81話 帝国兵との戦いのようです その2
船の上空に瞬間移動してきたシーツァは【気配察知】でゴブリン達が捕まっている船を補足すると再び【転移】を使用して船の甲板に移動した。
ゴブリン達の気配は船の中、そして見張りと思われる気配も5人程すぐそばにいるのを確認すると【気配遮断】を使い船内に忍び込んでいく。気配を頼りに船内を歩き続けていると、すぐにゴブリンが捕まっているであろう部屋の前に辿り着いた。
扉越しに部屋の中の様子を窺うと、シーツァの耳に気だるげな兵士達の声が聞こえてくる。どうやらやる気も無くただ駄弁っているだけの様だった
「それにしても暇だなぁおい。俺も魔族共ブチ殺してやりたかったぜぇ。こんなとこでゴブリン共の見張りとかダルすぎるわー」
「仕方ないだろ、アドール将軍の命令なんだから。それに退屈で良いじゃないか。何もできないこいつら見張ってりゃそれだけで働いたことになるんだからよ」
「だけどよー。それでも俺ぁ退屈で死にそうだ」
檻のそばで座り込みながら不満を垂れ流す1人の兵士を他の兵士が安全と楽を主張して説得する。それでも兵士は退屈だとボヤキながら床に寝転った。
「だったらよー、そのゴブリンでも殺して気ぃ紛らわせればいいんじゃね? どうせ他のゴブリン共はもう魔族共に突撃してるんだろ? だったら捕まえとく意味ももうないよな?」
「それだっ! 確かにその通りだ。よし早速殺そう。何にも出来ねぇゴブリン共だが退屈凌ぎにはなるだろ」
他の兵士が提案すると、それは名案だとばかりに勢いよく起き上がると顔に喜悦の表情を浮かべながら腰の剣を抜き放つ。綺麗に手入れをされている剣は船内の照明の光を反射させ、その光を見たゴブリン達はさらに怯えると檻の隅に逃げる。しかし狭い檻の中逃げ場などというものは無く、ニヤニヤと笑っている兵士が近づいてくるのを絶望の表情で見つめるしかなかった。
するとゴブリン達の中から1体の雌のゴブリンが体を震わせながらも怯えている者達の前へと出てきた。
「ああん? 何だお前。もしかして観念したのか?」
「ハイ、私ハドウナッテモ構イマセン。デスカラ他ノ仲間達ハ助ケテ下サイ」
「よーしよし、良い心がけだ。それなら檻を開けてやるからさっさと出て来い。お前の殺され方で俺の退屈が紛らわされたら考えてやってもいい」
仲間の助命嘆願をする雌ゴブリンの姿をニヤニヤしている顔の口角を更に上げ、檻の扉を開けるとその首を掴んで引きずり出し、部屋の壁に投げ飛ばす。
叩きつけられた衝撃でふらつきながらもなんとか立ち上がり、兵士の方を向く。自らの命を投げ捨ててでも仲間を守ろうとする決意の込められた瞳は次の瞬間絶望に染まった。
「まあ、お前を殺したらすぐに他の奴等も後を追わせてやるよ! 1人じゃ寂しいだろうからなぁ!!」
「ソンナッ!? 約束ガ――」
「俺達人間様がテメェらみたいな下等生物と約束なんかするかよ! それに俺は言ったぜ? 考えてやってもいいってなー!!」
絶望に打ちひしがれた雌ゴブリンに向けて兵士の握る凶刃が振り下ろされる。頭ではなく肩口を狙ったのはすぐに殺してはつまらないと思ったからだろう。
そしてザシュッ、という音と共に1本の腕が傷口から血をまき散らしながら宙を舞う。――その腕は1振りの剣を握りしめていた。
「へ?」
「「「「は?」」」」
宙を舞う腕を見た兵士達は事態をうまく飲み込めないのか素っ頓狂な声を上げる。すぐに傷口から赤い血液が勢いよく吹き出し、斬られた兵士は自らの肩に突如発生した熱と痛みにようやく宙を舞っているのが自分の腕であることを理解する。斬り飛ばされた腕が床に落ちたのを合図にするかの様に兵士が悲鳴を上げ始めた。
「ぎぃやぁぁぁぁぁあああああ!! 腕ぇぇぇぇえええ!! 俺の腕がぁぁぁぁぁぁあああ!!」
