52話 進化しちゃったようです
前回この話で第2章終了予定といいましたが、すいません終わりませんでした。
人が多く死ぬ描写があります。苦手な方は申し訳ありませんがお気を付け下さい。
ウーフツの街を出発してから1日が経過した。
晴れ渡る空の下俺達4人はのんびりとイカナ村を目指し歩き続けていた。
「ねぇシーツァ、大丈夫?」
「大丈夫って何が?」
「なんて言うかね、いつもより口数が少ないなーってちょっと思ったんだ」
「そうかな? 自分ではよく分からないけど、特になんともないよ」
「それならいいんだけど……」
それでも心配そうに見つめてくるソーラ。そんな俺達のやりとりをしていると、不意にアイナが立ち止まり道の先を見つめていた。
「どうしたんだアイナ」
「いえね~、なんだか向こうに~、大勢の人間がいて~、こっちにあるいてくるわぁ~」
「大勢の人間か……。イカナ村にはそんな人数いなかったから恐らくは領主の街の人間だろうな」
再び歩き出し1時間が経過しようとした頃、今まで俺達4人の目の前に広がるのは地面と樹木、植物だけだったのだが、今目の前にはそれに加えて人間人間辺りを埋め尽くす程大量に人間がいた。しかも御丁寧に全員が統一された武装をしていることから軍隊であることが予想できる。
規則正しく進軍している兵士達が俺達を発見すると指揮官らしき男の号令で停止した。
停止した兵士達が道を空けるように広がると、奥からつい最近見た男を更に太らせ老けさせたらこんな感じになるだろうなと思われる男が出てきた。
「魔物風情が武勇に優れ智略を極め、余人が羨むほどの美貌を誇るこのアクドス・ギール様の道を塞ぐとは何事だ! だが……、今日の儂達は何よりも先に為すべき事があるのでな、さっさと道を空ければ見逃してやらんでもない。まあもっとも? 儂の言葉が理解できていればの話だがな!」
「この先にあるのはウーフツの街だろうが。そこに何の用だよ」
特に暑い訳でもないのに顔中汗だらけにしながら俺達に向かって自分勝手な事を口走っている豚に呆れながらも質問した。
すると豚は俺が喋ったことに一瞬驚きながらもソーラ達に眼をやり、厭らしい目つきで笑った。
「知能が有るということは貴様魔族か。そして恐らく後ろの女3人も魔族……。グフフ、これはこれはかなりの上玉だの……。よし決めた! 我が息子達を殺したウーフツの街の連中を皆殺しにする前に貴様を殺して後ろの女魔族を儂の奴隷にしてやろう。魔力を封じられた魔族の女を好き放題に出来るとは……楽しみだ」
「ソーラ達を奴隷にだと……? それにウーフツの街の連中を皆殺し……。 ククク……アーハッハッハッハ!」
「なんだ貴様! 突然笑い出して、気でも狂ったのか!?」
突然哄笑をあげる俺の姿に戸惑いを覚えるアクドス。
しばらく嗤い続け、ようやく嗤い終わると、先ほどとは打って変わり落ち着いた表情を浮かべていた。
「貴様が話しに聞いていた通りのクズで本当によかった。そんな貴様に2つの感謝と兵隊達に1つの謝罪の言葉を贈ろう」
「貴様! 儂の事を言うに事欠いてクズだと! 死ぬ程後悔させてから殺して――」
「1つ。俺の八つ当たりの標的になってくれてありがとう。2つ。本当にクズでありがとう。殺す事に欠片も迷いがなくなった。そして兵士諸君。こんなクズに仕えているのだからまともな奴がいるとは思えないが念のため。俺の八つ当たりに巻き込んですまない。怨むんならアクドスを怨んでくれ」
アクドスの言葉を遮り感謝と謝罪の言葉を述べる。
自分の言葉を遮られたのが気にいらないのか、それとも堂々と目の前で殺すと言われたのが気に食わないのか顔を真っ赤にして叫んだ。
「お前達! この生意気な魔族を殺せ! 首を持ってきた者には金貨100枚くれてやる!」
「「「「「おおーーーーーーーっ!!」」」」」
金貨100枚という言葉でいきり立つ兵士達。
全員が武器を抜き眼をギラつかせながら我先にと走ってきた。
5万という人間達が無秩序に走ってくるため、地面が揺れているような錯覚を覚える。
「ソーラ、アイナ、シリル。下がって手出ししないでくれ」
「で、でも! いくらシーツァでも流石にこの数は……」
「大丈夫だよ。俺が人間なんかに負けるわけ無いだろう? それよりも、戦闘に巻き込まれないように下がっててくれ」
「でも、やっぱり。戦わないで逃げたほうがいいんじゃ……」
泣きそうな顔で懇願してくるソーラにやさしい笑みを浮かべながら頭を撫でてやる。
「ソーラ、俺はここで戦うよ。 ここでこいつを殺さないとウーフツの街が滅ぼされる」
「けど……、みんな私達の正体がバレた途端……」
「確かにそうだ。けど思い出してくれ。俺達の正体が魔物だって分かっても変わらず接してくれた人はいただろ? 俺はその人達を護りたいんだよ。むざむざあんなクズに殺させたくはない。まあ確かに八つ当たりをしたいってのもあるけどな。大丈夫だよ。だから信じて待っていてくれ」
何とかソーラ達を説得し、後方に下がらせる。
