53話 アクドスの最期のようです
次々と襲い掛かってくる金の亡者達をただの1人の例外もなく一撃で肉片に変えていく。
仲間が殺られているのにも関わらず、金目当てに襲い掛かってくるのはある種の狂気を感じた。
一向に終わる気配のない敵の攻撃に流石に嫌気が刺してくる。1対5万で戦っているのに接近戦のみで戦っていればそれは気の長くなる戦いになるのは目に見えていた。
「あ~、いい加減飽きてきたな……」
「だったらテメェが死んで終わりにしようや!」
上段に剣を振り上げ襲い掛かってくる兵士の頭を拳で粉砕し、その手に持っていた剣を奪い取ると近くの兵士に向って投げつける。
投げられた剣が顔に突き刺された兵士は勢いに任せ後方に飛び、1人巻き添えを食らい剣に横顔を貫かれ即死した。
「そろそろ本気で殲滅に掛かるか……。あんまりソーラ達を待たせるのも悪いからな」
「テメェの首だけ会わせてやるよ!」
振り下ろされる刃を素手で握ることで受け止め、刃を握り潰す。
呆気にとられている男の顔を同じように握り潰すと胴体を他の兵士に投げつけた。
「あーもう! 多すぎだろ! 1人1人殺すのも面倒だ! 【竜巻刃】!!」
広い範囲を竜巻で包み、その中を真空の刃が荒れ狂い兵士達を蹂躙していく。
突然の事態に戸惑う兵士も何とか抵抗を試みようとする兵士も例外なく真空の刃の餌食になった。
あちこちで断末魔の悲鳴が上がり、次々と切り刻まれた兵士から吹き出した夥しい量の血が風に巻き上げられ竜巻を赤く染めていった。
やがて魔法の効果が切れ竜巻が収まった頃にはシーツァを中心に半径10mの円の中に立っているのは魔法を行使したシーツァのみだった。
ぽっかりと空いた空白。その空白は地面が見えなくなるほどに大量の肉片と血で埋め尽くされ、もはや原型を留めている死体は1つとして存在しなかった。
「う……うわぁぁぁぁ! やっぱり無理だ! こんな化け物に敵う訳ねぇ! 俺は逃げるぞ!」
1人がそう叫びを上げると他の兵士達にも恐怖が感染し、次々に恐慌状態に陥りその場を逃げ出し始めた。
「おい貴様等何処へ行く! あいつを殺せ!」
「うるせぇ! あんな化け物に勝てるわけあるか! もう俺は降りる!」
「ふざけるな! 貴様達は私の部下だろうが! 貴族の私のために死ねる事を光栄に思え! 逃げることなど許されんのだ!」
次々と逃げ出していく兵士達を怒鳴りつけるが、1度恐怖に飲み込まれた者を引きとどめる事などできはしなかった。
そんな顔を真っ赤にして兵士を叱咤しているアクドスに同調する者が現れた。この状況を作った元凶である。
「そうだ。皆殺しにするって言っただろう? 逃がすわけないだろうが。【土の城壁】!」
地面を殴りつけ【土魔法】を発動させると辺り一帯を囲むように高さ10mにも及ぶ壁が地面からせり上がり逃げようとしていた者達の行く手を阻む。
壁をよじ登ろうとした者も現れたが掴む場所がないため上ることも出来ずに壁の手前にへたり込み、ある者は絶望に嘆き、ある者は神に祈り、またある者は俺に対して必死の命乞いをしてきた。
「さて、これで逃げられる心配はなくなったし一気に片を付けますか」
次々と発動される魔法に兵士達は蹂躙されていく。
荒れ狂う炎に巻かれ、氷の槍が雨のように降り注ぎ、大量の水に押し潰され、地面からいくつもの土の槍が生え、自分の影から伸びてくる骨の腕に引きずりこまれた。
あっという間に兵士達は黒焦げ死体と串刺し冷凍された死体、プレスされ中身を撒き散らした死体、下半身から突き刺され槍の先端が口から飛び出している死体が量産された。ただ、【深淵魔法】で自分の影に引きずりこまれた兵士達は死体の一部すらこの世に残すことはなく消滅していた。
