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生きるために強くなる ~だってゴブリンに転生しちゃったし~  作者: ミジンコ
最終章 ゴブリンと最終決戦と生きるために強くなる
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最終話 生きるために強くなる

「あーなんかここに来るの何回目だ?」


 魔族大陸から消え神界へと転移したはずのシーツァが目にした風景はもう何回も来た事があるあの白一色の空間だった。

 相も変わらずこの空間には果てが無く、何処までも白い空間が続く世界。初めて来た時は結構ワクワクしていたシーツァだったが、こう何度も来ているとありがたみみたいなものはだいぶ薄れていた。


「おーい、誰かいないのかー」


 白い空間にシーツァの声が虚しく響く。


「っかしーなー。いつもなら誰かしらいるんだけど……」


 シーツァが周囲を見回しているといつの間にか1人の壮年の男性がシーツァの目の前に現れる。以前にも会った事のあるイリスの父親であり神界の最高神ことゼリウス(親馬鹿)であった。


「いや遅れてすまない。少し用事があってな」


「別にいいよ、たいした時間待っていたわけじゃないからな。そんな事よりも、はいこれ」


 そう言ってシーツァが【異次元収納(アイテムボックス)】から光り輝く宝玉を取り出した。宝玉から放たれる神々しい力は、目の前の人物ならば誰のものかすぐに理解できるもの。すなわちイリスの【神の力】そのものである。


「イリスはしばらくはあっちの世界で生活するってよ。だからこれはあんたに渡しておいてくれってさ」


「ああ、間違いなくマイラブリーエンジェルイリスちゃんの力の核だな。わかったこれは私が責任を持って預かろう。しかし……同じ旦那を持った仲間達と共に生活する事を喜ぶべきか、しばらく会えないことを悲しむべきか……悩ましいところだな」


 そう呟きながら宝玉を何処かにしまっているゼリウスの姿は哀愁が漂っていた。


「そういえばここは何処なんだ? 神界ってのはこんな殺風景な場所なのか?」


「ん? ああ、それは……だな……」


 歯切れの悪いゼリウスの姿に訝しげな表情を浮かべるシーツァ。よく見てみるとゼリウスの顔には脂汗が浮かび、瞳もキョロキョロと視点が定まっておらず何かシーツァに隠し事をしているのが誰の目にも明らかだった。


「なんだ? 俺に知られると都合が悪いことでもあるのか?」


 ジーッと自分を見つめるシーツァの訝しげな視線に晒されたゼリウスはしばらくの後、観念したかの様に深いため息を吐くとシーツァへと視線を向けた。


「はぁー、分かった降参だ」


「で、何を隠してるんだよ」


「いや、別段隠している訳ではないのだ。ここは狭間の世界といって下界と神界の文字通り狭間にある世界なのだ」


 ここに来て初めてこの白一色の空間の名称を知ったシーツァ。しかしシーツァが今知りたいのはこの空間の名称ではなく何故ここにいるかという事である。

 ソーラ達のいる世界から消え、神界に移動したものだとばかり思っていたシーツァは何故自分が神界ではなく狭間の世界に来ているのか分からなかった。


「申し訳ないが君を神界に入れるわけにはいかなくなったのだよ」


「とりあえず理由を聞いてもいいか?」


「以前イリスを末の娘だと説明したことがあったね? イリスには多くの兄や姉がいるのだが……、君は狙われている」


 ゼリウスの発した突拍子も無いセリフにシーツァは我が耳を疑った。

 それもそうだろう、誰しも行った事のない世界で突如狙われていると言われて驚かない者等いない。それが自分のお嫁さんの親族ならば尚更だ。


 ん? いや、親族だから狙われてるのか? このおっさんと同じような兄姉軍団だった場合狙ってきても不思議じゃないか。


「とりあえず聞くけど何で狙われてんだ?」


「君がイリスを自分の嫁にしただろう? それを聞いてイリスを溺愛していた兄達はそれはもう下界に攻め込まんばかりで怒り狂ってな。姉達の中で既に結婚している者はイリスを応援しているのだが、行き遅れ達が嫉妬から君を襲う計画を立てていると既婚の姉達が言っておった」


