73話 決闘のようです
トモエによる開始の合図と同時に2人は一斉に行動を開始する。
「先手必勝! 食らえ! 【石の槍】!!」
開始の合図と同時にウィツィロポチトリに向けて魔法を放つ。魔法によって生み出された石の槍は物凄い速度でウィツィロポチトリに迫っていく。
「そんなありきたりの手が通用するわけないでしょう!」
背中の鷹の翼を大きく広げ瞬時に上空へと舞い上がり、石の槍を回避する。
「今度はこちらの番です!」
シーツァ目がけて弾丸のような速度で急降下し、握りしめた槍を突き出す。
何とか突き出された槍を回避したものの再びウィツィロポチトリは上空へと舞い上がり、勢いを殺すことなく再び急降下してきた。
再び上空に行かれては堪らないと盾を構え受け止めようと重心を低くする。
盾を構えたシーツァの目に一瞬ウィツィロポチトリの口角が微かに上がったように見えた瞬間全身を悪寒が包み込んだ。
咄嗟に横に避けてギリギリのところで回避したものの、槍が当たっていないにも関わらずシーツァの鎧には酷い傷が出来ていた。
まるでミキサーか何か高速で回転するもので勢いよく削ったような跡である。
「よくぞ避けました。盾で受け止めようとしていたらあなたは負けていたでしょう。では小手調べも終わりにして……、行きますよ!」
そう宣言するや否や先程とは比べ物にならない速度で再び急降下してくるウィツィロポチトリ。
「くそっ! 【炎の壁】!!」
「甘い!!」
シーツァが魔法によってウィツィロポチトリとの間に出現させた炎の壁は盛大に燃え盛り周囲にその熱を振りまく。
しかし炎の壁は一瞬でもウィツィロポチトリを怯ませる事は出来ず、真正面から突き破られた。
やばっ!?
炎の壁を簡単に突き破ってきたウィツィロポチトリの姿に驚き目を見開きながら咄嗟に盾を構えるが、槍はいとも簡単に盾を紙のように引き裂き、そのままシーツァの左腕をもズタズタに引き裂き吹き飛ばした。
「ガァァァァァァァァァァァァァ!!」
何とか踏み止まって耐えたものの、ミスリル製の盾だったものと元左腕だった挽き肉はシーツァの後方でベチャリと水っぽい音をたて地に落ちた。
「ほう、左腕1本で済みましたか。体半分は吹き飛ばせると思ったのですが、存外やりますね」
上空で余裕の表情を浮かべながらシーツァを評価するウィツィロポチトリを顔中脂汗まみれにしながら残った右手で無くなった左の肩口を押さえる。
左腕に受けた攻撃の痛みの感覚からシーツァは先程の悪寒の正体を悟った。
「テメェ……、その槍に魔法で激しく渦を巻く風を纏わせてるな? それでさっき回避した時も鎧を削られたわけだ……」
「ほう……、あの少ない攻防からよくぞ我が槍の正体を見破りましたね。ご名答、我が竜巻の槍はいかなる物も削り取る最強の槍! あなたに対処することができますかな?」
ウィツィロポチトリが再び上空で槍を構える。先程とは比べ物にならないほどのMPを込めたのだろう槍は、光を屈折させ目に見えるほどに高密度の渦巻く風を纏っていた。
対するシーツァは【超再生】により腕を新しく生やすと再びミスリル製の盾を作り出し構える。
盾には先程とは違い、【旋風軽減】と【魔法軽減】の2つが付与され、先程よりはマシになっていると思われた。
「てかテメェ人の体半分吹き飛ばす気だったとか……、死んだらどうする! 相手を殺すのはルール違反じゃないのかよ!」
「ご安心を。体半分吹き飛ばされても即死しなければすぐにトモエ様が治して下さいますよ。遥か東の鬼族の生命力は非常に強いと言われておりますしね。さてお喋りはこのくらいにして……、行きますよ!」
宣言と共に槍を突き出し急降下してくる。先程よりも威力のある槍だけでも厄介だというのに今度はウィツィロポチトリ自身も全身に風を纏い、もはや1発の弾丸のようになっていた。
一瞬のうちにシーツァへと肉薄し、その盾を貫く。しかしそこにシーツァはおらず、槍に貫通された盾だけが残っていた。
先程の紙のように引き裂かれた状態ではなく、槍が貫通しているにもかかわらず表面に渦巻き状に削れた跡だけが残っている。槍に貫かれた盾の状態に決闘も忘れ怪訝な表情をしているウィツィロポチトリの上から先程貫こうと思っていた標的の安堵の声が聞こえてきた。
「ふぃー、咄嗟に逃げといて正解だったぜ。なんとか風は軽減できたけど完全には打ち消せなかったか。しかも魔法とか関係なしに俺の盾ぶち抜くとか……、ミスリル製だぜその盾」
「いったいどんな手段を使ったのか……、私の竜巻の槍が纏いし風をここまで軽減されるとは思いませんでした。それに私の槍はミスリル製ですが正確にはミスリルとオリハルコンの合金です。ただのミスリルなぞ簡単に貫けます――よっ!」
槍の自慢をしながらも足に力を溜め、跳躍と同時に足の裏で爆発的な風を巻き起こし圧倒的な推進力は急降下となんら遜色ない速度で上空にいるシーツァに向かって上昇していく。
盾を構える様子のないシーツァの姿に一瞬怪訝な表情を浮かべるもすぐにそれを振り払い、次こそ貫くとばかりに鋭い視線を向ける。
そしてその槍がシーツァに届く寸前、ウィツィロポチトリを目に見えない重圧が襲い掛かった。