十分な距離を下がったことを確認すると兵士達の群れに向き直り、両手に一般的な鉄の長剣を作り出すと大きく息を吸い殺戮開始の合図を叫んだ。
「さあ始めよう。俺の心をくれてやる! 【狂戦士】解放ぉ!!」
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
前回火竜と戦った時のように頭の中に響き渡る圧倒的な殺意の奔流。
今回はその殺意に抵抗することなく心を明け渡した。
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
天をも貫くような咆哮を上げ、こちらに走って近づいてくる兵士達に向かって正面からぶつかっていく。
一気に真正面の兵士に肉薄すると、両手に持った剣を振り抜いた。
目の前の兵士は何が起こったのかわからないような顔をしたまま3分割されてその生涯の幕を閉じた。
「くたばれ金貨100枚ぃ!!」
「よくもコーザをぉ!」
左右から剣を振り下ろしてくる2人の兵士をその剣ごと切り裂き絶命させるとすぐさま他の兵士達に襲い掛かり一刀の元に斬り殺していく。
「ガァァァァァァァァ!!」
近くにいる人間から順に次々と切り殺す。その数が100に到達しようとした時、ついに両手に握った鉄の剣が酷使に耐え切れず真ん中から半分に折れた。
それを好機と見て斬りかかって来る兵士の顔面に折れた長剣を刺し込んで殺すと、今度は素手で周りの兵士を殺し始めた。
眼球に指を突っ込みそのまま首を胴体から引きちぎり、手に持った頭を他の兵士の頭に叩きつけ、手に持った頭ごと砕く。
手ぶらになった手を握り締め近くの兵士の腹部を殴りつけると、ドパンッ、と音がして破裂し中身を振りまきながら他の兵士を巻き込みながら吹き飛んだ。
斬りかかって来た兵士の剣を拳で砕き、呆然とした顔を殴りつけると上あごから上が弾けとび力尽きて崩れ落ちる。
時々剣や槍で斬られたり刺されたりすることもあるが、即座に武器を破壊し、傷を修復すると報復とばかりに攻撃してきた人間を血祭りに上げていった。
大勢の人間の中まるで暴風のように殺し続け、どんどんその数を減らしていく。
しかし、多くの仲間が殺されていっているにも関わらず兵士達は金に目が眩み、死の暴風の中に自ら飛び込んではその命を散らしていった。
一向に数が減らない兵士達を殺しているシーツァの耳に――本人は完全に理性がトび、暴走しているため認識はできていなかったが――いつもの無機質な声が聞えてきた。
経験値を93手に入れました。レベルアップしました。
特殊進化条件を満たしました。これより特殊進化を強制的に実行します。
突然の強烈な光に兵士達が顔を抑える。しかしその間もシーツァの虐殺は続き、どんどん死体の数を増やしていった。
「なんか~、シーちゃんが~、光ってるわねぇ~」
「あれは……進化の光!?」
やがて光が収まるとそこには額から天を突くようにして生える1本の角をもち、鋼色の体は筋肉質ながらも引き締まっており筋肉が圧縮されているのがわかる、前世の日本で言うところの鬼がいた。
特殊進化完了。戦鬼に進化しました。
スキル【狂戦士】が【素戔嗚】に進化しました。
突如戻ってきた意識に混乱し自分の体を見てみると、いつもと違う肌色をしているのが分かった。
あれ? 俺の肌の色ってこんなんだったっけ? それに前より筋肉質だし……。ってあれ? 頭に角が生えてる!? まさか進化したのか!?
「ええい! 何を呆けておるか貴様ら! 多少姿が変わったからなんだというのだ! さっさと殺せ! そいつを殺した者は金貨200枚払ってやる! 奴の女を連れてきたものには1人につき金貨100支払うぞ! わかったらさっさと殺せ!」
「「「「「おおーーーーーっ!!」」」」」
俺の変化に恐怖を感じ始めていた兵士達に向けてアクドスが鼓舞をする。
さらに増額された金額に兵士達は今まで覚えていた恐怖が吹き飛び、瞳を先程以上にギラギラさせ性懲りもなく襲い掛かってきた。
「上等だ! 全員殺してやるから死にたい奴からかかって来い!!」
ついにシーツァが進化しました。もともと進化させる予定はあったのですが、どのような形にするかずっと迷っていました。当初は普通にオーガだったのですが、元が日本人なので鬼人にしようと思い考えていた所、普通に鬼になりました。
特殊進化の条件ですが、圧倒的多数の敵と戦い、大量の敵を殺してのレベルアップが進化の条件です。
これは最終進化している者の種族が変わる為の進化なので、他のゴブリンロードやジェネラルでは条件を満たしたとしても進化することは出来ません。
スキルの【狂戦士】ですが、スキル【素戔嗚】に進化しました。
これもシーツァの前世が日本人だったからこうなりました。
因みにソーラも三貴神のスキルを覚える予定です。
後1人は誰になるのか私も未だ考え中です。
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