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生きるために強くなる ~だってゴブリンに転生しちゃったし~  作者: ミジンコ
第3章 元ゴブリンと魔族大陸と幼馴染魔王
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78話 軍議のお時間のようです

 シーツァとトモエが結ばれた次の日の朝、シーツァ窓のカーテンの隙間からから差し込む日の光と小鳥の囀りで目を覚ました。

 目を開いたシーツァの左腕や体にある違和感に目を向けてみると、そこにはトモエがシーツァの腕を枕代わりにし、シーツァに抱きつくような形で幸せそうに眠っているのが見える。時折寝言でシーツァの名前を呟きながらも今だ目を覚ます気配はなかった。


「そっか、これがよく言う朝チュンって奴か」


 外からの鳥の囀りに耳を傾けつつトモエの寝顔を眺めながら誰に言うでもなく呟く。ポツリと呟かれた声に反応したのかシーツァに寄り添うように寝ているトモエがもぞもぞと動き始めた。


「ん……、おはよう……暁……」


「ああ、おはよう。起こしちゃったか?」


「んーん、大丈夫……。でももう少しこのまま……」


 そう言ってトモエは再び目を閉じ「すぴー」と可愛らしい寝息をたてて眠りに落ちていく。シーツァもその可愛らしい寝顔を飽きることなく見続けているうちに徐々に瞼が下がっていき、トモエと共に再び眠りに落ちていった。

 それから2人はどれだけ眠っていたのか、シーツァの意識が眠りの世界からゆっくりと浮上して行き、心地よいまどろみの中に漂っていると、部屋の外から女性の慌てるような声が聞こえてきたような気がした。

 薄い意識の中その声に耳を傾けてみると、かなり慌てている様である。その声が徐々にこの部屋に近づいてくるとノックも無しに勢いよくトモエの部屋の扉が開かれた。


「大変ですトモエ様ぁぁぁぁあああ!? 失礼しましたーー!!」


 声の主はトラソルテオトルだったらしく、昨日のシーツァが感じた印象からは想像もつかない慌てぶりで部屋に突入してきたと思ったらベッドの上でシーツァと共に寝ているトモエの姿に今まで慌てていた事柄が全て虚空の彼方へ吹き飛び、先程とは別の理由で慌てて部屋の外に逃げるように出て行った。


「って違いますよ! そんなことしてる場合じゃないですよトモエ様ーー!!」


 出て行ったと思った矢先に再び扉を勢いよく開きトラソルテオトルが部屋に入ってきた。

 その声と扉を開く音が流石に大きかったのか、隣で眠っていたトモエも流石にゆっくりとではあるが目を覚ます。未だにはっきりとしない頭で名残惜しそうに今まで枕にしていたシーツァの腕を見つめ、その未練を断ち切るように寝ぼけ眼を擦りながら声の主に向き直る。


「いったいどうしたのよこんな朝早くから……。せっかくこの世の幸せを味わっていたのに……」


「どうしたもこうしたも無いです! 大変なんです! 人間共が攻めてきたんですよー!」


 思いもよらなかったセリフに半分寝ていたトモエの頭も一気に覚醒し、すぐに指示を飛ばす。


「すぐに四魔将を会議室に招集して! 暁もソーラちゃん達を連れて会議室に来て」


「かしこまりましたー!」


「了解。すぐに行くよ」


 指示を受けたトラソルテオトルが部屋を飛び出して行く。シーツァもベッドから降り、すぐに装備を整えると体面にあるシーツァ達に用意された、トモエに拉致られなければシーツァがソーラ達と寝るはずだった部屋に軽くノックをしてから入った。

 部屋の中には既に着替え終えているソーラとアイナが装備の点検をしている。姿の見えないシリルを探して部屋を見回したシーツァの目にベッドの上で土下座に近い状態で突っ伏し、寝巻が肌蹴、あられもない状態のシリルが映った。どうやら起きようとしたものの眠気に勝てずに寝てしまったようである。


「おはようソーラ、アイナ」


「おはようシーツァ。昨夜はお楽しみでしたね?」


「今日は~、私達も混ぜてねぇ~?」


「わかってるよ。それより会議室に来てくれ。人間達が攻めて来たらしい」


 笑いながらからかってくる2人にシーツァはトラソルテオトルが報告してきた事を簡単に説明すると、笑っていた顔つきを真剣なものに変えてすぐに装備の点検を終わらせる。


「準備できたよ。シリル、会議室に行くから起きて」


「がぅ……、まだ……眠い……」


 ソーラがシリルに声を掛けるが、まどろんでいる為か薄い反応が返って来たのみでまたすぐに眠りにおちようとしている。そんなシリルの姿にシーツァは苦笑しながら近づき、寝巻の乱れを整えると【物理魔法】を使いってシリルを浮かび上がらせる。浮かび上がったシリルを背負うと、緩んだ寝顔がさらに幸せそうなものへと変わっていた。

 そして部屋を出たシーツァ達が巨大な廊下を歩いて行く。やがてたどり着いた会議室に入るとそこは既にトモエとトラソルテオトル、四魔将が揃っており緊迫した空気に包まれていた。


「遅れて済まない」


「やっと来たのね暁。とりあえず隣に座って」


 トモエに促されたシーツァ達は会議室の中に足を踏み入れトモエの元まで歩いていく。未だ眠っているシリルをアイナの隣に座らせてやるとシーツァもトモエの隣に腰を下ろした。


「それじゃあみんな集まったわね。トラソルテオトル報告を」


「はっ、報告致します。本日未明テノチティトランの北の荒野のさらに北に広がる海の沖合約30Kmの地点に多数の魔力反応を感知しました。上空から偵察に行かせた者によると複数の大型船を発見したとの事です。魔力の反応から半分以上は人間で残りは恐らくゴブリンのものであるとの事です」


