72話 会議室での出来事のようです
「さて、みんな集まってくれたようね。それじゃあ始めましょうか」
トモエが会議室に集まった面々を見回すと、いつもと変わらない調子で開始の宣言をした。
会議室の中には、一番奥の席にトモエが、その背後にはトラソルテオトルが静かに控えており、テスカトリポカを除く3人の四魔将である、竜魔軍団統括竜王ケツァルコアトル、鳥獣軍団統括鳥王ウィツィロポチトリ、水魔軍団統括海王チャルチウィトリクエが定位置に腰を下ろしている。
シーツァ達はトモエの隣に席を用意してもらい、シーツァ、ソーラ、アイナ、シリルの順に座っていた。
会議が始まる前から一貫してウィツィロポチトリの視線をシーツァは一身に浴び、若干の以後気落ちの悪さを覚える。
そんなシーツァを興味深そうな、あるいは訝しげな眼差しで見ていたウィツィロポチトリはトモエに視線を向けると質問を投げかける。
「それでトモエ様、本日の会議はいったいどのような内容なのでしょうか? テスカトリポカ殿の後任の件でしたらしばらく保留との事でしたが……」
「トモエ様が必要と判断したから我等を御身の前にお呼びになられたのだ。そこに何の疑問を挟む必要がある?」
「そ、それは確かにその通りですが……」
ウィツィロポチトリの発言を聞いたケツァルコアトルがそれまで閉じていた瞼を開くと、その瞳に若干の怒りを滲ませながら窘めた。
ケツァルコアトルから微かにではあるが怒りの感情を読み取ったウィツィロポチトリは同格の四魔将ながら冷汗を流す。
「いいよ別に。急に読んだのはこっちだしね。それより今日の議題だけど、私の隣に座ってる人達の紹介と不死軍団統括不死王テスカトリポカの爺様の後任と不死軍団についてよ。3人とも私が違う世界から先代によってこの世界に召喚された事は知ってるわね? 彼の名前は暁。私と同じ世界で死んでこちらの世界にやってきた転生者よ。暁、簡単な自己紹介して」
「わかった。俺の名前はシーツァ。トモエの言った通り前の世界にいた時は暁って名前だった。よろしく」
トモエに促されたシーツァの自己紹介が終わるとケツァルコアトルはシーツァの事を興味深そうに見つめ、ウィツィロポチトリからは非難の声が上がった。
「貴様! 何処の馬の骨かは知らないがトモエ様を呼び捨てにするとは何事だ!」
勢いよく席から立ち上がり怒り心頭といった表情でシーツァを指さす。鳥の形をした頭に付けている羽根飾りが立ち上がった勢いで揺れる。
会議室の視線が一斉にウィツィロポチトリに向く中、トモエは『やっぱりこうなったか』と言いたげな視線を向け内心溜息をしていた。
「いいのよ。暁とは前の世界にいた時は子供の時からずっと一緒にいた幼馴染なんだから。それと私の旦那様ね。それと……ソーラちゃん達も自己紹介してちょうだい」
「……ソーラです……シーツァのお嫁さんです……よろしくお願いします……」
「アイナです~、シ~ちゃんのお嫁さんですよ~。よろしくねぇ~」
「がぅ、シリル。シーツァの番」
トモエに促され、向けられた強者の視線にソーラは若干怯えながら、アイナはいつも通りのんびりおっとりとしながら、シリルは興味なさそうに自己紹介をした。
「それで、暁にはテスカトリポカの爺様の後任を頼もうと思ってるのよ。いつまでも四魔将が3人じゃかっこつかないしね」
「「は?」」
トモエのセリフを聞いたシーツァとウィツィロポチトリは息ぴったりのタイミングで素っ頓狂な声を上げる。ケツァルコアトルも驚いているようで先程よりも若干目が見開かれている。
「あのートモエサン? そんなこと俺ひとっことも聞いてないんだけど?」
「当たり前でしょ? 言ってないし」
「いや、そういう事は予め言っておいてもらいたいんですけどねぇ! てか俺に務まるわけないだろう!」
シーツァが悲鳴を上げる中ウィツィロポチトリもこのどこぞの馬の骨とも知らない男が敬愛するトモエ様の旦那というだけでも我慢ならないのに自分と同格の四魔将にいきなり就任するという事態についに我慢が限界を迎えた。
「ええい! 貴様暁と言ったか! 決闘だ! トモエ様に対する不敬の数々! あまつさえテスカトリポカ殿の後任だと! もう我慢ならん!」
「ウィツィロポチトリ、貴様こそ不敬だぞ。すべてはトモエ様のお決めになられたことだ。それに我等が口出しするなどあってはならん」
