56話 村の守護者を作り出したようです
宴の翌日の朝、広場には多くの村人達が思い思いに寝転がっており見る人が見れば死屍累々と勘違いするような有様となっていた。
「じゃあ村長、そろそろ俺達は出発するよ。この道を歩いて行けばミミナートの街なんだっけ?」
「ええ、この道を4日ほど歩いたところにあります。ミミナートの街はこの辺り一帯を治める領主アクドスの館がある街でもあります。海に面しており港がある為他の街との交易や漁が盛んにおこなわれていると聞きます」
「なるほど。ありがとう参考になったよ。いろいろ教えてくれた上に宴まで開いてくれて感謝する」
「いえいえ、2度も村を救われたのです。その恩に比べればまだまだしたりないくらいですよ」
頭を下げて感謝の意を示す俺に村長は首を横に振る。
そんな村長に俺は指輪を外して言葉を続けた。
「いや、俺達が人間じゃないと分かってても気にしないでくれるのが嬉しかったんだ。礼になるかは分からないが受け取ってくれ。【上位アンデッド作成:死霊騎士】」
地面に展開された魔法陣から艶の無い漆黒の鎧をその身に纏い、自らの首を左腕に抱えた首なし騎士が現れた。
「ひっ」
ひきつけを起こしたような声と、ドサッという音がした方向に顔を向けると、村長が顔を青くし、腰が抜けたのか地面にへたり込んでいるのが見えた。
「あ……さのシーツァさん? こ……これはいったい……」
「ん? ああ、こいつには村の守護を頼もうと思ってな。安心しろ、村に危害を加える輩以外には攻撃しないように言っておくから」
「はぁ……」
理解が追い付いていないのか気の抜けた返事をする村長を放置して死霊騎士に向き直る。
「俺の言葉が分かるか? 名はなんと言う?」
「私には名前は存在しません、我が主」
ナイトヘルムを装備しているため若干くぐもった声ではあるが、少し高めの凛とした声が抱えられた頭から聞えてきた。
「そうか。それじゃあ、名前を付けるからそのヘルムを外してくれ」
「了解しました」
どうやって外すのかと少し気になりながら見ていると、ヘルムは下から粒子となって消えていき中に収まっていた顔が露になった。
どうやら女性のようで、凛とした声によく似合う綺麗で整った顔立ちをしている。
あまり表情を表に出すことをしない性質なのか無表情な顔の第一印象はクールの一言に尽きた。
「ふむ……そうだな、お前の名前はディーナだ。ディーナにはこの村の守護をしてもらいたい。盗賊等この村を害する者がいたら容赦なく始末しろ」
「了解しました。名を与えられたこの身、その任見事果たしてご覧に入れましょう」
「それと、この村を守護するにあたって何か必要なものはあるか? 武器とか」
「そうですね……、でしたら武器は突撃槍を、それと馬を1頭頂けないでしょうか」
「わかった。そいじゃ【特殊武具作成】。ん~、素材はミスリルでいいとして、何を付与するべきか……。【刺突強化】と……そうだな、【多重存在】なんて付与してみるか。んで馬の方だけど、生きてる馬なんか調達できないしここはスキルに頼るとしますか。【中位アンデッド作成:死霊馬】」
傍目から見ると1人ブツブツと呟きながらいろいろやっている危ない人になりつつ武器である突撃槍を作成し、ディーナ用の馬を用意するためにスキルで地面に魔方陣を展開する。
すると魔方陣からこれまた漆黒の首の無い馬がせり上がってきた。
「これでよし、と。ディーナ、早速乗ってみてくれ」
俺が指示するとディーナは左腕に頭を抱えたまま器用に首なし馬に飛び乗る。
俺から突撃槍を受け取ると馬の横腹を軽く蹴り、走り始めた。
「んー手綱も無しにあの速度でよく乗ってられるな。まさしく人馬一体ってやつか。まあ、人じゃなくてアンデッドだけど」
しばらく駆け続け気が済んだのか俺の元までディーナ達が戻ってくる。
腕に抱えられた頭の表情は心なしかツヤツヤしているようにも見えた。
「素晴らしい馬です主。この馬とならば何処まででも駆け抜けていけそうです」
「そうか、それなら良かった。村長、このディーナに村の守護を任せるからよろしくな」
「よろしくお願いします村長殿」
「はい、こちらこそ……。シーツァさん、図々しいとは思うのですが1つよろしいですか?」
礼をしてくる死霊騎士にビクビクしながら返答する村長がおずおずと切り出してきた。
「なんだ?」
「あのですね、流石にそのままの見た目でいられますと村人が怯えると言いますか、村人は次第に慣れていくとしても行商人等の村を訪れる者達が怯えた挙句変な噂を流されかねません……」
「そういえばそうだな……、さてどうするか……。そうだ! ディーナ、その頭貸してくれ」
「了解しました。ですが、どうなさるのですか?」
