69話 魔族大陸に上陸するようです
すこし短いです。
「さて、それじゃあなんで攻撃してきたのか説明してもらおうか」
船の上には現在シーツァ、ソーラ、アイナ、シリルの他に、ソーラの【道具作成・改】によって生み出された魔封じの縄によってぐるぐる巻にされているチャルチウィトリクエの姿があった。
先程までの元気は既に無く、紐で縛られ項垂れている姿は哀愁漂わせるものがある。
「わ、私の配下の魔物達から異常な魔力を持った生物が船でこちらに向かっていると報告があったのです。それで他の配下に船の上の監視をさせたところ、人間が4人乗っていると言っていましたわ。人間は我等魔族を執拗に狩ろうとしますから、強い人間に我等魔族の大陸に入られては困るのですわ。だから我が迎撃に出たと言うのにあなた方は人間ではなく魔族だし……。私がああも簡単にやられるとか……」
「とりあえず、お前は俺達を人間だと思ったから攻撃してきたんだな? てことは俺達が人間じゃないと分かった今は攻撃してこないでいいんだよな?」
「え、ええ、あなた方が人間じゃないのは分かりましたわ。同胞には攻撃しませんわよ。どうせ私1人ではあなた方全員には勝てないようですしね」
チャルチウィトリクエから攻撃してこないという言質をとったシーツァ達は内心安堵の息を漏らした。
正直な話、こちらが4人いてしかもシーツァとソーラは転生者故のスキルがあるとは言ってもステータスの差は如何ともしがたく、本音を言えば戦いたくはないのであった。
「それでシーツァ、この人どうするの? 流石にこのままってのはかわいそうだと思うんだけど……」
「んー、解放してもいいんだけどどうすっかなー。おい海竜」
「チャルチウィトリクエです。長いのでチャーチと呼ぶ事を許しますわ」
「んじゃチャーチ、お前このまま縛られたままは嫌だろ? 条件を呑むんならその縄解いてやってもいいぞ?」
シーツァの提案を聞いたチャーチは縛られていることにより手を動かせないため、顔を赤くしながらできる限り体を捻ってこちらを罵ってくる。
「こ、この変態! まさか我の縄を解いて欲しくば俺の言うことを聞けと! 私の瑞々しい体をあなたの獣の様な性欲の捌け口にさせろとおっしゃるのですか! 東の島国の鬼族は性欲旺盛と聞き及んでおります、きっと私も言葉では言えない様な事を強要させられてしまうのですね? 縛られ魔力が使えない私の必死の抵抗もむなしく蹂躙されていく私……。例え私の体は好きにできても私の心まで好きにできるとは思わないで――きゃん!?」
顔を赤くしながらどんどんエスカレートしていく罵倒と言うより妄想を撒き散らすチャーチの姿に流石のシーツァ達もドン引きしていた。
チャーチの被害妄想はシーツァの岩山○斬波がチャーチの額にめり込む事でようやくの終わりを見せた。
手を動かせないため甲板をごろごろ転がりながら痛みを訴えてくるチャーチを眺めながらシーツァ達が思ったのは奇しくも同じことだった。
『『『『(がぅ)なんだこの残念美人』』』』
「アホか、誰がそんな事するか! てか顔赤らめてんじゃねぇよ! 単に魔族大陸までの案内と大陸に到着してからの案内を頼みたかったんだよ!」
「なんだ……、そうだったんですの……」
「なんで残念そうなんだよ……」
妄想を垂れ流していたときとは打って変わって残念そうにしているチャーチに思わず突っ込みを入れたシーツァは縄をといてやるとチャーチを促して船内の食堂へと向かっていった。
その後チャーチのおかげでこれと言ったイベントも無くシーツァ一行は無事魔族大陸へと辿り着いた。
魔族大陸にある港に上陸したシーツァ達は船を岸に泊め、【異次元収納】に船を収納すると街を目指して歩き出す。
小一時間ほど歩くと巨大な壁がシーツァ達の目に飛び込んできた。
街を覆う堅牢な壁の一角、入口になっている所から街に入ったシーツァ達が目にしたものは活気に満ち溢れた人間達と変わらない生活をおくる魔族達の姿であった。
広い道には露店が立ち並び店主達が思い思いに客を呼び、客との交渉などをしている光景が目に映る。
違いがあるとすれば、人間達の街では目に映る人々は人族に限定されていたが、ここでは様々な姿をした魔族がいるといった点だろう。
