たな波乱が押し寄せてくるのだった。

この話で第3章 元ゴブリンと魔族大陸と幼馴染魔王は完結となります。次は第3章の登場人物の紹介になります。最後に登場した駄目神(イリステラス)ですが、ヒロイン化します。本当はする予定は無かったのですが、前にいただいた感想からやっぱり女神様のお嫁さんは必要だよね?と思い追加しました。

ただ、正直な話チャルチウィトリクエことチャーチが嫁になったのは勢いです。書いている内にチャーチが可愛くなってしまったので急遽ヒロイン化しました。ドMですが……。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

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何か気になることなどありましたらお気軽に感想から言っていただければと思います。

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