125話 シーツァVS横島 意のようです その1
ソーラ達がそれぞれの相手に勝利するより少し前、シーツァは自称主人公こと横島 意と激しい戦いを繰り広げていた。
シーツァは意が手に持つ湖の乙女より授かりし剣を警戒して普段の【異次元収納】から武器を射出する遠距離戦ではなく、【素戔嗚】によって強化されたステータスにまかせた接近戦を挑んでいるが現状手傷を負っているのはシーツァだけであり、対する意は無傷のまま薄笑いを浮かべていた。
「ほらほら、そんな遅い攻撃じゃ俺を傷つけるなんていつまで経ってもできやしないよ? もっと本気を出さないと……死んじゃうよ?」
「黙れこのクソ野郎が!」
くそっ、以前戦った時よりも強くなってやがる……。早くこいつを殺してソーラ達の援護に行きたいってのに……。ただでさえあの自称主人公の連れの女達は【看破】でステータスが覗けなかったから不安要素しかないってのに……!
上下左右あらゆる角度からシーツァが斬り付けているにも拘らず意は顔に小馬鹿にしたような表情を張り付けたまま悉く受け流し、出来たほんの小さな隙を狙って反撃をする。
行動に支障の無い傷ではあるのだが数が多く、【超再生】はその全ての傷を強制的に治癒していき、傷が小さいゆえに単体の消耗は少ないものの傷の多さに比例してMPはどんどん消費されていった。
このまま戦っているのはまずいと判断したシーツァは魔力を込めた大上段からの大振りの一撃を繰り出す。
意によって受け流された剣はそのまま地面へと叩きつけられ、衝撃によって大量の土や石を撒き散らした。
「はぁ、そんな目くらましが通用するわけないだろ?」
落胆の声と共に意が巻き上げられた土や石を横一線に両断するようにエクスカリバーを振り抜く。
視界を土砂で覆っているにも拘らずシーツァを上下に分断しようとした剣をなんとか大きく後ろに跳ぶ事で回避し、意と距離をとる事に成功した。
「今更距離を取ってどうするのさ。この剣が怖くて接近戦を挑んでたんだろ? それともやけくそ?」
余裕の態度で言ってくる意を無視しシーツァは自分の背後の空間に大量の波紋を浮かび上がらせる。
数多く現れた波紋はその中心から剣や槍等の武器が顔を出し射出の時を今か今かと待ち構えていた。
「またそれ? そんなのが俺に通用すると思ってるとか頭悪いにも程があるでしょ。見た目だけは英○王みたいでかっこいいんだけどさ」
剣を肩に乗せ呆れた声をあげる意に向かって波紋から次々と武器が射出されていく。
今日この日の為に大量に作り出した武器が惜しむ事無く撃ち出され、怒涛のように意に襲い掛かった。
「そんな数だけの武器で俺に傷はつけられないよ。当たると不愉快だから壊させてもら――!?」
自らに迫る武器の中で体に命中しそうな物に絞って意が剣で砕き、砕かれた槍から謎の光が漏れたと思われた瞬間、強烈な大爆発が起こる。
爆炎と煙によって意が覆い隠された後も次々と武器が襲い掛かり、意の体に命中した瞬間に爆発するを武器の数だけ繰り返してく。
よし! とりあえず考えてた通りの結果が出せたな。これで倒せるとは思ってないがそれでも少しくらいは手傷を負ったろ。
今回の戦いに備えシーツァが大量に作り出した武器。そのほぼ全てにシーツァは共通の付与を行なっていた。【接触爆発】と【爆発強化】である。
【接触爆発】は文字通り武器が何かに接触すると大爆発を起こす爆弾と化すもので、【爆発強化】は単純に爆発の威力を上げるための付与だ。
爆発時には爆炎と爆風だけではなく破片となった武器の一部も襲ってくるため、見た目の爆発以上に凶悪な代物になっていた。
「これでトドメだ!」
【異次元収納】の中にあった武器の山も次第に無くなっていき、豪雨の如く降り注ぐ武器が尽きる瞬間に撃ち込めるようシーツァが天に向かって手を掲げ魔法を発動させる。
シーツァの頭上天高くに作り出された灼熱の炎を纏った巨大な岩塊。周囲の空気を自身の発する熱で歪め、落下の時を待っていた。
「【隕石落下】!!」
最後の1振りが射出された瞬間を見計らってシーツァが腕を振り下ろす。
それに合わせる様に上空で待機していた隕石がゆっくりと、次第に速度を上げ意目掛けて落下し、激突した瞬間先程までの爆発が霞んで見えるほどの強烈な爆発と爆風が周囲を襲った。
爆発により発生した衝撃波に耐えきったシーツァが警戒心を緩めることなく爆心地を見つめる。
シーツァは一切油断などしていなかった。しかし直後濛々と立ち上る粉塵を切り裂いて飛来した斬撃がシーツァの右腕を斬り落した。
ボトリと握っていた剣と共に右腕が地面に落ち、ようやく己の腕が切断されたのだと認識する。
「ぐあぁぁぁぁぁっ!」
反射的に左手で切断面を押さえながら叫び声を上げる。
