51話 正体がバレたようです
とあるゲームに課金して爆死したミジンコです。
新しいレアの女の子が欲しくてガチャ回したのですが、案の定出ませんでした(泣)
月が変わったらリトライします。欲しいんです。
テスカトリポカの死を見届けた後、彼の遺品を回収し【異次元収納】に収め冒険者ギルド前へ戻ると俺を待っていたのはソーラの抱擁と万雷の喝采だった。
「シーツァ! 良かった! 無事で良かったよぉ! けどすごいね、あの骸骨の人かなり強かったんでしょ? それに勝つなんて流石シーツァだね!」
周囲の建物が人々の歓声にビリビリと震えている様な錯覚を覚えながらギルド前で涙混じりに無事を喜ぶソーラに抱きしめられていた。
やがて残りの屍鬼を駆除し終えたアイナとシリルも戻って来てソーラと共に俺を抱きしめた。
「ずっと~、屋根の上から見てましたけど~、4魔将の~、1人に勝つなんて~、本当に凄いですよ~。4魔将の~、戦闘能力は~、この世界でも~、トップレベルですから~」
「がぅ! 私じゃあれには勝てなかった! けどシーツァは勝った! 流石私達の群れのボスだな!」
背後からアイナに抱きしめられ、背中に2つの幸せの感触を味わいつつソーラ達を巻き込みながら飛びつき押し倒してくるシリル。
3人に揉みくちゃにされつつも生きて再び触れ合えることに感謝し、お返しとばかりに3人をまとめて抱きしめた。
そんな俺を歓声を上げる人々の中、冒険者の中にはいつものように血の涙を流しながら嫉妬している男もいるが今日も気にしないでおいた。
「あーごほん、喜んでいる所悪いんだがいいかな?」
イチャイチャしている俺達を見て少し気まずそうに話しかけてくるギルドマスター。慌てて4人で立ち上がり、マスターに向き直る。
「今回の戦い、君達の働きにこの街は救われた。ありがとう。正直君達がいなかったらと思うとゾッとする。逃げ延びることができる人間もいるだろうが大半は屍鬼になって魔族軍の配下にされていただろう」
「いえ、俺達だけじゃ駄目でした。多くの冒険者が戦い、生存者の救出をしたからこそ今があるんですよ」
「それでもだ。ありがとう」
ギルドマスターが差し伸べてきた右手をこちらも右手で握り、握手を交わす。
握手した瞬間辺りから再び万雷の喝采が響き渡り、辺りを震わせた。
手を離した後も聞こえるこの大きな歓声の中、ピシリ――、と聞こえるはずのない小さな音が左手から聞こえた。それはとても不吉なものに聞こえた。
パリン――、と左手の指輪が砕け散ると俺の姿は人間の姿から元のゴブリンキングの姿に戻ってしまった。
耳が尖り、皮膚の色が汚れた緑色になる。体格こそ変わっていないが、先の戦いで破損した装備の隙間や顔の皮膚の色は人間ではありえない色をしており、一目で魔物であると周りの人間はすぐに理解した。
今まで響いていた歓声が、悲鳴に変わるのはとても早かった。
「キャァァァァァァァァァァァァァッ!!」
「魔物! しかも知性ある人型……! 魔族だ!」
「嫌だ! 折角助かったのに死にたくない!」
瞬く間に悲鳴が伝播し街の人々が恐慌状態に陥り、皆我先にと逃げ出した。
「貴様! 魔族だったのか! もしや今回の襲撃も貴様の手引きじゃないだろうな!」
1人の冒険者が腰の剣を抜き構えると、それに倣うように周りの冒険者が次々とそれぞれの得物を抜き放った。
皆一様に構えている武器が震え、冷や汗をかいている。
今武器を構えている冒険者は先ほどのシーツァとテスカトリポカとの戦いを見ており、その戦いの激しさから自分達ではまず勝てる見込みはないと分かっていながらも街を守る為に決死の覚悟で相対していた。
「皆武器を納めて下がっていろ。お前達じゃ勝てん。こいつはランクAのゴブリンキングだ。ただ、4魔将に勝つほどだからランクはS以上だな。わかったら早く下がれ」
ギルドマスターの命令に従い、武器を構えていた冒険者は我先にと逃げ出す。
ギルド前に残っているのは俺達4人とギルドマスター、そして怪物2人の計7人だった。
