41話 ヒュージスライムと闘うようです
「で……でかい……!」
ズルリズルリと曲がり角から出てきたのは見上げるほどの大きさを誇る粘液の塊だった。
ダンジョンの天井に届きそうなその巨体の中には先ほど逃げ出したコボルドが取り込まれている。
その体は外側から徐々に徐々に溶かされていき、そして骨も残さず消え去った。
「溶かされてる最中ってかなりグロいですね。徐々にむき出しになっていく筋肉や内臓なんかがリアルすぎてあんまり何度も見たい光景ではないです」
顔色を若干悪くしながらソーラが武器を構えつつボヤいた。
当の巨大な粘液の塊はコボルド1匹だけでは食い足りないのか今度はこちらに向かってゆっくりとその巨体を動かしてくる。
名前 無し ♂
種族 粘液族:巨大粘液
状態 健康
Lv 36
HP 927/927 (+500)
MP 1/ 1
攻撃力 10
防御力 629
魔力 10
魔抵抗 189
速度 100
運 21
スキル
【最大HP超上昇Lv.1】【消化吸収強化】【迷宮適応Lv.1】
なんだこいつ、こんなに強いのが迷宮の1階層目から出てきていいのかよ。攻撃力はないけどその分HPと防御力が強いのか。たぶん防御力に物言わせて接近して獲物を取り込むんだろうな。そんでもって徐々に消化して栄養にするわけだ……。なんてえげつないんだ。てか知らないスキルがあるな……。
【消化吸収強化】 飲食物の消化が早くなりその効果を増幅する。
【迷宮適応Lv.1】 迷宮内での行動に補正がかかる。
ステータスの詳細を見ていると、残り2mのところまで接近すると不意にその動きを止めた。
それに警戒して全員が武器を構えて様子を窺っていると、巨大粘液は不意にその体を伸ばしこちらに襲い掛かってきた。
「あぶなっ!」
ステータスに書かれている速度からは想像も出来ないほどの速さで襲い掛かってきた粘液をなんとか避けることに成功した。
元に位置にある体を引き寄せ再び塊の状態に戻ると、今度は全方位に向けて粘液から作り出した触手を爆発的な速度で伸ばしていく。
こちらの戦闘音を聞きつけて近寄ってきたコボルドが触手に捕らえられ再び巨大粘液に消化吸収されていった。
「そうそうやられて堪るか! 【氷の壁】!!」
俺達と巨大粘液との間を阻むように透明度の高い氷で出来た壁が聳え立つ。
次々と氷の壁に触手がぶつかっていき、壁に触れた所から凍り付いていく。
凍りついた触手はそのまま粉々に砕け、空気に溶けるようにして消えていった。
それでも諦めきれないのか次々と触手を壁に打ち付け続ける。
このままじゃ埒が明かないな。
「ソーラ、俺が前に出る。俺の氷の壁は消すから代わりの壁を作り出してくれ」
「わかった。気をつけてね」
3人が少し後ろに下がると俺と3人の間に今度はソーラが作り出した氷製の壁が聳え立つ。
よし、そいじゃ行きますか! ああいった手合いは核を破壊すれば倒せるのがセオリーだからな。都合のいいことに半透明の体では核が丸見えだ!
自分の作り出した氷の壁を消し、突き出される無数の触手を掻い潜り巨大粘液に肉薄する。
左右から押し潰そうと迫る粘液の壁を跳躍して回避し、天井を足場にし一気に加速して天辺から核目掛けて長剣を振り下ろす。
たいした抵抗も無く斬り裂いていきそのまま核は真っ二つになった。
「なんだか随分あっけなく倒せたな。なんだか拍子抜け――」
「シーツァ!! 危ない!!」
俺の呟きがソーラの悲鳴のような警告にかき消される。
反射的に飛び上がろうとしたが一瞬遅く左右から迫る粘液に捕らえられ、巨大粘液の体内に閉じ込められた。
やべっ、まさか核斬り裂いても死なないとは思わなかった……。なんか体の表面からジワジワ溶かされてるのか体中がピリピリするな。早く何とかしないと……。
「シーツァ! 今助けるよ!」
ソーラ達が武器を持って駆け寄ってくるのをなんとか手で制する。
ソーラ達が急停止した瞬間すぐ目の前に触手が叩きつけられた。
慌てて後ろに下がると再び突き出される無数の触手を防ぐために氷の壁を作り出す。
これでソーラ達はなんとでもなるだろ……。問題はこっちだな……。そろそろ本格的に体の表面が解け始めてきた……。いい加減何とかしないとコボルドと同じ末路辿る羽目になる。そういえばさっき氷の壁に触手ぶつけた瞬間に触手が凍ってたな……。あの壁にあんな効果があるとは思えないが……。もしかして温度変化に弱いのか? それなら――!!
思い付きをすぐに実行すべく【火魔法】を体の表面に纏わせる。
すると巨大粘液は突然の熱に苦しむようにもがき始め、迷宮内の壁や天井に体を打ちつけ始めた。
やっぱり……! 高温や低温に極端に弱いのか! それなら一気に加熱して蒸発させてやる!!
一気に【火魔法】出力を上げると更に激しく暴れ始める。
次第に巨大粘液自身の温度も急激に上がり始め徐々に水が沸騰するときのようにボコボコと泡が立っていく。
「これで仕舞いだーー!!」
更に温度を上げると激しい爆発音が起こり熱に耐え切れなかった巨大粘液の体が爆発し粘液がそこら中に飛び散っていく。
ビチャビチャッと飛散した粘液は壁や天井に張り付くと光の粒子となって消えていった。
経験値を720手に入れました。レベルアップしました。
スキル【最大HP超上昇Lv.1】を習得しました。【最大HP超上昇Lv.1】は【最大HP超上昇Lv.3】に統合されました。レベルアップしました。
スキル【消化吸収強化】を習得しました。
スキル【迷宮適応Lv.1】を習得しました。
スキル【火魔法Lv.7】がレベルアップしました。
スキル【複製転写Lv.2】がレベルアップしました。
「な……なんとか倒したか……」
巨大粘液から解放され、地面に落ちた俺は体の表面を溶かされた状態を治すことも忘れ、深く息を吐くとそのまま地面に座りこんだ。
今回一番悩んだのは巨大粘液のスキルだったりします。スライムってどんなスキル持ってるんだろうとかなり悩んだ結果がこれです。正直【物理無効】とか【分裂】とか持たせようとも思ったのですが、スキルを習得したシーツァがどうなるんだろうと想像できなかったため消すことにしました。
いつもお読みいただきありがとうございます。