すぐに【超再生】のおかげで右腕が新しく生え無事腕が再生した事で痛みが和らいだ頃、薄まってきた粉塵から意がその姿を現す。
巨大なクレーターができる程の爆発を受けてなお肌や装備が若干汚れているだけでその体に目立った外傷は無く、薄笑いを浮かべていた顔は怒りに染まっていた。
「モブキャラ風情が主人公である俺に対してよくもまあふざけたマネをしてくれたな」
瞬間意の姿が掻き消えるとほぼ同時にシーツァの左腕が斬り飛ばされ鮮血が噴き出る。
宙を舞った左腕は地面に落ちる前にシーツァの背後から飛んできた炎によって焼き尽くされ、灰となって大気に消えていった。
「同じ世界の出身のよしみでもう少し遊んでいようと思ったけどヤメだ。徹底的に甚振って殺してやる」
再び意がシーツァの認識できない速度で動き、その姿が消えると今度は再生したばかりの右腕が斬り飛ばされる。
切断された痛みに呻く間もなく背後に出現した意にからシーツァに撃ち出された炎の塊が直撃し、右半身を焼け爛れさせた。
すぐに【超再生】で修復されていくが意が超高速で動くその都度斬撃による四肢の切断か魔法による攻撃が行われ、シーツァのMPがこれまで以上に削られていく。
幾度も繰り返される攻撃によりついにシーツァのMPが底をつき、蓄積したダメージによって立っている事すらできず、地面に仰向けに倒れてしまう。
全身に負った傷は今も【MP自動大回復】によって回復していくMPを回復したそばから使い修復していくものの、絶対的にMPの量が足りず遅々として進まずにいた。
「さて、これでお終いだな、モブキャラが主人公に逆らった末路だ。ああ、お前の女達は生きてたらきっちり俺の女として調教してやるからありがたく思え」
「……くそが……地獄に落ちろ……」
「主人公が地獄に行くわけないだろ? それじゃあもう飽きたし、死――!?」
意がシーツァに剣を振り下ろそうとした瞬間、何を察知したのか大きく背後に跳躍し距離を取る。
直後、先程まで意が立っていた場所に強力な魔力を纏った矢とシーツァ程の大きさのある氷の槍が突き刺さった。
「「「シーツァ!」」」
悲鳴のような声と共にソーラ達がシーツァのすぐそばに駆け寄ってくる。
両腕を切断され、全身ボロボロの死にかけ状態になっているシーツァをみたソーラはすぐさま【回帰魔法】を使い傷を癒し始めた。
みるみるうちにシーツァの両腕が新しく生え全身の傷が無くなっていく。
肉体だけは戦闘開始前と変わらないまでに回復したシーツァがお礼を言おうとした瞬間、シーツァの胸に顔を埋める様に抱き着いてきたソーラ。
「無事で良かった……!」
「ああ、心配かけた。ありがとうな」
シーツァがお礼を言いながらやさしくソーラの頭を撫でていると、シーツァを抱きしめる力がより一層強くなる。
「間に合ってよかったわ~。私達と~、合流したソーラちゃん~、すっごく心配してたのよ~?」
「がぅ、あんなソーラ見た事ない」
「そっか……。アイナもシリルも、助けてくれてありがとうな」
「いいのよ~、今までシ~ちゃんには~、助けられてばかりだったし~、それに~、愛しの旦那様だしねぇ~」
「がぅ、番を助けるのは当然」
「それでも、ありがとう」
胸にソーラを張り付けたままゆっくりと体を起こすシーツァ。
立ち上がろうとするもソーラが張り付いている為立ち上がれず困惑していると、その事を察したのかソーラが慌ててシーツァから離れて立ち上がる。
手を差し伸べてくるソーラの手を取りシーツァが立ち上がると、少し離れた所で意が厭らしい笑みを浮かべているのが目に入った。
「いやーまさかあいつ等が倒されるとは思わなかったよ。そこのモブキャラを殺す邪魔をされたのはムカつくけどそれ以上に嬉しい誤算だ。いい加減あいつ等にも飽きてきてたし、君達を新しい俺の女にしてあげるよ」
「黙れゲス野郎が。誰がテメェみたいなクズにソーラ達を渡すか」
シーツァが新しく長剣を作り出し構えるとソーラ達もそれに倣う様にそれぞれの得物を構え臨戦態勢に入る。
その様子を見ていた意は厭らしい笑みを一層強くし剣を構えた。
「いいね、反抗的なその目が俺に屈服する時を想像しただけでイッちゃいそうだよ。早く君達を心の底から俺を求めるメスに作り替えたいな」
「私達は死んでもあなたの玩具になんかならない。私達の心も体も魂も全部シーツァの物」
「そうよ~、流石にあなたみたいな~、最低な男は~、イヤねぇ~」
「がぅ、お前にオスとしての魅力を感じない。さっさと死ね」
「だ、そうだ。しつこい男はさっさとこの世から消え去れよ」
一触即発の空気が流れる荒野で、シーツァ達と自称勇者の戦いの第二ラウンドが幕を開けようとしていた。
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