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生きるために強くなる ~だってゴブリンに転生しちゃったし~  作者: ミジンコ
第3章 元ゴブリンと魔族大陸と幼馴染魔王
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79話 魔族大陸に近づく人間達のようです

今回主人公は一切出てきません。

 荒れる波を掻き分け複数の船団が魔族の大陸を目指し航海を続けている。普通の木造船とは違い、船の表面に魔法鉄を使い作られた鋼板を張り巡らせることによって今までにない高い魔法への親和性と防御力を手に入れていた。そのままでも硬い鋼板は更に防御魔法を掛けることにより飛躍的にその防御力をあげている。

 つい先程まで船団を襲っていた魔物達の攻撃にもビクともしない装甲は、乗船している兵士達に安堵と反撃への意欲を高めさせていた。


「アドール将軍! 海中から我が帝国船団を攻撃していた魔物の群れは撤退したとの報告が入りました。我が軍に被害はありません」


「ご苦労、下がって休め」


「はっ! 失礼いたします!」


 報告していた兵士は綺麗に敬礼をした後部屋を出て行く。そして部屋にはアドールと呼ばれた将軍ともう1人が残っていた。

 部屋の主である将軍アドールは将軍職に相応しい白銀の鎧を見に纏い、年齢こそ67と戦場に立つ人間としては高齢ながらも今だ衰えを見せぬ鍛え抜かれた体は一瞬オーガと見間違うほどである。体格だけでも他人を威嚇するには十分であるのにも関わらず、その眼光は年齢を感じさせぬ程に鋭くまさに眼光炯々たりと言った風体であった。

 そしてもう1人の男、アドールとは正反対に線の細い神経質そうな瞳をした参謀カザムである。参謀故か鎧を見に纏うことはせずに黒い帝国の軍服を身に纏うカザムは将軍であるアドールと同期であった。

 カザムは兵士が出て行った扉を神経質そうな瞳で見つめ続け、足音が完全に遠ざかった事を確認すると首だけを動かし将軍に問いかけた。


「で、どう思われますか将軍」


「あん? 今は俺達しかいないんだ堅苦しい話し方はよせ。寒気がする。で、何がだ?」


 将軍の言葉にカザムは盛大に溜息を吐くと近くにあった椅子にドカッと腰を下ろし改めてアドールに問いかける。


「で、アドールお前はどう思うんだ? 随分とあっさり魔物共が退いていったと思わないか? てっきりマーマンあたりが乗り込んでくると思ったんだがな」


「そうだな……、確かに引き際が良すぎる気がしないでもないのは確かだ。だがそんなことをいちいち気にしていたら一向に魔族の殲滅なんざ夢のまた夢だろう」


「それは確かにそうだが……、もしかしたら魔族共は海戦は不利と見て大陸に上陸した時を狙ってくるんじゃないのか?」


「だったらそれはそれで俺達で蹴散らせばいいだけの話だ。幸い捨て駒は大量にあるからな」


 そう言って口角をあげるその顔は小さい子供が見たら迷うことなく泣き出しそうな程に凶悪な笑みだった。カザムは同期の凶悪すぎる笑顔に額に手をやりながら更に深い溜息を吐いた。


「確かに捨て駒は大量に用意した。まさかゴブリンの子供や雌を人質……いや魔物質にするだけであっさりと服従するとはな。今も肉盾用のゴブリン共は1隻の船にまとめて収容して精鋭に見晴らせている。万が一反乱を起こしても簡単に皆殺しにできるだろうさ」


