54話 ???のようです
長らくお待たせいたしました。第3章スタートです。
初めての主人公以外の視点です。
ここはとある大陸のとある場所にあるとある城。
その城の執務室と思しき場所にある質実剛健を表すような執務机に1人の少女が座っていた。
顔立ちは若干の幼さを残しつつも快活さにあふれ、その真紅の髪は1つにまとめられポニーテールになっている。
そして左右の側頭部からは前方に向かって捩れた角が伸びていた。
ほっそりとした体は抱いてしまえば壊れてしまいそうな儚さがあった。
そんな彼女は執務室で――。
「あーめんどくさい。だるいわー。なんで私がこんなことしなきゃいけないのよ……」
盛大に突っ伏していた。
瞼を殆ど閉じ、机に頭を乗せぐったりとしながら鈴を転がしたかのような声でボヤく。
少女の座っている執務机には書類が山のようにうず高く積み上がっており、今にも倒れそうな程の量にはそこはかとなく圧迫感があった。
そんな少女が足をプラプラさせていると部屋の外から声が聞こえてきた。
「トモエ様ー! トモエ様ー!」
「この声はトラソルテオトルか……。まさかまた書類が増えるんじゃないでしょうね……」
次第に声が近くなり部屋の前で止まると、ノックもなしに部屋の扉が開かれ煽情的な恰好をした女性が部屋に入ってきた。
入ってきた女性の身長も高く、出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ体を少女は羨ましそうに見つめると深い溜息を吐いた。
「どうしたのよトラソルテオトル。そんなに慌てて」
「どうしたもこうしたもないですよ。大変なんですよトモエ様!」
背中にある普通の人間にはあるはずのない蝙蝠の様な翼を忙しなく動かしながらトモエにとって驚愕の言葉を続けた。
「四魔将の1人、不死軍団統括不死王テスカトリポカ様が亡くなられました!」
ガバッと擬音が聞こえるくらい勢いよく頭を上げると驚愕の表情をその顔に浮かべながら盛大に叫んだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? ちょっ、ちょっと待ってよ! あの爺様が死んだ!? この魔族大陸であの爺様を殺せる奴なんか私くらいなのよ!?」
「それが……、人間の大陸に出撃し、そこで討ち取られたようでして……」
「なんで勝手に人間の大陸なんかに行ってるのよあの爺様は……」
「はぁ、最後に言葉を交わした者の証言では、「あまりに退屈じゃからトモエ様の軍勢を増やすついでに暇つぶししてくるのじゃ」だそうです」
テスカトリポカがいかにも言いそうな言葉を聞き、頭を抱えるトモエ。
ひとしきり唸った後勢いよく椅子から立ち上がると凛とした眼差しでトラソルテオトルに告げた。
「残ってる四魔将を集めて。臨時に会議を開くわ」
「了解いたしました。すぐに手配致します」
先程の慌てぶりが嘘のように整然とした態度でトモエに一礼するとそのまま部屋を去り、会議の手配のために動き出した。
「はぁ、書類整理よりもめんどくさい事になってきたわね……。これからどうなることやら……」
窓から明るい空を眺めながら溜息交じりにボヤいた。
「急に呼び出して悪いわね。早速だけど会議を始めるわ」
広い部屋の中、大きい長テーブルの上座に腰を下ろした少女トモエは椅子に座るなり切り出した。
トモエの横には先程の煽情的な女性トラソルテオトルが控えるように立っている。
長テーブルの右側手前には人の体に竜の頭を持つ竜魔軍団統括竜王ケツァルコアトルが、
長テーブルの左側手前には人の体に鳥の頭を持つ鳥獣軍団統括鳥王ウィツィロポチトリが、
長テーブルの左側奥には透き通るような水色の髪持つ美女水魔軍団統括海王チャルチウィトリクエが座っており、空白の右側奥には生きていれば不死軍団統括不死王テスカトリポカが座っているはずだった。
「それで、いきなり我々を呼び出して一体何の用ですか? トモエ様」
青白い顔とは裏腹に軽薄な態度を隠そうともしない海王チャルチウィトリクエ。
「トモエ様の御前でその態度は如何なものかと思いますよチャルチウィトリクエ様」
軽薄な態度に顔を顰めながら忠告するトラソルテオトル。それに同調するかのように重厚な声が部屋に響いた。
「その通りだ。貴様、トモエ様の御前でなんだその態度は。殺されたいのか?」
ケツァルコアトルの鋭い眼差しを受けたチャルチウィトリクエは冷や汗を流しながらトモエに頭を下げる。
「失礼致しましたトモエ様。久方ぶりにその御姿を拝見できたことについ舞い上がってしまいました。平にご容赦のほどを……」
