38話 宿屋が決まったようです
今回も人外な人が出てきます。見た目の元ネタはあるのですが似てるのは見た目だけで話し方なんかは違います。
扉を開いた先にはいくつものテーブルやイスが配置されている食堂になっていた。カウンターの横には厨房に続いているのであろう通路がある。その反対側には階段があり、おそらく2階に宿泊客の部屋があるのだろう。
食事時ではないためか客はおらず、店員の姿も見えなかった。
「誰もいないんですかねー。綺麗な店内だけあって人がいないと寂しさに拍車がかかります」
「ああ、確かにそうだな。すいませーん! どなたかいらっしゃいませんかー? 今日からしばらく泊りたいんですけどー!」
するとカウンターの奥の通路から人の足音らしきものが聞えてきた。
ズシンズシンと普通の人が立てるような足音でないことに気づき、嫌な予感が胸一杯に広がっていると、通路の入口からヌッと大きなシルエットが出てきた。
2m近い巨体にがっちりとした肩幅、ボディービルダーの方々も顔負けの筋肉に覆われた体。
そして厳つい顔に左右の斜め上に突き出した口ひげ、そして髪は何故か下の輪の部分が長い角髪のような髪形をしている。
そして何故この世界にあるのかは分からないが褌一丁あと全裸であった。
「すいません、店を間違えたみたいです。失礼しました」
くるっと方向転換して店の外に出ようとするが、寸でのところでやっぱり俺の太ももよりも太い腕に襟首を掴まれ子猫のように持ち上げられてしまう。そして目の前には件のいかめしい顔があった。
「あら、つれない事をいわないでほしいわぁ~。せっかく来たんだからここに泊っていきなさいな。そ・れ・に、ここいらでは見ない顔だけど可愛い顔しているわねぇ~。食べちゃいたいわ~」
「ひっ、い、いや、あの、えーと、店を間違えたみたいで、プリティーさんに教えてもらった『小鳥の泊り木』って店を探してるうちに間違えて入っちゃったみたいで……」
ぱっと手を放されそのまま物理法則に従い床に落下し、尻を強かに打ちつけてしまい痛みに悶えていた。
「あら~、おねぇさまの紹介だったのね~。ここが宿屋兼食事処『小鳥の泊り木』よ~。サービスしちゃうわよ♪」
いかめしい顔から放たれるウィンクに強烈な寒気が襲い掛かり、全身鳥肌を立てながらも何とか気絶するのはこらえていた。
「今日からしばらくお世話になります。よろしくお願いします」
ソーラ達は普通に挨拶しているが、ゴンザレスさんの時も思ったが何で女性陣は平気なんだろうか……。俺がおかしいのか? いや、そんなはずはない! こんな人外魔境に棲息していそうな人型の生物に恐れおののかないなんてそっちのほうが変なんだ!
心の中で必死に自己弁護しながらなんとか立ち直り改めて目の前の人外をみやる。
「あら~、そんな熱い眼差しを向けられたら濡れちゃうわ~。何処とは言わないけど♪」
くっ、負けるな俺! こんな地上最強の生命体に勝てるわけがないんだ……。背を向けたら……掘られる……!
「ええ、えと、今日から4人でこの宿にお世話になりたいのですが、部屋は空いてますか?」
頼む! 満室であってくれ! 主に俺の精神衛生の為に……!