突然の事態に対抗することも出来ず落下していき、盛大な土煙を上げて地面に激突するウィツィロポチトリ。落下の痛みも忘れるほどに混乱している彼の耳に自分を何らかの方法で叩き落としたであろう者の声が聞こえてきた。
「さっきまではやられっぱなしだったが形勢逆転だな。それだけの重力だ、もう立ち上がる事も出来ないだろ? さっさと降参してくれるとありがたいんだが?」
シーツァのセリフにウィツィロポチトリの中で何かが切れた。鳥獣軍団の統括を任された自分が地に這いつくばり、相対している相手が上空からこちらを見下ろしてくる。屈辱的な現状は鳥王とまで言われたウィツィロポチトリのプライドをズタズタに引き裂くには十分すぎた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
地に伏しながら大きく咆哮を上げるウィツィロポチトリの体がその声に呼応するかのように眩く輝き始める。
そして光に包まれた体が人型のそれから徐々に巨大な鳥の姿に変化していった。
今までの人型からは想像もつかないほどに巨大な姿は以前戦った火竜が子供に見える程である。
光が治まり現れたのは、金色に輝き、上半身が鷲に酷似した鳥、下半身が獅子に、簡単に言えば前足のないグリフォンの姿をもった怪鳥だった。
髙い嘶きと共にまるで重力を無視するかのようにシーツァよりも高い位置へと一気に舞い上がる。
その際翼から巻き起こされた爆風の様な風に曝されたシーツァは何とか魔法で自分の体を覆い吹き飛ばされずにすんだ。
「この姿になったのはいったい何時振りでしょうか……。もはやあなたを試すような事はしません。全力で叩き潰させていただきます!」
「こっちだって最初から負ける気なんてさらさら無いんだよ!」
大きく開かれた嘴に魔力が集中すると、その口内から巨大な竜巻がシーツァ目掛けて放たれる。
轟っ、と激しい音をたてて迫ってくる竜巻を空間を蹴りつけ回避し、魔法を放って来たウィツィロポチトリの方を見やる。
「いない!? どこ――ガッ!」
背後から鋭く重い痛みがシーツァを襲い、そのまま地面に叩きつけた。
地面に全面から叩きつけられうつ伏せの状態になっていたシーツァは何とかその身を仰向けにすると、上空ではウィツィロポチトリが再び嘴を開き狙いを定め魔法を撃ち込む寸前になっていた。
叩きつけられた痛みで起き上がる事も出来ないシーツァに無慈悲な魔法が竜巻の形を取って襲い掛かる。
回復する暇もなく襲い掛かってくる竜巻を防ごうと、自身の前面に土で作り上げた壁とその表面に風の障壁を展開した。
しかし圧倒的な竜巻の一撃はシーツァの作り出した壁など豆腐であると言わんばかりにいとも簡単に砕き、シーツァを飲み込む。
ヤバい……、このままじゃ負ける……。何か良い手はないか……。そういえば、まだ1度も使ってないスキルがあったな……、あれに賭けてみるか。
「これで終わりです!」
再び上空からシーツァ目掛けて竜巻が容赦なく襲い掛かる。地面に横たわり動く事も出来ないシーツァに竜巻が直撃した瞬間ウィツィロポチトリは勝利を確信した。竜巻が消え去った後、そこにシーツァがいないことに気が付くまでは……。
「な!? いない!? 何処に行った! あの一撃で欠片も残さないほどに脆弱ではないはずだ!」
左右に首を振り周囲の地面をくまなく探すがシーツァの姿はどこにも見当らない。そんなウィツィロポチトリの顔に太陽が無いはずの空間であるにもかかわらず影が差す。瞬時に顔を向けたウィツィロポチトリの目には驚愕の光景が映り込んだ。
ボロボロの体でその体に風を纏って空を飛んでいるシーツァの背後に無数の輝く波紋が広がり、その波紋1つ1つの中心から剣や槍など武器が波紋1つにつき一本、頭を覗かせている。
「な……なんですかそれは……!?」
「ただの……切り札だ!!」
翳した手を振り下ろすと背後の波紋から頭を覗かせていた武器が一気にウィツィロポチトリ目掛けて射出される。
雨霰と降り注ぐ無数の武器はその身を敵に突き立てんとばかりに一直線に宙を走って行った。
「う、うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
咆哮と共に口から竜巻を放ち武器を迎撃に掛かるが、それはいとも簡単に竜巻を切り裂きウィツィロポチトリの体に突き刺さっていく。
「見事です……」
頭を残し、埋め尽くすほどに体に武器を突き刺され、ハリネズミのようになったウィツィロポチトリはその身を力なく地面に落下させていった。
「あんたもな……」
ズズン、と地面に大きな音を立てて墜落したウィツィロポチトリを見届けたシーツァは一言呟くと朦朧としていた意識を手放す。
すでに満身創痍だったシーツァの体は意識を失い魔法が解除されると地面に向けて真っ逆さまに落下していった。
今回初めて【転移】のスキルを使いました。決して今まで忘れていた訳ではありません。
このスキルは目視できる範囲と一度行ったことのある場所に行くことができます。
今後も活躍すること間違いなしだと思います。
皆様のおかげもあってこの作品はブックマークが500件を超えることができました。
まさかここまで伸びるとは思っていなかったので大変うれしいです。
これからも『生きるために強くなる ~だってゴブリンに転生しちゃったし~』をよろしくお願いします。