馬から降り、差し出した俺の手に躊躇いも無く自分の頭を手渡すディーナ。
銀色のサラサラとしたセミロングの髪の感触に内心ドキドキしつつ、頭を持つ手を持ち上げ首のだいたいのサイズを測る。
「ディーナの頭って普通の人間の位置にあっても大丈夫なのか?」
「はい、特に問題はありません。視界が普段と変わりますがすぐに慣れるでしょう」
ディーナの頭を人間と同じ位置に置き、【特殊武具作成】で作り出したミスリルの首輪で首が胴体から落っこちないように固定する。
首輪には俺達が装備している指輪同様【変装】と【偽装】が付与されており、ディーナの姿を全身白銀の鎧を見に纏った人間の騎士に見えるようになっていた。
「よし、どうだディーナ」
「素晴らしいです我が主。これなら何処からどう見ても人間に見えるでしょう」
手を持ち上げるなどして自分の体を見やるディーナが無表情の中に若干の興奮を交えつつ答える。
「後ついでにコシュタバワーにも、っと」
頭が無いので普通の馬に装着するような頭絡を付けられないコシュタバワーには、首の根元に首輪を装着しそこから手綱が伸びるようにする。
因みにこの首輪にもディーナの物と同様の付与を施してある。
そして出来上がったのはディーナの髪や鎧と同じ白銀の鬣を持つ立派な馬だった。
これでよし、と。これなら誰が見ても立派な騎士とその愛馬だろ。そういえばディーナ達ってどんなステータスしてんだろ……。
名前 ディーナ ♀
種族 不死族:死霊騎士
状態 健康
Lv 50
HP 934/934 (+500)
MP 898/898 (+500)
攻撃力 911 (+500)
防御力 892 (+500)
魔力 781 (+500)
魔抵抗 778 (+500)
速度 821 (+500)
運 225 (+50)
強化系スキル
【最大HP超上昇Lv.1】【最大MP超上昇Lv.1】【神力Lv.1】【城壁Lv.1】【魔神Lv.1】【韋駄天Lv.1】【幸運Lv.1】
攻撃系スキル
【突進Lv.1】
防御系スキル
【状態異常無効】
技能系スキル
【騎乗Lv.10】【人獣一体Lv.10】
名前 無し ♀
種族 不死族:死霊馬
状態 健康
Lv 40
HP 745/745 (+500)
MP 664/664 (+500)
攻撃力 701 (+500)
防御力 633 (+500)
魔力 598 (+500)
魔抵抗 510 (+500)
速度 812 (+500)
運 123 (+50)
強化系スキル
【最大HP超上昇Lv.1】【最大MP超上昇Lv.1】【神力Lv.1】【城壁Lv.1】【魔神Lv.1】【韋駄天Lv.1】【幸運Lv.1】
攻撃系スキル
【突進Lv.10】
防御系スキル
【状態異常無効】
技能系スキル
【空駆け】
……強っ!? なんかおかしくないですかねぇ! 何これ、俺のスキルいくつか引き継いでんのか!? 生まれたてでこれって……他の魔物が可哀想だ……。とりあえずディーナには【槍術】と【回帰魔法】と【超再生】でもコピペしとくか……。よし、これなら大丈夫だろ。
「どうだ村長。この見た目なら大丈夫だろ?」
「はっ!?、あ、はい、完全に人間にしか見えません。まるで聖騎士のようです」
一連の作業を見て完全に呆けていた村長が俺の問いかけで我を取り戻した。
「よし村長のOKも出たし……、ディーナ、これからこの村のことよろしく頼むな?」
「了解しました我が主。必ずやこの村を守り抜いて見せましょう」
ディーナが俺の前に跪き頭を垂れる。
その姿は【変装】の効果により日の光に煌めく白銀の髪と全身鎧を身に纏った美貌の女騎士になっており、あまりに綺麗な礼にこの場所が中世のヨーロッパなのではないかと一瞬錯覚したほどだ。
「よし、これで村も安心だな。それじゃあ村長俺達はそろそろ出発するよ。また来ることもあるかもしれないからその時はよろしくな」
「はい、イカナ村の村人一同いつでもシーツァさん達をお待ちしていますよ」
村長と固い握手を交わすとソーラ達に向き直る。
「それじゃあミミナートの街に向けて出発しますか!」
「「「おお~~!!」」」
俺の掛け声に合わせて3人の声が元気よく青空の下に響き渡るとミミナートの街へ向けて歩き出す。
村長とディーナは俺達の姿が見えなくなるまで村の入り口からずっと見送ってくれていた。
新しい仲間ができました。といってもイカナ村に残って村を守る為に作り出したんですけどね。
ディーナの強さですが、村の周囲に出てくる様な魔物では歯が立ちません。
【人獣一体】と【突進】のスキルによって尽く轢き殺してくれることでしょう。
因みに扱いはシーツァの眷属です。
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