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生きるために強くなる ~だってゴブリンに転生しちゃったし~  作者: ミジンコ
第3章 元ゴブリンと魔族大陸と幼馴染魔王
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83話 帝国兵との戦いのようです その4

 乾いた風が戦場に漂うむせ返る程に濃い血の香りを彼方へと運んでいく。そんな血風すさぶ戦場で2人の男が対峙していた。

 1人は煌びやかな鎧を身に纏い、正面の男を見下すような目つきで睨んでいる獣魔軍団統括獣王ウェウェコヨトル。そしてもう一方はウェウェコヨトルの視線など意に介さないとばかりに威風堂々と立つ鋭い眼光を持ち、実用性を追求した白銀に輝く鎧を身に纏うヴィクト帝国将軍、人々から鬼人と呼ばれる男、アドールである。

 すでに2人とも自分の得物を抜き放ち、ウェウェコヨトルは1振りの長剣とラウンドシールドを、アドールは自分の身の丈すらも超える巨大な大剣を構えていた。


「貴様が人間共の親玉か。身の程を弁えず私の前に出てくるとは……、余程その命不要と見える」


「突撃しか指示のできない無能が吠えるな。突撃だけならばそこらにいる子供でも命令できるわ」


 ウェウェコヨトルの挑発に乗ることも無く、逆に挑発し返すアドール。先の戦闘で押されていたのが余程屈辱だったのかアドールの挑発に顔を真っ赤にして激情を露にする。その様子を路傍の石ころを見るような目で見つめるアドールは、静かに大剣を自分の顔の横から前方に突き出すように構えた。

 アドールの視線にウェウェコヨトルの怒りは更にボルテージを上げていき、それでも訓練の賜物か激情に呑まれつつもしっかりと剣と盾を構え、口から泡を飛ばす勢いで激情を発露させる。


「き……貴様……! よくも下等種族の分際で私を侮辱したな……!? 栄光ある四魔将の1人、獣王の名を冠するこの私を……! 生まれてきたことを必ず後悔させてやる!!」


「御託はいいからさっさと掛かって来い。下等な人間の力を見せてやる」


 アドールの言葉を合図にウェウェコヨトルが気合の叫びを上げながら盾を構えて突撃する。先程まで戦っていた魔物達とは比べ物にならない速度でのシールドタックルがあっという間に2人の距離を詰めアドールに肉薄した。重量のある大剣を軽々と振るい突進してくるウェウェコヨトルの盾を横に弾く。一瞬己の盾が弾かれたことに驚愕の表情を浮かべるウェウェコヨトルはすぐに意識を切り替えると、弾かれた反動を利用し長剣をアドールの首目掛けて横薙ぎに振るった。

 即座に体勢を低くしたアドールは低い体勢のままクルッと独楽のように回転するとお返しとばかりに大剣を叩きつける。咄嗟に跳ぶことでアドールから距離を取ったものの避け切れなかったのか鎧には大剣によって付けられた傷がくっきりと残っていた。


「よくも……! よくもよくもよくも! 下等な人間の分際でこの私の鎧に傷を……! 許さん!」


 激昂し再びアドールに向かって突進してくウェウェコヨトル。先程よりも更に速い速度での突進にアドールは一瞬目を剥くが即座に大剣を横に薙ぐ。その姿にウェウェコヨトルが一瞬ニヤリと笑うと、突進の勢いを殺すことなく大剣の下をを潜る様に一気に体勢を低くした。

 これには流石のアドールも対応が遅れ、ウェウェコヨトルの盾による一撃で大きく吹き飛ばされる。大剣を振り抜いた直後の不安定な体勢で吹き飛ばされたものの、盾がヒットする瞬間反対方向へと跳び衝撃を和らげ空中で体勢を立て直すことによって足から地面に着くことに成功していた。


「ふむ……、四魔将というのはこの程度のものなのか……。正直拍子抜けだな。最高幹部でこの程度なら魔王など程度が知れるというものよ」


「なんだと……! 貴様、私だけではなくトモエ様まで愚弄するというのか!?」


「思ったことを言ったまでだ。それより、次はこちらから行くぞ」


 言うや否やアドールが駆け出し、ウェウェコヨトル以上の速度を持って肉薄すると「ぬぅん!」という声と共に上段から一気に大剣を振り下ろす。盾を構え防ごうとしたウェウェコヨトルだが直後に首の後ろにゾクッとした悪寒が走り、後ろに跳び退ることでアドールの一撃を回避した。

 ウェウェコヨトルに避けられた大剣による一撃はそのまま地面へと突き刺さり、跳び退ったウェウェコヨトルのいる場所まで地面に一直線の裂け目が出来上がる。

 目の前の光景にウェウェコヨトルが背筋を凍らせている中、地面から大剣を抜いたアドールが再びウェウェコヨトルに迫り大剣をまるで小枝でも振るっているかの様に軽々と縦横無尽に斬りつける。速さと重さを兼ね備えたアドールの剣戟にウェウェコヨトルは防戦一方になっていった。