「さて、これで貴様の恃みの兵士達は悉く死んだわけなんだが……。次は貴様の番だよな?」
「ひぃぃぃっ! く、来るな化け物! そ、そうだ! この女共をくれてやる! これで儂を見逃せ!」
命乞いをしてくるアクドスの横には縛られて転がされている女性が3人いた。
「はぁ? 貴様は阿呆か。何で俺が人間の女な……ぞ…………あ」
転がされている3人の女性、それはカイナ村の住人で以前盗賊バルドに攫われていた3人娘だった。
なんであの3人はまた攫われてるんだ……。運が悪いのか将又趣味なのか……、よくわからんな。取りあえず助けるか。
「【引力】」
右手を突き出し【物理魔法】を使い3人娘をこちらに引き寄せる。
ゆっくりと地面に降ろしてやりその身を拘束している縄を切り解放してやるとすぐにアクドスへ向き直った。
「で、頼みの交渉材料はなくなった訳だが……。もう悪足掻きはお終いでいいよな?」
「ひっ、そ、そうだ! 貴様――いや貴殿を儂の部下にしてやろう! 今までよりも贅沢な暮らしを約束するし、貴殿の力があれば儂がこの大陸の覇者となることも容易だろう! この大陸を手に入れた暁には半分を貴殿に与える! どうだ?」
どこかで聞いたことのあるような条件を提示してくるアクドス。
その言葉を無視して歩を進めていく。距離が近くになるにつれてどんどん顔色が悪くなり、目の前まで来た時にはすでに死人のような顔色になっていた。
「言いたいことはそれだけか?」
「あ……あなた様の奴隷になりますのでどうか……どうか命ばかりは……」
地に這いつくばり必死に命乞いをしてくるアクドスを冷めた目つきで見やる。
あー、何かここまで来るとどうでもよくなってくるな……。もちっと抵抗してもらいたかった感が否めない……。
踵を返してアクドスから離れていく。2、3歩離れた瞬間震えながら這いつくばっていたアクドスがどこに隠していたのか短剣で突き刺そうと迫ってきた。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」
「気付いてるっての……」
ボソっと呟くと背中に届く寸前の短剣を【氷魔法】で生み出した盾で防ぐ。
驚愕の表情を浮かべているアクドスに首だけ振り向き【斥力】で吹き飛ばすと、何度も地面をバウンドし俺が作り出した壁に激突してようやく止まった。
「随分と面白い事をしてくれるなぁおい。どうやら余程その命を散らしたいとみえる」
「ひっ、ももも申し訳ありません! 出来心だったのです! どうか! どうか御慈悲を!」
壁の傍で必死に土下座を敢行しなんとか命を繋ごうとしているアクドス。
その様子を見ると、とあることを思いついたので1度3人娘の所へ戻る。
「どうしたんですか? シーツァさん」
傍まで行くと3人娘の1人、リジーが尋ねてきた。
「ああ、ちょっと質問をしにね。なんであのクズ野郎に捕まっていたんだ?」
「あの、アクドス様の軍がいきなりやってきて、村の食料を奪っていったんです。儂の為になるのだから泣いて喜ぶがいいって高らかに笑いながら……。私達は一緒にいる時に目を付けられてこうして無理矢理連れ去られてきたんです」
「なるほどな、だからあそこで縛られていた訳だ。しかも村の食料まで奪っていくとか許せる事じゃなよな。まあ、最初から許す気なんかないけど……」
「どうするんですか?」
「ん? ああ、あいつのバカ息子と同じ末路を辿ってもらうだけだよ。君達には刺激が強いかも知れないからこの円の中にいてくれ。円の外側の光と音を遮断するから。大丈夫、円の中はちゃんと見えるし音も聞こえるよ」
それだけ言うと彼女達の周囲を【深淵魔法】で覆って周囲を見えなくし、【旋風魔法】で真空の壁を作って音を遮断した。