「すまないな。突然の事に皆気が動転してしまったのだ。なにせ襲撃があった直後だ」
「いやいい、当然の反応だろう。こうなるのが分かってたから姿を変えていたんだがな」
ソーラとアイナも指輪を外しそれぞれゴブリンクイーンとモノアイの姿に戻り、シリルも【人化】を解除して元の巨大な森林女王狼の姿に戻った。
「全員が強力な魔族だったのか。本当にお前達が敵じゃなくて良かった。今回の襲撃に併せて襲われていたら街が地図から消えていた。だが、魔族のお前達をこれ以上この街に留めておく訳にはいかん。疲れているだろうから今日は宿で休め。そして悪いが明日には街を出ていってもらう」
申し訳なさそうにしながらも毅然とした態度で言い放つギルドマスター。
両隣の怪物達も辛そうな顔をしていた。
「いや、仕方ない事だろう。俺達みたいな脅威を1日だけでも休ませてくれることに感謝するよ。明日も朝には街を出ていくさ」
それだけ言うと俺達は『小鳥の泊り木』に戻った。
『小鳥の泊り木』へ向かう途中建物の隙間からこちらをみる怯えた視線を感じながら歩いて行く。
宿に着くと俺達は悲しみを紛らわす為か全員で1つのベッドを使い、日中の疲れが出たのかそのまま泥のように眠った。
翌朝、俺達4人は街を出る為に入ってきた門の所にやってきた。
門にはいつもの兵士のおっさんが1人だけ立っていてやはり申し訳なさそうな顔をしている。
「すまないな、街を救ってくれたってのに……。本当なら皆から称賛され英雄扱いされてもおかしくなかったってのに……」
「流石に英雄扱いされるのは困るな。苦手だし。俺は嫁達とのんびりいろんな所を見て回りたいだけなんだからさ。そうだ、どこか魔族でも落ち着ける場所とかないか?」
俺の質問に腕を組み考え込む兵士のおっさん。すると後方からすでに聞きなれた厳つい声が聞こえてきた。
「それなら魔族領の街なんてどうかしらん。あの街は魔族や、人間と魔族のハーフなんかも暮らしてるって聞くわよん」
「なるほど、それじゃあそこを目指してみるか。どうやって行けばいいんだ?」
「町を出てまっすぐ行くとイカナって村があるんだが、そこから南に歩いていくと領主アクドスが直接治めているミミナートってデカい街を通り抜けて海を越えると魔族領だ。魔族領にはこことは比べ物にならないくらい強い魔物が徘徊しているらしいから気を付けろよ」
ギルドマスターもやってきて俺達の質問に答えてくれた。
その後ろにはあの時俺が助けた母娘も一緒に立っていて、2人で1歩前に出ると俺に頭を下げてきた。
「あの時は助けていただきありがとうございました。もう2度と主人と娘にも会えないと思っていたのですが、あなたのおかげでまた会うことができました。感謝してもしきれません。本当にありがとうございました」
「ありがとうございました!」
母親と一緒にリーナも元気一杯に御礼を言ってくる。
「リーナ、俺達は魔族だ。お前達やこの街を襲った奴らと同じ魔族なんだ。怖くないのか?」
「なんで? おにーちゃん達はリーナとおかーさんを助けてくれたでしょ? おとーさんも街を助けてくれたって言ってたよ? だから怖くなんかないよ!」
幼い子供の純粋な気持ちに思わず涙が出そうになるが何とか我慢する。
そんなリーナの頭をやさしく撫でながら顔をデレデレさせている先程まで威厳があったギルドマスターがいた。
「あの……もしかして……」
「ああ、俺の家内と娘だ。どうだ? 妻は美人だろう? この街でも一番の美しさだと思っている! そして娘はそんな母親に良く似てとても可愛らしいだろう! 絶対嫁になんぞやらん!」
「さいですか……」
惚気と完全なる親バカっぷりをいかんなく発揮したギルドマスターに流石のソーラ達も呆れていた。
リーナの彼氏や結婚相手は大変だろうな……。ギルドマスター相手じゃ大抵の人間は勝ち目がないし……。
「寂しくなるわねん。折角好みの男の子がギルドにやってきたと思ったのに残念だわん」
「そうねおねーさま。私の宿も久しぶりのお客さんだったのに残念だわ。もしまたこの街に来ることがあったら是非『小鳥の泊り木』を利用して頂戴ね?」
