126話 シーツァVS横島 意のようです その2
若干グロ表現があります、ご注意ください。
「捻じ伏せろ! 【重力】!!」
「【氷の槍・掃射】!!」
「【分裂】【追尾】、てぇ~!!」
「がぅ!!」
「ハハハ! いいね、そうこなくちゃ!」
シーツァからの重力を意に介さないかの様に荒野を駆け巡る意。
ソーラとアイナから放たれる氷の槍と矢の掃射を高速で振り抜く剣で切り伏せ、シリルの巨大化したガントレットの打ち下ろされる一撃を回避する。
弾け飛ぶ地面の土や石に晒されながらも意は心底楽しそうに嗤っていた。
「今度はこっちの番だね!」
意が駆ける足を止める事無く両腕を広げる。すると両手の先に様々な種類の球体が生み出された。
赤熱する球体や紫電の走る球体、白く輝く球体等各属性の特徴を持った球体は意が腕を振り抜くのに合わせてシーツァ達へ向かって空中を奔った。
そしてそれぞれの球体がシーツァ達へと迫ろうとした瞬間球体達の姿が不意にぶれたかと思ったその時、急速に萎み始めた球体はそのまま最初から無かったかの様にその姿を消した。
「は? 何が起こったんだ?」
目の前の光景に理解が追いついていない意が再び球体を作り出すも、今度は作り出された端から球体は先程と同じ様に萎み消えていった。
「無駄よ~? 私の目でぇ~、捉えたものは~、大抵死んじゃうのよ~? まぁ~、あなたには~、効かないみたいだけどねぇ~」
「見ただけで殺せるって反則くさ――がっ!? かはっ……!?」
アイナの【死の魔眼】の力を聞いて乾いた笑いを浮かべていた意が急に喉を押さえて苦しみ始める。
まるで急に|周囲の空気が無くなった(・・・・・・・・・・・)かの様な苦しみ方は今までの意からは想像も出来ないものであった。
「あなたの~、周囲の空気を~、殺したわ~。いくら不老不死でも~、呼吸できない苦しみが~、無くなるわけじゃないわよねぇ~?」
えげつねぇ~、アイナは絶対に怒らせないようにしとこ……。
急に呼吸できなくなった為パニックを起こしている意の姿を見ながら冷たい笑みを浮かべるアイナ。
その姿を見たシーツァは絶対に怒らせないことを心に誓った。
「ってのんきに見てる場合じゃなかった! 死ね! 【隕石落下】!!」
シーツァの魔法に合わせてソーラからは巨大な氷の槍が、アイナからは無数に分裂した氷の矢が、シリルからは何倍にも巨大化した拳による一撃が意を襲う。
速度の速いアイナの矢が意をハリネズミに変え、そこにソーラの巨大な氷の槍が突き刺さる。
シーツァの炎を纏った隕石が地面ごと意を押し潰し大爆発を起こすと、それを爆発ごと捻じ伏せるようにシリルの巨大化した拳が押し潰した。
さて、これで少しは動けなくなるぐらいのダメージになってくれてればいいんだが……。
シーツァが心の中で呟きながら視線を意がいるであろう土煙へと固定する。
やがて徐々に土煙が晴れていくとそこには常人ならば死んでいてもおかしくない傷を負った意が無言で俯きながら立っていた。
俯いている様にも見えるが実際は首の骨が砕け、腹部からは内蔵が飛び出し、右腕は皮一枚で辛うじてつながっている程度で左腕は完全に無くなっている。両足もなんとか立ってはいるがいたる所で骨が剥き出しになっているという状態である。
この状態になっても死なないのは流石【不老不死】のスキルだと言いたいが、シーツァからしてみればこの状況で生きているという生物の範疇から遠く離れた存在になるのは御免こうむりたかった。
ん?
