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生きるために強くなる ~だってゴブリンに転生しちゃったし~  作者: ミジンコ
第3章 元ゴブリンと魔族大陸と幼馴染魔王
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82話 帝国兵との戦いのようです その3

 ゴトリ、と音がして宙を舞っていた兵士の首が床に落下する。恐怖と絶望に彩られた顔はゴブリン達をいたぶろうとしていた頃の面影など欠片も残ってはいなかった。


経験値を42手に入れました。

スキル【剣術Lv.3】を習得しました。【剣術Lv.3】は【剣鬼Lv.5】に統合されました。


 頭の中に響く無機質なアナウンスを確認すると兵士達を惨殺した剣を軽く振り、こびり付いていた血と油を振り払う。それでも落ちきらなかった頑固な汚れを魔法で生み出した水で強引に洗い流すと【異次元収納(アイテムボックス)】の中に収納した。


「ふぅ……、大丈夫かお前等。怪我してる奴はいないか?」


「ハ……ハイ、アリガトウゴザイマス。アノ……貴方様ハ……」


「ん? ああ、俺はただの通りすがりの鬼だよ。お前達が捕まってるって聞いたから助けに来たんだ。とりあえずここにいるので全員か?」


「エ? ハ、ハイ。捕マッテイルノハコレデ全員デス。ア……アノ! 助ケテモラッテ図々シイトハ思ウノデスガ、私達ヲ人質ニトラレ人間達ニ連レテ行カレタ同胞ヲドウカ助ケテハイタダケマセンデショウカ! 私ニデキルコトナラ何デモイタシマス! デスカラ……ドウカ……!」


 地に頭を着け涙ながらに懇願してくる雌ゴブリン。よく見ると檻の中のゴブリン達も同じように狭い檻の中にも拘らずみな揃って地に頭を着けていた。


 やっぱりゴブリンってのは仲間思いなんだよなー。


「安心しろ。ゴブリンの男共ならもう既に安全な場所に隔離してある。今からお前達も全員そこに送るからちょっと待っててくれ」


 仲間が無事という知らせにゴブリン達の間に歓声が上がる。その光景を見ながらシーツァはトモエに連絡を取りゴブリン達が送られている亜空間への入口を開いてもらった。

 突如現れた空間の裂け目に慌てふためくゴブリン達であったが「この中を通れば仲間達のいる場所に行ける」と言われた瞬間なんの躊躇も無く次々と亜空間へと飛び込んで行った。


「ほらお前も早く行けよ。この船はもうじき沈む。早いとこ仲間のところに行って安心させてやれ」


「ハイ……、アリガトウゴザイマス。コノゴ恩ハ必ズオ返シイタシマス」


 ぺこりと頭を下げると、最後に残っていた雌ゴブリンも穴の中に飛び込んでいく。そして完全に穴の中に消えると、空間の裂け目は最初から無かったの用に消え部屋の中にはシーツァと物言わぬ5つの死体だけが残っていた。


「さて、さっさと俺も脱出しますか」


 そういって【転移】を発動し船の上空に瞬間移動すると、近くの海の中にチャーチが大海竜の姿でスタンバイしているのが確認できた。

 すぐにチャーチの真上にまで移動すると、シーツァが来たのを察知したのか海中から大海竜となったチャーチがその巨大な姿を現した。


「そいじゃチャーチ、あの1番大きい船以外は全部沈めてくれ。できるな?」


「任せてくださいまし。この(わたくし)に掛かればちょちょいのちょいですわ。ですからご褒美のことお忘れにならないでくださいましね!」


 やる気十分のチャーチがその巨大な口を大きく開くと口の奥に魔力がどんどん集まっていくのを感知した。あまりに高密度な魔力の所為でチャーチの口の中の空間が歪んで見え、周囲の海はその魔力に反応してかどんどん荒れていった。


「これでも食らいなさいな! 【ブレススパイラル】!!」


 チャーチの口から放たれた水の属性の【竜の息吹(ドラゴンブレス)】は同時に使用された【水流魔法】と絡み合い、まるで螺旋を描く水のレーザーの如く突き進み直撃した船を一瞬で海の藻屑へと変えた。


「まだまだですわ!」


 ブレスを放ったまま首を動かすと薙ぎ払われた水の螺旋は次々と帝国軍の軍船に直撃し、直撃した船は一隻の例外も無く海の藻屑へと姿を変えていった。

 そしてチャーチから放たれる【竜の息吹(ドラゴンブレス)】がその猛威を振るい終わると、シーツァの最初の注文通り、1番大きい、旗艦と思しき船のみが荒れる海の上にその姿を残していた。


「んー、なんだか地球にいた頃アニメで似たような光景を見たことあるような……。まぁいいか。チャーチ、お疲れ様」


「なんのこれしき! (わたくし)に掛かればお茶の子さいさいですわ!」


「ああ、だよな。とりあえず後は他の奴に任せてゆっくり休んでいてくれ」


「わかりました。それではお先に失礼しますわ」


 チャーチはその大きな体を再び海中へと潜らせていく。その余波で周囲の海が大いに荒れ、やがて全身が海中の奥深くへと消えていった。完全にその巨体が見えなくなると大荒れだった海は平穏取り戻したかのように凪の状態になっていた。