「で、捕まえてきた雌やガキ共はどうしてるんだ?」


「他の船に収容してある。万が一にも逃げ出せないように鋼鉄の檻に入れてな」


「そうか。魔族大陸に着いたらそいつらを使ってゴブリン共を脅し、捨て駒にして時間を稼いでる間にこちらの陣形を整えるとするか」


 部屋にノックの音が響く。アドールが一言「入れ」と言うとガチャリと扉が音を立てて開き、先程報告に来たのとは違う兵士が入室してきた。

 姿勢を正し敬礼をするとアドールに向かって報告を伝える。


「報告します! 先程魔族大陸が見える距離まで辿り着いたとのことです!」


「そうか、報告ご苦労。上陸の準備を進めるように伝えろ。それと戦闘準備もだ。恐らく上陸してすぐに魔族共が襲い掛かってくる可能性が高い」


「はっ! 了解しました! 失礼します!」


 報告に来た兵士が部屋を出て行き、再び部屋にはアドールとカザムの2人だけになる。

 アドールは部屋の壁に立てかけてある長年共に戦場を駆け抜けてきた愛用の大剣を手に取った。

 身長約190cmという巨大な体躯よりも更に大きく、剣先から柄頭まで約200cmの大きさを誇っている。幅広の剣身は相手を切り裂くというよりも重量で叩き潰す事に特化しており、アドールはこの大剣で数多の敵を屠ってきた。一度戦場に出れば、常人には持ち上げることも困難なその大剣を軽々と振り回し敵を殺戮していく。その敵兵を殺し続け、返り血で全身を染め上げた姿からアドールは“鬼人”と呼ばれるようになっていた。

 アドールはそんな相棒を背負うとカザムを伴い部屋を出ると甲板に向かった。甲板では兵士達が忙しなく動き続け上陸の準備を進めている。他の船でも同じような光景が繰り広げられていた。

 船の船首に仁王立ちし前方を見つめる。その先にははっきりと魔族大陸が姿を見せていた。


「それにしても陛下は何故このような時に魔族大陸の遠征などお決めになったのだろうか。今だ帝国に従わぬ蛮族達と日々衝突を繰り返しているというのに」


「恐らく貴族達の進言を抑え切れなかったのでしょう。魔族を滅ぼせば魔族大陸という豊富な土地が手に入りますからな。魔族は人類の敵と言いつつも下心は丸見えです」


「まったくあの貴族(ゴミ)共にも困ったもんだ。いつもいつも余計なところでしゃしゃり出てきて余計なことしかしやがらん」


「ハハハ、耳が痛いですね」


 呆れかえる様に溜息を吐くアドールの横でカザムが乾いた笑みを浮かべる。その姿を見たアドールはつい忘れていたことを思い出し、すぐに謝罪した。


「お気になさらず。貴族達が碌でもないのは本当のことです。それに私は貴族と言っても父が武功を立てて騎士爵を賜っただけですから」


「いや、武功を立てて成り上がったのは素晴らしいことだ。お前も知っているだろうが俺も戦場で武功を上げ今の地位にいるからな。他の馬鹿貴族にも見習わせてやりたい」


「鬼人と謳われるアドール将軍からそこまで言われては父も喜びますよ」


 徐々に船が大陸に近づいていく。すぐ後ろに兵士が上陸の準備が終了したことを報告してきた。

 それを聞いたアドールは全身に覇気を漲らせていく。その気迫にカザムはアドールの周囲が揺らめいて見えるような錯覚を覚えた。

 アドールが振り向くと甲板には多くの兵士が規律正しく並び将軍の言葉を今か今かと待っている。他の船にも甲板に兵士が並びアドールの方を向いて整列していた。


「兵士諸君!! 我等がヴィクト帝国に仕える勇猛なる兵士諸君!!」


 大きく息を吸ったアドールの大きな声が辺り一帯に響き渡る。その力強い声は甲板にいる全ての兵士達に叩きつけるように届いていた。


「魔族大陸が目前に迫っている! 我等のやるべき事は人間の敵である魔族を殲滅し魔族大陸を我等が皇帝陛下に捧げることである! 兵士諸君! 命を惜しむな! 名を惜しめ! 我等の力をもって魔族共を蹂躙するのだ!!」


「「「「「「オオオオオオオオォォォーーーーーーーーーー!!!!」」」」」」


 アドールの檄を受けた兵士達の咆哮がビリビリと大気を震わせる。その感覚を心地よく思いながら再びアドールは魔族大陸に向き直る。後ろでは今なお兵士達が咆哮を上げ続けていた。


「さあ魔族共! 人間様の力を見せてやる!」


 凶悪な笑みを浮かべながらこぼした一言は兵士達の咆哮に掻き消され、誰の耳にも届くことはなかった。

今回は前書き通りシーツァ達が一切出てきませんでした。今回攻めてくるのはヴィクト帝国の兵士達です。中でもアドール将軍は帝国一の強さを誇る武人です。

シーツァとどう戦うのか未だに決まっていません……。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

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