45話 下種の弟はやっぱり下種だったようです
ワルスの弟、ヤラシスは配下の騎士6人を従え冒険者ギルドに乗り込むと俺に対しワルス殺害の罪による拘束を言い放った。
今まで通夜のようになっていた冒険者ギルドの空気をブチ壊し、周りが声も出せない状況を自分の高貴なオーラに気圧されているのだと勘違いしたヤラシスは更に言葉を続けた。
「冒険者シーツァ! 貴様がギール家の跡取りである兄上を殺害した罪は何よりも重い! 必ずや極刑が待っていることだろう! 反省の意思が少しでもあるのならば大人しく拘束され、少しでも罪を償うのだな! そしてそこの5人の女共! 貴様達を私の妾にしてやろう。どうだ? 兄上亡き今次期当主はこの私だ。その私の妾となれる事は望外の喜びであろう? それに貴様達の奉仕次第でそこな犯罪者の命も助かるかも知れぬぞ?」
自分の絶対的な優勢を確信し、誰彼憚ることなくソーラ達を厭らしい目つきで全身を余すことなく見つめる。
既に頭の中はソーラ達を手篭めにし、弄ぶことしか頭になかった。
「おい、そこのデブ。俺がワルスを殺したっていう証拠はちゃんとあるんだろうな? 証拠も何も無しに言ってるんだったら容赦しねぇぞ」
ソーラ達を厭らしい目つきで見ているだけでも我慢の限界に近いのにも関わらず、挙句の果てには妾にして弄ぶ気満々のヤラシスに堪忍袋の尾は千切れる寸前だった。
元々ワルスと違い戦う事に慣れていないヤラシスはシーツァの発する強烈な殺気に冷や汗を流しながら身じろぎをし、6人の配下を見ると自信を取り戻したのか先ほどよりも強気になっていた。
「証拠ならあるに決まっているだろう! 兄上は自身に逆らった貴様を手打ちにするために貴様の後を尾行していった! そして街から出る際に我が家の子飼いの兵士にも伝えている! そして帰ってきたのは貴様達のみで兄上はそのまま行方不明になってしまっている! 調査に兵を出したところ付近の森の中で夥しい血の量と兄上の装備が発見された! 故に貴様が殺害したことに間違いはない!」
自信満々に言うその姿を周りの冒険者達は呆れかえって見ている。
そもそも発見したのは装備と誰の物ともわからない大量の血、それで犯人扱いされたのではたまったものではないと言うのが冒険者達の総意だった。
なるほど……、俺達が街に帰ってきたときに大慌てでいなくなった兵士はこの事を伝えに言ってたのか。門番のおっちゃんがあいつは領主の子飼いだって言ってたしな。
「仮に俺が殺したとしてよ、正当な理由もなく俺を殺しに来た奴を返り討ちにして何が悪いんだよ」
「黙れ冒険者風情が!! 我々は貴様等下民共とは住む世界が違うのだ! 貴族である我々に下民風情が逆らうなど言語道断! 我々に死ねと言われたら歓喜に打ち震えながら死ねばいいのだ! どうせ貴様等下民風情など勝手に増えていくのだから多少減っても何も問題ないだろう! そんな下民が貴族である我等に逆らったのだ! 大人しく頭を垂れ伏して死を待つのが道理であろう! そしてそこの女共さっさと私の所に来い! 貴様等下民が貴族たる私の子を孕めるのだ! これに勝る幸せはないだろう!」
「そんな道理知るか。人が大人しく聞いてりゃ下民下民言いやがって。それだけでもイラつくのに人の嫁に向かって孕ませるだぁ? 殺すぞテメェ」
「まったくです。何が悲しくて貴方なんかの子を生まなければならないんですか。そんな酷い扱いを受けるくらいなら死んだほうがマシです」
「そうねぇ~、貴方は~、ないわねぇ~」
「がぅ、あいつ殺していいのか?」
俺の発言だけでも顔を真っ赤にして怒りを露にしているのに、女性陣からの総スカンについに我慢の限界らしくそのまま憤死しかねない勢いで怒り狂い配下の騎士に命じた。
「私の妾になるという栄誉をくれてやると言っているのにその態度……! もう許さん! 泣いて慈悲を請うてもダメだ! 男は殺す! 生まれてきたことを後悔するぐらいに悲惨な目にあわせてやる! 女共はもう妾になどしてやらん。そこの下民の首を刎ねその首の前で配下の男共に休む暇もなく死ぬまで犯され続けるがいい! 者共掛かれ!!」
キャーーーーーーーーーッ!!
