25話 魔物大行進のようです
すいません。諸事情により遅れました。申し訳ありません。
みんなの装備を整えてから1ヶ月、様々なスキルを鍛えながら過ごしていたある日の出来事。
村に1人の商人が息を切らせながら馬と共に駆け込んできた。
「大変だ! 村長はいるか!」
村に入るや何事かと集まってきた村長を含めた村人達に、自分の見てしまったこれからここに来る絶望を叫ぶようにして教えた。
「早く逃げないと! 魔物大行進だ!」
「「「なっ!」」」
商人の叫びに全ての村人が驚愕に目を見開き、しばらく何も言えなくなってしまった。
「なあ村長、魔物大行進ってなんだ?」
「はっ! シ、シーツァさん……。魔物大行進っていうのは地平線を埋め尽くす程の魔物達が押し寄せてくる現象の事です。あれの通った後には草木の1本も残らない。あれで村や街が滅んだことも少なくないらしいです」
俺の質問に驚愕から帰って来た村長は別の意味で驚きながらも、その恐ろしさを俺達に教えてくれた。
「で、逃げれるのか?」
「方向さえ気をつければ逃げられるらしいのですが――」
「シーちゃん~、あいつら走ってる~、後2時間位で~、この村が呑み込まれるよ~」
アイナの声に村人達が恐慌に陥る。右往左往する他の村人達を村長が必死で落ち着かせる事で何とか怪我人が出ずにすんだ。
「で、逃げれるのか?」
「無理でしょう。普通の魔物大行進は魔物達が歩いて向かってくると聞いていますので発見さえ遅れなければ逃げれるらしいのですが、走ってるとなると逃げ切れないでしょう。この村には馬もありませんし、何より年寄りが多いですから」
村人達は揃って諦めたかのように俯く。商人はそれを見てさっさと馬に乗って逃げ出してしまった。
「さて、このままじゃ俺達も巻き込まれるな。みんなどうする?」
「どうするって……、流石に見過ごすのはちょっと……」
「そうねぇ~、魔法で村人達を空に逃がして~、やり過ごすことぐらいはできると思うけれど~、村が完全に消えちゃうからねぇ~」
「私はシーツァに従うぞ」
俺が3人に質問すると、みんな最初から見捨てる選択肢は無いらしかった。
「そうだな。結構長いことこの村には世話になったわけだし、頑張ってみますか」
村長に俺達が魔物達と戦う事を伝えると困惑した表情を浮かべながら質問してきた。
「なぜ戦うのです? あれは人がどうこうできるものではありませんよ」
「だからって座して死を待つなんて事はできないよ。まぁ、期待しないで待っててくれよ。生き残れたら幸運ぐらいの気持ちでさ」
すでに生きること自体諦めている村長がしてくる質問に俺は気楽に答える。
俺の回答に力無く笑う村長に村人達を村の中心に集めて固まっているように指示を出してもらうと、俺達は魔物大行進が来る方角へ向けて歩き出した。
1人暮らしの奴もいるし、やっぱり死ぬ時は一人じゃ寂しいよな。ま、俺達がここで食い止めればそんな心配する必要も無いか。
1時間程村の入り口から少し離れた場所で待っていると、遠くに巨大な土煙と共にこちらに向かってくる無数の魔物の姿が見えた。
「あーすげぇなあの量、いったいどれだけいるんだ。しかもかなり大きい個体もいるし」
「確かに多いね。この村の大きさじゃ簡単に飲み込まれちゃう」
「そうねぇ~、どんなに少なめに見積もっても4000体は超えているねぇ~」
「ガゥ、あれだけの敵と戦えるのか。楽しみだな」
ほんとに多いなー。なんか見たことが無いのもいるし、できる限り【看破】で確認するか――ん?