「よし、これなら大丈夫だろ」
改めてアクドスに向き直る。すると口から痙攣したかのような声を出し、ガクガク震えているのが分かる。
「さて、アクドス。そろそろお前の姿を見るのも声を聞くのも飽きてきた。だからお前もバカ息子達と同じ末路を辿れ。【下位アンデッド作成】」
辺りに散らばっている兵士達の死体の内、比較的損壊が少ない物がゆっくりと、そして確実に動きだし始めた。
全身黒焦げのアンデッドに体の一部に氷の槍が突き刺さっているアンデッド、下半身から口まで一直線に穴が開いているアンデッド等バリエーション豊かな屍鬼の群れが出来上がった。
それ等は口から声にならないようなうめき声を上げ、よろよろとアクドスへ向かって歩き出す。
「ひっ! やめろ! 来るな! 儂を誰だと思っている! ギール家現当主アクドス様だぞ! よ、寄るな!」
腰が抜けている為立ち上がることが出来ず必死にがなり立てるアクドスだが、屍鬼達に理解できるはずもなく徐々に近寄ってくる死に何の抵抗も出来ずにいた。
そして逃げる事のできないアクドスに屍鬼とういう名の死が辿り着き次々と捕食を始めていった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ! やめろ! やめてくれ! いややめてくださいお願いします! やめっやめぁぁぁぁぁぁぁ!」
あっという間に屍鬼に埋もれ見えなくなるアクドス。その光景をどこかで見た様な感じを覚えながら捕食が終わるまで眺めていた。
グチャッグチャッと水っぽいような音が徐々に収まっていき、アクドスが食い尽くされこの世界から影も形もなくなると、【深淵魔法】で屍鬼達をそれぞれの陰に引きずり込み消滅させる。
そして残ったのはバラバラになって原型を留めていない死体と、夥しい量の血液だけだった。
「終わったんですね。それにしても見た目が変わっちゃいましたね」
「ええ~、前よりも~、更にかっこよく~、なってますよ~」
「がぅ。私の群れのオスはどんどん強くたくましくなっていくな」
いつの間にか近くにいたソーラ達が俺の姿を見たり触ったりしながらそれぞれの感想を言ってくる。
シリルにいたっては俺によじ登り、強制的に肩車の体勢になると珍しそうに角を触っていた。
3人にされるがままになりながら思い出したようにリジーたち3人娘を囲っていた魔法を解除してやるとこちらに向かって走ってきた。
「お疲れ様ですシーツァさん。それでですね……あの……1つお願いしたいことが――」
「ああ分かってるよ。ちゃんと村まで送ってやるから安心しろ」
若干言いづらそうにしているリジーの言葉を先回りするように答えてやると、3人とも笑顔で感謝してきた。
「さて、それじゃあイカナ村目指して出発しますか」
「「「「「「おおーー!!」」」」」」
7人になった俺達はイカナ村目指して再び歩き始めた。
今回で第2章終了となります。
ちょっと終わり方が中途半端かなとも思いましたがこれで終わりになります。
ようやくギール家の膿が全員天に召されました。
こういう悪役はきっちり酷い死に方をしてもらいたいというのが私の考えなのですが、不快に思った方は申し訳ありません。
もうちょっと死に方にバリエーションがあったほうがいいのかとも思いましたが、自分の考える1番嫌な死に方は“生きたまま喰われる”なので3人ともこうなりました。
次の投稿は、第2章の登場人物紹介になります。
これまでたくさんのブックマークや評価、感想ありがとうございます。
読んでくださっている皆様のおかげで第2章も終わらせることが出来ました。
これからも遠慮なくご指摘などよろしくお願いします。