ふと意を見続けているシーツァがおかしなことに気が付く。土煙が晴れたのにもかかわらず依然意の周囲に白い煙の様な物が立ち込めている事に。
良く見ると煙は意の傷口から蒸気の様に吹き出し、その傷口は映像を逆再生するかのようにみるみるうちに修復されていく。
流石に鎧などは修復されなかったがそれでも異常と言っていい再生能力はものの1分と経たずに意の傷を全て修復した。
「チッ、化け物が」
「魔族のお前に言われたくはないよ。それにしても酷いじゃないか。いくら【不老不死】を持ってるからってあんなことするなんてさ、痛みは感じるんだよ? お前だけの攻撃だったら怒り狂って殺してるとこだよ」
「そーかよ。いい加減くたばれ」
「それは出来ない相談だよね。だって俺の目の前にまだ味わってない女の子がいるんだから――さっ!」
不意に意が腕を振り抜く。突然の行動に回避する間も無かったシーツァ達は咄嗟に防御の構えを取った。
しかしいつまで経っても何も起こらないことに疑問を感じたシーツァだったが、ソーラ達の方から【魔力感知】におかしな反応がある事に気が付く。
シーツァが慌てて振り向くがソーラ達にパッと見異常は見当たらず、ソーラ達も何も起こらなかった事を不思議に感じている様であった。
「テメェ何をした!」
「それは見ていてのお楽しみだよ。まあ俺にはお前が絶望する未来しか見えないけどね」
「まさかソーラ達を!」
「大丈夫殺しはしないよ。言っただろ? まだあの子達を味わってないってさ。さっきのはただのマーキングだよ、こうするためのね! 【狂った仮面舞踏会】発動!!」
意が大きく両腕を広げ、大げさな舞台役者の様な身振りでスキルを発動させる。
聞いた事もないスキルにより一層警戒心を強くし、意から視線を逸らさない様にするシーツァだが依然として何も起こらない。
不発に終わったのかとも考えたが意の厭らしい笑みがそれを否定させる。
いつ何が起こってもいいように構えていたシーツァの首筋にゾクリと薄ら寒いものが奔った。
以前も味わった事のある寒気にシーツァは即座にその場を飛び退く。するとつい先程までシーツァが立っていた場所に拳が突き刺さり、小さなクレーターを作り出していた。――シリルの拳によって。
「!? シリル、いきなり何を――!?」
距離を取りシリルに問い掛け様とするシーツァだが、すぐにそれを中断し回避に専念する。
それが功を奏し降り注ぐ矢の雨はシーツァに刺さる事なく地面に刺さり、その光景を見たシーツァがホッとした瞬間不意に腹部に熱を感じた。
シーツァが熱の発生箇所に視線を移すと腹部から見慣れた杖の先端が飛び出しており、背後には杖を突き刺した張本人、ソーラが何の感情も映さない顔でシーツァに杖を突き刺していた。
「ぐ……アイナに続いてソーラまで……」
口の中に広がる血の味に不快感を覚えながらシーツァは前に出る事によって背中から突き刺された杖から逃れ、杖が完全にシーツァの体から抜けきると大きく跳躍して一気に距離を取る。
少し離れた位置に着地したシーツァは自分を見つめるソーラ達3人の一切合財の感情が抜け落ちた能面の様な顔に酷い寒気を覚えた。
「テメェ! ソーラ達に何しやがった!」
【超再生】により腹部が修復され口の中に溜まった血液を吐き出したシーツァが叫ぶ。
「彼女達が俺の物になる為の前準備だよ。【狂った仮面舞踏会】は対象に俺の命令に従う疑似人格を貼り付けるスキルでね。対象はアクティブスキルが使えなくなるのが欠点だけど、流石に彼女達を傷つけないでお前を殺すのは骨が折れそうだからついさっき作ったんだ」
厭らしい笑みを浮かべて自慢げに話す意の姿にシーツァは今まで感じた事のない程に強烈な怒りを覚える。
荒れ狂う怒りは今すぐにでも意を殺せとシーツァを促すが、ソーラ達が操られている以上下手に手を出すことができない。盾代わりにでもされたら堪ったものではないからだ。
「さあ、自分の女に痛めつけられるがいいさ!」
「このクソ外道がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
溢れる怒りに触発され思わず意に向かって飛び出すシーツァだが、すぐに方向転換を余儀なくされる。
圧倒的な速度で迫るシリルの拳が眼前に迫り、反射的に斬ろうとする自分を抑えなんとか【転移】で回避する。それでも即座にシリルはシーツァへと迫り拳や蹴りを放つ。
そしてシリルの攻撃の合間を縫うようにしてアイナの精密な射撃がシーツァを襲い、距離を取った瞬間ソーラの杖による攻撃が繰り出される。
普段のソーラからは考えられない様な鋭い突きはシーツァの想像を超えており、そこにシリルの拳と蹴り、アイナの射撃が加わるとシーツァには彼女達の攻撃を全て回避するのは不可能だった。
攻防を続けていくうちに徐々にシーツァの体に傷が増えていく。飛来する矢は最初の内は斬り落す事もできたが徐々に射撃間隔が短くなり、ソーラ達の攻撃も相まって今では関節などの行動に支障が出る部分に刺さった矢を抜くのみであった。
くそ、修復しても修復しても追い付かない……! このままじゃ……ジリ貧だ!