 ある時は大剣をギリギリのところで避けたものの避けきれず鎧や手足に傷をつけられ、ある時は盾でなんとかいなしている。嵐の様に繰り出される大剣に全身嫌な汗を掻きながら必死の形相で捌くものの徐々に精度が落ちていき、直撃はしないまでも傷を負う事が多くなっていった。

 なんとか大剣を弾き、大きく後退することに成功したウェウェコヨトルは既に肩で息をして全身傷だらけになっている。骨折や致命傷等は無いものの既に鎧や盾には大剣によってつけられた傷がありありと残っており、長剣も所々が欠け戦闘開始前の輝きを失っていた。


「はぁはぁはぁ……、貴様のような人間にこの私が……!」


「確かに先程まで戦っていた魔物共より貴様は強い。だが所詮魔物共よりは、だ。数多の修羅場を潜り抜けてきた俺には遠く及ばん」


 満身創痍のウェウェコヨトルに対しアドールは最初に受けたシールドタックルによるごく小さい鎧の傷以外怪我という怪我も無く、汗1つすら掻いていなかった。

 そんなアドールを目にしたウェウェコヨトルは屈辱の炎に身を焦がしながら体内の魔力を増幅させていく。呼吸は荒いものの突然上昇していくウェウェコヨトルの魔力にアドールが大剣を構えて警戒心を露にし、何が起こっても対応できるように構えていたアドールの目の前で高まっていたウェウェコヨトルの魔力が臨界まで到達し戦場一帯に響き渡る咆哮が上がった。


「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ウェウェコヨトルの周囲に魔力でできた霧が球状集まっていき徐々にその姿を隠していく。完全にその姿が隠れると濃密な魔力で作られた霧の塊は少しずつその大きさを増していき、次第に身長190cm以上あるアドールが見上げるほどの大きさになっていった。

 高さ4mほどにまで膨らんだ球状の霧の中からウェウェコヨトルの咆哮が聞こえなくなり、今度は逆に魔力の霧が小さくなっていく。内側に収束していくように球体からウェウェコヨトルが徐々にその姿を現していった。

 燃える炎のように赤く巨大な体躯、雄雄しく天に向けて突き出される2本のねじれた角、高密度に纏め上げられたであろう筋肉、地面を踏みしめる蹄のついた頑健な足。牛によく似た魔物、大怪牛ベヒモスがその姿を現した。


「ふむ、それが貴様の正体か」


「そうだ! 我が真の姿を見たことを誇りに思いながら死ぬがいい!」


 激しい地響きを立てて巨大な牛(ベヒモス)がアドールにその鋭い角を向けて突撃する。


「ふん! なんのそれしき!!」


 アドールが大剣を盾のように構えるとガキン、と激しい激突音がしベヒモスの角とアドールの大剣が火花を散らす。ウェウェコヨトルの巨体から繰り出される突撃の威力はアドールをもってしても簡単には受け止められず、角の一撃は防いだもののそれでも尚突き進もうとする力に押され、勢いを殺そうと踏みしめる足が乾いた地面に(わだち)を作り上げていく。


「おおおおおおおおおっ!!」


「な……なに!?」


 10m程押し込められたアドールが雄叫びを上げ全身に力を込めると鎧の下の筋肉が一気に盛り上がりその力を増していく。(わだち)を作っていく速度が徐々に遅くなり、やがてアドールはウェウェコヨトルの巨体から繰り出される突進を完全に受け止めた。

 よもや完全に受け止められるとは思いもしていなかったウェウェコヨトルが驚愕からその動きを止める。アドールはその一瞬の隙を見逃さずに大剣で角を上に弾き上げるとウェウェコヨトルの頭上まで一気に跳躍した。

 そして跳躍の頂点に達した時目の前にあるウェウェコヨトルの雄雄しい左の角目掛けて袈裟懸けに大剣で斬りつける。大剣で斬りつけられた角は切断こそされなかったもののピシリと音がして罅が入り、直後アドールは空間を蹴りウェウェコヨトルの顎の下までやってくると大剣で右の下顎を斬り上げた。

 切断こそされなかったものの角と対角線上にある下顎に強烈な一撃を食らい激しく脳を揺さぶられたウェウェコヨトルは脳震盪を起こしたのか白目を剥いて失神し、激しい地響きと土煙を上げて地面に倒れる。倒れた衝撃で罅の入っていた左の角は完全に折れてしまい、するどい先端を下にして地面に突き刺さった。

 土煙が晴れ、白目を剥き口から泡を吹きながら倒れているウェウェコヨトルに近づいたアドールは無言のまま大剣を上段に構えるとその脳天目掛けて全力で振り下ろした。

お気づきの方も多かったかと思いますがウェウェコヨトルの正体はベヒモスでした。作中でベヒモスの見た目が巨大な牛なのは私の個人的なイメージです。なんかベヒモス=牛だったんです。

読まれている方々の中には違うと思われる方もおられるでしょうがご容赦ください。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

たくさんのブックマーク大変励みになっています。評価や感想なども随時お待ちしていたりします。


追伸:最近投稿した短編小説「ウイルスホルダー」もお時間のある時にでも読んでいただければ幸いです。

http://ncode.syosetu.com/n9436dl/

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