悲鳴を上げ血が噴き出す肩口を抑えながら今まで経験したことのない壮絶な痛みに床を転げまわる兵士。仲間の兵士はどうすることも出来ずにいる中、1人の兵士が雌ゴブリンの前に誰かが立っていることに気が付いた。
「何者だ貴様! 何故汚らわしい魔族風情がここにいる!」
腰の剣を抜き警戒心を最大限に引き上げると先程までそこにいなかった1体の鬼、シーツァに叫ぶように問いかける。他の3人の兵士もそれに倣い同じように剣を抜くとシーツァと対峙する。油断していたとはいえ自分達がが認識できない速度で仲間を斬られていたこともあり兵士達は揃って冷や汗を流していた。
「何故ここにいるかって? そんなの簡単だ。お前等が捕まえてるゴブリン達を助けに来たに決まってるだろ。取り敢えずさっさと死――」
「「「「うぉぉぉおおおおお!」」」」
シーツァのセリフが終わるのも待たずに兵士達が一斉に斬り掛かる。腐っても兵士らしく4人は狭い部屋にありながら互いの行動を阻害することも無く、むしろ連携してシーツァの逃げ場をなくすように攻撃してきた。
次々と襲い掛かる剣をその場から1歩も動くかずに尽く打ち払う。巧みな連係で傍目からはシーツァが防戦一方になっている様に見えるが、兵士達は自分達の攻撃が全く意に介されていない事をすぐに理解した。そして一瞬でもこの攻撃を緩めた瞬間自分達が殺されることも理解していた。
絶え間なく斬り掛かってくる兵士達は緊張の糸を切らさぬよう必死に耐えているが死の恐怖に直面している精神はガリガリと削り取られていき、ついに連携に綻びが出来てしまった。
シーツァはその一瞬の隙を見逃さず1人の兵士の首を刎ね飛ばす。
血液が首から噴水の様に吹き出す光景に動きが固まった兵士達は、次の瞬間首を刎ね飛ばされ自分達が斬られた事も自覚できないまま死んでいった。
経験値を168手に入れました。レベルアップしました。
スキル【剣術Lv.3】を複数習得しました。【剣術Lv.3】×4は【剣鬼Lv.5】に統合されました。レベルアップしました。
称号【人類殺し】【人類の天敵】を手に入れました。
噴水の様に血を吹き出すオブジェと化していた死体がフラフラと揺れると、そのままドシャァッと水っぽい音を立て血の海に倒れ込む。最初に腕を斬られその光景を見ていた兵士は、先程まで顔面に張り付いていた喜悦の表情を崩し、恐怖と絶望が混ぜ合わされた様な顔をしていた。
「さて、残りはお前だけになった訳だが……」
「ヒィィィ! た、助けてくれ! お願いだ何でもする! だから頼む! 命だけは!」
シーツァが1歩踏み出すと恐怖と絶望に彩られていた顔は涙と鼻水とでグチャグチャになり、床に頭を擦り付けながら必死で命乞いをしていた。
その光景を見たシーツァは先程この男が雌ゴブリンに言ったことを思い出し、ニヤリと笑うと兵士の目の前にしゃがみ込む。
「そうだなー、そこにいるお前が殺そうとしていた雌ゴブリンに土下座して謝って許してもらえたら考えてやってもいい」
「ほ、本当か!?」
「ああ」
生きる事への希望を見出した兵士は立ち上がり、失血で顔色を青白くさせながらもシーツァの脇を通り抜け雌ゴブリンの前に立つと、何の躊躇もなく土下座を敢行した。
「先程は申し訳ありませんでした! もう二度と致しません! 兵士もやめます! ですから何卒お許しを!」
雌ゴブリンは先程まで自分を殺そうとしていた兵士が自分の前で土下座して謝罪していることに目を白黒させながら勢いに押され首を縦に振る。その姿を見た兵士は喜び、涙を流しながら感謝するとシーツァに向き直る。
「許してもらえました! これで助けてもらえるんですよね!」
「そうだなー、他の兵士達もお前だけ生き残ってたら不公平だって言うだろうからお前も同じ所に送ってやるよ」