「ごめんソーラ、アイナ、シリル! 【重力】!!」
シーツァが周囲に強力な重力場を展開する。その強力な重力に押さえつけられソーラ達は立っている事も出来ずに地面へと崩れ落ちた。
「酷い事するなー、自分の女だろ?」
「黙れ! お前がソーラ達を操ってるんだろうが!」
「ま、そうなんだけどね。ほら立ちなよ」
意の命令に従いソーラ達が立っていられないほどの重力の中にいるにもかかわらず無理矢理立ち上がろうと動き出す。
その行動はソーラ達の全身に悲鳴を上げさせ、ミシミシと嫌な音を立て始めた。
「おい、止めさせろ!」
「それは出来ない相談だよね。彼女達にはお前を再起不能になるまで痛めつけてもらわなきゃならないんだから」
全身がミシミシと悲鳴を上げながらも立ち上がろうとしているソーラ達。そして若干体を持ち上げたと思った瞬間ソーラの腕から骨の砕ける鈍い音が周囲に響き渡り、再び地面に崩れ落ちた。
「ソーラ!」
腕の骨が砕け、自分の目の前で崩れ落ちるソーラの姿に思わずシーツァは周囲に展開していた重力場を消失させてしまう。
自分達の体を押さえつける重力が消え去った瞬間、バネの様に跳ね起きた3人が一斉にシーツァへと攻撃を放った。
「しまっ……!」
崩れ落ちたソーラの姿に意識を持って行かれていたシーツァは迫りくる攻撃に対する判断が遅れ3人の攻撃を一身に受けてしまう。
骨が砕け筈のうでは莫大なMPを使って発動した【超再生】スキルによって一瞬のうちに修復され、握りしめた杖がシーツァの右胸を貫く。
シーツァの腹部をシリルの鋭い爪の着いたガントレットが貫き、首にはアイナの放った矢が突き刺さっている。
「がは……っ」
口から大量の血を吐きだしたシーツァ。苦悶の表情を浮かべたシーツァが霞む視線をソーラに向けた時、目の前の光景に目を見張った。
ソーラが感情の映さない瞳から涙を流していたのである。
必死の思いでなんとか首を巡らせるとソーラと同じようにアイナとシリルも感情の無い瞳から涙を流している。
意によって疑似人格を植え付けられ、本来の人格を抑えつけられているはずのソーラ達の瞳から止めどなく溢れる涙は彼女達の必死の抵抗を物語っていた。
やがてソーラの杖とシリルのガントレットがシーツァの体から引き抜かれると、貫かれている事で辛うじて立っていたシーツァの体は支えを失い地面へと倒れる。
もはや指一本動かす事も儘ならないシーツァへ向かって厭らしい笑みをより一層強めた意がゆっくりと歩み寄ってきた。
「どうだい? 愛しの彼女達にこんな目にあわされる気分は? さぞかし悔しいだろうねぇ。まあ俺はその分とても愉快な気持ちでいっぱいだけどね」
シーツァを見下ろし嘲る意。対するシーツァは首に突き刺さった矢の影響で辛うじて呼吸が出来る程度で喋る事が出来ないでいた。
「さて、これからどうしようかな。一思いに殺すのもいいし、動けない君の目の前で彼女達を犯して俺の物にするものいい。さて本当にどうしようか悩むな――ん?」
ニタニタ嗤いながら喋る意がふとソーラ達が涙を流している事に気が付く。
それを見た意の表情が厭らしい笑みから憎悪の籠った表情へと変わり、力一杯倒れているシーツァの腹部を踏みつける。
「いいなぁ、俺のスキルの影響下にあっても涙を流してくれる程想われていてさぁ。俺にはそんな奴いなかった。親兄弟ですらそうだ。ああムカつく、ムカつくなぁ。お前の目の前で女達を犯してお前を絶望させてやろうと思ったけどヤメだ。未だに俺のスキルに抵抗するあの女達の心を圧し折るにはお前を殺した方が早そうだ」
喋る毎に意から放たれる憎悪の感情がより一層強まっていく。
シーツァの腹部を踏んでいる力もどんどん強まっていき、瀕死のシーツァはそれだけで死にそうになっていた。
「【神話武具作成:必中確殺の骨槍】」
意の手に光が集まり、銛のような形状をした真紅の槍が形成される。
シーツァも良く知っているケルト神話の大英雄が影の国の女王より授かったとされている槍。
その能力は多岐にわたるが、特筆するべき能力は必中と貫いた者を必ず殺すと言うものである。
「お前も俺と同じ世界から転生してきたんならこの槍の事は知ってるよな? 瀕死のお前には勿体ないとは思うが確実に息の根を止める為だと思えばこれが一番いいからな」
そう言って意がシーツァの腹部から足を離すと穂先をシーツァの心臓へと向けて振り上げる。
「死ね」
短い一言と共に確殺の槍がシーツァへ向かって振り下ろされる。
くそっ!
