43話 初めてのダンジョンボスのようです
ボス部屋へと至る扉が閉じると辺りは静寂に包まれた。
扉が分厚いのかそれとも魔法的な何かが作用しているのかは不明だが、部屋の中から戦闘音は一切聞こえず、微かに聞こえるのは自分たちの息遣いだけだった。
「行っちゃいましたね。1人で大丈夫なんでしょうか?」
「どうだろう、あいつの強さが分からない上にこの部屋のボスも分からないから判断のしようがないしな……」
ソーラの心配に冷たいとは思うが分からないのは事実なのでそのまま答えると珍しくシリルが話しに加わってきた。
「がぅ、多分大丈夫だと思うぞ。ボスの強さは知らないけどあいつは強いから撒けないと思うぞ」
「そうなのか? シリルがそう言うんならそうなんだな」
するとボス部屋の扉が先程と同じように重厚な音をたてて開き始めた。
部屋の奥をよく見てみると部屋の奥にある扉が閉まりつつあり、その隙間からバルバトスがこちらに手を振っているのが見える。
すぐに扉は閉まりその姿は見えなくなったが、パッと見身体に血が付着しているが怪我をしている様子もなかった為余裕を持って倒したであろうことが分かった。
「ずいぶんと~、余裕だったみたいですねぇ~。怪我はないですねぇ~、返り血を少し浴びただけみたいです~」
俺達の中で1番目の良いアイナはあのほんの少しの間にそこまで見ていたらしい。
「それじゃ次は俺達の番だな。さっさと倒して今日は帰ろうか」
「そうですね、そろそろ日も傾いている時間の筈ですし。お腹も減ってきました」
「そうねぇ~、キューティーさんの~、美味しいご飯が食べたいわ~」
「がぅ! ご飯!」
やる気満々の3人と共にボス部屋へ入る。4人全員入り終わると扉は再び重厚な音をたてゆっくりと閉じていく。
扉が完全に閉じると部屋の中心部に半径2m程の魔法陣が現れ、魔法陣からせり上がってくるように1匹の魔物が姿を現した。
それは犬の頭を持つ2足歩行の魔物、コボルドだった。ただ先程までとは異なり、王冠の様なものを頭に乗せしっかりとした剣と盾を持ち、体を鎧で覆い、背中には豪奢な赤いマントを羽織っていた。
「なんだあのコボルド。普通とはなんか違うな。もしかしてキングなのか?」
その姿に疑問を持った俺はいつものように【看破】で相手の強さを確認することにした。
名前 無し ♂
種族 子犬族:子犬王
状態 健康
Lv 15
HP 132/132
MP 61/ 61
攻撃力 180
防御力 152
魔力 78
魔抵抗 67
速度 123
運 6
スキル
【剣術Lv.2】【盾術Lv.2】【群体】【眷属召喚】
【群体】 近くにいる味方の数だけステータスに上昇補正が掛かる。
【眷属召喚】 自分の眷属を召喚することができる。眷属がいない場合、MPを消費することで新規に眷属の魔物を作成出来る。
弱っ、数が一気に増えそうだけどコボルドキング自身もかなり弱いから魔法で一掃できるしたいした脅威にはならないな。
「よし、さっさと倒して帰るとするか」
武器を構えるとコボルドキングも剣と盾を構える。
こちらが1歩前に踏み出そうとすると不意にコボルドキングが手に持った剣を地面に突き立てた。
すると剣を中心として先程よりも巨大な魔法陣が展開される。次の瞬間魔法陣から大量のコボルドが湧き出してきた。
驚くのも束の間コボルドキングは召喚したコボルドを引き連れ一斉に襲い掛かってきた。
「みんなは手を出さないでくれ」
3人に手を出さないように頼むとそれを承諾し3人は少し後ろに下がった。
それを確認すると襲い掛かってくるコボルド達の方を向き右手を前に突き出した。
「【グラビトン】」
コボルドキングを残し他のコボルドを【物理魔法】で作り出した重力で押しつぶす。
床一面にコボルド達からでた真っ赤な血が広がり辺りは強い血の臭いで覆われた。
突然の惨状に呆然とするコボルドキングに肉薄し、長剣を振るう。
コボルドキングがハッと我に返るがすでに遅く、振りぬかれた長剣はなんの抵抗も無く頭と胴を切り離した。
宙を舞うコボルドキングの顔は何が起こったのか分からないといった感じの表情を浮かべたまま地面に倒れている胴体と一緒に光の粒子となって消えていった。
経験値を110手に入れました。
スキル【剣術Lv.2】を習得しました。【剣術Lv.2】は【剣鬼Lv.4】に統合されました。
スキル【盾術Lv.2】を習得しました。【盾術Lv.2】は【盾鬼Lv.7】に統合されました。
スキル【群体】を習得しました。
「ふぃー、終わった終わったー。やっぱりキングといっても所詮はコボルドだな。いくら来ようが相手になんないや」
まあ、面白そうなスキルが手に入ったから、それは良かったけどな。
長剣を【異次元収納】に入れるとコボルドキングの倒れていた場所とその周辺をみる。
周辺にはコボルドのいた分の魔石と爪や毛皮等が落ちていて、キングのいた場所にはコボルドよりも3倍近い大きさをした魔石と1つの指輪が落ちていた。
拾い上げた指輪をよく見てみると全体的に銀色になっており、石座の部分はコボルドと思われる犬の横顔になってる。
目の部分には血のように赤い宝石が填められていた。
「綺麗な指輪ですね。コボルドキングからドロップしたみたいですけど何か特殊な能力でもあるんですか?」
「ああ、今確かめてみるよ」
俺の横から指輪を見ていたソーラの質問に答えるべくさっそく指輪を【看破】で確認してみた。
【子犬王の指輪】 コボルドのみを召喚する限定的な【眷属召喚】を扱えるようになる。
「どうやらコボルドしか呼び出せないが【眷属召喚】のスキルが使えるようになるらしい。MPさえあればコボルドのみとはいえ大軍団も作れるかもな」
「便利な指輪ですね。どうするんですかそれ? 売るんですか?」
「どうしようかな、とりあえずゴンザレスさんに見てもらってから決めようと思うよ」
「そうですね。あの人ならいろいろ教えてくれそうですしね」
指輪と魔石を【異次元収納】に入れると4人で部屋の奥にある扉に向かう。
目の前まで辿り着くと、扉が静かに開き目の前には高さ1m程の台座の上に四角錐を2つ上下にあわせた形の大きさ30cm程の淡い光を放つ水晶が浮かんでいた。
部屋の中に入るとボス部屋からの入口は閉じ、部屋には水晶が浮かんでいる台座と俺達4人しかいなかった。
「確かこれにギルドカードをかざせばいいんだったよな……」
カードをかざすと水晶は先ほどよりも強い光を発するとすぐに元の明るさに戻った。
「これで踏破階の登録が完了なんだよな。でもどうやって帰るんだ?」
「多分水晶に触って帰還って念じればいいんじゃないですか?」
ソーラに言われた通りに頭の中で帰還と念じると選択肢が浮かび上がってきた。
俺に倣いソーラ達も同じように水晶に触る。
そして全員が帰還を選択すると俺達は光に包まれ地上に帰還した。
ノリで出した指輪をどうするかまだ考えていなかったりします。
いつも拙作を読んでいただきありがとうございます。
ブックマークが徐々に増えていくのがとても嬉しいです。
明日の投稿はこちらの都合によりお休みさせていただきます。
次の投稿は5/18を予定しています。