「さて、それじゃ俺も主戦場の様子でも見てきますか」


 シーツァは空中を滑るように飛んでいき、現在ウェウェコヨトル率いる獣魔軍団が帝国兵達とぶつかり合っているであろう場所を目指していく。途中眼下の海面では完膚なきまでに破壊された船の残骸やそれに紛れて少数ではあるが兵士らしき物体(・・・・・・・)が浮いている。らしき、というのは浮かんでいる全てが原型を留めておらず、完全な状態のものは1つとして浮いていなかった。

 やがてシーツァの視界に戦場が映りこんでくると、戦況は思いもよらない事態になっていた。

 帝国兵の密集陣形に獣魔軍団はうまく対応することができず、次々と繰り出される槍や帝国兵の後方から獣魔軍団目掛けて降り注ぐ矢の雨に1人また1人と打ち倒されていく。中には何とか槍衾(やりぶすま)を掻い潜りその牙や爪を突きたてようとするも槍を持っていないほうの手に握られている大盾に阻まれ槍の餌食になっていった。


「あらら、ウェウェコヨトルの奴一方的にやられてるな。まあ、見た感じあいつの部隊は獣人や獣型の魔物で構成されてるからな。武器を持っている獣人達ならともかく魔物達にあれの対処は厳しいだろ。どうせだったら重装備の獣人達で帝国兵を受け止めて足の速い魔物達で側面から攻撃すればいいのに……」


 上空から戦場を俯瞰しシーツァが1人呟いている中ウェウェコヨトルは焦りに焦っていた。下等生物と見下していた人間達に自慢の軍団が為す術も無く次々と殺されているのだ。既に3割の兵隊が倒され、今もなお犠牲が増え続けており、もはや壊滅寸前の様相を呈していた。


「ええい何をやっている! さっさと下等な人間共など殺しつくしてしまえ!」


 密集陣形相手には悪手ともいえる正面からの力押ししかさせていないのを棚に上げウェウェコヨトルは口から泡を吐くような勢いで配下達に怒鳴り散らす。


「しかしウェウェコヨトル様、人間共の守りが予想以上に堅くこのままでは全滅してしまいます! 一旦下げて大勢を立て直しましょう!」


「ええい、何を腑抜けたことを! 貴様それでも栄光ある獣魔軍団の一員か!」


 その横に立っている副官が怒鳴られて尚最悪の状況を何とか立て直そうと進言しているもそれに耳を貸すことなくウェウェコヨトルは苛立ちを募らせていった。


「もう我慢ならん! 私が出る!」


「お待ちください! 閣下にもしものことがあれ――ぐぁ!?」


「ええい黙れ腰抜けが! この私が下等な人間共に遅れなどとるものか! 伝令! 兵士共を下げさせろ! 私が正面から食い破る! 貴様等は混乱した奴等の横っ腹に食らいついてやれ!」


 止めようとした副官を殴り飛ばし伝令に配下の兵士達を下げると、自分の突撃後に横撃を掛けるように指示を出し、肩を怒らせながら前線へと歩いて行く。

 魔物達が一斉に引き始め、その様子を伝令から聞いたアドールは魔族軍の動きに疑問を覚え、追撃をさせることはせずにその場で防御を固めるように指示を出していた。


「カザム、どう見る?」


「そうですね……。今まで正面から突撃することしかできない様な者達でしたから不利を見て逃走と思いたいところですが……。――今物見からの報告によりますと引いていく魔物達を掻き分けるように1人の魔族が姿を現したようです。恐らくは魔族の将校クラスでしょう」


「伝令! 徐々に部隊を後退させろ、俺が出る。後退中は左右からの横撃に最大限の注意を怠らんよう伝えろ」


 物見の報告を受けたカザムの言葉にアドールはすぐに伝令を呼ぶ。すぐに現れた伝令に指示を伝えるとアドールは背中の愛剣を抜き、後の指示をカザムに任せると前線へと全身に覇気を漲らせ歩を進めていった。

 アドールが前線へと向かった後カザムの元に絶望的な報告が舞い込んで来た。突如現れた巨大な海竜によって旗艦意外全ての船を破壊されたとの報にカザムは強い眩暈を覚えるが、何とか持ち直しその報を伝えた伝令に厳重に口止めをするとそのまま下がらせた。今兵士達に帰りの船が無いことを知られて士気を下げる訳にはいかなかったからだ。

 そして前線では魔王軍獣魔軍団統括ウェウェコヨトルとヴィクト帝国の将軍、鬼人アドールが対峙し、軍団を預かるもの同士の戦いが始まろうとしていた。

ウェウェコヨトルの正体はすでに予想されている方もいらっしゃるとは思いますが、リヴァイアサン、ジズときたら1体しかいませんね。だからでしょうか正面からの突撃ばかりです。まあ、猪じゃないのに猪とか……。

まともな軍略なんて学んでこなかった彼はなまじ強かったため今の地位にいます。四魔将に次ぐ実力は伊達ではありません。次回はウェウェコヨトルとアドールの戦いになる予定です。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価大変嬉しいです。感想も随時お待ちしていたりします。


追記。この作品とは全く毛色の違う短編を投稿しました。そちらの方もお暇でしたらお読みいただけると嬉しいです。

「ウイルスホルダー」http://ncode.syosetu.com/n9436dl/

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