「んで、俺はどーすればいいんだよ。神界に行った途端教われるなんてゴメンだぞ」


「そうだろうな。そこでだシーツァ君、もう一度転生してみる気はないかね?」


 ゼリウスの口から出た言葉は先程の狙われていると言われた時よりも衝撃的だった。

 再びあっち世界に行ける、この上ない甘美な誘惑にシーツァは耐えられなかった。

 ソーラ達との別れの時、シーツァは叫びたかった。辛い寂しい別れたくないと子供のように。

 しかし自分がそれをしてしまってはソーラ達に更なる心配を掛けてしまう、それ故にシーツァは叫びたい気持ちを必死で我慢し別れたのだ。

 次にあっちの世界に行けるのは約1万年後。今のままではもう二度と会うことの出来ない最愛の者達、それが転生という形とはいえ再び出会える可能性があるのであればシーツァが飛びつかないわけが無かった。


「頼む! 俺をあの世界に再び転生させてくれ!」


「ステータス等は初期値に戻ってしまうがそれでも構わんのか?」


「構わない。またソーラ達に会えるんだったらそれぐらいどうとでもしてやるさ」


「そうか、それなら種族はどうするかね? 君にはイリスを救ってもらった恩がある。英雄でも貴族でも何でも好きなのを言ってくれ」


「そうか? それじゃあゴブリンで頼むよ」


 数ある選択肢の中でも最弱と言ってもいい選択をなんの躊躇いも無くするシーツァに今度はゼリウスが耳を疑う番になった。

 ゼリウスはイリスからの報告や自分自身が下界を覗いていた事もあり、ゴブリン時代のシーツァの苦労を知っている。人間以下の脆弱な体に乏しい魔力。魔物の中でもラービに続いて貧弱なゴブリンを経験しているシーツァが再びゴブリンを選ぶなど、ゼリウスにはとても信じられなかった。


「本当にゴブリンでいいのか? もっといい選択もあるのではないか?」


「いいんだよ、そりゃ確かに転生当初は大変だったさ。けど、それでも俺はゴブリンに転生できてよかったと思うんだ。俺はゴブリンに転生したからソーラやアイナ、シリル達と出会えたんだ。人間に、それも英雄や貴族なんかに転生していたらきっと会えなかっただろうし、下手したらトモエやチャーチとは敵同士だ。それに、ここで俺が人間を選ぶのは俺の最愛の人達との出会いを全部捨てちまうような気がするんだよ」


 一切迷いの見受けられない瞳をゼリウスへと向けるシーツァ。胸中ではソーラ達との出会いからこれまでの思い出が流れ、シーツァの心を満たし自然と笑みがこぼれる。


「だから俺は、ゴブリンに転生したいんだ」


「そうか、ならば行くが良い。愛しい者と再び廻り合える事を祈っておるよ」


 シーツァへと向けられたゼリウスの手が光を帯び始める。それに合わせてシーツァの足元にも幾何学的な模様の魔方陣が形成され、完成するや否やゆっくりと光を放ち始めた。

 徐々に魔方陣から放たれる光が強くなると、光は魔方陣からまっすぐ天へと立ち上り始める。


「シーツァよ娘を、マイラブリーエンジェルイリスちゃんを頼むぞ」


 最後の最後でゼリウスの放った締まらないセリフにずっこけるシーツァ。それと同時に魔方陣の光がより一層強くなり、魔方陣の外側が光によって見えなくなる。

 光が視界を埋め尽くし白一色で染まりきった瞬間、シーツァの意識は闇の中へと落ちていった。


「さて、最愛の旦那様(シーツァ君)が再び転生したとイリスに伝えてやるとするかの」


 シーツァが再び転生したのを確認したゼリウスは悪戯が成功した悪戯小僧のような楽しげな笑みを浮かべながら呟くとそのまま狭間の世界から消えていった。







「ン……此処ハ……」


 目を開けたシーツァが最初に目にしたのは木の枝や葉を集めて作られた天井。瞳を動かして周囲を見ると木の枝と葉、蔓によって申し訳程度に家の形に作られたあばら屋以下の小屋である事が分かる。