迫りくる逃れえぬ死にシーツァは強く目を瞑る。
次の瞬間槍が肉体を貫く音がシーツァの耳に届き、その顔に熱い液体が降りかかった。
槍が肉体を貫く音が聞こえたにもかかわらず己の肉体に何も影響がない事に違和感を覚えたシーツァが目を開く。
するとそこには感情の無い瞳のまま真紅の槍に心臓を貫かれているソーラの姿があった。
「な……っ!?」
「ソー……ラ……?」
思いもよらぬ事態に意自身も驚愕を隠し切れず、ふらふらと後ずさりする。
それにより槍が引き抜かれたソーラの肉体は力なくシーツァの上へと倒れ込んだ。
今までピクリとも動かなかった体が咄嗟に動くと起き上がり、倒れてくるソーラを受け止める。
「だい……じょうぶ……? シーツァ……」
「ソーラ……なんで……」
致命傷を負った事でスキルの影響から脱する事ができたのか掠れた声でシーツァの心配をするソーラ。微かに微笑んでいるソーラの瞳からは光が消え虚空を見つめている様は、意から受けたスキルの影響によるものではなく、ソーラの命が消えかかっていることを示していた。
シーツァは震えながら伸ばされるソーラの手を残った力を振り絞り必死で掴む。理性では意味の無い事だと分かってはいる、しかしシーツァはどこか遠くへ行こうとしているソーラの命を1秒でも長く繋ぎ止めようと必死だった。
「シーツァが……私……達を……助け……ようと……必至……だったのと……おな……じ様に……私も……シー……ツァを……助け……たかった……んだよ……」
息も絶え絶えに話すソーラの言葉を一言一句聞き逃すまいと口元に自分の耳を近づけるシーツァ。
その瞳から零れ落ちる涙がソーラの頬を濡らし流れ落ちる様は、零れ落ちるソーラの命のようにも見える。
「シー……ツァ……」
「なんだ……」
「大……好き…………だよ………………」
その言葉を最後に必死で握っている筈のソーラの手がシーツァの手から零れ落ちる命と一緒に滑り落ちる。
閉じられた瞳はもう二度と開くことはなく、もう二度とその口からは愛らしい声が聞こえる事もない。もう二度とシーツァの呼びかけにこたえる事は無くなった。
「ソーラ……? おい、冗談はよせ……。眼を開けてくれよ……、ソーラ……ソーラぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」
この世界に転生して、シーツァともっとも長い時間を共に過ごしたソーラの命が儚くも消え去った。
「ったく、せっかく後で俺の女にしようと思ってたのに……。仕方ない、さっさとこいつを殺して他の女で楽しむとするか」
いつの間にか驚愕から立ち直った意が独り言を呟きながら槍を手にシーツァへと近づく。
ソーラの死に絶望し茫然自失となったシーツァは意の接近に気が付く事はなく、ただただもう動く事はないソーラだけを見つめ続けていた。
「今度こそ死ねよ」
そして意の握るゲイ・ボルグがシーツァの心臓目掛けて突き出された。
本文中にあるゲイ・ボルグの説明は私の主観と偏見が折り重なっているものです。
読者の皆様の解釈とは異なる点があるかもしれませんがご理解ください。
はい、ついに物語もクライマックスになってまいりました。というか正直この話が書いていて1番辛かったです。理由はいわなくてもお分かりいただけると思いますが。
正直キャラクターが死んで~の展開はお約束過ぎるかなとも思うのですが、浅はかな私にはこれぐらいしか出来なかったんです。申し訳ありません。
因みに私はバッドエンドが大嫌いです。物語はすべからくハッピーエンドを迎えて欲しいと思っています。
この物語もバッドエンドには決してなりません。なぜかって? 私が嫌だからです。
せめて未来に希望があるエンドまでが許容範囲内です。
これはあくまで個人的な考えなので賛同できない方もいらっしゃるとは思いますが……。
次回は久しぶりにあの方が登場いたします。
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