57話 フラグは回収されるようです
イカナ村を出発して6日程が経過した。
道中、行商人や冒険者らしき人間と幾度かすれ違うこともあったが特にいざこざが起こるわけでもなく、ミミナートに続く道を4人でのんびりと歩いていた。
「それにしても退屈ですね。魔物が襲ってくるでもなく、盗賊が襲ってくるでもない。平和すぎてなんだか逆に不安になります」
「そうねぇ~、けど~、最近は~、戦うことが多かったし~、たまにはのんびりとした~、旅もいいんじゃない~?」
雲1つ無い青空の下、何かのフラグになりそうなソーラとアイナのやり取りを聞きながらイカナ村を旅立ってからのことを考える。
確かに順調すぎる道程だったんだよな~。魔物も普通に土狼や突撃猪、たまに旋風蝶が出てくる程度だし。
はぁ~、希少種出てこないかな~。珍しいスキルが手に入る可能性があるから戦いたいんだけど、あれ以来見たこと無いんだよな~。
それにしても、ソーラとアイナの会話を聞いてると何かのフラグが立った気がしてならないのは気のせいだと思いたいな……。
「がぅ、シーツァ、前から何か来るぞ」
「へ? 何か来る? ああ、確かに1人を大勢で追っかけてるって感じだなこりゃ」
シリルの警戒心が篭った声に思考に耽っていた俺は意識を引き戻されると、【気配察知】の範囲を拡大して前方を確認した。
やがて遠目に見えてきたのは、必死に馬にしがみついて離されまいとしている少年とそれを追いかける約30名程のならず者にしか見えない男達だった。
ならず者達は馬に乗っておらず、自分達の足で馬に追いつこうとしていることからそれなりにレベルが高く強いことが窺えた。
立ち止まり様子を見ていると、徐々に少年を乗せた馬がこちらに近づいて来るのが分かる。
限界まで速度を出して走っていたのか馬は俺達の少し手前でとうとう力尽き崩れ落ちてしまった。
宙に投げ出された少年を【物理魔法】で受け止めるとこちらに引き寄せる。
どうやら宙に放り出された時に気を失ってしまったらしく、ぐったりとしてはいるが特に目立った外傷は見当たらなかった。
ん~、なんかどっかで似たような顔を最近何度か見た気がするんだが……。
そんなことを考えていると少年を追いかけていた男達がついに俺達の前に立った。
「おうにいちゃん、何も聞かずにその腕に抱えてるガキをこっちに寄越しな。そうすればお前は見逃してやるよ」
「ん? お前は?」
「ああ、お前は見逃してやる。そっちの女共は俺達と一緒に来てもらう。グヘヘ、見たところ3人ともかなりの上玉じゃねぇか。たっぷりと楽しませてもらうぜぇ」
下卑た目つきで自分達を舐めるように見る男達の視線にあからさまに嫌そうな顔をするソーラ達女性陣はすでに臨戦態勢に入っていた。
「シーツァ、今日は私達に任せてください」
「そうよぉ~、たまには私達も~、いいところ見せないとねぇ~」
「がぅ、戦うぞ」
普段ならシーツァが即座に言った当人達を惨たらしく始末するのが常であったが、今日は珍しく戦う気満々のソーラ達に譲る形で気絶した少年を護るように後ろに下がった。
「おうおうねぇちゃん達、大人しくついてくれば天国に連れてってやったてのに。歯向かうんだったら痛い目見てもらってからぶっ壊れるまで犯してやるよ」
「ギャハハ! アニキ! どっちにしろ犯すことに変わりはないじゃないですかー!」
「そうですぜアニキ! 早いとことっ捕まえて楽しみましょうや! あんな上玉滅多にいねぇ!」
「おーしそうだな! 行け! 野郎共!」
リーダー格の男の号令で仲間の男達が大きく咆哮を上げながら襲い掛かってくる。
その瞳を濁った欲望でギラギラとさせている男達は全員自分達が負けるなど微塵にも思っておらず、早く目の前の女の体を貪りたい一心であった。
野獣の如く押し寄せてくる男達を前にしてもソーラ達は特に焦ることもなく、各々の武器を構えると目前に迫る敵に向けて攻撃を放った。
「【氷の弾丸掃射】!!」
「いくよ~。【火炎】~、【拡散】~。てぇ~」