「いいえ! 今回はいかにケツァルコアトル殿の言葉でも聞くわけにはまいりません! トモエ様! お許しを!」
「はぁ~、こうなったら私の言う事も聞かないでしょうし、それにわだかまりが残るのも面倒ね。いいわ、その決闘許可しましょう」
先程のケツァルコアトルの怒りに押されていたウィツィロポチトリは興奮状態になっているためか先程のように怯むことなくトモエに進言する。
額に手を当て予想が的中した事に溜息を吐きながらウィツィロポチトリを見て、興奮冷めやらぬといった姿に仕方なく決闘を了承した。
「ふぁっ!?」
トモエが手を上に掲げると膨大な魔力が会議室の中を覆っていく。
やがていままで会議室だった風景が何もない白い、どこかで見た様な風景に切り替わった。
今まであった大きなテーブルや複数のイスは消え去り、シーツァ達はいきなり何もない空間に切り替わった衝撃で立ち尽くしていた。
「私の【空間魔法】で会議室を亜空間に切り替えたわ。ここならなんの被害も気にすることなく戦えるでしょ」
「お心遣い感謝いたしますトモエ様」
トモエに対し片膝を着き感謝の言葉を述べるウィツィロポチトリとは裏腹にシーツァは未だに混乱していた。
いきなり決闘する羽目になり、しかも相手は今の自分より格上の相手。混乱するなという方が無理である。
「え? ちょ、ちょっとマジで戦うの? この人めっちゃ強そうなんですけど!?」
「頑張ってとしか言いようがないわ。けど暁なら多分勝てるんじゃないかな? たぶんだけど……」
すでに逃げ場はないと悟ったシーツァはウィツィロポチトリと対峙する。
すでにウィツィロポチトリは自分の槍と盾を構え、開始の合図を今か今かと待ち構えていた。
「あの~、ほんとにやるの?」
「当たり前でしょう! 貴様のトモエ様に対する態度! 看過できるものではありません! この私が叩き直して差し上げます!」
うへぇ~、やる気満々だよあの人……。ほんとに勝てるかな~、チャーチの時だって4人で戦ってたし、テスカトリポカの時はあいつがそこまで接近戦が得意じゃなかったから勝てた様なもんだしなー……。とりあえずステータスの確認だけでもしておくか。
名前 ウィツィロポチトリ ♂
種族 魔鳥族:大怪鳥
状態 健康
Lv 94
HP 5066/5066 (+3500)
MP 2291/2291 (+1500)
攻撃力 4612 (+3500)
防御力 3143 (+3000)
魔力 2010 (+1000)
魔抵抗 2001 (+1000)
速度 4018 (+3000)
運 22
【最大HP超上昇Lv.7】【最大MP超上昇Lv.3】【神力Lv.7】【城壁Lv.6】【魔神Lv.2】【韋駄天Lv.6】【槍鬼Lv.6】【盾鬼Lv.5】【旋風魔法Lv.2】【高速飛行】【獣人化】
完全に脳筋野郎ですね。正直【倍加】だけだとキツイな。こちとらそこまでレベルもステータスも高いわけじゃないし。魔法メインでなんとか倒すしかないか……。
「それじゃあルールね。相手を殺さなきゃ何してもいいわ。準備はいい?」
シーツァとウィツィロポチトリの間に立ったトモエが2人を交互に見やる。
ウィツィロポチトリは冷静にシーツァを見据え、シーツァは【特殊武具作製】でミスリルの長剣と小盾を作り出し構える。
「いつでも」
「ああ、大丈夫だ」
「それじゃあ……、始め!!」
シーツァとウィツィロポチトリ、2人の戦いの火ぶたが切って落とされた。
ケツァルコアトルは忠誠心厚い歴戦の戦士といった設定で、ウィツィロポチトリは忠誠心は厚いですが融通の利かないタイプです。チャルチウィトリクエは忠誠心の厚い高飛車なお嬢様タイプ……だったんですが、シーツァに敗北した今は立派なドMに目覚めました。
次回はシーツァとウィツィロポチトリとの戦闘がメインです。
やっぱり私は会話メインのシーンを書くのがとても苦手です。
読んで下さっている方々の為にももっとうまく書けるようになりたいものです。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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