 むくりと起き上がったシーツァが自分の手足を見る。汚れた緑色をした小さな手足はこの世界に転生してきて初めて見た自分の手足と寸分違わぬものであった。


 んー、懐かしいな。この手足って事は俺はゴブリンに転生できたんだとは思うけど念の為……。


「ステータスオープン」


名前 シーツァ ♂

種族 小鬼族:ゴブリン

状態 健康

Lv  1

HP 10/10

MP  5/ 5


攻撃力 8

防御力 5

魔力  3

魔抵抗 1

速度  6

運  22 (+20)


スキル

【異世界言語】【看破】【スキル習熟速度倍加】【異次元収納】【蒐集Lv.1】【武具作成Lv.1】【幸運Lv.1】【防音Lv.1】


 おお、本当に俺はゴブリンにまた転生できたんだな。ステータスもこっちに来た当初と殆ど変わらない、唯一変わってるのがあるとすれば最初から名前があるぐらいか。


 ステータス画面を消してシーツァはゆっくりと立ち上がる。戦鬼(イクサオニ)の時から比べたら相当小さくなってしまった体に感覚が追いつかずなかなかうまく歩く事が出来ない。あばら屋の中をゆっくりと転びそうになりながらも歩き徐々に感覚を取り戻していった。


 やっぱり初めての感覚じゃないから慣れるのも早いな。これなら外に出ても問題ないだろ。


 だいぶしっかりと歩けるようになったのを確かめたシーツァはあばら屋を出る。あばら屋の外にはこれ以外にも複数のあばら屋があり、少なくない数のゴブリン達がそれぞれの生活を営んでいた。

 他に何か無いものかと周囲を見回していたシーツァの視線はあるものに固定される。威風堂々と地面に突き刺さりその存在感を示している木製の大剣へと。

 集落の済みに突き刺さる木製の大剣。それはこの集落のある場所が、シーツァの2つ目の生まれ故郷である事を指し示していた。


 懐かしいな……。あの下には親父達が眠ってるんだっけ。


 世界樹の大剣の元まで歩き、目を閉じ手を合わせる。途中他のゴブリンから訝しげな視線を向けられていたが、目を閉じているシーツァはそれに気が付かない。

 しばらくの間手を合わせ、これまででの出来事をこの世界での父親に報告していたシーツァはやがて報告を終えると目を開き立ち上がる。その開かれた瞳は希望に満ち溢れていた。


 さて、感傷に浸るのはこれまで! これからの事を考えなくちゃな!

 最終目標はソーラ達との再会だとして当面の目標はー、『生きるために強くなる』だな!!

ついに本作、「生きるために強くなる ~だってゴブリンに転生しちゃったし~」が最終回を迎える事が出来ました。

最後、シーツァとソーラ達が再会するシーンでラストを飾ろうかとも思ったのですが、当初の予定通りに相成りました。本作のタイトルは、ラスト、シーツァの心中の一言を言いたかったがためにつけられたタイトルなのです。

今では予定通り出来て良かったと思っています。


最後に、ここまで書き続けて来られたのも一重に本作を読んでくださっていた方々がいたからです。

私の夢と希望と妄想と欲望が入り混じったご都合主義万歳の未熟な本作を最後まで読んでいただけて感謝の言葉しか出てきません。本当にありがとうございました。


新作投稿しました。よろしければそちらもぜひ。

「異世界転移の融合者」

http://ncode.syosetu.com/n7384dv/

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