ファンタジーでおなじみのエルフ、ダークエルフ、ずんぐりむっくりとした体で厳つい顔に髭を生やしたドワーフ、子供ほどの身長しかないホビット等から始まって、ウサミミ、イヌミミ、キツネミミ、ネコミミ等の獣の特徴を持った獣人族、蜥蜴の頭に人の体を持ったリザードマン、竜の頭に人の体を持つドラゴノイド、人の上半身に馬の下半身のケンタウロスに下半身が蜘蛛のアラクネ、蛇のラミアー、他にもミノタウロスや巨人族、妖精族等そうそうたる顔ぶれであった。
いやすげーなー、あっちの大陸には人間しかいなかったしなー。この光景見ると改めて剣と魔法のファンタジーな世界に来たって実感できるなー。
「それにしてもまるで人間の街がそのまま魔族大陸に来たって感じだな。建物は流石にいろんな種族がいるからか大きさとか造りとか違うけど、普通に買い物とかしてる光景見るとほんと人間みたいだ」
「ええ、それはですね、私達魔族、魔物から進化した訳ではない生まれた時からの生粋の魔族は元は人間だったからだと言われていますわ。ですからどことなく似てしまうのかもしれませんわね」
チャーチの突然の発言に目を丸くしながら驚くシーツァとソーラ。アイナとシリルは「へぇ~」とあまり驚いていないようだがシーツァ達転生組は違った。
「? どうかなさいましたの?」
「いや、どうかなさいましたの? じゃなくてだな、なんか今とんでもないことが聞こえた気がしたんだが……。え? 魔族って元々人間だったの?」
「ええ、そうらしいですわね。詳しく話すと長くなってしまいますので後にしましょう」
長くなるからと話を打ち切ったチャーチと共に露店が立ち並ぶ道を歩くシーツァ達は露店の商品を物珍しそうに見て回っていると武具を売っている露店の店主らしきドワーフが話しかけてきた。
「ようあんちゃん見ない顔だな。この光景が珍しいって顔してるってことはどこかの田舎から出てきたのかい?」
「ん? ああ、ちょっと遠い所からな。それにしてもすごいな、こんなにいろんな種族が暮らしているなんて想像も出来なかった」
「ははは、そうだろそうだろ。ここは魔王様の居られる魔王城のある街だからな。最近魔王様が変わられたんだ。前は露店を出すのにも税金を取られてたんだが今はそれも免除になってる。だからこうやって所狭しと露店が出て、それを目当てにいろんな奴らが買い物に来たりしてるんだよ」
「へぇ~、そいつは知らなかった。すごいな新しい魔王様は」
「ああ、おかげでうちも儲かってる。どうだあんちゃん何か買ってかねぇか?」
両手を広げ露店に並べられている武具をいろいろと進めてくるドワーフに流石のシーツァも苦笑いになっていた。
お金は持っているのだがそれは人間達の住む大陸で使われている物で、この魔族大陸でも使えるかどうかは分からなかったからだ。
「すまないがこの街まで来るのに金は使い果たしていてな。金がないんだ。いろいろ教えてくれたのにすまないな」
「そうだったのか……。いや、こっちもすまないな。仕事とか探してるんだったら冒険者ギルドに行ってみるといい。あんちゃん見たことない種族だが強そうだしな。きっと稼げると思うぜ」
魔族大陸にも冒険者ギルドってあるのか……。ほんとに人間の大陸とあまり根幹は変わらないんだな……。
「わかった。何から何までありがとうな」
「気にするな。困った時はお互い様だ。いつかうまく稼げたら俺の店の品物買ってくれよ?」
「ああ、その時は必ず。それじゃあまたな」
ドワーフと別れたシーツァはソーラ達と合流すると再び露店の並ぶ道を歩いていく。
しばらく歩いていると路地の奥から争い合うような複数の声が聞こえてきた。
シーツァは即座に【気配察知】を広げ、音が聞こえてきた方角を重点的に探る。
すると、路地の奥に男3人と女1人の気配が確認出来たのでシーツァはソーラ達を伴い現場に急行した。
ついに魔族の住まう大陸にシーツァ達一行が上陸しました。
まさかチャルチウィトリクエがあんなキャラになるとは思ってもみませんでした。勢いって怖いです。
現在進行形で男3人組に絡まれている女の子は多分皆様の想像通りの人だと思います。
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