シーツァの言葉に先程まで喜びと安堵に満ちた表情をしていた兵士の顔が一気に恐怖へと塗り替えられる。後ずさりしながら信じたくないといった顔で叫ぶ。
「そんな!? さっき命だけは助けてくれるって言ったじゃないか!」
「何を言っている? 俺は考えてやってもいいって言ったんだ。お前もさっきそこの雌ゴブリンに言ってたじゃないか。忘れたのか?」
「そ……そんな……。嫌だ! 俺はまだ死にたくないんだ!」
「五月蠅いな。男だったら自分の言った言葉にくらい責任持てよ。んじゃサクッと死ね」
小さい子供がいやいやをするかのように涙を流しながら首を振る。シーツァが腕を振るうと生き残っていた兵士の首が宙を舞う。だいぶ出血していた為か他の兵士よりも首から吹き出す血液の勢いの弱く、すぐに力を失い他の兵士同様血の海に沈んだ。
他の兵士と違うのは、床に転がる頭の表情が1人だけ恐怖と絶望に彩られている点であろう。
その先程まで自分達を殺そうとしていた兵士達が死んでいく様を見ていたゴブリン達は最後まで何が起こったのかを理解できておらず、目の前の光景を呆けた顔で見続けていた。
名前 シーツァ ♂
種族 鬼族:戦鬼
状態 健康
Lv 61
HP 3094/3094 (+2500)
MP 3991/3991 (+3500)
攻撃力 2041 (+1500)
防御力 1974 (+1500)
魔力 3966 (+3500)
魔抵抗 3975 (+3500)
速度 1970 (+1500)(+5)
運 571 (+140)
特殊スキル
【異世界言語】【スキル習熟速度倍加】【王の加護】【蒐集Lv.2】【異次元収納】【看破】【特殊武具作成Lv.4】【複製転写Lv.3】【眷属召喚】【転移】【仲間の絆】【霊体化】【迷宮適応Lv.1】【群体】【感染】【素戔嗚】【伝播】【鼓舞Lv.1】
強化系スキル
【最大HP超上昇Lv.5】【最大MP超上昇Lv.7】【神力Lv.3】【城壁Lv.3】【魔神Lv.7】【韋駄天Lv.3】【幸運Lv.7】【消化吸収強化】
攻撃系スキル
【猛毒撃Lv.1】【投擲Lv.10】【強痺撃Lv.1】【精密射撃Lv.10】【眠撃Lv.6】【突進Lv.10】【竜の息吹:炎】
防御系スキル
【防音Lv.6】【状態異常無効】【絶対防御Lv.1】【気配察知Lv.7】【気配遮断Lv.8】
魔法系スキル
【回帰魔法Lv.2】【物理魔法Lv.10】【消費MP軽減Lv.9】【魔力感知Lv.7】【強属性魔法Lv.1】
武技系スキル
【剣鬼Lv.6】【盾鬼Lv.7】【弓術Lv.4】【斧鬼Lv.1】【槍鬼Lv.1】【拳闘術Lv.6】
技能系スキル
【飛行】【ジャンプLv.10】【空間機動】【蜘蛛糸Lv.10】【倍加】【威圧咆哮】【騎乗Lv.8】【人獣一体Lv.3】【鷹の目Lv.9】【調教Lv.9】【上位アンデッド作成】【中位アンデッド作成】【下位アンデッド作成】【浮遊】
自己回復スキル
【HP自動回復Lv.8】【MP自動大回復Lv.1】【超再生】
称号
【スキルコレクター】【竜の討滅者】【大鬼殺し】【不死殺し】【人類殺し】【人類の天敵】【魔物の天敵】【ハーレム野郎】
なんか途中書いていてシーツァの方が悪役ではないかと思ってしまいましたがこの物語の主人公はシーツァなのです。決して悪役ではありません。まあ、善悪なんて立場が違えば変わってくるものですが……。
とりあえず次回はゴブリンを救出したシーツァが戦場に戻ります。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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