ヤラシスの号令と共に武器を抜き放った騎士達が俺達へ襲いかかろうとした瞬間、冒険者ギルドの外から絶叫のような悲鳴が聞えてくる。
その声に反応した全員が入口の方を見ると1人の女性がギルドに駆け込んできた。
「た、た、大変です!! 街に大量のアンデッドが湧き出しました!!」
「「「「「何ぃーーーーーー!!」」」」」
女性の衝撃の一言にギルド内の受付や冒険者を問わず全員が一様に驚きの声をあげていた。
唯一ヤラシスだけは先程までの怒りの影響で状況が未だ把握できていなかった為ポカンと口を開けて周囲を見ていた。
「突然街中に大量の魔方陣が現れてそこから次々とアンデッドが湧き出してきて街の人達に襲い掛かっています! 助けて下さい!」
突然の事態にどう行動するべきか迷っているとギルドの奥からがっしりとした身体つきをした初老の男性が現れ、ギルド内の冒険者を一喝した。
「静まれっ! 冒険者ギルドウーフツ支部ギルドマスターのカザックだ! これより強制依頼を発令する! 内容は街中のアンデッドの討伐と生存者の救助だ! 報酬は参加者全員に20万リルカを支払おう! アンデッド討伐1体につき1万リルカを追加で支払う! 戦闘能力の低い者は生存者を冒険者ギルドに運び込んでくれ! 回復能力のある者はここに残り負傷者の手当てを行ってもらう! 因みに先程言った通りこれは強制依頼だ! 逃げた者はギルドから登録抹消するからそのつもりでいろ!」
「「「「「おおぉーーーーー!!」」」」」
カザックの強制依頼宣言に最初は尻込みしていた冒険者達が報酬を聞いた途端やる気を漲らせ、各々の武器を掲げ咆哮をあげる。
そして我先にとギルドから飛び出し目につく端からアンデッドに襲い掛かった。
「ギルド職員の皆で戦えるものは私と共に冒険者ギルドの防衛を、回復能力のある者は負傷者の手当てを、出来ない者はその補助を行ってくれ。私もここに残りこの場を死守する。ヤラシス殿はどうなさいますか? 上の階に避難して頂いても――」
「はっ、誰が貴様ら下民なんぞに守られるか! 私にはこの身辺警護の騎士がいる。全員が選りすぐりの精鋭達だ。私は自分の屋敷というこの街で最も安全な場所に帰らせてもらう!」
そういうとヤラシスは配下の6人の騎士に囲まれながらギルドを出て行った。
その後ろ姿を見送りながらギルドマスターは深いため息をついていた。
「はぁ~、それでお前さん達はどうするんだ? 討伐に出ないというのなら登録抹消するぞ?」
「いや、俺達もちゃんと討伐に行くさ。この街にも知り合いが出来たしな。それじゃあ、さっさと終わらせますか。ソーラ、君はここに残って負傷者の回復を頼む。アイナは冒険者ギルドの屋根の上に陣取ってそこからアンデッド共を狙撃してくれ。シリルはその機動力と攻撃力で街を駆け回って片っ端からアンデッド共を駆逐してくれ」
「わかりました」
「りょうか~い~」
「がぅ、任せろ。食ってもいいのか?」
「いけません。それじゃあ、行動開始!」
即座にソーラ達に指示を出す。途中シリルがアンデッドを食べたいと言ってきたのでそれは即座に却下した。
そして俺の号令と共に3人が行動を開始する。
シリルは勢いよくギルドから飛び出していき、近くにいるアンデッド達を片っ端から倒していった。あまりの速さに巻き込まれそうになった他の冒険者達の驚くような声が聞こえた気がしたが気にしないようにしよう。
アイナも外に出ると一足飛びで屋根に飛び乗り、シリルが行った方向とは反対方向のアンデッドを狙撃し始めた。
冒険者や街の人間に襲い掛かろうとしていたアンデッド達の頭に次々と矢が生えていく光景に、シリルの時と同じように驚く声が聞こえてきた気がするが、やっぱりこちらも気にしないようにしよう。
ソーラも駆け込んできた女性に【回帰魔法】で治療を開始し、その回復力にギルドマスターやギルド職員が目を見開き驚いている。
ギルドマスターやゴンザレスさんを除く他の職員が何か言いたそうな眼差しで俺を見てくるがこれも気にしない。
さて、3人も行動を開始したから俺もそろそろ行くか……。あんまりのんびりしてると逃げられそうだしな。ソーラ達に手を出そうとしたデブにはきっちり悲惨な目にあって死んでもらうとするか。
ヤラシスの上から発言はなんだか書いていてとても楽しく筆が進みます。
こんなクズにこれからどんな末路を迎えさせてやろうかと考えるだけで言われたらイラつくようなセリフがすらすらと出てくるあたり私も十分逝っちゃってると思います。
因みに次回でヤラシスの出番は終わりです。なぜかって? それは死ぬからに決まってるじゃないですか。
もうどんな風に死ぬかは決まっています。多分皆様がご想像できる死に方です。
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