「空いてるわよ~、部屋の人数はどうするの~」
俺の必死の願いも虚しく告げられる空室の言葉。
挫けそうになる心を何とか奮い立たせソーラ達に聞いてみた。
「部屋割りはどうする? 俺1人で1人部屋借りて3人はどうする?」
「え? 全員同じ部屋じゃないんですか?」
ソーラに何を言っているのか言わんばかりの反応をされ、その後アイナとシリルにも同じ質問をしたがソーラとまったく同じ反応が返ってきた。
「私達が村に居候していたときも同じ屋根の下で生活していましたし、それに私達は3人ともシーツァのお嫁さんなんですから恥ずかしがる必要も隠す必要もないんですよ?」
「そうよ~、私達はあの日~、あつ~い夜を4人で過ごしたんだし~、何も気にすることないわよねぇ~」
「がぅ、強いオスは多くのメスを囲うものだぞ」
「あら、全員この可愛いボーヤのお嫁さんだったのね~。羨ましいわ~。だったら1つ雑魚寝用の大部屋があるから、そこを4人で使うといいわ~。お値段はそうねぇ~、おねぇさまの紹介だし、朝夜の食事付で1日1人頭250リルカでいいわ~。4人だと1日1000リルカね~」
「わかった、じゃあとりあえず15日ほど頼む」
さっきの依頼の報酬を全て渡すと人外はカウンターにもって行き袋の中のお金を数え始める。
すぐに計算も終わりそのお金を金庫に入れると鍵を取り出し金庫を閉め、再びこちらにやってきた。
「それじゃあこれが部屋の鍵よ~。部屋は階段上がって1番奥の扉がそうよ~。っといけない、そういえば自己紹介がまだだったわね~。私はこの『小鳥の泊り木』の主キューティーよ。気軽にキューティーちゃんって呼んでくれると嬉しいわ~」
「えっとキューティーって本名じゃないですよね。本名は――」
「キューティーよ」
「いやだから本みょ――」
「キューティーよ」
「いやだ――」
「キューティーよ」
「キューティーさん……、よろしくお願いします」
「はい、よろしくね。シーツァちゃん♪」
どこかでやったようなやり取りにゲンナリしつつ、鍵を受け取ると階段を上って俺達が宿泊する部屋に向かう。
ソーラ達もキューティーさんに挨拶すると俺の後に続くようにして歩いてくる。
部屋に入る直前気配もなく後ろに立つキューティーさんが声を掛けてきた。
「シーツァちゃん、まだその部屋にベッドが入っていないのよ。そもそも雑魚寝ようの部屋だから。すぐに準備するから部屋の中で待っていて頂戴な」
言われた通りに部屋の中に入って待つことにする。俺の持っていた雑魚寝部屋の印象とは違い、とても綺麗で清潔感があふれていた。
すぐにキューティーさんが1人でベッドを4つテキパキと運び入れる。片手で。
「お待たせ、ベッドはどんな感じで配置したほうがいいかしら? やっぱり4つともくっつけて並べちゃう?」
「はい~、4つ全部窓際に並べてください~。これなら4人で一緒に寝れますしね~」
「そうですね。それでお願いします。お手伝いしましょうか?」
「大丈夫よ~、すぐ終わるからちょっとだけ待っててね~」
アイナの言った通り窓際に並べられた4つのベッド。その上に木でできたそれに布団を敷き、その上に白い上掛けを置いていく。
「それ……。布団か?」
布団を見た途端不意に口から疑問とも質問ともいえない言葉がこぼれた。
「あら、よく知ってるわね~。その通り布団よ~。遥か東の島国からの輸入品なのよ~」
「すごく寝心地が良さそうですねぇ~」
見た目からフカフカしていそうな布団をみたアイナが率直な感想を口にする。
その目はとてもキラキラしていた。
「ええ、中に大量の綿が詰め込まれていて、とてもフカフカなのよ~。うちの宿屋の自慢だわ~」
そう話している間も作業の手を休めることなくベッドメイクをしていくキューティーさん。見た目はアレだが仕事のほうは1流のようだ。
よし、と綺麗に仕上がったベッドを見て満足そうに頷くとこちらに振り向いた。
「じゃあ、これでベッドの設置はおしまいね。朝と夜のご飯は時間に関係なくきっちり作るから安心して頂戴。それと、この宿屋は結構防音がしっかりしてるからするときは遠慮しなくてもいいわよ。それで、今日の晩御飯はどうするのかしら?」
「ああ、一休みしたら食べに行くよ」
「そう? じゃあ、今日は腕によりを掛けて作らせて貰うわ~」
そう言葉を残し部屋を出て行くキューティーさんを見送ると、大きく溜息をついた。
今日からここで寝泊りするんだよな~。慣れるまで時間かかりそうだ。
そう思いながら俺はベッドに倒れこんだ。
プリティーさんが貂○だとしたらキューティーさんは卑○呼です。
この2人は人間にしては異常なまでに強い設定です。今のシーツァで勝てるかどうか(精神的な意味でも)分かりません。多分負けますね。私ならこの2人と勝負になりそうになった時点で逃げます。負けたら貞操の危機が待っていそうなので……。
いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。ブックマークや評価していただけると大変励みになりますのでよろしくお願いします。