「いいよ別に。気にしてないし」
「寛大な御心に感謝いたします。時に何故テスカトリポカ殿がいらしていないのですか?」
唯一空白になっている席を見つめ不思議そうに問いかけるチャルチウィトリクエ。他の2人も同じように疑問だったのか少しだけ空白の席を見やると再びトモエに向き直る。
「今回皆に集まってもらったのはそのことについてよ。トラソルテオトル」
「はっ、ご報告いたします。本日不死軍団統括不死王テスカトリポカ様が人間の大陸に出向き、そこで討ち取られたとの報告が入りました。私どもも耳を疑ったのですが、テスカトリポカ様の魔力反応が消失しているため死亡と判断させていただきました」
トモエの命により伝えられたトラソルテオトルの報告が終わると同時にザワリと部屋の空気が一気に変わるのが分かる。
事前に知っていたトモエとトラソルテオトル以外は驚愕の表情を浮かべたまま何も言うことが出来ないでいた。
ほどなくして3人が我に返るとチャルチウィトリクエが代表するかのように問いかけて来た。
「本当にテスカトリポカ殿が亡くなられたのでしょうか? 我等四魔将ですら誰一人として彼の方を滅ぼすことなど出来ませんわ……」
「誠に残念ですが間違いありません……」
残念そうに首を振るトラソルテオトルを見てテスカトリポカの死が本当の事だと知ると何も言えないのか黙り込んでしまう。
「今日は彼の後任をどうするか決めようと思う。何か意見はないか?」
トモエが3人を順番に見て意見を求めると、今まで言葉らしい言葉を一切口にしなかった鳥王ウィツィロポチトリが初めて口を開いた。
「テスカトリポカ殿の後を継げる者など不死軍団には……いや、どの軍団にもいないでしょう。それほどに彼の存在は大きすぎた」
「そうなのよねー。この中で爺様に完勝できるのなんて私くらいなものだからね。じゃあ、どうしようか?」
トモエの問いに再び考え込む魔将達。程なくして重厚な声をもつケツァルコアトルが口を開いた。
「今の所は空白のままで良いのではないですか? 無理矢理決めても不和を得るだけかと。然るべき時が来た時に決めればよろしいと思われます」
「そっかー。みんなもそれでいい?」
ウィツィロポチトリとチャルチウィトリクエが頷くのを確認すると手を叩き会議を閉める。
「じゃあ、今は不死軍団の統括は空白ってことで決まり。今回決めたいことは決まったから会議はおしまいね。みんな忙しいところ急に集めてごめんね? また開く時もよろしくね」
「我等は皆トモエ様の配下にございます。何時如何様なときでもお呼びくださいませ」
竜王ケツァルコアトルが忠誠の言葉を口にし、一礼すると会議室を出て行く。
「我等が翼はトモエ様の御為にあります。何時でも御下命くださいませ」
鳥王ウィツィロポチトリもそれに倣い忠誠の言葉と一礼の後会議室を出る。
「それでは私もこれで失礼いたしますわ。この世全ての水を支配する我等の力はトモエ様と共に」
海王チャルチウィトリクエも最初の軽薄な態度が嘘のように真面目な顔で忠誠の言葉を口にすると一礼し会議室を後にした。
四魔将全てが会議室から出たのを確認するとトモエは会議室の長テーブルに突っ伏した。
「あー、疲れた。普通の人間だった私にはこの環境はきつ過ぎるよー。それにこれからまた書類と格闘しなきゃならないとか……めんどくさい……」
「そうめんどくさがらないで下さい。書類仕事も大事な仕事の1つです。それに――って聞いてますかトモエ様。トモエ様?」
説教していたトラソルテオトルがトモエの反応が無いことを不思議に思い、彼女が座っていた場所を見やるとそこにトモエの姿は無く、代わりに1枚の紙が置いてあった。
“街に遊びに行ってきます。しばらく遊んだら帰りますので後よろしく♪ byトモエ”
テヘペロしているトモエの似顔絵が書いてある紙を読み、何かの間違いかと思いたくて再度読んでも内容は変わらなかった。
トラソルテオトルはワナワナと震えながら手の紙を握り締めて叫んだ。
「書類仕事も大事な仕事だって言ったでしょトモエ様! 貴方は今魔王様なんですよぉーーーー!!」
その叫び声は会議室に虚しく木霊した。
ついに第3章が始まりました。
試験的にですが、主人公以外の視点でのスタートになります。
4魔将や側近の名前がアステカ神話の神様と同じになっていますが、深い意味はありません。
単純にテスカトリポカにあわせたらこうなりました。
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