片っ端から【看破】を使い確認していると魔物達に共通することがわかった。
「なあ、あの魔物達全員状態が恐慌になってるんだが、何でだ?」
「多分何かから逃げているのでは?」
俺の疑問にソーラが首を傾げながら自分の考えを口にする。
「やっぱりそうなのかなー。よし、とりあえず今回の作戦を伝えるぞ。俺とソーラ、アイナは敵が近づいてくる前に全力で範囲攻撃をして数を減らしに減らす。それで、シリルは敵が接近してきたら俺と一緒に突撃して大暴れする。簡単だろ?」
「そうね、それが一番良さそうね」
「ですねぇ~」
「私はシーツァに従うぞ」
「よし! じゃあ、ソーラみんなにポーション系のアイテム配ってくれ」
俺の作戦をみんなに伝えると反対意見も無く全員一致で決まった。
ソーラが【異次元収納】からポーションやMPポーションを全員に配り終えると、魔物の群れに向かって横並びになる。
少し緊張するなー。命掛けのことは何回もあったけどこれだけの数を一度に相手にすることなんて無かったからなー。とりあえず、全員無事で何とか乗り切らないとな。
「じゃあみんな、攻撃開始だ!!」
俺の号令を皮切りに俺が巨大な竜巻を巻き起こし、ソーラは巨大な炎の塊をいくつも魔物の群れに降り注がせ、アイナが空に矢を放つと幾百幾千と分裂し降り注いだ。
大量の経験値やスキルが入り、倒していることは分かるのだが一向に減る気配を見せない魔物達に次々と強力な魔法等が放たれる。
「ちっ、まったく減ってる気がしない!」
「本当ですね、倒せているのは分かるのですが……」
「シーちゃん~、死んでない何体かが再生してるみたいだよ~」
「マジか! てことは、そういう奴らは動けなくするんじゃなくて1発で殺せないとすぐに回復して向かってくるのか! めんどくさい!」
盛大に愚痴りながらも魔法を放つ手は休めず次々と魔物を屠っていく。
半時程魔法と矢を撃ち続けていると徐々に魔物の数が減っていくのが分かった。
「シーツァ! もうMPもMPポーションも無くなったよ!」
「私も~、MPがなくなったわ~」
「わかった。しばらく休んで回復に専念しててくれ! シリル、行くぞ!」
「ガゥ! 待ちくたびれたぞ!」
俺とシリルが魔物の群れに向かって駆け出して行く。シリルが一気に加速しその勢いのまま跳躍すると、続けて【空間機動】を使い魔物の群れの上まで跳んで行く。
「ガゥ! これでも食らえ!」
そして上空から下に向けて空間を足場に跳躍し物凄い勢いで落下するなか右手のガントレットを一気に巨大化させ魔物達を叩き潰した。
ズドォォーーーン!! と盛大な音が上がり、ガントレットの大きさを元に戻すと、そこには魔物達の空白と大きなクレーターが出来上がっていた。
こりゃあ俺も負けてられないな!
真正面から斬りかかり、次々と魔物達を斬り殺していく。
ある茸の魔物は縦に斬り裂かれ、ある狼の魔物は胴体を真っ二つにされ、またある豚鬼は首と胴体が永遠にさよならしていた。
不意に嫌な予感がしてその場を飛び退くと今までいた場所に大きな棍棒が叩きつけられた。その犯人を見やるとそこには俺の倍以上はある巨大な体躯に筋骨隆々の体、額には左右2本の角を生やした鬼が棍棒を振り下ろした体勢でいた。
でかっ! 【看破】先生によると――大鬼か! さっき遠めに見えたでかいのはこいつか!
すれ違いざまにに棍棒を持っていた腕を斬り落とし、振り返って首を落とそうとすると目の前に大きな拳が迫っていた。
あぶねぇ! は? 何で斬り落とした腕がもうあるんだよ。斬ったのは地面にあるって事はこの一瞬で生えてきたって事か!
何度も放たれる拳を避けながら斬りつけるが、いくら腕を切断してもすぐに新しい腕が生えてきて体の大きさに見合わない速さで拳を繰り出してくる。
あーもう、切りがねぇ! 一気に首を落とさないとダメか!
オーガの股下を潜り抜け、即座に反転跳躍しオーガの首を切り落とす。
ズシンと巨体が音を立てて倒れるとそのまま動かなくなった。
ふぃー、ようやく動かなくなったか。 他にも何体かいるみたいだし、魔力も回復してきたから一気に殲滅するか!