2人のぶりっ子ポーズ&ウィンクを見てその瞳からキレイな星ではなく、ひび割れた石でできた星が飛び出すイメージを幻視した。
うーん2人のあの仕草をみて震えが起きないって……、慣れって恐ろしいな……。
「それじゃあ、俺達はそろそろ行くよ。ゴンザレスさん、キューティーさん、ギルドマスターに兵士のおっさん。短い間だったけど世話になった。リーナも、お母さんとお父さんの言うことをちゃんと聞くんだぞ?」
「うん! そうだ! おにーちゃんちょっとしゃがんで?」
言われた通りにしゃがむと頬に暖かくやわらかい感触がした。
思わず頬を手で押さえると、リーナが顔を少し赤くしながらはにかんでいた。
「えへへ、助けてくれたお礼だよ。今はこれぐらいしかできないけど、大きくなったらリーナがおにーちゃんのお嫁さんになってあげるね!」
あまりの衝撃についボーッとしていると、強烈な殺気を叩きつけられ飛び上がるようにして立ち上がった。
目の前には自分の剣を鞘から抜き放ったギルドマスターの姿をした鬼が立っていた。
「ようシーツァ、俺の目の前で俺の可愛い可愛い目に入れても痛くないリーナに手を出すとはナイス度胸じゃねぇか。今すぐ成敗してくれるわ!」
血の涙を流しながら斬り掛かってくるギルドマスターを怪物2人と兵士のおっさんが何とか取り押さえる。
3人掛かりでもじりじりと近寄ってくるギルドマスターに顔を引き攣らせているとリーナがギルドマスターの前に立ち塞がり叱りつけた。
「もうおとーさん! おにーちゃんにそんな事言っちゃダメ! そんなおとーさんなんかキライなんだから!」
その言葉を言われた瞬間この世の終わりのような顔をしてギルドマスターが崩れ落ちる。両手両膝を地面に突いて完全に挫折のポーズだった。
そんな姿を見てひとしきり笑うと俺達はみんなに別れを告げ歩き出す。
そして街が見えなくなった辺りで前から走ってきた馬とそれに乗った兵士とすれ違った。
兵士は魔物の姿をしている俺達に一瞬驚いたように目をむき、そのまま逃げるようにしてウーフツの街に走って行った。
「何だったんだあれ?」
「さあ、何だったんでしょう。だいぶ急いでいたみたいですけど……」
「何か火急の~、知らせでもあったんじゃないかしら~」
「がぅ、あの馬美味そうだったぞ」
約1名だけ的外れな事を言っていたが、何時ものことなので気にしない俺達だった。
こうして俺達はウーフツの街をでて、最初に訪れたイカナ村を目指して歩を進めていった。
一方ウーフツの街の門では――。
「行ったか……。街を救った英雄を追い出さなけばならないとは……、俺達人間は本当にどうしようもないな」
「仕方ないですよあなた。人間が皆強いわけではありません。私だって命を救われていなかったらきっと他の人たちと同じになっていたかもしれません」
「そうか……」
「あらん? なにかこっちに来るわねん」
ゴンザレスさんがシーツァ達の旅立って行った方向からこちらに向かってくる土煙に気が付いた。
徐々に近づくにつれてそれが馬に乗った兵士である事が確認できる。
兵士は門にたどり着くと馬から転げ落ちるようにおり、息を切らせながらも衝撃の言葉を発した。
「大変です! 領主アクドス様がウーフツの街に息子達を殺されたと言い張り、この街を滅ぼすために進軍して来ました! その数約5万!」
「「「「な……っなんだとぉーー(ですってぇーー)!!」」」」
突然の知らせに街は再び恐怖に包まれた。
サブタイトル通り正体がバレてしまいました。
この章も次回で最終回の予定になっています。
次回は大虐殺回になる予定です。誰が殺されるのかは多分ご想像通りだと思います。
いつも拙作を読んでいただきありがとうございます。徐々にブックマークや評価が増えていくのがとても励みになります。
これからも自分の欲望全開で頑張っていきますので、見捨てないでいただけるとありがたいです。
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