杖を構えるソーラから放たれた多量の氷で出来た弾丸が次々と襲い掛かる男達の群れ左半分に襲い掛かった。
体中に弾丸サイズの穴を大量に撃ち込まれ即死できたものはまだ運が良かったと言える。
運悪く急所を外れた男達は体に弾丸サイズの穴が開けられたが傷口が即座に凍結し傷口を塞いでしまったため出血で死ぬことも出来ず、穴だらけの自分の体を見て泣き叫ぶか気が狂うかのどちらかであった。
男達の一方右半分にはアイナの弓から放たれる一筋の炎の矢が男達の少し手前で炸裂し無数の矢となって襲い掛かる。
こちらも脳天を撃ち抜かれる等して即死できたものは幸いだっただろう。
ソーラとは逆に穿たれた穴は一瞬にして焼かれて血管が塞がってしまったため、出血で死ぬこともできずにいた。
更に追い討ちを掛けるようにアイナの矢に撃ち抜かれた男達は、傷口から吹き出す炎に焼かれていく。
炎に巻かれパニックに陥った男は、近くの男にぶつかりそこから更に火の手が拡大していき被害者を増やしていく。
2人の攻撃が止んだ後には、体中に穴の開いた死体と死にきれずに泣き叫ぶか気が狂った男達、黒焦げになり元の性別すら判別できないような焼死体だけであった。
「がぅ、私何もしてないぞ……」
何もせずに終わってしまったことにしょんぼりとしているシリル。
確実に耳と尻尾が垂れ下がっているのが幻視できるほどにがっかりしているのがわかった。
「ひっ……! なんなんだよあいつ等! あのガキを殺すだけの簡単な仕事だったはずなのになんで! あんな化け物共の相手なんかしてられるか……!」
リーダー格の男は部下達が次々と殺されている中、勝ち目がないと分かるとあっさりと部下を見捨てて逃走に移っていた。
死に物狂いで逃げるリーダー男は次の瞬間眼を疑うような悪夢をその眼にすることになる。
「がぅ、まだ生き残りがいたぞ」
いつの間にか自分の横を化け物達の仲間の女が息を切らせることなく併走していた。
蟲の知らせなのか不意に走った寒気に従い何とか真横に飛び退ると、今まで自分がいた場所を女の細腕とは思えないような巨大な拳が通り過ぎていた。
「がぅ、避けられたぞ……。次は外さない」
「ひっ」
喉から搾り出されたような悲鳴を上げて何とか逃げようとするが、ガクガクと震える足は全く言うことを聞かずにいた。
「ひっ、頼む見逃してくれ! あんた達に言ったことが不愉快だってんなら謝る! もう2度とあんた等の前には現れない! この通りだ! 見逃してくれ!」
腰を抜かしたまま少しでも目の前の恐怖から距離を置こうと後ずさりながら必死に命乞いをする。
目の前の女の姿をした化け物が考える仕草をしたため男に一縷の生きる希望ができたが、次の瞬間希望は絶望に早変わりした。
「がぅ、どうやって仕留めたら楽しいかな……」
「ひっ! 頼む! 見逃してくれ!」
すると遠くから目の前の女を呼ぶ声が聞えた。
すると女は顔を先程まで浮かべていた狩る者としての笑顔から一転年相応の笑顔を浮かべて仲間達の下へ走って行く。
走っていった女を見て自分の命が助かった事にホッとしたのも束の間、自分の頭上から1番聞きたくない声が聞えてきた。
「がぅ、すっかり忘れてたぞっと」
死神の自分に対する興味の無い、作業程度にしか思っていない声と共に降って来る巨大な拳は男に一切の抵抗を許すことなく叩きつけられた。
後に残されたのは、拳でつけられたとは思えない巨大なクレーターと、その中心にある真っ赤な染みだけだった。
やっぱりフラグは回収されるものなんですね。
フラグといえばやっぱり「俺、この戦争が終わったら結婚するんだ……!」でしょうか。他には「別に倒してしまっても構わんのだろう?」ですかね。
他にもたくさんフラグはありますが、主人公達が死亡フラグを立てることはありませんのでご安心ください。なんといってもご都合主義ですから!!
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