【異次元収納】を自分の上に開き、顔を覗かせた大量の槍を【物理魔法】で一気に射出する。
次々と魔物達の脳天を撃ち抜き即死させていく。
そしてしばらくして【異次元収納】中の槍を全て撃ち出し終える頃、俺の視界で見える範囲には生きているのが1体だけになっていた。
「シーツァ! こっちは終わったぞ」
体中を返り血で真っ赤に染めているシリルが駆け寄ってきた。俺は軽く頷くと唯一生き残った魔物に注意を向けた。
先ほど倒したオーガよりも更に大きく、倍はあると思われるその巨大な体を持つ魔物は頭を護るためにクロスしていた腕を解くと大きな咆哮をあげてこちらに向かってきた。
なんだあれ! さっきのオーガよりもずっとデカイじゃないか! 何々、大鬼王って何でそんなのまでこんなところにいるんだよ!
「シリル! こいつでラストだ! 一気に倒すぞ!」
「ガゥ! 任せろ!」
シリルと2人でオーガキングに突進し、シリルは右から、俺は左から攻撃を繰り出した。
ガキン! と硬質な音を立てて俺の剣が大きな金属製の棍棒に防がれる。シリルも腕で受け止められ同時に振り払われ吹き飛ばされた。
そう簡単には殺らせてくれないか。こうなったら数で攻めるか。
盾と長剣を【異次元収納】に入れ、新しく【鬼殺し】を付与した2本の片手剣を作り出し斬りかかる。
オーガキングも片方は棍棒で受け止めるが、もう片方で脇腹を斬りつけられ苦悶の声をあげる。
その隙を突いて打ち出されたシリルのラッシュを顔面に食らい、オーガキングがよろめいた。
今だっ!
一気に跳躍しオーガキングの頭を斬り飛ばす。勝ったと思ったのも束の間振りぬかれた腕に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
グハッ! いったいなんだってんだ。頭斬り飛ばしただろ、最後の抵抗か?
叩きつけられた俺が起き上がって見たものは首から離れた頭を掴み、元の位置に押し付けているオーガキングの姿だった。
首がくっ付いた感じを確かめるためにコキコキと首をならすと目を真っ赤に染め上げて耳を塞ぎたくなるほどの咆哮を上げ、一気に突進してきた。
なんで生きてるんだ! 演義の孟獲じゃないんだぞ! ってか速っ!
あっという間に俺に接近したオーガキングから先ほどより速度も威力も上がった拳が雨霰の如く降り注いだ。
なんとか避けながら反撃するが、勢いが強すぎてまともな攻撃ができず、偶に斬りつけることに成功しても一瞬で傷が再生し徒労に終わっていた。
くそがっ! このままじゃジリ貧だ。何とか打つ手はないか。
「シーツァ!」
オーガキングの背後から巨大化したガントレットで殴りかかるシリル。さすがのオーガキングも堪えたのかよろめき即座に攻撃目標をシリルに変更する。
そしてシリルに向けて先ほどと同じように雨霰の如く殴りかかっているオーガキングの背後から再度両手の剣で頭を斬り飛ばす。
一瞬止んだ攻撃の隙を突き跳躍したシリルが頭を空高く蹴り上げる。
俺は両手で必死に頭へ手を伸ばすオーガキングを尻目に宙を舞う頭を【旋風魔法】で粉々に切り裂いた。
頭が粉々になった瞬間糸が切れたように地面に倒れこんだオーガキングはそのまま2度と動くことはなかった。
「ふー、危なかった。ありがとなシリル」
「ガゥ! シーツァはすごいなあんなでかいのを倒すなんて」
「いや、シリルがいなかったらやばかった。下手してたらこっちが殺されてたよ。ほんとに助かった」
俺のストレートな感謝の言葉に照れているシリル。そんなシリルの可愛い姿を見ていると村のほうからソーラとアイナが駆け寄ってきた。
「おつかれさまシーツァ、シリル」
「ん~、お疲れ様は~、まだちょっと早い気がします~。何か来ますよ~?」
「「「え?」」」
魔物達がやってきた方を見つめるアイナの声に俺達は素っ頓狂な声をあげた。
初めての大量の魔物との決戦です。もうちょっと戦闘シーンの描写をうまくしたいのですが、私ではこれが精一杯でした。歯痒いです。
ブックマークありがとうございます。読んでくださっている方がいるからこうして書き続ける意欲が沸いてきます。いくら感謝しても足りません。