「なるほど、陸に上がられるとちょっと面倒だね。なんでゴブリンが乗っているのかわかんないけど……チャルチウィトリクエ、迎撃を」


「只今(わたくし)の配下が船を攻撃している最中ですわ。ただ、状況はあまり芳しくありませんわね。部下からの報告によるとどうやら木造船ではなく、金属で出来た船らしいのです。それを更に魔法で覆っているものですからこちらの攻撃がほとんど聞いていないらしいのですわ」


 迎撃に出している配下からの念話による報告を歯がゆい思いを隠し切れずに話すチャーチ。今までは配下の攻撃でほとんどを沈めることができたが、今回は勝手が違っていたようであった。


「了解。てことは陸で迎え撃つしかないか。ケツァルコアトル、あなたの軍はどう?」


「はっ。既に出撃準備は万端にございます。後は如何様にもご命令を」


「わかった。あなた達竜魔軍団はうちの最高戦力だからこの街の防衛を頼むわね」


「トモエ様の御心のままに」


 重く低い声でトモエに頭を垂れるケツァルコアトル。その姿にトモエは頷き、更なる指示を出していく。


「ウィツィロポチトリ、あなたは配下の鳥獣軍団を率いて偵察と遊撃をお願いするわ」


「仰せのままに我等が主よ」


「ウェウェコヨトル、あなたは軍団を率いて上陸してきた人間を迎撃しなさい」


「お任せくださいトモエ様! このウェウェコヨトル、必ずや勝利してご覧にいれましょう」


 ウィツィロポチトリがまるで執事の様に綺麗な一礼をし、ウェウェコヨトルは立ち上がりトモエに向かって優雅に、そして自信満々に一礼する。見た目も相まってその姿は貴公子然としていた。


「それで暁はどうする? あれなら私とここに残ってもいいけど」


「そうだな、ちょっと人間達と一緒にいるゴブリンってのが気になるから前線に行くよ。もし人質取るなりして無理矢理従えさせられてるなら助けてやりたいしな」


「はんっ、貴様何を言うかと思えばゴブリンを助けるだって? あんな放っておけばいくらでも湧いてくるような雑魚、助ける価値もない! 人間共と一緒に皆殺しに――!?」


 再び立ち上がったウェウェコヨトルが得意気にそこまで言った瞬間、濃密な殺気が瀑布のように会議室の中で荒れ狂った。突然、自分に向けられた強烈すぎる殺気に息を呑むウェウェコヨトル。緊張した視線を殺気の主に向けると「ひっ!?」と小さく悲鳴を上げた。


「テメェ、今なんて言った? ゴブリン達を皆殺しにするって言ったのか?」


「そ……、そうだ! それの何がいけない! ゴブリンなど知能も低く所詮繁殖するしか能のない魔族と言うのも憚られる奴等ではないか!」


 シーツァの怒気に気おされながらも口角泡を飛ばすように必死に反論をするウェウェコヨトル。その顔に先程までの自信は既になく、反論をする声も自分に言い聞かせているようにも聞こえた。


「五月蠅い。俺も元はゴブリンだったから分かるが確かにゴブリンは頭が悪いし弱い。繁殖力が強いのも数でそれを補おうとしているからだ。だけどな、ゴブリン達は仲間を大事にする種族だ。人間が俺達の村を襲って来た時、俺達の育ての親は生まれてまだ日も浅い俺達を守る為に人間に立ち向かって殺された。そんな仲間を守る為に自分を犠牲にできる奴らを馬鹿にする事は絶対に許さん!!」


 今まで会議室を満たしていた殺気が更に濃度を上げウェウェコヨトルに襲い掛かる。直接殺気を向けられた為か顔面を蒼白にし腰を抜かすかのように席に崩れ落ちた。

 シーツァが盛大に殺気を飛ばしている中、ソーラは大人ゴブリンの最後を思い出したのかアイナの豊満な胸に顔を埋めしゃくりあげるように泣いているのが目に映った。

 その姿を見たシーツァは殺気を引っ込めると、辛い事を思い出させたとソーラに詫びトモエに向き直る。トモエも地球にいた頃からは想像もできない程に強烈な殺気に若干冷汗を流していた。


「てことでゴブリン達が無理矢理従えさせられてるなら助けてくる。まあそうじゃなかったら殺すが問題ないよな?」


「暁のしたいようにして全然問題ないよ。助けられるにこした事はないからね。ついでにチャルチウィトリクエも連れて行っていいよ。人手は多い方が良いでしょ? あなたもそれでいいわね?」


「かしこまりましたわトモエ様。先の失態は必ずや挽回して見せましょう」


「よし! それじゃあ各々の奮闘に期待するわ! 総員それぞれの持ち場につきなさい!」


「「「「はっ!」」」」


 トモエの号令の下四魔将が同時に敬礼をし会議室を後にしていく。会議室を出る際にウェウェコヨトルの顔が屈辱に歪んでいた事に気が付いたものは誰もいなかった。

軍議の時間ウィツィロポチトリの存在をすっかり忘れていたミジンコです。最後の最後で四魔将が席を立つシーンで誰か忘れてると思い読み直してみると完全に存在が無かったので慌てて入れました。

シーツァ君と戦ったのに何で忘れてたんでしょうか……。

次回魔族大陸に来て初めて人間と戦います。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価大変ありがとうございます。非常に励みになっております。

誤字脱字、その他気が付いたことなどありましたらお気軽にお願いします。

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